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クリケットの将軍様

2009年02月14日(土)02時25分-カンパニール

 純白のユニフォームが芝生のグラウンドに散っていく。フィールダーが守備に就き終わると、ゆっくりとした足取りで入場する2人のバッツマン。観客は万雷の拍手で彼らを迎え入れ、彼らがピッチ上、ウィケットの前に立ったのを合図に、静寂が辺りを支配し始める。
『50オーヴァー制300球限定1イニングマッチ。高句麗中学のファーストイニングの攻撃は、1番ガリー・李#1くん、2番ウィケットキーパー・李#2くん』
 ウグイス嬢のアナウンスにかぶさるように鳴り響くサイレン。アンパイアが試合開始を宣言した。
 球児たちの熱い熱い夏が今、始まる……。

 全国中学校クリケット選手権大会2日目、2回戦第1試合(決勝)。聖明学園中等部対高句麗中学。緒戦より快進撃を続ける聖学に立ちはだかるは古豪・高句麗中。ファーストイニング、先攻・高句麗中レインボー打線の3時間半に及ぶ猛攻に220ランを先取された聖学。そして残るは最終イニング。聖学イレブンに最大の苦境が迫っていた!

『聖明学園ラストイニングの攻撃は、1番ポイント・金#1くん。2番ミッドウィケット・金#2くん』
 コールと共にウィケットの前に立つ聖学の1番ストライカー・金#1。ノンストライカー金#2も配置に就いたのを見るや、彼は高々とバットを構えた。高句麗中の先発ボウラーはエース・李#3だ。聖学が逆転勝利を収めるには、是が非でもこの強敵を打ち崩さなければならない。
 聖学側テラスでは、3番以降のバッツマンが戦況を固唾を呑んで見守っている。
金#3「…金#1先輩、なんとか打ってくださいよ~」
 独り言のように呻いた金#3に、データノートを開いた金#4の眼鏡が光る。
金#4「金#1と金#2は聖学のゴールデンペアだ。あいつらのコンビネーションなら活路が導ける可能性は100パーセント。安心しろ」
 ウィケットキーパーのサインを受け取った李#3が助走を始めた。悲願の全国制覇に向けて、渾身の第一球が投じられる。
李#3(俺のスウィング・ボウルが打たれるかよ!)
 李#3の滞空中にうねるスウィング・ボウルが、地表すれすれをウィケットへまっしぐらに突き進む。金#1はバウンド前にボウルをとらえようと精一杯にバットを伸ばす。
金#4「金#1は典型的なプレイイング・フォワードだが、バットをボウルに当てる技術に関しては右に出る者はいない」
金#3「当てた!」
 バットの先でかろうじて食らいついた打球は、わずかに跳ねて弱々しくオフサイドへと転がっていく。当然ランは自重すべき打球だ。だが途端に金#2は、猛然とポッピングクリースへ走り出した!
李#4(バカな! この打球でランだと!?)
 カヴァーの李#4が慌てて捕球するが、金#2は既にスライディングの体勢に入っており、すばやくウィケットにタッチした時には派手に土煙を上げて滑り込んでいた。
李#4(なんて脚だ……!)
金#4「そして金#2のスピードを持ってすれば、バットに当てさえすればランにすることができる」
 アンパイアがランのコール。観客から歓声が上がると同時に、スコアボードに“1”が入る。反攻の狼煙である。
金#4「金#1のバットコントロールと金#2の走力。これが聖学ゴールデンペアのオーストラリアン・コンビネーションだ」
金#3「さすがゴールデンペア! 普通ならノーランになるところをワンランにしやがった!」
 入れ替わったストライカー・金#2と対峙する李#3の目に光が灯り始めた。
李#3(同じ手はくらうか!)
 今度はファスト・ボウルだ。内角一杯にコントロールされた140km台の速球が打者の胸元をえぐる。
 それでも金#2は動じない。余裕を持って見送ると、投球はそのままウィケットをそれてウィケットキーパーのグラブに直接収まった。
李#2(平然とDNBしたか……。選球眼はいいようだな)
 女房役の李#2は一球一球に対する相手の反応から配球を組み立てていく。オーヴァルの司令塔たる彼こそが高句麗クリケットの要と言えるだろう。
李#2(慌てるな李#3。1オーバーまではまだ4球ある)
 直情型の李#3の豪速球とそれを冷静に御する李#2のリード。高句麗中必勝の形である。その真価が発揮されようとしていた。
 李#3が長い助走から投球フォームに入る。指を離れたボウルは先刻よりやや前方で地表に触れてバウンドした!
金#2(ショートピッチ!? もらった!!)
 バッツマンの手前でバウンドするボウルは長打されやすい。金#2の脳裏にレッグサイドを破っていく飛球が鮮やかに投影された。摩擦で減速し、重力に囚われたボウルはなす術無くバットに吸い込まれる、はずだった。
 金#2のフルスイングは美しい軌道を描いてむなしく空を切った。バットをすり抜けたボウルはウィケットを直撃、スタンプは傾き、ベイルはふっ飛んだ。李#2のグラブにそれが収まると、アンパイアはボウルドと判定、1アウトが宣告された。
金#3「あれは!!」
金#4「シューターだと!?」
 ほとんど地面と平行に進んだ球筋は多分に偶然の要素を含んだ結果であり、そうそう簡単に投げられるものではない。それを意図して可能だとするならば、ただでさえ強力なストレイトの威力が倍増されたと言っても過言ではない。
金#3「金#2先輩がダックで終わるなんて……」
金#4「準決勝までは1度も見せなかったシューター。これが李#3の切り札だったとはな……」
 アウトとなった金#2はすごすごと自軍テラスへ帰っていく。220対1。残り打者は10人。ピッチ上には不動のエース。絶望的状況下で光明は見出せるのか?
金#5「おいどんに任せんしゃい!」
 パヴィリオンの最奥に陣取っていた男が威勢のいい声と共に立ち上がった。4フィートはあろうかという偉丈夫。聖学の頼れる3番、金#5である。
「まだファースト・ウィケット・パートナーシップが終わっただけじゃ。おいどんが一発どデカいバウンダリー見せたるばい!」
 パッドアップを終えた金#5がのっしのっしと芝生を踏み越える。オーヴァルに響き渡るアナウンス。聖学側のスタンドが一段と盛り上がる。
『3番サードマン・金#5くん』

