2008年09月12日(金) 02時27分-カンパニール
勇名ひしめく群雄割拠の時代の話。
ウの国は窮地に立たされていた。と言っても、軍事についてのことではない。それどころか、音に聞く大水軍擁すヤムヤム氏の治めるこの国は、あわよくば天下取りに向けて都を窺うほどの勢力を誇る強国である。
では何ゆえの窮状か。ほかでもない。民心の根底を支える生理的危機、深刻な水不足だ。もともと大小の島々からなる領内には目立った河川も無く、入用はもっぱら雨水ないし対岸の大陸国、ヤの国との交易に頼っていた。
ところが、ここは戦乱の世、ヤの国のモンポウ氏とヤムヤム氏が水道の津料をめぐり次第に反目の度合いを強め、ついにヤの国はウの国への飲み水の輸出を絶ってしまったのだ。俗に言う水止めである。これにはさしものヤムヤム水軍も辟易至極、半月もすると蓄えは底をつき、折柄の日照りも相まって城下は文字通り干上がりきった有様。病弱者の中からは早くも死者すら出す始末であった。
逼迫は評定中の城内とて同じことで、沈痛な面持ちの筆頭家老からは、ことここに至って進退極まれリ、ヤの国へ攻め入るよりほかに道は無しとする声が上がり、ほうぼうで頷き返す家臣団、あとは城主マレヌフ・ヤムヤムの決断を待つばかりといった情勢だった。
そこへ息せき切って駆け込んできた一人の下役。居並ぶ諸将の白眼も憚らず申すには、かのミョートク・カウワイより面会を請いし由とのこと。カウワイ氏こそは北方テの国の雄、長年制海権を争い幾度と無く刃を交わしてきた宿敵である。その頭目が接触を持ってきたとあって、一同目を丸くして驚いたが、抜き差しならぬ事情ありと見て、急ぎマレヌフ直々による会見の手はずが整えられた。
それは、南蛮商人の献上による“びぢおちやっと”なる遠距離受像装置を用いて行なわれ、“ですぺれ”の前で端座したマレヌフに向かって、ミョートクは開口一番こう告げた。
「そなた、モンボウに水を止められてひいひい言っとるそうじゃないか」
「それがどうした」
「そろそろ渇きに耐えられずヤの国に攻め入るつもりかの。まぁ、そのような愚挙を犯せば、後背のわが国が黙っておらぬよのう。みすみす国を失うことになるぞ」
「……要件をうかがおうか」
「わが国はそなたに援助する用意がある」
「い、今、何と申した?」
「弱みに付け込み無辜の民の糧食までも妨げるなど卑怯者のすること。某はあくまで戦の場でそなたと決着をつけたいでの。敵に塩を送ろうというわけぢゃ」
聞いてマレヌフ感極まり、涙とめど無く下るのを隠そうともせず謝していわく、
「かたじけなきこと。この恩には万難排しても報いようぞ」
「礼には及ばぬ。再び正々堂々相まみえる日が来ればよいのだ。実は、早速あらかじめ一千貫ほどの先鋒を差し向けてある。到着し次第好きに使ってくれて構わん」
これには、二人のやり取りを固唾を呑んで拝聴していた家臣団も感激の嵐。平身低頭してひたすらに咽びあい、口々にカウワイ公の寛大さを称え、国を挙げて救援船を歓迎しようという算段となった。
マレヌフたちが港へ押しかけてみると、果たして一隻のテ州船が今しも停泊しようとしていた。巨体揺らして航行する、立派な安宅船である。もはや辺りは事態を察知した民衆と共に、貴賎入り乱れての歓喜の宴。鳴り止まぬ快哉が木霊する中、桟橋が下りるのももどかしく思いつつ、しかし充分に領主としての威風をもって入船したマレヌフが目にしたのは、重度の脱水症状に見舞われた水夫たちと船倉一杯に詰められた莫大な量の塩だけだった。
パッと思いついて、パパッと書き終えて、パパパッと後悔するはずがもうこんな時間ですか、そうですか。
最終更新:2014年02月17日 13:08