2008年03月28日(金) 17時34分-R
第5章 竜の潜む洞
ムーランの町は、快晴。太陽も上がり始め、人が往来を慌しく行き交っている。
そんな眼下の光景を見るのも飽き、ルスラは窓から目を離した。その視線の先で、ベッドの上で寝息も立てずに惰眠を貪っているプルの姿があった。
悪夢が付け入る隙が無いほど、彼は眠りこけていた。知らぬ人間が見たならば、覚めぬ眠りの呪いにかかっていると思うことだろう。だが、もちろんそうではないことを、ルスラは知っている。
「今日ぐらいは、好きなだけ寝かせといてやれ」
彼女の配下、もといお供のうちの一人、トリュフォーが部屋を出る前に彼女にそう言った。プルーアも疲れてるんだろ、と彼は言ったが、あのくらいで疲れたなどとは情けないとルスラは思っている。魔衆に捕まりかけたぐらいで前後不覚に眠りこけるとは笑止千万だ。無論、彼女はプルの疲労の原因が昨夜の事件にあるのではなく、ランプテロミス村からムーランの町までの強行行軍にあることを知らない。
だがそれにしてもよ、とルスラは思った。少々寝すぎではあるまいか?
プルを除く三人が宿で朝食を取り、トリュフォーとプルが出かけてから一刻ほどが経過していた。それだけ眠ればもう満足であろう、とルスラはそう決めた。もうこれ以上は、彼女の決して長くは無い堪忍袋の緒が切れる。
「おい、プル」
各々の呼び名は好きなようにする――という紳士協定に基づき、ルスラはお供の三人を呼び捨てにすることにした。子供のくせに年長者を呼び捨てか、とトリュフォーは文句を言ったが、実力者が敬意を払われるのは当然、よって彼らの危機を救ったルスラがそんな些細なことで注意される必要は無いのだ。渋い顔付きで引き下がったトリュフォーの心中はどうであれ、この性悪幼女の言い分にも一理はあった。
というわけで、彼女はあまり役に立たなさそうな少年に向かって名指しで呼びかけ、返事が無いことを確認した。それから彼女は、無邪気な笑顔のまま、空中に小型の太陽のような光球を一つ、浮かび上がらせた。
「起きられぬならば手伝おうぞ」
おそらくは、動物的な勘、なのだろう。プルが死んだように眠りこけていたのに、突然飛び起きてルスラの一撃を免れたのは、自身を守ろうとする防衛本能のなせる業であろう。文字通り、彼はベッドから飛び起き、そしてそのまま床に頭から落下して目を開けた。
「ぁう・・・・・・」
低い視線のまま、彼はルスラを見上げ、ぎこちなく口を開く。
「ル、ルスラちゃん・・・それ――」
言いかけて、やめた。言うまでもなく、彼女の傍らに浮かんでいるのは、光の玉だ。問題はそれをどう使うのか、ということだったが、まさかこの明るい室内を照らすためというわけではあるまい。わざわざ彼女の口を煩わせるまでもなく、その用途は察しがついてしまった。
「何ぞある」
「いえッ、な、んでも・・・・・・はは、もう、朝なんだ、よね・・・・・・?」
「見て判らぬのか」
確認するまでもなく、この明るさは朝に決まっている。今まさに彼に球をぶつけんとしていたルスラは、おおよそ子供に似つかわしくない不機嫌さ丸出しの口調で、
「ふん、起きられるのならばさっさと致せ。手間をかけさせおって」
と、のたまった。将来が楽しみなほどの可愛らしい顔付きが、一層その言葉遣いとのアンバランスさを際立たせている。
「何を呆けておる。さっさと動かぬか」
言い終わる前に、プルの顔面に冷水が浴びせかけられた。驚いて完全に目が覚めると同時に、濡れた顔に容赦なく布がぶつかる。息苦しいと感じる間も無く、プルは上着とベルトとズボンの猛攻を顔面で受け止めた。
「わらわが別な物をぶつけとうなる前に、早う仕度をするが身の為じゃぞ」
彼女の手にあるものを確認する前に、プルは文字通り、死に物狂いで服を着替えた。それこそ、瞬きをする間の出来事であった。
朝が弱い、というのは自他共に認めるプルアロータスの欠点である。毎朝毎朝、姉アルセラが弟であるプルを起こすために鍋とおたまを打ち鳴らすその轟音は、村人達にとって定時を継げる鐘の音のようなものだった。司祭様が言うには、このおかげで一回鐘を鳴らす手間が省けているとか何とか。ともかく、プルは早起きが出来ないのだ(ランプテロミス村から強制的に連れ出された時は別だ。有無を言わさず水をかけられればいくらプルでも起きる)。
「朝っぱらから――何でこんな目に・・・・・・」
「朝、とな」
耳盾ュルスラはプルの独り言を聞きつけると、ふん、と小馬鹿にしたような笑い声をあげた。
「まだ寝惚けておるのか。この刻にさような世迷い事をようも口に出せたものよ」
言い訳を返そうとして、ここでようやくプルは、時刻がもう朝ではないこと、そして残りの二人の姿が見当たらないことに気が付いた。
「あはははは・・・・・・ちょっと寝すぎたかも?」
返事は無かった。呆れて物も言えないといったところだろう。彼女は手にした紙から目を離そうともしない。
「えっと、ルスラちゃん、あのさ」
「なんぞある」
「トリューとシャンプの姿が見えないんだけど」
答えを返す代わりに、ルスラは後ろ向きのまま、自分が見ていた紙を彼に向かって放り投げた。彼女の手から離れたそれは、少しだけ飛んでボトリと彼女のすぐそばに落ちる。抗議の目でルスラの背中を見つめてから、プルはルスラのところまで歩いていき、落ちた紙を拾い上げた。
ルスラが折り紙代わりに遊んだのだろう、紙にはすっかり妙な折癖がついてしまっていた。それを苦心して広げつつ、プルが尋ねる。
「何これ」
が、返事は一言。
「知らぬわ」
「いや見てたでしょ、今」
「見ることと解ることは別じゃ」
危うく破りかけた紙を手で押さえて伸ばしながら、プルはそれもそうか、と思い直した。きっとオレに渡すようにとか言われてたんだろう。
ややあって、「何か書いてあるようじゃったが」という答えがルスラから返ってきた。
広げ終わってみると、それは手紙のように見える。ということは、だ。
「・・・・・・ルスラちゃん、もしかして字が読めな――」
「悪いか」
疑問を口に出した瞬間、地獄の淵から恐ろしい声が聞こえてきた。
「べべ、別に悪くないけど・・・意外というか、何というか」
言葉の次に飛んでくるであろう物を想像してしまい、プルは慌ててそう言葉を濁した。強引に注意を手紙に向け、そこに書かれている文字を追った(ちなみに、<>
で囲まれている場所はプルが読めなかった箇所である)。
『プルアロータス へ
<綴り>が違ってたらすまない。何せ<名前>を正しく<綴る>のが苦手なんでな。
それはともかく、私は少し出掛けることになった。
王国の<ショウルオ>騎士団が来ている。理由は<不明>だ。が、何かしら大きな事件があるようではあるな。こんな山の中の町に、第四<部隊>隊長が来てるんだからよ。
丁度昨日の事もあるんで、話をしがてら少し会ってみようかと思う。この先、色々<厄介な手続き>も踏まなきゃならんかもしれねぇし、隊長から話を通してもらえれば多少は<楽になるだろう>からな。断っておくが、その隊長とは<知り合い>だ。
その代わりとして、その事件の<解決に尽力せよ>、との<お達し>だ。何も教えない代わりに<人使い>が荒いが、どうやら<危険な>事件だったらしい。まぁ、<金稼ぎ>にはうってつけだな。言っておくが、その金は<路銀>にするんで期待はするなよ。
そういう訳で、戻って来るのは<早くても>明日になるだろう。それまではゆっくり休んで、<英気>を養っておけよ。
トリュフォー
追伸
シャンプは私と来る事にしたらしいが、ルスラは<面倒>だから嫌だそうだ。なので、宿に残しておく。
ルスラが昨日の事であれこれ<うるさい>だろうが、適当に<あしらっといて>くれ。
皮袋にいくらかの金が入れてあるから、それで何か買ってやってくれないか。アイツにはまだ金<勘定>は無理だろうから、触らないように言っておいた。帰って来るまで、お前に預けておく。
不足したり必要だったりするものがあったら買っておけよ。後で困ることが無いようにな。
ただし、くれぐれも無駄遣いはするんじゃねぇぞ。少しぐらいの無駄は許すが、余裕が無いってことは覚えとけ。
・・・・・・・・・・・・・・・~・・・~~』
よく考えれば、こんな置手紙を残すのはトリュフォーぐらいしかいないのだ。しかし、走り書きと思わしきこの文字があまりにも達筆だったので、名前を見るまで彼の荒っぽいイメージとは結びつかなかったことは事実だ。
「それで何と」
「えーっと、ねぇ・・・・・・」
言われて、プルは少し嫌な汗をかいた。読み書きは一通り習ったものの、一部分解読出来ない箇所があったのだ。手紙の最後に描かれているミミズ文字はおそらくシャンプの悪戯だろうが、実のことを言うと初っ端からつまづいてしまったのだ。名前の下の文に、『綴りが違っていたらすまない』とあったが、その『綴り』が読めなかったのだ。ちなみに、プルアロータスの綴りがあっているのかどうかは、滅多に自分の名前を書くことがないプルには分からなかった。
ともかく、言わないわけにはいくまい。難しい言い回しや知らない事柄は適当に誤魔化すことにして、プルは確認のためにも掻い摘んで説明することにした。
「これはトリューがオレ宛てに書いた手紙で――」
「それは知っておる。彼奴がこれをお主に渡しておけと申しておったでな」
知ってたなら最初から言ってくれよと内心ため息をつきながらも、プルは続けた。
「――で、簡単に言うとこんな感じ。大きい事件があったらしくって、王国の騎士団が来てるんだって。隊長、って読むその人に会ってみて、色々やらなきゃならないらしい」
どんな立場の人か、というのは分からなかった。何度も『隊長』という文字が出てくるが、意味を知らないのだ。かろうじて、『四』という『隊長』だということは分かった。
「で、その事件の解決を手伝えばお金が出るかもしれないんで、暫くは戻って来ない、と。だからゆっくり休めって」
全然ゆっくり休んでないけどね、と心の中で文句をたれながら、プルは手紙をくるくると丸めた。
「ま、そんな感じかな。あ、あとそれ、オレが預かるようにって」
追伸部の細かい点はルスラに伝えないことにして、プルはルスラが握っていた皮袋を貰い受けた。
「それはともかく、理解し終えたならば早う行くぞ」
「何処へ?」
袋をがっちりと握り締めて、プルは尋ねた。くきゅるきゅると、腹が鳴る。
「あ、ご飯か」
ルスラはわざわざ深呼吸をしてから、ふうぅっと大きくため息をついた。
「そんなもの朝餉(あさげ)に間に合わなんだお主が悪い。違うであろ、昨日は誰のおかげで助かったと思うておる」
「昨日の――」
思い出して、ぞっとした。火傷跡すら残らなかったことで、ついうっかりとそのことを忘れかけていたのだ。だがそれは、思い出したくない、ということで記憶を封じていたのかもしれない。
そう、プルは危うくさらわれるところだったのだ。
人を問答無用で捕まえておいて自分のものだと主張するあたり、我侭極まりない人格の持ち主だと思うが、その横柄な態度相応の実力は持ち合わせていたに違いない。しかも可愛がるってどうやるのだというのだろうか。あの性格悪そうな少女――というのも、プルが確認出来たのは愛くるしい少女の声だけだったからそう思うのだが――の危険さは、一緒にいた少年の口調からも察することが出来る。傷ついても死なない、などとバレてしまった日にはどんな目に遭わされることか。そしてそんな連中に猛然と啖呵を切るトリュフォーは、様々な意味で凄いとしか言いようがあるまい。
あの魔衆の少女はある意味、ルスラと似ているかもしれない。が、まだルスラのほうがましというものだろう。いや、だからといって、彼女の偉そうな態度がいいとは思わないのだが。
「思い出したか」
心中を読むように、ルスラが黄玉の瞳を彼に向けていた。別に心を読まれたわけではないが、プルは慌てて礼を述べる。
「あ、うん、あんま思い出したくなかったかも・・・でもありがと、助けてくれて」
「礼には及ばぬがな・・・実力者としてすべき事を成したまでのことよ」
悠然と彼女は頬杖を組み直した。
「だがまぁ確かに、お主を助けなくとも、戦力的には落ちんかったろうがな」
「そ、うかな・・・?」
「落ちるのか」
「・・・・・・」
確かに否定できないけど、言い切るところはすごいよ、とプルは肩を落とした。というか、術者の幼女よりも役に立たない自分ってどんなものだろうか。遣る瀬無い。
「とはいえ、如何な理由があろうともこのわらわのお供を奪おうとは言語道断。さらに言わば、彼奴等めの態度が気に食わんかった」
「そ、そうなんだー」
「分相応をわきまえぬ輩は好かん」
ふと、常闇の終末団が脳裏をよぎった。ルスラの振る舞いは非常に傲慢だが、その力を考えるとある程度の得心はいく。とはいえ一応、主従関係とまでには至っていないことを考えると、プル達は第一印象が良かったのだろうか(ルスラが常闇の終末団との馴れ初めについて話さないため、プルは彼らがどういう経緯で彼女と旅をすることになったのか知らないのだ)。もちろん、この先どう転ぶかは、まったく分からないのだが。
「ともかく、恩を返さざるは無礼なり。トリュフォーは言うておったぞ。その礼はプル、お主から貰えとな」
「あーっと・・・ちょっと待ってて」
手紙にあったのはこのことか、と一人で納得しながら、プルは皮袋の口を開けた。ルスラはそんなもの、と鼻を鳴らすと、皮袋の中身を確認するプルに訝しげに声をかけた。
「中に光る円盤があるだけじゃが・・・それがどうかしたのかえ?」
しかし、プルは言葉を返すどころではなかった。
――驚いた。
彼がお金を残しておいてくれたことからまず驚きだったが、それ以上に仰天した。トリュフォーの手紙には『余裕が無い』とあったが、プルにはそれが何を意味しているのか一瞬分からなくなってしまった。
「どうした、プル。そんなもののどこが面白いというのじゃ」