   * * *

 白熱する戦い。

金#6「拙者の変幻自在打法をとくと見るがいい、でござる!!」
李#5「マイガ! ミーのクリィティカルなレッグ・ブレイクをまるでレフト・バッターのようにヒットするなんてアンビリーヴァボー!!」
金#3「出た! 金#6先輩のリヴァース・スイープ!」

李#7「ワシのトップスピナーは108式まであるぞ!!」

 激突する遺恨。

李#8「ふははははは!! どうしたどうしたぁ! デッド・ボウルだけでは勝てんぞ! 大人しくこの私にディスミスされるのだな!」
金#7(なんて奴や…。バウンサーどころか平気でビーマー放りよる……。望むところやないか! 今度こそわてのクロス・バットで仕留めたる!)
『…オーヴァーが終了しましたので、ボウラーの交替とフィールドの回転を行います』
李#8金#7「「なにぃ!?」」

金#8「きさまーーー! いったい何人の命をその球のために吸い取った!?」
李#9「お前は今まで倒したウィケットの本数を覚えているのか?」

 繰り広げられる戦略。

李#監「ティータイム!!」
金#3「そ、そんな! せっかく金#9の大雪山フックが決まりだしてるってのに。バッド・ライトでもないのにこんなこといいんスか!?」
金#4「セッションの終わりも近いからな。相手の監督の要請ではルール上どうしようもない。カップとソーサー、それとカトラリーを用意するんだ」

金#監「ランチタイム!!」

 熱き友情。

李#10「コズミィィック!・エクスプロオオォォォジョンッッ!!・オフブレエエェェェェェィィイイクッッ!!!」
 ズガアアァァーーーーーーッン!!!!
金#9「へへ…オレのフックもヤキが回ったなぁ……。あ、あとは頼んだぞ………ガクッ」
一同「「金#9ーーーッ!!!」」

