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楽しい耳掃除

2009年02月11日(水) 03時37分-K

 耳の中がごそごそするんで耳掻きで耳を掻いていると
 「痛いイタイイタイ!」
 と叫び声がしたので、
 「ごめんごめん、痛かった?」
 と、俺は一体誰に謝っているのか? じっと手を見る。
 いつまでも手を見つめ続けていてもせん無いことなので、恐る恐る耳掻きを耳に突っ込みなおすと、何者かが耳掻きの先を掴む感触が! 思わず引き出すと、一緒に引きずり出されてきたのは、なんと
小人さんであった。
 「一体何をするんだよ! プンスカプンスカ」
 俺はその小人さんを見て、一目で虫であると断じた。
 「なんだ、虫か。いるんだよな、耳の中に飛びこむやつ。懐中電灯でおびき出せばよかった」
 と電気蝿叩き(チキンなので電気を流したまま金属部分に触れると言う積年の野望はまだ果たしていない)を振りかぶると、
 「おいおいおい! どう見ても虫じゃねえだろがよ。小人さんだよ、小人さん! メルヒェンですよ、メルヒェン! メルヒェンを叩き潰そうとするなよ!」
 と小人さん叫ぶ。しかし俺は取り合わず
 「ごまかされないぞ! 虫はみんなそう言うんだ! ちぇすとー!」
 と一撃必殺の気合の元、大上段からの一閃。しかし一瞬脳裏によぎった「ちぇすとって結局どういう意味だ?」と言う疑問のせいであろうか、小人さんはその多少鈍った軌道から辛くも逃れ、家具の隙間へと姿を隠そうとする。
 「逃がすか!」
 電気蝿叩きをその隙間を狙って投げつけると、小人さんの頭を掠めてちょうどその隙間をふさぐような形になる。立ち尽くしている小人さんに、すかさず丸めた雑誌を片手に持った俺が迫る。
 「チョチョちょっと待った! ほんとにほんとに小人さんなんだってば。あんたの耳の中に住んでて、あんたが耳が聞こえるのも、俺のお蔭なんだってば」
 小人さんは必死に説得しようとする。
 しかし俺は
 「耳の中の小人さんがいないから、何も聞こえないなあ」
 と言って、今度こそはともう一度振りかぶる。
 「そういえばそうだ!」
 と小人さんは間一髪で避け続ける。小人さんも馬鹿じゃないので、普段だったら論理的矛盾に気づく所だが、緊急事態ではそうも行かない。
 「おのれ、ちょこまかと」
 しかたなくスプレーを探そうとしてはじめると、小人さんは今がチャンスとこちらを振り返って叫ぶ。
 「見よ、これがメルヒェンの力だ! トランスフォーム!」
 その背中がべりべりべりっと避けると、中から粘液に包まれた何かが姿を現し、羽を伸ばした。
 高速度カメラで撮影されたそれは尺の関係で早回しで乾いていき、とうとう読者の前に全貌を現した、背中から透明な羽を生やし、身を木の葉と花で出来た服に包んだ、まるでバービー人形のようなそれは、まさに見まごう事なき妖精そのものであった。
 「脱皮した! やっぱり虫だ」
 分からず屋の俺はそれでも頑迷に自らの間違いを認めようとせず、可憐な妖精に化学物質を浴びせかけようとする。
 「そこまで疑うなら、証拠をお見せしましょう。妖精の力で、人類の長年の夢、空を飛ぶことだって出来るのです」
 しかし、俺は信じようとしない。
 「騙されないぞ。俺の知り合いは、それを信じたがために大変な目にあったんだ!」
 妖精は俺が過去に何かいやな目に会ったのではないかと一瞬心配したが、すぐに気を取り直して笑顔を取り戻すと、俺の頭上を飛び交いながら、
 「さあ、この妖精の粉をしっかり肌にすり込むのです! 出来るだけくまなく! 服の中も忘れないように!」
 ところがそのとき俺は、その粉が目の中に入ってとても沁みたので悶絶していてとても妖精の話を聞いている場合ではなかった。目に沁みないようにと常時装備しているシャンプーハットも、このときばかりは役に立たなかった。
 「うがぁ! くそ、毒燐粉だな! 命を懸けた最後の切り札を出してきたな!」
 そこはさすがは妖精さん、そんな分かりにくい特撮ネタは無視して自分の話を続ける。
 「さあ、楽しい事を考えるのよ! 雪のことや、クリスマスのこと! 楽しい事を考えると、空を飛ぶことが出来るのよ!」
 そこではたと俺は気付く。最近、楽しいこと考えてないなあ、と。そこで俺は楽しいことを考えている。
 楽しいこと、たのしいこと、タノシイコト………
 「……ふ………ふふ………ふふふ……ふふふふ…ふはは…ふはははは…ふはははははははは! くっははははははは! はっははははははははははははははははは、かははははあははははははははははははははははははは!!!!」
 「な、なに? なんなの?」
 突然笑い始めた俺に、とてもびっくりする妖精。まあ、普通はびっくりするわな。あまりにびっくりしすぎて、
 「さあて、楽しいことをするぞよ」
 といった俺に鷲づかみにされても、すぐには反応できない。
 「ちょ、ちょっと、何すんのよ? どこ連れてくつもりよ? ちょっと待って、その道具何? それってなんに使うの? ていうかどこに売ってんの、そんなもの? ねえ、お願い、話を聞いて、ね、お願い? ねえってば、ちょっと待ってって! それってぜんぜんメルヒェンじゃないじゃない!」
 俺はそのままトイレの中に入ってしばらく出てこなかった。その後の二人の行方は誰も知らない。
一人称を三人称みたいに書くという文体実験
最終更新:2014年02月17日 13:15