2007年03月01日(木) 08時40分-川口
授業の空き時間、僕と斉藤は申し合わせて空き教室で落ち合った。いつもの通り、適当な席に腰掛けて、なんでもない話に時間を費やす算段だ。僕らの他には、長い黒髪の女の子が教室の隅の方でノートパソコンに向かっているばかりだった。
小腹の空く時間だったから、僕らはお互いに机の上に置いたレジ袋の中身についての察しがついた。見れば案の定、中身はおやつである。斉藤はエクレアとコーラを、僕は牛乳プリンとジャワティーをそれぞれ取り出した。
ぼそぼそと他愛ない会話。時々とばされる冗談。さざ波のようにやってきては、すっと引いていく、見せるためでない笑い。その繰り返し。
その中で、僕の何気なしに口にした冗談を聞いて、斉藤が派手にコーラを噴出して笑った。それに、僕もつられたように笑って、しかし早くも斉藤が吹き散らしたコーラを拭き取ろうと動き出す。自動車学校のポケットティッシュを総動員して、斉藤が噴出したコーラを拭き取る。拭き取る。拭き取る。斉藤はまだ苦しそうである。そんな斉藤を横目に、拭き取る。拭き取る。拭き取る。
僕はふと、妙だと思った。おかしい。どう考えても零れているコーラの量が多すぎるのだ。斉藤が飲んでいたのは500mlのペットボトルであったはずである。しかもまだ飲みかけで、容器の中には少なく見積もってもまだ半分は残っている。対して現在、机、椅子、床を浸しているこのコーラの量は、明らかに500mlを超過しているようなのだ。僕は斉藤の方を振り返った。斉藤は右手で口元を、左手で腹部を押さえているようで、体をくの字に曲げて頭を教室の壁に預け、ケツを僕の方に突き出す格好で立っていた。まだ込み上げる笑いに体が震えているのが僕のところからも見て取れた。
僕は再びコーラの拭き取りにかかる。結局、持っていたポケットティッシュは使い果たしてしまい、それでも足りず、斉藤の鞄からスポーツタオルを借りてようやく間に合った。
斉藤は、何か飲む時には必ずコーラと決まっているコーラ・ジャンキーだ。コーラを含みに含んだタオルを絞りに教室を出てトイレへと向かう道、僕はかつて斉藤がこう言っていたことを思い起こす。
「おれの血管にはコーラが流れてる」
本当にそうなら、このありえないコーラの量も説明が付く。つまり、これは単に口に含まれていたコーラでというだけなく、斉藤の血液そのものなのだ。
タオルを洗い、念入りに絞って教室へ戻ってみると、斉藤は相変わらずケツを突き出す格好で苦しそうに笑っている。
そのとき、そうか、と僕は不意に今まで気付いていなかった一番肝心な所を了解する。
僕の言った冗談が、血を吐くほど面白かったんだね。斉藤。