数え間違いかと思って、数え直してみる。だが、何度やっても同じだ。
馴染みのあるスイ銅貨が23枚、それが十枚繋ぎになっているのスイ銅貨棒9本、見たこともないイラ銀貨が1枚(スイ銅貨棒10本分)、合計213$(スポア)、入っている。パンが一つ1$(ランプテロミス村近郊基準)を考えると、ショッピングには十分すぎる所持金だ。(ちなみに、円単位にすると1$(スポア)≒約30円である。よって、213$は約6500円弱となる)
だが、とプルは思い留まった。ここに来て、『倹約家』の彼がぐぐっと頭をもたげてきたのだ。
確かに、ムーランの町で自分の買い物をする時に持って来る25$(約750円)に比べれば、このお金は十分にあると言える。しかし、これを全部使っていい、とまでは書いていなかったはずである。
プルは手紙を広げ直して読み返し、『少しぐらいの無駄は許すが』の部分を発見し、頷いた。やはり、いくらかは残しておくべきだろう。まず確実に、イラ銀貨は使えない(というか、もったいなくて使えない)。残りのスイ銅貨棒も1本は残しておいたほうがいい。
となると使えるのは、残りの103$(約3000円)――と思ったが、まだ多いような気がしてきたので、その半分の50+α$(約1700円)だ。
「よし!」
プルはいきなり勢いよくそう叫んで立ち上がった。
「行こう! いざ、商店街へッ!」
そしてそのまま部屋から飛び出し、階下へと消えた。
そんな彼が、大事なカバンと部屋の施錠を忘れて大慌てで部屋に戻って来て、ルスラに冷たい目で見られるのは3分後のことである。
◆
ムーランの町から南、『伏竜洞』へと続く獣道の途中を、トリュフォーとシャンピニオン、そして紅蓮の甲冑をまとった騎士の3人が歩いていた。歩くといっても、常人ならば小走りしなければ追いつけないようなスピードではあるのだが、鎧をまとった二人は歴戦の戦士、大剣をくくった少年も並々ならぬ力の持ち主とあれば、得心のいく話だ。
それはともかく、『大事件』をあまり感じさせないような口調で、鎧を着た二人の戦士は話し合っていた。
「213$、ね・・・」
赤い甲冑の青年がそうあきれたように口を開いた。
「いくらこの辺りの物価が安いとはいえ・・・それじゃあ短刀一つ買えやしないじゃないか」
「仕方ねぇだろ、金が無ぇんだから」
黒光りする鎧を鳴らしながら、トリュフォーが肩をすくめる。
「だからこうして、騎士団第四部隊隊長ダーマ様の手伝いを自ら買って出てんじゃねぇか」
「はは、嫌味もだいぶサマになってきたんじゃないか? トリュフォー」
いや、そういうのは昔からだったかな――青年は口元に手をやってクスクスと笑ってみせた。それから、自分が知っている時の姿よりもずっと生き生きしているトリュフォーを見て、「私からしてみれば、君には傭兵家業は天職だと思えるのだけれど」と感想を漏らした。
「はっ、冗談・・・・・・無理に決まってんだろ」
手の平を上に向けるトリュフォーに、青年も同じ格好で返した。
「そうだね、もちろん冗談さ」
「じょーだんさ」
隣でシャンプが二人のマネをし、3人は同じポーズをしながら歩いていく。
今日は珍しく、トリュフォーは兜を外していた。北方民族特有の漆黒の髪が、照り返しの陽光を受けて時折輝いて見える。普段ならば隠れてしまうので分かりづらいが、髪は肩よりも下まで伸びている。少しボサボサしているのは長い旅で手入れを怠っているせいだろう。髪と同じ黒い瞳は自然と油断無く周囲を警戒している。
もう片方の青年、名前をダーマ・スクレロというのだが、その若者はトリュフォーとは対照的だった。
まず目に付くのが、体型だ。ショウルオの騎士であるにもかかわらず、その体躯は小柄で華奢、武器である片手剣が他の人よりも太く長く見えてしまうほどである。
次に、外見。長い間旅をしているトリュフォーとは異なり、鎧も髪も手入れが行き届いているのが見て取れる。まだ傷の少ない紅の鎧は輝きを放ち、白銀の髪はきっちりと一つに編み、真っ直ぐに背に垂らしている。歩くたびに左右に揺れるそれを、シャンプが猫のような目でうずうずしながら見ていた。
「それで、本当なのかい」
ふと、ダーマが話を変えた。灰色の瞳がトリュフォーを見上げる格好になっている。
「何がだ」
言葉の意味を掴みきれなかったトリュフォーが怪訝そうにダーマを見返すと、ダーマは「言葉が足りなかったね」と付け加えてから、もう一度尋ねた。
「昨日の事件・・・と言えること。さっき言ってただろ」
「ああ、それか」
その事件というのは言うまでも無く、昨夜のことである。ルスラが『新手の道化』と称した奇妙な三人組――正確には四人組――のことだ。
「もう少し詳しく話してもらえないか。先程からまとめようとしてるんだが、いまいちよくわからなくて」
「私も同感だ、残念ながらな。ムーランの町だと思って入った場所が、閉鎖空間だった。おそらくマジックアイテムの一種なんじゃねぇかとは思うんだが、周囲を風景と同化して獲物を誘い込む巨大な袋、だと思う。そうだよな」
本人は腕を組んでいるつもりなのだろう、胸の前で腕を重ねて二人の格好を真似ているシャンプに、トリュフォーが話を振った。それに答えて、シャンプが大きく頷く。
「んだなや、そんな感じがしたぁな。ルスラもそーゆっとったが」
「あとは同じだ。ちっこい女のガキが二人と、男のガキが一人。うち一人がプルーアってヤツを捕まえてて、放すように言ったら――」
トリュフォーは右手をぱっと開いて見せて、「これだ」と言った。
「いきなり光って、袋が破れて、全員あきらめて帰った・・・私が見た限りではな」
「・・・・・・信じられない、というのが正直な感想だけど」
ダーマは優雅に整った顔に困惑の色を浮かべながら、「でもきっと、本当のことなんだろうね」と呟いた。
分からないのは、すべて終わりがけのことだ。何故袋が破れて、何故人質は解放されて、何故何もせずに三人組は帰ったのか。
「・・・・・・何か隠してるんじゃないか」
どうも腑に落ちない。だがトリュフォーもその疑問が来ることは百も承知だったようだ。
「・・・・・・悪ぃが、こればっかりはな・・・・・・その辺りは秘密ってことで黙認してくれ」
冗談とも本気ともつかない返事を返し、もうこれで終わりだと強引に話題を打ち切ってしまった。
彼としてみれば、あの魔道を破ったのが年端もいかない幼女だということを言い出せずにいたのだ。どんな事情があるにせよ、ルスラが魔術師であることに疑いは無かった。それに彼女は魔物を一人、殺している。あの生首は少女らとともに消えてしまったが、トリュフォーがそれを見逃すはずは無い。
だが、トリュフォーが親友のダーマに疑われることを知りながら口を閉ざす理由で、最も大きな要因を占めているのは、ルスラが幼くして強大な力を秘めた魔術師だからではない――ルスラが記憶を失っているからだ。
無尽蔵の魔力を持つといわれる『神の悪戯』と呼ばれる人々が、周囲に疎まれながら生きていることはよく知っている――化け物だと親に捨てられる場合もあるという――それに耐えかねて、記憶を失ってしまったのかもしれない。
もしくは、両親が北のメラノスポルム出身なのかもしれない。両親が反乱軍(彼らの言うレジスタンス)に所属していれば、マッタンゴー王国の北伐で殺されている可能性だってある。ショックで記憶を無くしてしまうのはよくあることだ――トリュフォー自身がそうだった。彼には義父に引き取られる以前の記憶が一切残っていない。義父もそのことについて硬く口を閉ざしている――彼が教えてくれたのは、トリュフォーの父が立派な人物であること、そしてトリュフォーが北のメラノスポルムの出身であること、戦火によって記憶を失ってしまったこと、ぐらいだ。
だからこそ、記憶を失ったことが彼女の生い立ちと関係があるのならば、無闇にそれを知らしめるのは良くないと判断したのだ。自分と似た境遇にある彼女に同情したのかもしれない。
だがそれは当然、ダーマの怒りを買った。トリュフォーの言葉をからかいだととったのだ。
「ふざけるなよ、トリュフォー!」
ダーマは思わず声を荒げていた。隣のシャンプがびっくりして目を丸くする。
「私は本気でしん――真実を知ろうとだな」
危うく『心配して』と言いかけて、ダーマは顔を赤らめた。
「・・・悪ぃ」
「悪いと思うなら! 話してくれたっていいだろう!」
しかし、トリュフォーは静かに首を振るだけだ。
彼が王の勅命を受けて秘密裏に動くことになった、ということをダーマは密かに聞きつけていた。養父であるスクレロ卿から教えてもらったのだ。
騎士団入りもとある目的のためであり、他の者達のように名誉あるものではなかったダーマは、極力他者との交流を断っていた。そんな折、半ば強引に友好の場に引きずり込んだのが、騎士団長インディカム・ルベスケンスの義理の息子のトリュフォーだったのだ。二人は同じ北のメラノスポルムの出身であることもあり――ただ、ダーマは両親を亡くしているが、ショックで記憶を失うことは無かった――幼いころから家族のような付き合いをしていたから、トリュフォーはダーマのことが放っておけなかったのだろう。今でも、『親友』と呼んでも差し支えない仲だとは思っている。
――だが、それだけのことだ。そうに決まっているのだ。
任務を口実に彼の行方を追ってはるばるこんな西へやって来たのも、トリュフォーに下された王の密命を知るためであり、決して彼が無事かどうかを確認しに来たわけではないのだ。
「だいたいお前は昔からそうだ。そうやって口を閉ざして――」
無関係な他人を庇うんだ、と言いそうになっていることに気が付いて、再びダーマは口を閉じた。
そう、ダーマが部隊長になれたのも、もとはというとトリュフォーが固辞したからだ。その時の悶着についても、彼は「私に隊長は似合わねぇよ」の一言で済ませてしまっている。誰を責めるでもなく、低い地位に甘んじたのだ。
だがそれらが全て、義父インディカム・ルベスケンスに命を救われた恩義から来ているのだとすれば、それは――。
「――もういい」
――妙なことばかり考えてしまう。
「結局、君は・・・何も知らないんだな」
トリュフォーが口を閉ざした時に、必ず自分がそう言う癖があることを、ダーマは知っていた。だがその真意は、ただの嫌味にとどまりはしない。トリュフォーは自身にまつわる真実を何一つ知らないのだ。それを知っててなお、彼にその言葉を浴びせる自分になおさら腹が立つ。
――君は何も知らないんだ――それに対するトリュフォーの答えは、たったの一言だけだった。
「・・・かもな」
居た堪れない――ダーマはすっと顔を前に向けると、わき目を振らずに歩を早めた。まともにトリュフォーの顔が見れない。
「お、おい、ちょっと待て、ダーマ!」
慌てたのはトリュフォーだ。何の前触れもなく、親友が不機嫌になってしまったからだ。彼は唐突に去って行く赤い甲冑の背に声をかけた。が、まるで彼の声が聞こえていないように、ずんずんとその姿は遠くなっていく。
「やれやれだぜ・・・」
ふぅっとため息をついて、トリュフォーはガシガシと頭を掻いた。その少し前の方で、シャンプが二人の戦士の姿を交互に見比べながら首を傾げている。
「トリュさ、ダマさとケンカでもしたんかよぉ?」
「ん・・・いつものこった。なんせマジメなヤツだから」
何でもないようなことで、時々こうなってしまう。からかわれることが嫌いなのだろう、という程度の認識をしながら、トリュフォーは遠くなりかけている親友の背を追った。
気まずい沈黙の中、早足で歩くダーマの後を、トリュフォーとシャンプは黙々とついて行く。
◆
思っていたよりも早く、目的地でもある『伏竜洞』へとついてしまった。
「つーいたついたーついついたー♪」
珍しいものを見る目で洞窟の中を覗き込んでいるシャンプに苦笑をもらしながら、トリュフォーはようやく口を開いた。
「ここが目的地か?」
「・・・・・・」
ダーマの返事は無い。やれやれ、と肩をすくめながら、トリュフォーが口を開く。
「じゃそろそろ、事件のこと話してもらえるんだろうな。報酬も含めて」
怒った口調ではなく、むしろ彼がよくやるからかいの口調だった。だがダーマはどうしても、それを素直に受け止められなかった。
「ちゃんと説明はするよ・・・・・・」
「そうしてくれよ。何をすりゃあいいのかも把握したいんでな」
道中、自分が来た理由でもある例の大事件のことを話そうと思っていたダーマは、何をやっているんだと自分を叱咤した。妙な感情に振り回されるとはなんて愚かなのだ、と。トリュフォーとは親しい、が、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
軽く息を吸い込んで気持ちを落ち着けてから、ダーマは説明を始めた。
「ここは『伏竜洞』――伝説では竜が住まうという場所だ。地理的には『黄金街道』から外れた人知れぬ場所さ」
「ふくりゅーどー? おーごんかいどー? ぬんだべすりゃ?」
シャンプの疑問に、ダーマが明らかに驚いたようすで目をパチパチさせた。『伏竜洞』はともかく、『黄金街道』を知らない者がいるとは思いもしなかったのだ。出鼻を挫かれたダーマの代わりに、トリュフォーが簡単な説明をすることにした。
「『黄金街道』ってのはな――」
ムーランの町から王都までは、『黄金街道』と呼ばれる整備された道が続いている。言うまでもなく、ムーランの町は街道の末端で、西方に伸びる街道の終着点とされている。無論、ムーランの町以外にも西方の街道の終着点はあるので、そのうちの一つ、といった扱いだ。この街道が敷かれたのは、マッタンゴー王国が建国された時代――もう千年以上も昔――だということだ。黄金の力で全国にあまねく街道をはしらせたこの大事業ゆえにその名前がついているのだとも、道に敷かれた土が黄土だったためにその名前がついているのだともといわれている。迷ったならば金の道に出よ、さすれば王都へと辿り着かん――という文が示すとおり、この道がもたらした恩恵は計り知れないものがある。