金#10「左手はそえるだけ…」

   * * *

 稀有の盛り上がりを見せた今大会、その最終試合も終盤、最大の佳境を迎えつつあった。オーヴァルを縦横に西日が切り裂いて、芝生を赤く染めていく。
 金#9捨て身の玉砕打法によって一気に一桁、9ラン差まで詰め寄った聖学イレヴン。奇跡の逆転勝利を射程に捉えたにもかかわらず、テラス内には悄然とした空気が充満していた。
金#3「くそ、あと少しだってのに……」
金#4「このまま日没まで時間を稼いで、ドローに持ち込むという手もあるが……」
 その原因を推量することは容易だった。サブスティテュートの金#補を除けば、現在姿の見える聖学バッツマンは10人。試合開始当初から1人足りていないのだ。しかもその内の9人は既に壮絶なアウトを遂げている。ピッチにはノンストライカーの金#10のみ。
 このままイン・ザ・ミドルするバッツマンがいなければ、試合続行不可能となり聖学の敗北が決定する。散っていった仲間たちの努力が水泡に帰そうとしていた。
 逼迫した焦燥の渦が頂点に達しようとしたその時、テラス内に足を踏み入れた何者かの気配! 即座に全員の視線が闖入者へと集約される。
金#3「金#11!!」
 現れたのは小柄な少年だった。白のキャップ。ジャージのカラーには赤のストライプ。1年生だ。
金#11「……遅れました」
 動ける状態にあるチームメイトは各々一斉にその遅刻者に詰め寄ろうとしたが、皆すんでのところで思い留まり、実際に腰を上げた者は誰もいなかった。と言うのも、少年の外観がそのように軽々と責められる状態になかったのだ。ハーフパンツから伸びた両足は生傷だらけで、関節には至る箇所に裂傷があり、頬は打撲で青くなってまさに満身創痍、目を覆うばかりの惨状だった。そう、まるで道すがら大型トラックに轢かれそうな子猫を身を挺して助けた後のような……そんな様子だった。
金#3「金#11、おまえ―――」
金#監「よし、すぐにパッドアップしろ。時間が無い」
 気遣いの目を向けるチームメイトを尻目に、若味の指揮官は冷然と言い放った。
金#4「監督、しかし……」
金#監「行けるな? 金#11」
 小柄な1年生は、静かに、だがしかとうなずいた。
金#11「はい」
『サブスティテュート・金#補くんに代わりまして、11番スリップ・金#11くん』
 アナウンスに続いてオーヴァル上へ現れた金#11を、会場は大きなどよめきでもって迎えた。観客も彼の様子に異状を感じたらしい。心なしか右足を引きずりながら歩く姿が痛々しい。
李#11「なんとか間に合ったところで所詮は手負いのラビット。俺の球は打てん!!」
 なんとかバットを構える金#11だが、そこに立ちはだかるは、チーム一の剛球を誇るクローザー・李#11。繰り出された投球は言語を絶する勢いで彼に襲いかかったものの、金#11の身を乗り出すような必死のスイングがかろうじて得物の先の先に当てこすったようだった。
 打球は幸か不幸か、素直なスライス回転で右へそれていきながら、スクウェア・レッグの脇を抜ける。そのまま、オーヴァルを転々とするのを高句麗守備陣が血眼になって捕球にかかるが、ボウルは着地と共に急加速、さながらゴルフのトップスピンのごとく芝生の上を猛進する!
 徐々に速度を落としながら生あるものの蛇行を繰り返し、ゆっくりと、バウンダリーを越えて停止した……。
李#11「なっ……!」
 水を打ったような間を置いて、場内は割れんばかりの大歓声! それもそのはず、フォー・ランズ・バウンダリーで4点が加算され差は5点、次に一発出れば逆転サヨナラなのである。
李#11(ま、まぐれだ……)
金#3「いいぞー! 金#11!!」
 意気消沈であった聖学側アルプススタンドでも、その奇跡に近いプレーを目の当たりにして俄然起死回生の兆しが見え始めていた。応援の声にも力が入る。
 しかし、金#11が知覚していたのは、目の前のボウラーだけであった。従容とした心の内。明鏡止水。極限にまで研ぎ澄まされた集中は、彼我以外の全てを存在から一掃せしめた。その瞬間、彼の瞳の奥に光が閃いたのも、決して見間違いではあるまい。
 ボウルが、勝利への切なる願いを込めた全力投球が、迫ってくる。打ち返そうと思うから、打ち返せない。倒そうと思うから、倒せない。そういうことなのだ。20.12メートルの静寂の中で、金#11はふいに直観した。流れに任せるまま、広く、水のようにボウルを迎え入れたなら……。
 振りぬいたバットの素直な反発力で飛び上がった白球は、いっさんに虚空を染め上げ、観客の歓声、そして聖学イレブンの夢を乗せ、どこまでも……。

 〈Never End〉


スポ根もののパロディっぽいことやってるんだけど、専門用語が多すぎて何言ってるかさっぱりわかんない、っていうのがこの小説の笑いどころだと思うんだ。

にしても、ひどいな。コレ。

最終更新:2014年02月17日 13:20