歴史的な講釈をもう少し続けると、『伏竜洞』は『黄金街道』が敷かれる以前、かつて聖魔剣の勇者エドデスが竜を封じた、という伝説が残る場所である。
「――なんで、『伏竜洞』には今なお竜が潜んでいる、とされてるな」
「へぁ~、竜が住みよる場所け」
「面白い話だろ? まぁ、今そこに竜がいるかどうかっつったら、怪しいモンだけどな」
「そんなものいるわけがないだろう」
すごいなぁ、と感心している子供の夢を打ち砕く一言を放ったのは、ダーマだ。
「ほぇ? ウソなん?」
「言いてぇことは分かるぜ、これはただの伝承だ、だろ? ったくロマンがねぇヤツというか・・・昔はいたんだろ、そーゆーのがよ」
「そう、確かにそんなものは昔話でしかない。今の時代、竜を見た人間なんていない・・・それは事実だ」
そんなつまんねぇこと言うなよ、とトリュフォーが口を尖らせたが、ダーマは「しかし」と言葉を続けた。
「間違い無く、ここには竜がいる」
「ホントめ? いっぺんの!?」
「ああ、いるとも」
「・・・はぁ?」
つい先ほど、自分で竜などいないと否定したばかりではないか――いったい何を言い出すのかといった様子で、トリュフォーが眉を吊り上げた。
「真面目一辺倒のオメェがそんなこと言うなんて・・・こりゃ雪でも降るか?」
「茶化さないでくれ。冗談で言っているわけではないんだ」
ぴしゃり、とダーマはそう言い切る。
「ここ数ヶ月、何件も何件も目撃情報が寄せられた。そしてあの事件が――そしてそれは私がここへ派遣されてきた理由でもあるが――起きたのだ」
シャンプとトリュフォーの顔つきがすっと引き締まった。まだ明るい日差しが届く洞穴の入り口に、暗い影が広がったように思われた。
◆
ダーマは語った。
三週間前、新任の統治官がムーランへ赴任することが決まり、第四隊所属の騎士四人、兵士三十人が彼を護衛することになった。道中ほとんど何の問題もなく進んできたが、あと少しで街というところ――ちょうど、先ほど黄金街道からそれたあたり――で、ちょっと騒動になっているのを見かけた。
新任の統治官が事情を尋ねてみると、薬草採りに出かけた薬屋の娘が行方不明になってしまったらしい。市民の信頼を得る好機と見た統治官は、護衛の兵士たちに捜索を命じ、自らもその場に残って兵士たちを監督した。やがて兵士たちの一人が、女物の靴を見つけた。その場所は伏竜洞。伏竜洞では薬用になる茸も生じるのだが、毒蛇・百足の類もたくさん出るので、普通の人は近づかないはずだった。
ともあれ、統治官は自ら騎士や兵士たち、それに案内のため一人の市民を連れて、内部の探索に向かったが――。
「出たのか」
「出たんだよ」
逃げるのが精一杯で、とても娘の捜索などできなかった。それどころか、騎士二人、兵士十七人が竜に喰われ、残る二人の騎士、十三人の兵士もみな傷を負い、統治官さえもが左腕の肘から先を噛み千切られ、担架で運ばれるという憂き目に遭った。
「うひゃあ~、ひっでぇなあ・・・」
とシャンプは少し顔をひそめる。
「騎士四人に兵士三十人・・・・・・それでもかなわないなら、竜でなくとも大変な害獣だな。早めに始末しちまったほうが良さそうだ」
トリュフォーも思案顔になる。
「まだ疑ってるのか? 私の部下が見たんだぞ」
「洞窟の中だからな。大きな蛇か、トカゲ、山椒魚、鰐――でなきゃ、<翼ある蛇>の類だろ」
「火を吐く蛇がいるか」
「火も吐いたんけ?」
とこれはシャンプ。
「毒を吐く蛇ならいるが・・・」
と、トリュフォーはまだ懐疑的である。
「それだけじゃない」
いい加減に苛立ってきたダーマは、聞いて驚けとばかりに言葉を続ける。
「占天官コプリナス師も、この地の封印が解放され、竜が出現したと予言しておられた」
沈黙。恐れ入ったかとほくそえむダーマ。
「「・・・誰だ?」」
シャンプとトリュフォーが、全く同時に言葉を発した。ダーマは頭を抱え込む。
「そっちの若い君はともかく・・・トリュフォー、君までマクロセファラス・コプリナス師を知らないのか?」
「知らんな」
とトリュフォーは答える。
「どういう人物なんだ?」
コプリナス師は、つまるところ王室の占い師だが、もともとは宮廷魔術師団の出身で、かつては魔術師団長も務めたことがある。世事の煩雑に倦んで、自ら閑職たる占天官の職を望み、王都から北に離れた占天塔にこもった。七十年前の、先々代の王のときである。以来、占いの結果を時折通信するのみで、王都には全く顔を出さなかった。
「そういう人物なら、知らんのは当然だろう。私は占いになど興味はねぇ」
とトリュフォーは言う。
「その老人の寝言を、お前は大層な証拠のように言う」
「大層な証拠なのさ」
師が突然、王都へやって来たのは四週間も前のこと。ちょうど都では、魔術師団の術師たちによる腕の競い合いが行われていたが、師はこれに飛び入りで参加し、今の魔術師団長・ラクタリウスをひとひねりにひねってしまった。加えて、何より人を驚かせたのは、師の容貌がまるで老けておらず、二十代後半か、せいぜい三十歳くらいにしか見えなかったことだ。
「師の年齢は百二十歳とも百五十歳とも言われていて」
とダーマ。
「アマニタじゃないかって噂もある」
さらに師は、この地の封印のことを王に報告し、注意を求めたという。だがさすがに、その突拍子もない話は、王の放置するところとなった。
「ところがそこに、統治官の事件が起こったわけだよ」
とダーマ。
「調べてみれば、七十年間の師の占いはほとんど外れていたが、神・魔のことに関しては一度も外していない。魔人の復活さえ、師は予言していたのさ。誰も取り合わなかっただけでね」
トリュフォーはごくりと息をのむ。シャンプは目を輝かせる。ダーマは勝ったと思った。
「それで私が来たんだよ。師は自分でも行きたがっていたけど、占天官にこういった事件を解決されちゃ、騎士団の名折れだからさ」
「その人は今どこに」
「さあ・・・占天塔に帰ったんじゃないのかな」
◆
ピンチだ。
プルは懐を押さえ、ビクビクしながら歩いていた。彼には一瞥もくれず、ルスラはずんずんと前を歩いていく。
事の起こりはこうだ。まわりに人がいるにも関わらず、プルの胃袋は、シャンプやトリュフォーにすら負けぬ強靭な胃袋は、朝食を抜かれたことに反抗し、大声を上げて泣き喚いていた。肉体の要求はいかなる自制心を以ってしても抵抗できない。抵抗すれば必ずひずみが生じるものである。
さすがに哀れに思ったか、はたまた情けなく思ったのか、それとも自分が食べたかっただけなのか、ルスラが突然、こう言ったのだ。
「アレなら、つきあってやってもよいぞ」
プルがルスラの視線の先を追うと、そこはケーキ屋だった。
もちろん、拒む理由はない。
早速その店に入り、ケーキと茶を注文した。ケーキ一つでは足りないのは明らかだったが、倹約心が頭をもたげたのだ。どちらにしろ、食べないより十倍もいい。
それに、プルにとっても、ケーキを食べるのは初めてだった。
空腹も手伝って、至高の味を存分に堪能したプルはしかし、金を払う段になって愕然とした。
ケーキ三つ(ルスラがニつ食べたからだ)、お茶二杯。54$(約1600円)。
「えっと・・・・・・もうちょっと、安くなりません?」
「なりません」と満面の笑顔で店員が答えた。
「随分とケチじゃな、菓子の代金なぞ値切るなよ、恥ずかしい」とケーキに大満足のルスラが言った。
「さあ、さっさと金を払って次へ行こうではないか。ぐだぐだすると置いて行くぞ」とそれだけ言うと、プルを後に残して店を出てしまった。
ルスラを一人で歩かせるわけにはいかないので、プルは値切るのを諦め、54$を置いて後を追ったのだった。
「ありがとうございました!」という明るい声がその背中を襲う。
こうしてプルは、予算をいきなり使い果たしてしまったのだ。
ルスラは歩きながら、左右の店を目で物色している。プルはルスラの目が、ひょっと高級な品の上に留まりはしないかと戦々恐々である。
プルのこういう嫌な予感は、外れたことがない。
ルスラが突然、一つの店の前に立ち止まると、つと身をかがめた。そしておもむろに、一つの腕輪を取り上げる。プルはその店の屋号を確かめた。『ヤーチャオ魔術具店』。嫌な予感がさらに増す。
黒のマントを羽織り、宝石でごてごてと飾り立てた店の親父が、しきりにゴマをすっていた。
「いやあ、お嬢様はお目が高い。この『竜骨の腕輪』を手にとられるとは」
「ほう、竜の骨の腕輪か」ルスラが答える。「それはなかなかの珍品じゃのう。して、いかなる効果がある」
「炎の魔術の威力を高めます。また逆に、炎を受けても傷つくことがありません」
「では少し火を出してみても良いか?」
「店のものに燃え移らないようにしてくださいね」
ルスラが左腕に腕輪をつけ、人差し指をぴんと伸ばすと、一条の炎が空に向かって奔った。通りすがりの人々が立ち止まって歓声を上げる。ルスラは悪い気がせず、二、三度炎を出してみる。
プルは背筋が寒くなった。
「これがいい。買ってくれ」
腕輪についた値札を見る。竜骨の腕輪。4400$(約13万)。
ルスラは、プルが断るとは思ってもいない様子だ。
店の親父が、プルに向かって手を擦り合わせている。
ルスラの技量に感嘆した野次馬が、みなプルに注目している。
冷や汗が浮かんだ。
「えーっと、ルスラちゃん、あのさ、ほら、こっちのがいいんじゃないかな・・・」
そう言ってプルは、思い切り安そうな、小さな指輪を手に取った。それから値札に目をやると、400$(約1万2千円)と書いてある。プルは頭が痛くなった。
「嫌じゃ、これがいい。このような名品が手に入る機会など、そうはないぞ」
もちろん、その答えをプルは予想していた。
脅迫するかのように、ルスラは何度も炎を噴き上げる。
ところが、思いもかけない事態が起こった。十回ほどルスラが炎を出すと、腕輪は二つに砕けて地面に落ちてしまったのだ。
「ちょっ、何てことを! 貴重な品なのに!」店の親父が突然、表情を変える。「弁償してくださいよ! 4400$(くどいようだが約13万円)!」
迫られても、プルにはどうにもできない。冷や汗が止まらなくなった。
一秒がまるで百年のように、プルは感じていた。だからプルの感覚では三千年ほど後に、救いの舟が出た。
「何の騒ぎですか?」
見ると、群衆の中から長身の青年が現れた。ゆったりとしたマントとフードには、店の親父と違って宝石など飾られていないが、代わりに文字・数字・陣などが細かく書き込まれている。絵に描いたような、といって語弊があれば、普通、人が想像するような、魔術師の風体だ。
「こっちのお嬢さんが、竜骨の腕輪を壊しちまったんで」と店の親父が言う。
「なんと」と青年は驚き、つかつかと店主・プル・ルスラの近くへ歩み寄った。
それから青年は、ルスラの足元に転がっている腕輪の破片を拾い上げた。破片を仔細に観察してから、微笑をたたえて言う。
「これは本当に竜骨の腕輪ですか?」
「なんてことを言うんです」と店主は色めきたつ。
「だっておかしいじゃないですか。竜骨の腕輪だとしたら、どうしてこのお嬢さんが何回か火を出しただけで、簡単に壊れたんです? 竜骨の腕輪は王国の歴代の魔術師団長も使用していますが、壊れた試しなどありませんよ?」
言われて店主はぐっと詰まる。青年は続ける。
「見たところ、これは鰐の骨の腕輪でしょう。違いますか?」
店主のうろたえようを見れば、青年の言葉が図星であることは誰の目にも明らかだった。
「鰐の骨の腕輪なら、せいぜい300$(約9000円)というところですね。私がこのお嬢さんと若い方の代わりに、弁償をいたしましょう」といって、財布をからイラ銀貨3枚を取り出すと、惜しげも無く店主の前に出した。悔しげな表情を浮かべる店主に、青年はさらに毒を投げかけた。
「あなたにとっては大変な僥倖ですよ? 鰐の骨の腕輪のぶんの代金は、少なくとも手に入ったのですからね。役所へ出れば、商品は没収、あなた自身は牢獄の中・・・・・・」
顔色をなくした店主。群衆はやんやと喝采した。
青年はすれ違いざまに、ルスラにこう耳打ちした。
「あなたの力量なら、腕輪など必要ないでしょうに。もし必要とあらば、こんな露店で買おうとなさらず、王都から北にある占天塔をお訪ねなさい」
去ろうとした青年に、プルが声をかけた。
「ありがとうございます!」
青年はふり返って、笑う。
「どういたしまして」
「名前を聞かせていただけませんか」と言いかけたプルの前に、ルスラがずいと進み出る。
「お主、何者じゃ?」
青年の答えはこうだった。
「セファラス。きっとまたお会いしますよ」
そして二人に背を向けると、飄然と立ち去っていったのであった。
「そういえばさ」
思い出したようにそう声を発したプルに、ルスラが面倒くさそうに答える。
「なんじゃ」
「鰐の骨の腕輪がめったにない名品って・・・・・・」
ルスラは、それこそ燃え上がるような目でプルを睨んだが、何も言い返さず、くるりと前に向き直り、ずんずんと足を速めて進んでいってしまった。
プルは初めて、ルスラに勝ったと思った。
まあ、実際には、勝ったのはプルアロータスではないわけであるが。
そしてその後、プルはルスラをやり込めようとしてしまったことを激しく後悔することになる――彼女は執念深く、そして、恨みは晴らすまで決して忘れないのだ。
◆
伏竜洞の中の空間はある種の威圧感を覚えるほどに広く、たしかに竜が棲んでいるといってもおかしくはない。伝説もあながち嘘ではないのかもしれない。だが。
「なあ、ダーマ」
「どうした、トリュフォー」
「やっぱ竜なんていないんじゃねぇのか?」
「いるに決まっているだろう。被害の状況は話したはずだ!」
「しっかしなぁ・・・」
もう伏竜洞に入っておよそ半日は経った。その間に一行が出会ったものといえば大蛇に巨大蝙蝠ぐらいなものだ(当然追い払うなり倒すなりした)。しかし肝心の竜は影も形も見当たらない。これだけ探して巨大な体躯を誇る竜が見つからないのは正直おかしい。
「4週目~♪」
嬉しそうに走り去っていくシャンプを止める気力も無く、トリュフォーはダーマに向かって顎をしゃくった。
「竜と見間違えたのはトカゲか何かで、火傷は混乱した味方の攻撃魔法だったりしたんじゃないのか?」
「そんなことは――」
だが、ダーマは最後まで答えることが出来なかった。
「あら、竜なら別におりますわよ?」
振り返った先には、妖艶な美女と、強大なる伝説の魔獣が――――――
◆
結局あの後、ヘソを曲げたルスラが「もう帰るぞ!」と言って二人は宿へ帰っていた。もっとも、予算がお茶とケーキのコンボで完全に消し飛んでしまったプルとしては正直ありがたい限りなのだが。
で、今は宿屋のフロント。
「おい、聞いたか、統治官様がようやく回復されたらしいぞ」
「あー、あの、伏竜洞の竜に片腕を食いちぎられたってお人だっけ。おれが聞いた話じゃ、討伐隊のほとんどが全滅したとか」
「よく無事だったよなぁ、統治官様も強運なこって」
他の宿泊客が、なぜかやたらとぶっそうな話をしている。
「・・・・・・なーんか今日は竜に縁があるなぁ」
「何ぞ申したかや・・・?」
「い、いやなにも・・・・・・」
ルスラの強烈な一瞥でプルは沈黙した。触らぬ神になんとやら。口は災いの元。これ以上ルスラの機嫌を損ねると冗談抜きで殺されかねない。この幼女はこれでも魔衆を一瞬で倒す手練だ。
「ふむ・・・しかし竜、『竜』か」
何やら考え出すルスラ。嫌な予感がしてきたのは気のせいだろうか。ぜひ、気のせいであってくれ。
「よし!行くぞ!!」
「へ? どこに」
間抜け顔でそう尋ねたプルに、ルスラが勝ち誇ったような笑顔で彼を見下ろ――せないので、わざわざ椅子の上に立ってからプルを見下ろした。
「決まっておる・・・伏竜洞じゃ!」
「なんでさ!?」
ビシッ、と指を空中へ突き出すルスラを支えながら(椅子の上に立ったら不安定になるのは当たり前だ)、プルが尋ねた。ルスラいわく、
「竜を狩って、竜骨の腕輪ぐらい自分で造ってくれるわ!」
ため息をつきつつ、プルはルスラの顔色を伺った。
「あの・・・ひょっとしてそれにはオレも付き合わなきゃいけないとか・・・?」
「忘れたわけではあるまい。貴様は先程こう申したではないか・・・わらわは鰐の骨と竜の骨を見分けることも出来ぬ、愚か者じゃと。そうとも、わらわは竜も鰐も見た事が無いによって違いがわからぬ・・・なれば、鰐と竜を見分けることの出来る、立派な目と広い知識を持ったお主のような人物を連れて行かずして何とする? そう思うであろう、プルアロータス・・・それにわらわは非力な子供。頼りがいのある大人が必要だということを、つい先程思い知ったところよ」
「(根に持たれてる!)」
いいイタズラを思いついた時の子供のような笑顔を浮かべて、ルスラはプルを見ている。実際、彼女にとってはこの程度は軽いイタズラなのかもしれない――プルにとって違うというだけで。
プルは涙を堪えながらため息をついた。
――今日は厄日だ。最近ひたすら厄日が続いている気もするけど。
伏竜洞の竜も、竜骨の腕輪と同じく鰐だったりしないんだろうか。
◆
6メルトルを超える巨大な体躯。猛り狂う炎よりもなお紅い鱗。皮膜の翼を背負ってそびえたつ姿はまさに幾多の伝説に描かれた竜そのもの。ただひとつ、首筋に突き刺さった『何か』を除けば。
「はじめまして。私の名はセレフォーラ。一応これでも魔衆の末席を汚す者でございますわ。そしてこちらは可愛いペットのプセウドコルス。どうぞよろしくお願い致しますね」
美女は貴婦人のごとく優雅に一礼し、とろけるような笑顔を二人の戦士に向けた。
「さて、あいさつも終わったことですし。とりあえず死んでいただけるとありがたいのですけれど・・・」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!」
声にならない叫びをあげて、大地を揺るがしながら魔竜が疾走する。
「!」
風を切り裂くというよりも空間ごと叩き潰すような竜の爪を、かろうじてトリュフォーとダーマはよけた――場慣れしていない者ならばあっという間に踏み潰されていたことだろう。受身の状態からダーマが素早く『ブレスガード』を詠唱し、トリュフォーが『ディフェンスアップ』を唱えた。息吹(ブレス)のダメージを軽減する魔法と、防御力を高める魔法だ――しかし、この場においては焼け石に水、気持ち程度の効果しか発揮しないことは明らかだった。と、そこへニ撃目の爪が振り下ろされ、それをさけたダーマは大きく後退させられてしまった。飛んできた岩の破片が脇腹を直撃し、思わず片膝をつく。
ありえない。
この洞窟に竜がいるであろうことは事前から知れされていて、竜と戦う覚悟は出来ていた。
伝説に語られる竜がどれほど強いのかも、幼いころから騎士を志していたダーマはよく教えられていた。
しかしそれでもなお、目の前にいる化け物の強さは常軌を逸しているとしか思えない。
敵は巨大な顎と両の爪を力任せに振り回しているだけ。技も型もあったものではない。しかしそんなものは所詮、脆弱な人間が考え出したものにすぎないと思い知らされる。真に強い存在に、そんなものは必要ないのだ。力で劣る自分には、それが唯一の拠り所であったわけだが。
敵の一撃を受け止めることすら出来ない。強固な鱗は渾身の斬撃でも傷ひとつつかない。刃が立たないとはまさにこのことだ。
しかしただひとつ。あの首筋に突き立った『何か』。あれがこの竜の弱点に違いない。幾多の戦いを生き抜いてきた所以たる自分の直感がそう告げている。ならばとるべき手段はただ一つ。ダーマは常日頃から身上としている素早い動きで竜のうしろに回り込み、その『何か』に剣を――
だがそれは成らなかった。
鞭のしなやかさと戦槌の破壊力を秘めた魔竜の尾が、一撃でダーマを吹き飛ばしたからだ。
体を「く」の字に曲げたまま、ダーマは壁に叩きつけられた。硬いものがひしゃぐ音――鎧か、はたまた骨か。痛みを感じるよりも早く、ダーマの意識は混濁の渦中へと飲み込まれていた。そして無防備な格好のまま、地面に嫌というほど体を打ちつけたのである。
「ダーマ!?」
トリュフォーがそう呼びかける――動かない。瓦礫に埋もれて赤い鎧が辛うじて見えるだけだ。そこへ、竜の巨大な口が迫っている。ちらりと覗く口元には、研ぎ澄まされた刃のごとき歯がギッシリと並んでいる。このままではダーマの命が危ない――
ダーマを助けに走るか。
ダーマから敵の気をそらせるために攻撃するか。
あるいは――
迷っている暇は無かった。
トリュフォーは地を蹴って駆けた。だが、ダーマの方向へではなく、あの女――むこうで微笑んでいるセレフォーラへと向かって。
プセウドコルス、と彼女が名を呼ぶと、竜は振り返ってトリュフォーを止めようとした。が、その動きは、いくら素早い竜といえどもその巨体のために鈍くなる。竜が尾を振り回した時、すでにトリュフォーはその攻撃範囲を外れていた。
――彼女がこの竜を操っているに違いない。女に刃を向けるのは不本意だがこの際しかたないだろう。
「うおおおおおおお!!」
トリュフォーはセレフォーラに向かって疾走する。その背に、ドスンドスンという地響きとともに竜が迫ってくる。
だが、敵が竜の手を逃れて自分に迫り来る状況でも、セレフォーラは笑みを崩そうとしなかった。
「プセウドコルスったら・・・・・・もぅ、ダメな子ねぇ」
そうつぶやき、セレフォーラはわざとらしく口を手で覆った。そしてようやく槍を振りかざすトリュフォーに気付いたといった様子で、ゆったりとした動きのまま右手を前へ向ける。
「あらあら、怖いですこと・・・」
そのたおやかな指がトリュフォーを指すと、一条の稲妻が宙を走った。
バチィ!!!
「(無詠唱の魔法だと!? こいつルスラと同じことを・・・・・・)」
悲鳴をあげる間もなく、トリュフォーの意識は闇に沈んでいった。
◆
シャンプが異変に気付いたのは、伏竜洞を3.5週した後のことだった。てっきりトリュフォーもダーマも4週目について来ていると思っていたシャンプは、洞穴を揺るがす咆哮と地響きに、
「竜がいでた!」
と、誰もいない隣側に向かって注意を促したのである。
そこでようやく、自分がトリュフォーもダーマも置いてきてしまったこと、二人が先ほどのドーム状の広場にとどまっていることを察したのである――そして、おそらく、彼ら二人が竜に襲われているであろう事も、シャンプ感じ取っていた。
しかし、シャンプの健脚をもってしても、助けに間に合うことは出来なかった。彼らのいる場所と、シャンプがいた場所が、あまりにも距離が開いていたためである。
二人の元へ向かって走るにつれ、シャンプの予感は確信へと変わっていった。次第に激しくなる揺れ、耳を劈くほどの轟音となってゆく咆哮――その間からわずかに聞こえる剣戟の響き。
だがどれほど気持ちを急かせたところで、ヒトの肉体には限界というものがある。シャンプが道中の巨大毒蛙やら羽の生えたトカゲやら茸に寄生された蛇やらを、蹴散らしながら駆け抜けた速さは素晴らしいものだったが、それでも二人の戦士が倒れる前にたどり着くことは出来なかった。
さらにシャンプは、目測を誤っていた。音を頼りに近道を選んで走り抜けて来たため、洞窟の3階部分に出てしまったのだ。しかしそこは、偶然にも絶好の奇襲場所であった。広場へと通じる入り口は人一人通るのに十分な広さがあるにもかかわらず、広場からそこを見上げても鍾乳石に隠れて見えないのだ。まさかそんなところに通路があるとは思うまい。
シャンプは、確かに戦い慣れしているわけではない。彼が今まで倒してきたのは、もっぱら村の近辺に住まう野生の凶暴なケダモノ達だ。いくら強いといっても、伝説の竜に比べれば月とスッポン、そんな連中との戦いにおける経験では歯が立つわけがない。
ところが、シャンプは歴代に勇者の中でも最強と呼ぶに相応しい才能を有していた――生まれながらにして、彼は戦いの天才だったのだ。
だからこそ、彼がはやる気持ちを抑えて身を隠した時、彼には敵の弱点がハッキリと見えた。
楽に切り裂けるであろう薄い皮膜の翼――槍が刺さったままの脇腹――呪術的な背中に生えた茸――そして、あの女性のしぐさに連動する動き。
そのうち、この場所から狙ってより大打撃を与えられるのはどれなのか――
聖魔剣の魔力すら感知できるプセウドコルスが、異変を察知するまでわずか数秒。そしてプセウドコルスが俊敏な動きで奇襲をたくらむ敵の出鼻を挫く前に、シャンプは跳んでいた。高く、遠く。
「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああッ!」
竜の咆哮を打ち消さんばかりに、シャンプは叫んでいた。
そして大きく振りかぶった聖魔剣を、力いっぱい振り下ろした――
◆
凄まじい雄叫びに、セレフォーラが何事かと振り仰いだ先で、彼女は信じがたい光景に目を見開いた。プセウドコルスの本体である、背の赤い茸が真っ二つに裂かれていたのだ。弱点である本体を傷つけられ、竜は甲高い悲鳴を上げながら赤紫色の体液を撒き散らしていた。強力な酸でもあるその体液に触れ、岩がジュウジュウと音を立てて溶け出している。常人ならば骨になるその強酸の雨の中、ベトベトの体液を流れるままに浴びながら、大剣を振りかざした一人の少年が立っていた。
「あら、まぁ・・・」
驚いたことは驚いたが、彼こそがセレフォーラの目的――正確に言えば、彼の持つ聖魔剣リシーサこそが、彼女がここへ来た目的である。すぐさま冷静にプセウドコルスに命令を下す。
「切り裂きなさい、プセウドコルス」
プセウドコルスの本体は尋常ならぬ被害をこうむっていたが、寄生している竜の肉体はいまだ健在だった。そしてまた、本体を守るという自衛本能が、竜の動きを激化させた。
不気味に喚き散らしながら、プセウドコルスは乱入者に一撃を振り下ろした。そのプセウドコルスの重たい攻撃を、聖魔剣を軋ませながらシャンプが受け止める。そのまま一合、二合――四合目で、右から振るわれた魔竜の剛爪を、斜め下から聖魔剣を叩きつけて捌く。
爪が効果薄と見て取ったセレフォーラが別の指示を出す。それに連動してプセウドコルスの巨体が飛んだ。
しかしシャンプは、自分の頭を喰らい千切らんとする巨大な顎を一歩飛びのいてかわし、そのまま隙が出来たところに切り込んだ。その一撃を左の爪で弾かれ、長い尾がうなりをあげて足を狙ってくる。それを下段から切り上げ、そのまま返す刃で頭部に切りつける。鱗に阻まれて致命傷を与えることは出来なかったが、確実にダメージは与えたはずだ。
「(いけっとぉッ!)」
敵は強い。これまでに戦った誰よりも。しかし決して勝てないことはない。だがこちらは既にトリュフォーとダーマが倒れてしまっている。二人とも命に別状はなさそうだが――楽観は出来ない。二人は動くことも無ければ、うめき声を上げることもしない。それに、セレフォーラの出方次第ではいつ殺されてもおかしくないのだ。だから一秒でも早くこの竜を倒さなければ。
「どぉりゃああああ!」
敵の右肩から斜めに切り下げ、そのまま再び頭部を狙う。浅くはない傷を負わせてさらに胸、腹、脚と息も止まらぬ連撃を浴びせかける。自分を近づけまいと強引に払われた左腕を、渾身の力で切飛ばす。
セレフォーラの口元が歪んだ――ただの子供かと思ったが、さすがは勇者の名を冠するだけのことはある。そう判断すると同時に、別の命令がプセウドコルスに与えられた。
「――――――――――――!」
竜は強靭な両脚と逞しい翼で一気に8メルトルほど後退し、
轟!
竜種の中でも最強と称される魔竜の息吹を、シャンピニオンめがけて吐き出した。
「あめえべ!」
紅の濁流に対して聖魔剣を縦一文字に振るい、切り裂いた火炎の中をそのまま突き進む。
これで決まる。相手は火炎を吐いたばかりで隙だらけのはずだ。あの大きく開いた口の中に剣を叩き込めば勝負は決まる。
そして繰り出した必殺の一撃は、むなしく空を切り裂いた。
「どごいったが!?」
あわてて左右を見渡す。しかし魔竜の姿は見当たらない。
「あらあら・・・戦いの最中に余所見するなんて、はしたなくてよ?」
声のするのは遥か後方。振り返って見たものは、
魔竜の足元に、まるで供物のように倒れ伏した二人の姿。
そして今にも炎を吐き出さんと大きく顎を開いた竜の姿。
「な、」
まずい。
走って行ったのでは間に合わない。
剣を投げつけたのでは止められない。
このままでは二人は――
強く強く、聖魔剣を握り締める。
その腕には、呪いの紋様が輝く。
聖魔剣からおびただしいまでの光の粒子が舞い上がり、それはひとつの大きな極光と化し、
「ドラコ・ドウェル!!!」
洞窟の闇を一掃する光の奔流が、魔竜プセウドコルスの姿を包み込んだ。
あとに残されたものは、真っ二つに裂けた毒々しいまでの紅い茸――
「あら・・・やられてしまいましたわ・・・」
そう言葉にしながらも、最後まで立っていた女、セレフォーラはこの結果にことのほかご満悦だった。
「聖魔剣の勇者は殺しても死にませんものねぇ。本当に厄介ですわ。武装解除も出来ないからうかつに捕らえられないし、呪いも病も封印も利きませんから動きも抑えられませんし・・・」
聖魔剣の勇者を殺そうとするなら、その手段はただひとつ。聖魔剣に勇者を殺させることだ。
聖魔剣は勇者に加護を与えるが、同時に呪いも与える。その最たるものがこれ。強力な反動である。過ぎた力はその使い手に代償を求めるのだ。そこにうずくまっている少年は今回、聖魔剣最大の能力たる<封印>を使った。もっともこれは本来の<封印>ではありえない。本当の<封印>とはあらゆるものを文字通り封ずる無敵の力である。ゆえにあまりにも大きく、あまりにも残酷な代償を支払わねばならない。だからこれは<封印>の真似事。時間をかければ解くこともできよう。ただし、それでも彼は多くの代償を求められただろう。
しかし、何も知らないにしては、この封印は上出来だ。
あの竜を、自分の力をもってしても解くことが出来ないほど、強力に封じることが出来るとは思っていなかったのだ。
本来ならば、ここでプセウドコルスを真似事の封印から解き放ち、勇者を殺した後ゆっくりと聖魔剣を手に入れるつもりだったのだ。
しかし、そのプセウドコルスは最早、使い物にならない状態だ。かといって、自分の手で誰かを殺めるなどという、血生臭く卑しい真似は出来ない。
「もぅ・・・予定が狂ってしまいましたわ。ほんの少しですけれど・・・」
そう言い終わる前に、彼女の背にはもう一体の竜が巨体を震わせて立ち上がっていた。先程戦った竜よりいくらか小柄ではあるが、刃のような爪も、盾のような鱗も、業火のような息吹(ブレス)も、紛れも無く魔竜のそれである。
勇者と戦うために、一枚の手札しか用意しない愚か者は、魔衆の幹部になどなれはしない。
優雅なしぐさでセレフォーラは口元に手をやると、この上なくやわらかな調子でニコと笑ってみせた。
「残念ねぇ、勇者様・・・・・・私の可愛いプセウドコルスは一匹とは限らなくてよ?」
◆
遡ること数刻。時刻は昼過ぎ、プルとルスラはサンドイッチをほおばりながら伏竜洞へと向かっていた。昼食にしては遅いが、おやつにしては早い時間だ。ケーキだけでは足りなかったプルが食べ歩きできるようにと買い求めたのだ。プルがムーランに来る時にはいつも寄るという行きつけのパン屋で、4個6$(約180円)で購入したサンドイッチの最後の一つは、しかしながらプルの口に入ることはなかった。
「どうもすみませんね、プルーアさん」
チビチビと、プルが楽しみに取っておいたハムサンドをかじりながら、金髪碧眼の青年が申し訳なさそうに口を開いた。
「私が行き倒れかけてたばっかりに・・・」
「ああ、いえそんな、気にしないでください! あは、あはははは・・・」
恨めしそうに見ていたかも、とプルは慌てて青年が手にしているハムサンドから目を逸らした。勢い余ってルスラが握り締めているカツサンドに目がいってしまい、急いで視線を前に向けた。お金を出した割にちっとも食べていない、なんて思っちゃいけない――何せ相手は行き倒れ未遂と我が侭幼女なのだから。別に自分はサンドイッチそこまで好きじゃないから(自己暗示)。
というのも、伏竜洞への道すがら、プルは偶然にも行き倒れ秒読み状態の男性を発見し、持っていたサンドイッチと水を与えたのだ。行き先が同じだということもあり、一緒に向かうことになった彼は、旅の魔術師テンサウザーを名乗った。
「――それで、テンサウザーさんはどうして伏竜洞へ?」
「仲間を探しに・・・かな」
寂しい奴め、とルスラが先程倒した黒焦げの蛇を振り回しながらつぶやいた。
「ケダモノと戯れて楽しいかえ?」
「いや、ルスラちゃん、テンサウザーさんは別にモンスターを仲間にしにやってきたわけじゃない・・・ですよね?」
同意を求めてプルがそう尋ねた先では、ハムサンドを食べ終わったテンサウザーが涼しい顔でこう返した。
「どうかな。魔術師としては、ドラゴンを味方に出来れば力の証明にもなるし・・・何より面白いと思わないか?」
「さっきご自身で『魔術師仲間のアイヴォータが伏竜洞に行ったまま帰ってこないから、探しに来て道に迷って行き倒れかけた』っておっしゃってたじゃないですか!」
「それもそうだったね」
どうも掴み所の無い人だな――プルは目を細めた。しかし、旅の魔術師ならば、ひょっとしてルスラについて何か知っているかもしれない。彼女はこう見えて、凄腕の魔術師なのだから。
「テンサウザーさん、ちょっとお聞きしたいのですけど」
「何だろうか」
「魔術師については詳しいんですよね?」
彼は少し考えているという素振りをしてみせたが、「偏ってはいるけどね」と答えた。
「私自身アマニタだから、あまり人間の魔術師については知らないが・・・誰かお知り合いでも?」
テンサウザーの流し目にドギマギしながらも――いやいや、何で男のヒトの流し目でドキドキしなきゃならないんだ――、プルは言った。
「子供で強力な魔術師ってご存知で――すかッ!?」
だが言い終わる前に、いきなりプルの背中に、ルスラが手にしていた黒焦げの蛇をぶつけてきた。振り返り、「何すんの」と文句を言おうと腰をかがめたところで、小さな手に耳を引っ張られる。思わず「痛ッ!」と叫んでしまい、口をふさがれて「(静かにせよ、莫迦者が!)」と小声で注意されたところで、ようやくプルは、ルスラの目が油断無くテンサウザーを睨みすえていることに気付かされた。
「(どうしたのさ?)」
とりあえず、小声でそう返す。と、ルスラは厳しい顔つきのまま、プルの耳元に口を寄せた。
「(あ奴は信用できぬ・・・軽々しくわらわのことを漏らすでないわ!)」
「(そんな・・・ただの気のせい゛ッでででで!)」
また思い切り耳を引っ張られる。そんな二人を微笑ましく見守っているテンサウザーに向かって、ルスラは言い放った。
「魔術師テンサウザーとやら・・・なにゆえ魔力を隠し、行き倒れたふりをしてまで我らに近付いたのじゃ? どうせその名前も出任せであろ。違うか」
テンサウザーはきょとんとしたように目をパチクリさせていたが、すぐさまクスクスと笑い出した。
「小さな魔術師殿、優れた力をお持ちであらせる貴方様にそこまでおっしゃっていただけるとは、このテンサウザー光栄の極み・・・しかし、いささか私のことを買い被っておいでのようだ。隠すほどの魔力も無い、程度の知れた魔術師の端くれ・・・こうして誰かに助けてもらわねば、仲間一人満足に救えない男なんだよ、私は」
自嘲気味に、寂しげにそう笑う彼の目に嘘はないように見えた――少なくとも、プルにはそう見えた。それでも、ルスラは幼い顔に不信感を丸出しにしながら、ぷいとそっぽを向いてしまう。そんな二人の間に挟まれたプルが、どう二人に声をかければいいのかと思っているうちに――三人は目的の場所へと辿り着いてしまった。
「伏竜洞・・・竜の潜む洞、か・・・」
テンサウザーの感慨深げなつぶやきは、しかし、天をつんざくような甲高い咆哮によってかき消された。ちょうどそれは、シャンプが竜にて傷を負わせ、互角に渡り合っていた時だったのである。プルは伝説でしか語られることのない怪物の声を耳にし、頭から冷水を浴びせられたように激しく震え出した。
「・・・無事であれば良いがの・・・」
ルスラの冷酷な現状把握の言葉をとがめることも出来ず、気付けばプルは、転がるように地下へと続く道を駆け下りていた。
しかし、それも十数歩だけだった――
プルは突然、自分の足元にあるべきはずの地面が目の前に広がっていることに気が付いた。ルスラとテンサウザーの叫び声を聞き、そして体に全く痛みを感じないにもかかわらず、自分が身動き一つ出来なくなっていることを知った。
――おかしい。転んだ覚えは無いのに――
だが、プルが立ち上がろうとする前に、プルの体は立ち上がって歩き始めていた。途端にプルは、激しい目眩と嘔吐で再び倒れそうになった。が、プルの体は自分自身のそんな不調をものともせず、一層スピードを上げて進み出した。
プルの耳には、後ろから走ってくる二人の足音も、待てという制止の呼びかけも、聞こえはしなかった。何故なら――
「・・・呼んでる・・・行かなきゃ・・・行かなきゃ・・・」
プルは既に、自分の感覚を失っていた。何かが、プルアロータスを呼び寄せている――だから行かなければならない。彼にあるのは、それだけだった。操られるままの体は何度も転び、そのたびに強く地面に打ち付けられてはまた這い上がり、さらに歩き続けた。
歩いて、歩いて、歩いて――
プルはようやく、自分を呼んでいたものを――見付けた。
◆
「首尾は上々・・・かしらね」
誰とはなしにセレフォーラは微笑んでから、緋色の瞳をそっと伏せた。
勇者は力を使いすぎた反動で抜け殻も同然。可愛いプセウドコルスは、セレフォーラが指先を少し動かすだけで、眼前の獲物を嬉々として破壊することだろう。
しかし、今回の戦いは少々、手間と成果が割に合わないかもしれない。
魔衆の主であるレイスの隙を見て勇者シャンピニオンに戦いを挑んだこともそう――彼はセレフォーラに、勇者には決して手を出すなと命じていたのだ。聖魔剣リシーサを手に入れるのを焦ってはならない――レイスはそう言っていたが、セレフォーラには納得が出来なかった。だから魔宮を抜け出してここにいるのだ。
下準備にも長い時間をかけた。万が一にもレイスに企みが発覚すればただでは済まされない。だから、ちょうど勇者復活に備えておいたペットと竜のねぐらを利用することに決めたのだ。そのペットこそ、プセウドコルスだ。得意の魔道――セレフォーラは獣を凶暴化させる術に長けているのだ――で、冬虫夏草ならぬ冬蛇夏茸(生きた蛇や蜥蜴に寄生し、宿主を意のままに操る不気味な毒キノコ)をプセウドコルスという竜に仕立て、経験値稼ぎのために数ヶ月前から暴れさせておいたのだ。セレフォーラがその場にいない限り、自分のペットの暴走に駆けつけた時には勇者が倒れており、これ幸いと剣を持ち帰った――という、彼女の台本は成り立つだろう。とはいえ、大切に育てた3匹のうち1匹を元の姿に戻されてしまったのは、かなり手痛いのだが――戦いに犠牲はつきものだ。この程度で済んで良かったと思うしかあるまい。
「さて」
獲物が少しでも妙な素振りを見せたら、迷わず食い殺せ――プセウドコルスにそう指示を出しておいて、セレフォーラはもう片方の獲物に目をやった。
「こちらの二人はこのまま殺して差し上げても構わないのですけれども・・・どうしてくれましょうか」
少し考えて、彼女はいい考えをひらめいた。二人を並べ、両掌をそれぞれに向ける。
「悲しみよりも深き悲哀。怒りよりもなお激しき憤怒。其は絶望の虚無より生まれし黒き炎なり。これより我が憎しみは汝が憎しみとなり、汝が憎しみは荒れ狂う魔獣となる。憎め憎め憎め憎め。汝が心は魔獣の器。汝、憎悪の福音なす我が使徒となれ――コラプス・ドール」
二人の身体が一瞬紅く輝いた。魔道にかかった証――しかしそれもすぐに消え、二人は今までと全く変わらぬ様子で横たわっている。
時間と手間をかけて育てた手駒が一瞬で元の姿に戻されてしまった悔しさはあるが、新しい駒を手に入れられたということで帳消しにしておくべきか――それに、もうあまり時間が無い。誰かが、おそらくは勇者様ご一行の仲間が、この伏竜洞に侵入したようだ。
「・・・プセウドコルス」
セレフォーラの呼びかけに応じるように、プセウドコルスが大きな口をガバッと開いたと思うと、獲物に向かって灼熱の業火を吹き掛けた。炎は瞬きする間も無く、あっさりとシャンプを飲み込んでしまう。バチバチ、ゴゥッという轟音の中に、勇者の影がゆっくりと崩れ落ちていく――
すべてが、一瞬の出来事だった。
「・・・残念ねぇ・・・少々、遅すぎたみたいですわよ・・・?」
上品なしぐさで、セレフォーラは闖入者に向き直った。
広間の入り口に、どこにでもいるようないたって普通の青年が呆然と立ち尽くしている。プルアロータスという名前も、ただの人間に興味を示さないセレフォーラにとっては、どうだっていいことだった。
「偶然迷い込んだのかしら? それとも、竜を見に来た愚か者? まさか、勇者を助けに来たというわけではないでしょうね・・・?」
なんであれ、逃がしませんわ――にこ、とセレフォーラが笑うと同時に、青年は力無く崩れ落ちた。その胸には、深々と短刀が突き刺さっている。重厚なつくりの、鋭い刃――まるで獣を狙うかのように、躊躇無く、黒い鎧の戦士が自らの武器を仲間へと投げつけたのだ。
「討ち取ってくださいましね、この場に踏み入れるものは誰であろうと・・・その手で」
セレフォーラに促されるまま、おぼろげな足取りで立ち上がる者が二人――それは誰あろう、トリュフォーとダーマ、歴戦の戦士の二人だった。
第6章 暴走、あるいは覚醒
「・・・あ、頭が・・・」
洞穴に入った時から鳴り止むことの無い化け物じみた叫び声と、絶えず揺れ続ける不安定な足元に、ルスラはすっかり参っていた。防壁シールドをはっていなければ、気が滅入って動けなくなってしまうところだ。何といってもルスラはナイーブなのだ。ちょっとしたことですぐに感情が乱れてしまう(我が侭とも言うが)。
「・・・とりあえず、右は落とし穴だということはわかったがの・・・」
右が正しい道に違いないと自信満々に言い切ったテンサウザー。その彼がスポッと落っこちて行った落とし穴を見つめながら、ルスラはため息をついた。
「あの、莫迦共め・・・覚えておれよ・・・」
入り口のところからいきなり走り去って行ったプルも然り。
一度来たことがあるからと公言しておきながら道を間違え続けたテンサウザー然り。
こんなか弱い女の子を置いて一体どこに行ってしまったのだろうか。こんなところで竜に襲われでもしたら――ちなみにルスラは、自分が竜ごときに負けるとは万に一つも考えていないのだが――無駄に魔力を消費しなければならない。逃げ回って敵の気を惹く囮役(プル)と、中心で戦う役(テンサウザー)がいないのは、正直痛手だ。
しかし結局のところ、頼れるのは自分自身しかいないのだ。ふぅ、と息を漏らす。
わーんわーんと不気味な音が鳴り響く中、ルスラは襲い来る身の程知らずなモンスターを消し炭にしながら、奥へ奥へと進んでいった。
◆
――戦え、シャンピニオン――
剣がそう自分に呼びかけるのを、シャンプは聞いた。
――お前は私の鞘――
――死なれては困る――
――私の力を真に引き出せるのは宿命(さだめ)の一族のみ――
――さあ、私を手に取り、戦うのだ――
もう力が出ない――シャンプは答えた。皆を守りたいのに――勇者なのに、何も出来ない。
――シャンピニオンよ――
――私は聖であり魔である剣――
――なればその鞘であるお前も――
――勇者であり――
――破壊者でなければ――
どくん、と脈動を感じる。
全てを、破壊する。
何でもいい、全部。物体、命、世界――
だからシャンプは、戦わなければならない・・・・・・?
――そうだ――
戦って、壊して、無くして。全部、何もかも、すべて・・・
・・・そのために、戦う・・・
――シャンピニオンよ――
――戦え――
――破壊者として――
シャンプは、いや、シャンプだった彼は、笑った。
目覚めよと呼ぶ声が聞こえる――彼は、目を開いた。
◆
痛い。
痛い。痛い。痛い、痛い。痛
プルは突如として感じた耐え切れない感触に翻弄されていた。
誰かが叫んでいるのが嫌に鮮明に耳に入って来る。その喉を潰すような大声と、音にすらならない激しい息の流れが自身のものであると、気付くことはもう出来なかった。
体中が灼熱の業火に焼かれ、同時に凍てつく氷の刃で切り裂かれる。
頭が内側から破裂する。
骨の下で内臓がぶよぶよと胎動し、皮膚を突き破ろうとしている。
眼前で出鱈目な色をした花火が次々と爆発し、その破片が神経に突き刺さって粉々に砕ける。
苦しい。
苦しい。苦しい。苦しい、苦しい。苦し
肌に深く指が食い込めが食い込むほど、痛みが和らいだ。温かな赤い血潮が、この上なく優しく全身を包む安心感だけが欲しい。
そうだ。
血だ。
何故気付かなかったのだろう。これっぽっちではこの痛みは止まりはしない。もっと、血を。
血を流せ
血ヲ流セ
この地獄は もう 耐えられな
突然、うつろだったプルの目に光が宿った。ただし、正気のそれではなく、狂気の輝きが。
次の瞬間、プルは立ち上がっていた。倒れた時とは逆、あたかも重力が反転したかのようにグンと体を起こすと、彼は胸に突き刺さっていた短剣に手をかけた。苦戦しながらもプルは、どうにかそれを体から抜き取って掲げた。刃を押したり捻ったりして広がった傷口からはボタボタと血が零れ落ち、手にした刃も赤く濡れそぼって彼の手を染めている。
「うはは、ひゃ、あはははは! あははははひゃははひゃひゃひゃ!」
おぞましい笑い声を上げながら、プルはニヤリとした。
獲物、発見。
切り裂いて、引き千切って、血を流さなければ。痛いのは嫌――
獲物は二匹。黒と赤。彼にとって既に二人は仲間でも、知り合いでもなかった。人間ですらない――血を流すだけの存在。
思考を失ったプルの体は、素早かった。おぼろげな足取りで近付いてきた黒いほうへと突進すると、手にした鋭利な刃を力いっぱい振り下ろす――
トリュフォーは何かの叫び声を聞いた。と同時に、咄嗟に手にした盾を構える。そこに、鈍い衝撃が加わった。
勢いに押され、盾を弾かれそうになるのを何とかこらえて、トリュフォーは奇襲を仕掛けてきた敵を見据えた。
「・・・?」
戦場において、思考の空白は死に繋がる。しかし、いくら歴戦の戦士といえども、標的を失った瞬間に生じる隙だけはどうすることも出来ない。敵は――プルは――常人とは思えないスピードで宙を舞い、悠々とトリュフォーの背後をとっていたのだ。プルは振り返ろうとするトリュフォーの盾に手をかけると、常人離れした力で弾き飛ばしてみせた。漆黒の盾がくるくると舞い、さくりと壁に突き刺さった。まるで粘土に刺したかのように、盾は半分以上その姿を隠してしまっている。
トリュフォーと相手との間を隔てるものは何も無くなった。その次の瞬間、ヒュッという風を切る音がして、トリュフォーの頬に傷が入った。咄嗟に避けなければ、肉を抉られていただろう。そのまま後ろ跳びでトリュフォーはプルから離れた。ニ撃、三撃、プルの攻撃は空を掻く。
「うぅう゛・・・がッ」
悔しそうな唸り声を上げながら、プルは自分の腕に刃を突き立てた。ドロドロと温かな血が噴き出し、彼の白いシャツを赤く染める。
「きぃ・・・ッギギギ・・・うぐぅ・・・」
常軌を逸した行動だ。まともではない。
だが、そこ立っていたのは、紛れも無くプルアロータスだった。
ただし、全身を血で赤く染め、うすら笑いを浮かべている。顔といわず腕といわず、あらゆるところが引き裂かれ、出血しているのだ。しかもその傷は全て、自らの手によるものだった。
自我を失っている――しかし、それはトリュフォーも同じだった。操っている存在が違うだけで。
「・・・敵は・・・殺す・・・」
今のトリュフォーにとっては、その命令がすべてだった。
攻撃出来るかどうかのギリギリの距離を保ちつつ、彼はゆっくりと相手の周りを回った。その手には、油断無く得物の槍が握られている。相手は一見隙だらけだったが、敵に対して決して注意を怠っていなかった。濁った瞳でトリュフォーの様子をジッとうかがい、攻撃の機を探している。
だが。
プルの相手はトリュフォーだけではなかった。もう一人――赤い鎧をまとった騎士、ダーマその人もプルの敵。そしてトリュフォーの味方だった。
あまりにもトリュフォーに対して注意を向けすぎていたプルは、背を向ける格好となってしまったダーマの刃を避けることが出来なかった。
「が、は・・・ッ」
脇腹を斬られ、膝をついたプルに容赦無くダーマの剣が振り下ろされる。が、プルはどこに攻撃が繰り出されるかあらかじめ知っていたかのように、振り向くことすらせずに、完璧にダーマの一撃を短剣で受け止めてみせた。おもむろにダーマに顔を向け、にぃっと笑う。
「・・・貴様・・・」
離れようとするよりも早く、プルの拳がダーマをとらえた。骨が折れんばかりの無茶苦茶な攻撃。それを止める度に響く、鈍い嫌な音。プルがダーマの盾に爪を立て、諸共に引き裂こうとしているのだ。ギ・ギ・ギィ、という耳障りな音を立てながら、赤い盾に紅の筋が付けられていく。プルの完全に指はあらぬ方向に曲がり、血が止め処無く流れているにもかかわらず、動きを止めようともない。
元来、ダーマは騎士団の中でも非力な方だ。しかし、訓練を積んでいない一般男性よりははるかに力はある。それをものともせず、プルは己の攻勢に抗しきれないダーマの状態を見て取ると、一気に勝負に出た。
重い一撃が、ダーマの胸を突いた。凄まじい怪力で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
トリュフォーが一瞬、そちらに気を取られた。瞬間、プルは先程のお返しとばかりにトリュフォーに飛び掛ると、頭に蹴りを入れた。兜が外れ、黒髪をたなびかせながら、彼はダーマの隣にドウと倒れる。
防ぐ暇を与えぬ捨て身の攻撃――二人は動くことすら叶わず、意識を失った。
全身血塗れのプルはそれをぼんやりと見届けると、耐え難い苦痛に声をからして叫んだ。
断末魔の悲鳴――そうともとれるその咆哮は、ガランとした空間に何度も何度も木霊した。
◆
「呆れた生命力だこと」
ボロボロ、と木の皮を剥がすように炎の塊が地面に落ちて消滅していく。その中心には、相変わらず力無く剣に寄りかかってはいるものの、竜の息吹ですら火傷一つ負うことの無かったシャンプの姿があった。
「さすがは、聖魔剣に愛されし一族ね・・・」
ほぅ、とため息を漏らしながら、セレフォーラは剣へと近付いていく。
「・・・でもその強運も、ここまでですわよ」
セレフォーラは、魔衆の中でも古参に属するほどに長生きだ。かのルスラ・セネシスと姉妹の契りを交わし、名立たる戦において人間を苦しめ、いくつもの文献にその名を残している。
その彼女ですら、いや、そんな彼女だからこそ、聖魔剣リシーサの力を見誤ったのだ――
剣に手をかけた刹那、セレフォーラは己の過ちを悟った。
「これは――」
しまった、迂闊だった――彼女がそう感じ取って離れようとした途端、シャンプの体がビクンと跳ね上がった。先程まで力が抜けきっていた腕に恐ろしいまでの強靭さがこもり、セレフォーラのか細い腕を掴んで強引に捩じ上げる。
「プセウドコルス!」
主の悲鳴にも似た命令を聞きつけ、プセウドコルスが全体重をのせた足でシャンプを踏み付けた。勇者が潰れることを期待してセレフォーラが命令を下したのならば、結果はひどく残念なことになっただろう。が、あいにく彼女の目的は勇者の手から逃れる隙を作ることだった。
ほんのわずかに力が緩んだ瞬間、セレフォーラは化け物の手を振り払うことが出来た。獲物を逃がすまいと伸ばされるシャンプの手を、プセウドコルスの鋭い爪が襲う。
虚ろなままだったシャンプの瞳が、ギラつく殺意を宿し、そのままに竜へと向けられた。同時に、濡れる洞窟の床に竜の体についていた皮膜の羽がドサリと落ちる。
「そ、んな・・・」
咄嗟に魔法防御を施さなければ、プセウドコルスの背中の骨は確実に折られていた。
――ありえない。
勇者はつい先程、これよりも強力な竜と戦って深手を負ったばかりなのだ。それが、剣を振った衝撃だけで竜の鱗を切り裂くほどの力を残しているなどと。
だが、そこにいたのは確かに勇者だった。
黄金色の髪の毛に、澄み切った青い瞳。そして否が応でも目に留ま驕A巨大な剣。彼の全身には不気味な紋様が走り、おどろおどろしい殺気を溢れさせている。
人間でもアマニタでもない、呪われた忌まわしい化け物――
「殺しなさい、我が僕(しもべ)達よ!」
彼女の叫びよりも早く、プセウドコルスが細切れ肉となって四散した。その肉片の中から矢のようにシャンプが飛び出してくる。
が、彼の一撃はセレフォーラが召喚した魔獣によって阻まれた。土の魔獣・オクリコン――蜘蛛の頭部から美しい女性の上半身が生えているという、おぞましい姿をした凶悪な土の化身だ。つるりとした顔には目も鼻も無く、ただ横に長く避けた口から歪曲した昆虫の顎が飛び出している。シャンプが反応するよりも早く、オクリコンはその顎で彼の体をガッチリと捕らえた――勝負ありだ。もがけばもがくほど食い込む顎から逃げるすべなど無い。
ふわりとシャンプから離れながら、セレフォーラは自らの呼びかけに応えない新たな僕(しもべ)の方を見遣った。
驚愕した――セレフォーラの魔道によって能力を無理矢理高められたトリュフォーとダーマが、一般人の男一人をしとめられずにいる。それどころか、逆にいつやられてもおかしくない状況だ。
そこまで考えたところで、セレフォーラはけたたましい悲鳴によって意識を戦場へと引き戻された。見れば、オクリコンの体は女性と巨大蜘蛛の境目で切り離され、8本の足が3本しか残っていない。その背には人間の姿をした化け物が跨り、何度も何度も剣を突き立てているところだ。彼はきゃっきゃと無邪気に笑いながら、都市一つを楽に壊滅させた魔獣の腸(はらわた)を引っ張り出してはこね回している。
セレフォーラは自信家ではあるが、傲慢ではない。また、感情に任せて引き時を見誤るような馬鹿げた真似もしない。彼女は、魔衆の幹部なのだ。
最早勝ち目は無いと見て取った彼女の行動は素早かった。
空間に生じた闇の歪の中へ、セレフォーラが溶けていく。
あれだけの犠牲を払って、主を裏切るような危険な真似までして、収穫は何も無し――勇者の実力のほどを知れただけだ。ならばこれを戒めとし、対策を練らなければなるまい。
「この借りは、必ず返しますわよ・・・」
巨大な玩具が動かなくなってしまったシャンプがもう少し早く顔を上げていれば、如何にセレフォーラといえども無事では帰れなかっただろう。しかし、オクリコンの執念がセレフォーラを救った。逃げる獲物に跳びかかろうとしたシャンプの足に糸を絡め、地面に引き摺り倒したのである。
もっとも、召喚魔獣の中でも凶暴な部類に入るオクリコンも、破壊の化身と化したシャンプの前では小蜘蛛も同然。逆にその生命力の高さと諦めの悪さが仇となり、挽肉になるまで解体されることとなってしまったのである。
だが、オクリコンは思わぬところでシャンプ達の味方をしてくれていた。もしセレフォーラが中堅の魔獣を召喚していたならば、シャンプは瞬く間にこれを撃破していたことだろう。そしてそのまま、残りの獲物――正気を失った仲間――トリュフォーとダーマ、そしてプルアロータス――を思う存分狩ったことだろう。そうなれば3人は間違いなく殺されていた。
幸運なことに、シャンプがようやくオクリコンに飽きた時、既に3人は倒れており、かつそこには新しい獲物がいた。
シャンプは彼を見て、ニィッと笑った。彼も、まるで友達に会ったかのように微笑みを返す。
そこにいたのは、道に迷ったはずのテンサウザーがいた。もっとも、テンサウザーというのはただの偽名だ。
鮮やかに輝く金の髪に、深く澄んだ青い瞳――セレフォーラならば彼を見紛うことは無いだろう。
彼の名は、レイス。
魔衆の主にして、大魔神アクラシス復活をもくろむ男――そしてそのために、聖魔剣リシーサを狙う男。
◆
耳をつんざき、空気を震わす叫びに、テンサウザーを名乗っていたレイスは頭を振った。予想していたよりも、事態はもっと悪いようだ。やれやれと溜め息を漏らす。
「いつ見ても、こればかりは・・・酷いことだ」
男は、苦悶の表情と殺意の眼差しで彼を睨んでいるプルに向き直った。軽く手をかざし、何やら短く詠唱すると、プルは糸の切れた人形のようにガラガラッとその場に崩れ落ちる。
これが、聖魔剣リシーサの力のほんの一片なのだ。
御しきれぬほどの甚大な力――
こんなものが人間の手に渡ってしまったら――考えるだけで気が滅入る。そして、もうルシダムと呼ばれることは無いのにもかかわらず、まだそのようなことを心配している自分が滑稽で、彼は少し笑った。
――誰も、何もわかっていない。
無関係にもかかわらず、この冒険譚に巻き込まれてしまったこのプルという少年もそう。そもそも、彼が暴走したのもシャンプの覚醒の余波を受けてのことだ。
残酷ではあるが、それでもレイスは彼に一縷の希望を見出していた。もしかすると、自分の本当の望みどおりの結末になるやもという希望だ。
「希望、か・・・そんなものに再びお目にかかれるとは、ね」
軽く目を閉じ、剣に取り付かれたままのもう一人の少年に向かって声をかける。
「・・・君にはあるか? シャンピニオン・・・『希望』が」
答える代わりに、シャンプは剣を構えたままううと唸った。その全身からは禍々しいオーラが立ち上り、体中に呪の刻印が走っている。
リシーサが聖剣だけではなく、魔剣と称される所以がここにあった。
魔剣の呪いは時として人格を崩壊させ、主をただ殺戮のみを求める殺人鬼に変えてしまうのだ。
聖剣の勇者と、魔剣の破壊者――
世界を救う力と、滅ぼす力――その双方を、リシーサは内包している。
「・・・恐れるな、シャンプ。君が成し遂げたいと思ったのは、仲間を傷付けることではないはずだ。違うか?」
ひらひらと紙一重のところでシャンプの攻撃をかわしながら、レイスは呟いた。
「今一度問いかけるんだ・・・自分は破壊者なのか、勇者なのか・・・そして決めろ。自分がどちらなのかを・・・」
次第にシャンプの動きが鈍くなってきた。頭を押さえるようにしては振り払い、時折激しく咳き込んだ。
「う・・・ぅうぇ・・・ゲホッ」
「打ち勝つんだ」
一瞬の隙を突いて、レイスはシャンプの背に回って彼を羽交い絞めにした。必死にもがくシャンプに、レイスはもう一度耳元で呟いた。
「守りたいものが、あるんだろう」
悲鳴が轟いた。あるいは、咆哮。空気を切り裂き、鼓膜を破るような絶叫。
その声が次第に小さくなっていくのと同様に、シャンプはおとなしくなっていった。
暫く、ぶつぶつと何かを呟いていたが、急にはっとなってレイスを見た。慌てて突き飛ばし、離れて剣を構える。
「・・・あ・・・う?」
「いい子だ、シャンピニオン」
目覚めたばかりという風に頭を振る彼を、どこか微笑ましく思いながらも、レイスは複雑な気持ちで勇者の成長を見据えていた。
これはチャンスだったのだ。聖魔剣リシーサを手に入れる絶好の機会だったのに、それをみすみす見逃した――いや、同志を裏切り勇者に手を貸したのだ。
しかし、そうせざるを得なかった――もしここで自分が剣を手に入れることになれば、喜ぶのは誰なのか。
「・・・私は運命の操り人形なんかじゃない・・・意思がある限り、決めるのは自分だ・・・そうだろう?」
「? おう」
話の内容が飲み込めないといった面持ちながらも、シャンプは大きく頷く。どこまでも素直で、無邪気な勇者様だな――クスッとレイスは微笑んだ。だからこそ、彼は酷く傷付くことになる――非情になれないがために、命を落とすことになるのだろう。
ちらり、とレイスは周囲を見渡した。
重傷者は後2人、黒い鎧と紅の鎧の戦士達だ。命にかかわるような傷を治し、ついでに記憶も修正しておかなければなるまい。手間だが、妙なことを覚えてもらっていてはまずいのだ。
「・・・あ、オメさ、どこな行くとよが!?」
まだ敵か味方が判断できかねているシャンプに向かって、レイスは笑いかけた。
「みんなのことは大丈夫・・・君は休んでいなさい」
シャンプはレイスの顔をじっと見つめた。この人の言う事を信用してもいいのだろうか――逡巡がそのまま顔に出ている。友人に危害を加えるようならばまだ戦うつもりなのだろう――体は疲れきってボロボロのはずなのに。
そんな彼の目を見据えたまま、レイスは相手に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開いた。
「信じて」
強力な魔力を有するものの瞳には、相手を魅惑する力がある。シャンプはレイスに促されるまま、ぼんやりと頷いた。
「あ・・・のよぅ・・・」
「何だい?」
内心ドキドキしているのを隠すように、シャンプは胸を張って口を開いた。
「なめー<名前>、何つーんだ?」
レイスは顎に手をやってしばし考えてみた――ルシダムは故人だし、レイスという名は魔衆の主、テンサウザーは即席の偽名だ――どれもこの少年に教えるには相応しくない。となれば、答えるのはこうだ。
「秘密」
傍目から見てもはっきりとわかるぐらいにビックリしながら、シャンプは「えぇ!?」と非難の声を漏らした。
「なめー無しつったら、ナヌシ<名無し>かよぅ? んなわけねぇべ?」
「何でもいいよ、好きに呼んでくれて」
「じゃぁ・・・・・・にぃに」
レイスが笑ったのを見て、シャンプはにこっと笑い返した。
「にぃに、助けてくれて、ホントにあんがとな!」
「・・・助けてないさ」
「んなこつねぇべ・・・あんがと!」
人を疑うということを知らないのだな――レイスは思った。一般的な善悪ではなく、自分の中にある良いこと悪いことで判断する、お人好しで世間知らずなお子様だ。きっと彼は、自分のように迷うことはないのだろう――
彼にとっては、自分を助けてくれた人物にお礼を述べるのは至極当然のこと。たとえ、相手がどんな意図を持っていたとしても。
シャンプのぼさぼさ頭を撫でながら、レイスは複雑な笑みを浮かべた。
「次からは、もう何もしない。自分の力でどうにかするんだ」
「ん」
「さ、もうお休み」
まだ何か言おうとするシャンプの額に手を当てると、レイスは先程とは異なる呪文を呟いた。かくん、とシャンプの全身から力が抜け、レイスは彼をそっと地面に降ろした。
「よく頑張ったね」
彼が深い眠りに落ち、静かな寝息を立て始めたところで、レイスは深く息を吐いた。
「・・・・・・勇者が覚醒の兆しを見せ、知らずうちに宿敵と相対す・・・か。お前の運命の中で、それは一体何章目なんだろうね・・・?」
シャンピニオンの背に、寄り添うように転がっている聖魔剣に目をやる。と、レイスはいきなりそれを蹴り飛ばした。ぶにょ、と芯のある不気味な柔らかさを足に感じながら、レイスはペッと唾を吐いた。剣は主の元に戻ろうと、蠢くようにしながらシャンプに近付いてきている。
「・・・」
出来ればもう二度と、聖魔剣なぞ見たくは無かった。しかし自分は再び、この剣にまつわる伝説の中に組み込まれようとしている。
「・・・死神め」
自嘲気味な笑みを浮かべながら、レイスはすっと手を上げた。途端に、目も眩むような閃光が広間を満たし――レイスの姿は消え失せた。
チカチカする光を追い払ったところで、そこには倒れている3人以外には誰もいない。
ただ、彼らは何も覚えてはいないだろう――この惨劇の記憶は、彼らが負った深い傷ごと綺麗さっぱり、消えてしまったのだから。
◆
「・・・治まったか」
幾度目かの悲鳴の余韻が消えた後、辺りは急に静まり返った。キィキィというモンスターの鳴き声も、カサカサと這う爬虫類の足音も、ばさばさとはばたく蝙蝠の羽音も、今では聞き取ることが出来る。
「それで、気付かれぬとでも?」
背後の気配に振り返ることもせず、ルスラはいきなりその相手に向かって雷撃を放った。プルならば直撃して痺れていたであろうそれを身を捩ってかわしながら、岩陰から飛び出してきたのは誰あろう、レイス――ルスラにとってはテンサウザーその人であった。
「・・・こっそり合流しようと思ったんだけど・・・」
「バレぬと思うたか、たわけ。貴様の足音なぞ、とうに聞こえておったわ」
足元に直撃して地面を焼く雷撃、ニ撃目。それに驚いた真似をしながら、テンサウザーは肩をすくめた。
「お怒りはごもっとも」
「今までどこで何をしておった」
クスクス、と口元を押さえながらテンサウザーが笑い、それからゆっくりとこう言った。
「竜退治」
ほぅ、とルスラが疑わしそうに片眉を吊り上げるのを見て、テンサウザーは指で髪の毛をいじりながら続けた。
「姫君におきましては信用なさっておらぬご様子・・・まぁ、自信満々で落とし穴に落ちたら、近くに中型蜥蜴の巣があって、うっかり尻尾を踏んでしまって散々追い掛け回された挙句、魔力も尽きてしまってどうしようかと思っていたところで、救い主の姫君に出会った、というのが本当のところなんだけどね。竜は竜かな、と」
これぐらいの大きさで、と言いながらテンサウザーは腕を広げてみせた。が、当然ルスラの疑いは消えない。
「嘘八百並べ立てて面白いか?」
テンサウザーも特に疑いを晴らす気は無いようで、やる気がなさそうに、「さぁ・・・どうかな」とだけ返すだけだ。
「それよりも、姫君・・・怪我の功名、このテンサウザー、あそこに如何にも竜が出そうな広間を見つけて参りましたとも」
「・・・のぞいたか?」
「怖いし、魔力も尽きたし、逃げてきた・・・・・・貴方は見てたはずでは?」
お互いに腹を探り合うような目で、ルスラとテンサウザーは相対していた。
「まぁ良い」
先に折れたのは、ルスラだった。
「もう一人の莫迦を探す方が先決じゃからな・・・貴様が先に歩け」
「了解いたしました、姫君」
竜が出たら盾にしてやる――物騒なことを呟きながら、ルスラはテンサウザーの後を追う。しかし、今回ばかりは彼の言葉の正しさを認めざるを得なかった。
進んだ先には、確かに広間があった。
ただ、生き物の気配が希薄だ。
つい先程まで激しい戦闘をしていたのだろう、壁のあちこちが崩れ、地面がへこみ、血が飛び散っている。
しかしその参上をルスラは一瞥しただけで、物怖じすることなく中へと入って行った。そして入り口付近に倒れている男に声をかける。
「おい、プル。いつまで寝ておる気じゃ? 起きよ」
◆
――ル、プル・・・――誰かがそう名前を呼びかけている。
アルセラ? いや、姉ならばプルーアと呼ぶはずだ――なにせ、父プルセウスも兄プルシュラスも、プルとつくのだから聞き分けがつかなくなってしまう。でも最近は、父は出稼ぎ、兄はムーラン警備兵と、村にいないから単に「プル」と呼ばれることも出てきたような・・・
「・・・プル・・・プルアロータス! この、ド阿呆が!」
「んぅ~・・・あと5分・・・」
ガスッ
人体の急所の一つ、後頭部。痺れるような鋭い痛みに、プルは悲鳴を上げて転がった。
「ギャアア!・・・痛ッてぇ・・・うぅぅ・・・・・・あ、ルスラちゃん?」
顔を向けるべきではなかった。いや、せめてルスラではなく、テンサウザーの方へ顔を向けるべきだったのだ。その時、プルは頭を押さえながら地面に横になっていた。とくれば当然、視線が上がった先には、ルスラの足とスカートと――
「3つ数える。1、2・・・」
3、とルスラが宣告するのとほぼ同時に、プルは膝立ちでルスラのストンピングをよけた。が、その頭に彼女の拳骨がめり込んだ。いいパンチだ――このままいけば世界だって夢じゃない。
「いい御身分じゃのぉ、お主・・・人にさんざ迷惑をかけておいて何も言う事は無しか? ん? その上、いたいけな子供の下着なぞ見て面白いのかえ?」
――殺される。
「あい、いやその、えと・・・ごめんなさい! 謝るよ! でもさ、それよりも――」
何とか誤魔化さなければ。
「みんなは? あ、その、シャンプとトリューと、あと第四隊長とかいう人・・・」
「それはお主の方がよう知っておろうが・・・わらわがここへ辿り着くまで、ずっと阿呆面下げて倒れておったというのなら別じゃがな。それもこやつがさんざ道に迷いおるからよ!」
「あはははは、来たことがあったから大丈夫だと思ってたのだけれども・・・途中で何度もはぐれて大変だったよ」
無駄な気力を使わせおって、とブツブツ文句を言っているルスラに、プルは「・・・ごめん」と返した。
「・・・何も、覚えてないから・・・」
それを聞いたルスラは、ふん、と鼻を鳴らしてから、プルに立ち上がるよう促した。
「別にお主が何かしら答えを有しておるとは思わぬ。戦闘などはなから期待しておらぬ、ゆえに勝手な行動をとるべきではないのじゃ・・・・・・そこいらでお主が蛇にやられた死体でも転がっておらぬかと冷や冷やしておったのじゃぞ!」
「・・・そだね、ごめん・・・」
プルは、ルスラが差し出した松明を手に苦笑いしてみせた。ルスラは呆れた、といった様子ながらも、それ以上の追求はしないことに決めたようだ。
「じゃ、話が出来る人を探そっか」
「わかっておるなら、さっさといたせ・・・わらわは出来の悪い僕(しもべ)を探すのに疲れたわ。次に同じことをしてみよ、迷わず捨て置くからな」
「・・・肝に銘じとくよ」
掲げた光が弱々しく周囲を照らし出す。むっとする熱気を感じ取り、プルは暗がりに目を凝らした。
――何か今、光った。
辺りを自分の出来る限りの慎重さで見渡し、恐る恐る近付いてみる。いざとなったら逃げる準備は万全だ。
ああ――でもでも、どうか決してあの伝説の竜じゃありませんように。
「ルスラちゃん、火を――」
無言のまま、ルスラが手を差し出して真昼のような明かりを出現させる。
だがプルの警戒は、その光を反射しているのが何であるかがわかった瞬間、跡形も無く吹き飛んだ。手にした松明を放り投げて駆け出す。
「トリュー!? し、しっかり!!」
返事は無かった。完全に、気を失っている。
傷付き、倒れ伏して動かない仲間――そんな彼に見舞うべき感動的な一言は、如何に非道なルスラとはいえ心得ていたようだった。彼女は光を空中に固定すると、小さな体でプルの後を駆け、同じようにトリュフォーの傍らに跪いた。そして言う。
「無事か!?」
口では色々言ってはいるけど本当は優しい子なんだな、さっきもオレのこと心配してくれてたみたいだったし――というプルの感動はそこまで。
彼女が続けて言うには、
「竜は何処におる!?」
という、力強い一言。
「ちっが~~う!!」
思わず叫ぶプル。前言撤回。やっぱりこの子は計り知れない。あはははは、と気楽に笑っているテンサウザーが恨めしい。
「・・・ふん、冗談に決まっておろう。しかし、竜らしきものは何処にも見当たらぬな」
プルの突っ込みに頭を振りながら、しかし、彼女の瞳は本気だった。少なくとも、落胆の色については。
「そんなん見当たんなくて結構だよ! それより早く誰か呼ば――」
「おや、そなたの後ろ・・・」
「ぎぃゃあああああああああああああああああああああ!!!! 出た出た出たぁああああああああああ!!」
ダダダっと30歩ほど猛スピードで離れて振り返ってから、プルは巨大な竜の姿などどこにも無いことに気付いてまた叫ぶ。
「って! ルスラちゃ~~ん!!! 何にもいないじゃん! オレのこといじってそんなに楽しい!?」
「割とな」
「見てる分には、同意」
「そんな~、テンサウザーさんまで・・・」
それにしても意気地の無い奴よ、ルスラが呆れ顔でプルを見て皮肉な笑みを浮かべた。
「男なら、竜の一匹や二匹、どこからでもかかって来いと言うものじゃろうに・・・情けないのぉ」
「確かに、ちょっとかっこ悪いかもね・・・勇者様にしては」
――え? 悪いのはオレの方なの!?
理不尽だという理性の声を押しのけ、ひとまず目の前の怪我人救出に意識を向け直す。今ここでルスラと掛け合い漫才を続けたところで、無駄に体力と気力を消費してテンサウザーを面白がらせるだけだ。何の益も無い。
「と、とにかくトリューを何とかしないと・・・」
「案ずるな、外傷は大した問題ではない」
「そっか、良かったぁ・・・」
確かに、トリューは深い傷を負っているというわけではなさそうだった。これだけ鎧を着込んでいれば当たり前かもしれないが、それでも少しほっとする。レイス扮するテンサウザー意外は事の顛末を知らないのだから、当然の反応だ。が、まだ意識を回復していない以上、何とも言いがたい。
とはいえ、非力な自分では怪我人を引き摺って行くことしか出来そうに無い。いくらそういった非常事態の知識が足りない自分でも、そんなことをすれば怪我が悪化するだけだということぐらいはわかる。
「よし、じゃあ大急ぎで走って誰か呼んで来るから――」
――ルスラちゃんはここで待ってて、と言おうと口を開けた丁度その時、
「その必要は無かろ」
ルスラがそう呟いた。
「え?・・・でもオレ、擦り傷に効く薬草ぐらいしか持って来てない・・・」
「何度も言わせるでないわ。これしきの傷、誰かの手を煩わせるまでも無く癒せるという意味よ。のぉ? 自称:MP(マインドポイント)が尽きた魔術も魔法も使えない無力な男、テンサウザーよ、貴様からも何ぞ言ってやれ」
これしきの傷ったって、身動き一つしてないよ――プルが素朴な疑問を口にする前に、ルスラはその小さな両手をトリュフォーに向けた。淡い光が彼女の両手から発せられたような気がする。
だが。
「これで良し。プル、後は任せたぞ」
「へ? もう終わり?」
それだけだった。もっとこう、物凄い光景を予想していたプルは、あまりのあっけなさに拍子抜けしたが、それもルスラの一睨みで沈黙する。
「疑うか? このわらわを・・・」
「いや、もっと凄いことが起こるかと・・・わかってる、わかってるって! オレってば何にも知らないからさ、回復魔法はもっと派手なものかと」
「魔法は総じて地味なものと決まっておる! その効果の程を知りたくば、いつまでも能天気に微笑んでおる役立たずの似非魔術師を蹴り飛ばして詳しい説明をだな――」
「それよりも今は他の人の救助が先では?」
にこにこと立っていただけのテンサウザーに、ルスラの火球がお見舞いされた。おっと、と気楽にそれをかわす彼に、ルスラが業を煮やしたように叫ぶ。
「わかっておるなら、さっさとやらぬか、この・・・役立たずども!!」
「了解いたしました、姫君」
「はいはい、今からやるってば!」
プルはルスラの背中に口を尖らせてから、気絶しているトリュフォーを起こしにかかった。これでまた彼が起きないとかなれば、一緒に自分も蹴られかねない。
――まぁ、自分よりもずっと凄い子だから仕方ないかもしれないけどさ、とプルは改めて実感した。可愛い顔して人使いが粗いんだから、と。
◆
6人が伏竜洞から出た時には、既に日が沈み、一番星が輝いている頃合だった。
「それも誰とは言わぬが、自称『一度ここに来たことがある男』がさんざ道を間違えたが為じゃがな」
ルスラの視線の先では、わざとではなかろうかと思われるほどに道を間違え続けたテンサウザーの姿があった。
「結局のところ、歩く落とし穴探知機でしたからね・・・すみません」
口ではそう言っているものの、その平然とした顔を見ると、あまり反省はしていないようだ。
「まぁいいじゃねぇの、あちこち崩れて地形が変わっちまってたんだからよ・・・全員、無事に外に出られただけで良しとしようぜ」
「悪いが、トリュフォー。私はルスラ嬢の意見に賛成だな」
ガチャガチャという金属音に負けないぐらいの大声で、ダーマが言った。
「荷物を持っている身にもなってもらいたいものだ」
見れば、ダーマは黒い兜、黒い盾、赤い兜、赤い盾と、計4個の防具を背負っている。所々欠けたりへこんだりと、激戦の凄まじさを物語っているそれらは、戦いを終えた体には結構な負担だと見える。ため息をつきながら、ダーマは荷物を背負い直した。
「それに、一番文句を言っていいのは君だろう? トリュフォー」
言いながら、ダーマはトリュフォーの背中でスースーと寝息を立てているシャンピニオンに、恨めしそうな視線を送った。此度の竜(+α)との戦闘において、最も心身ともに酷使したシャンプは、『ウェイク・アラーム』(強制起床の魔法)ですら、瞼を動かせないほどの深い眠りに落ちていたのだ。そうなれば、誰かが彼を運ばなければならない。この5人の中で誰がその役目に一番相応しいのかは、ハッキリしていた。だからこうして、自分の防具をダーマに預け、トリュフォーはシャンプを背に皆の後をついて来ているのだ。
が、彼は別に背中の重さなど気にならないといった様子で肩をすくめる真似をしてみせた。
「大変なのは私よりも、プルーアじゃねぇの?」
「ふん、功労者は労われるべきであろうが・・・それにわらわはそんなに重くはないぞ」
プルの頭で頬杖をつきながら、ルスラが目を細める。
そう、彼女は疲れたからという理由で、プルの背中に陣取っているのである。しかし、ルスラに迷惑をかけてしまったこともあり、プルは黙って土台に甘んじることにしたのだ。
とはいえ、一時間以上もおんぶをし続けるのはさすがに肩が痛くなってきたプルは、ルスラにこう頼んでみた。
「あのさ、ルスラちゃん・・・もう外に出たし、歩いてもらえると嬉しいかなー、なんて・・・」
「ほーぉ」
ギラン、とルスラのトパーズの瞳が怪しく輝く。すわ言葉攻めか、と身を硬くするプルには目もくれず、ルスラは横に並んで歩いていたテンサウザーに声をかけた。
「テンサウザーとやら、おぬしも疲れておるであろ・・・わらわは歩くによって、代わってやろうか」
飄々としているものの、こういう時のテンサウザーはノリがいい。
「それならば遠慮無く・・・」
「遠慮してくださいッ! ってか、いいよもう、ルスラちゃんのままで!!」
よっこいしょ、と降りかけたルスラの位置を戻しながら、プルは深々とため息をついた。
「・・・竜なんて・・・竜なんて・・・」
――もう、竜なんて二度とごめんだ。
「大ッ嫌いだぁー!!!」
◆
めーもー
◆
使い手に呪いをもたらす魔剣にして、加護を与える聖剣リシーサ。
勇者とは、いわば聖魔剣のための鞘。
使い手に呪いをもたらす魔剣にして、加護を与える聖剣リシーサ。その主はたった一人――だった。今までは。
持って来た松明が煤けて消えそうになる寸前、プルとルスラはようやくにして大広間らしき空洞に出た。
もう一人の赤い甲冑の騎士――おそらく彼が、第四隊長なのだろう――も同様だった。もう少し離れたところでは、シャンピニオンが剣に寄り掛かるようにしてぐったりとしている。
「シャンプ、また会おう・・・生きていれば、また」
目も眩むような閃光と共に、レイスの姿は消えた。
チカチカする光を追い払いながらシャンプが目を開くと、そこには倒れている仲間以外には誰もいなかった。
ただ、彼は気付かなかった。
竜と戦った以上の傷を受けたはずの仲間達が、全員無傷で倒れていることに。そしてこの惨劇の記憶が、彼らの記憶から抜け落ちてしまっていることに、気が付くはずも無かった。
◆
めも終了
◆
完成+微修正。
<前>→<後>
・パキシラス → ヤーチャオ
イチョウタケ(Paxillus panuoides)ということで、チョイ出の道具屋の名前には惜しいため変更。
・スポア → $
spore:【生物】芽胞[胞子・種子](を生じる)
なので、表記を$で併用。この作品に限っては、スポアと読んで下さい。
・物価 → 全般的に安くなった
いくらなんでも2万5千円ぽんと出すセファラスは気持ち悪いだろうということで安くなりました。
そのため、ぼったくりオヤジのあくどさが半端なくなりましたとさ。
あと、わかりにくいであろう$(スポア:お金)について、物価を比較しておきました。
王都が日本の現在の物価に近く、田舎になればなるほど物価が下がります。
基本的に王都の物は田舎では高くなります。逆もまた然り。輸送費がかかりますからねー。なので、プルのお父さんのような行商出稼ぎ人は多いのです。
<日本>
お茶:300円×2杯=600円
ケーキ:450円×3個=1350円
計1950円
セット:700円(どうでもいい)
<王都の一般的な喫茶店>
お茶:10$(約300円)×2杯=20$(約600円)
ケーキ:15$(約450円)×3個=45$(約1350円)
計65$(約2000円)
セット:23$(約700円)(だからどうでもいい)
<ムーランの町のちょっと高級な喫茶店>
(プルとルスラが入ったところ)
お茶:8$(約250円)×2杯=16$(約500円)
ケーキ:12$(約350円)×3個=36$(約1050円)
計54$(約1600円)
<ムーランの町の一般的な喫茶店>
お茶:5$(約150円)×2杯=10$(約300円)
ケーキ:10$(約300円)×3個=30$(約900円)
(パン:7$(約200円)×3個=21$(約600円))
計40$(約1200円)
※参考:パンの場合 計31$(約900円)
<ランプテロミス村の冒険者用休憩所>
(喫茶店やケーキなんて洒落たものは無いよ)
お茶:2$(約60円)×2杯=4$(約120円)
パン:4$(約120円)×3個=12$(約360円)
計16$(約500円)
<ランプテロミス村のパン屋>
(祭祀殿にある村人用の休憩所だとタダ飲みタダ食らいができるよ。
出涸らしのお茶と売れ残ったパンで良ければ)
お茶:1$(約30円)×2杯=2$(約50円)
パン:2$(約60円)×3個=6$(約200円)
計8$(約250円)
最終更新:2014年02月17日 12:26