アットウィキロゴ

恩返しの逆襲

2009年03月03日(火)03時51分-K

 むかしむかし、あるところに、与作という名の、心優しい青年が住んでいました。与作は親から受け継いだ家で、決して豊かではないが、つつましく暮らしていました。でも、その与作にも悩み事が一つありました。それはいつまでたっても童貞を卒業できないことでした。自分がもてないのは童貞だからではないかと、無限ループに陥りそうなことを考えたりもしました。思いつめた挙句、母の日のプレゼントに自分の童貞を差し出そうとして、実家から勘当されたりもしました。
 そんなある日、与作が森の中を歩いていると、何かがうめいている声が聞こえてきました。おやっ、なんだろうな、と思ってそちらのほうに行ってみると、そこにいたのはなんと俺でした。見ると、俺の足はトラバサミに挟まれ血が出ており、俺は「イタイイタイ」と泣いておりました。与作はそれを見てかわいそうになり、俺の足から罠をはずしてやり、
 「これでよし、と。もう悪い人間につかまらないように、あんまり人里に近づくんじゃないぞ」
 といって、森に放してやりました。すると俺は丸善の紙袋を持ち直して、森の奥深くに逃げていきましたが、そのとき与作は俺が自分に礼をしたような気がしました。しかし、与作は「まさかそんな」と思うと、すぐにそのことを忘れてしまいました。
 その夜のことです。与作の家の敷居に、若く美しい娘が立ち、道に迷って夜になってしまったので、一晩だけ泊めてほしい、といってきたのです。与作は彼女を家の中に入れてやりました。そしてそのままその娘は与作とともに暮らすようになったのでした。
 その娘には、不思議なところがありました。夜になると、ひとりで部屋にこもり、「絶対に中をのぞかないでください」というと、朝まで出てこないのです。そして、朝になると、眠そうに目を擦りながらではありますが、何事も無く出てくるのです。は娘が作らせた口座には定期的に高額の入金があり、与作は首をひねるばかり。だけどそのお蔭で与作は以前よりもずいぶんいい暮らしが出来るようになり、いい嫁さんもできて、本当に幸せに暮らしていました。多分、童貞も卒業できたのでしょう。しかし、夜中一人でいったい何をしているのか、ということだけ、時とともに気になってしょうがなくなっていくのでした。
 ある日、与作はとうとう約束を破って、障子をそっと開けて、中をのぞいてしまいました。すると中ではなんと、だらしない格好をした男が暗い部屋の中、怪しく光るディスプレイに青白い顔を照らされ、スナック菓子を箸で摘みながらキーボードをカチカチせわしなく叩いているではありませんか。見ている画面はネットのオークション。そこには、ゲーム機本体や18禁ゲームの限定版を定価の何倍もの値段で買おうと愚かな消費者たちが群がっていたのです。そして、その男は双の眼に怪しい光りを湛えながら、「愚民どもめが……」と呟いていたのです。そう、その男はなんと俺だったのです。あの金はなんと、俺がネット転売で稼いだものだったのです。
 ガタッ
 与作は驚いてしりもちをついてしまいました。その音を聞いた俺は、与作がのぞいていることに気づきます。
 「見てしまったのだな」
 俺の顔が悲しみに曇ります。
 「私の正体を見てしまったのなら、仕方がない。私は出て行かざるを得ない、って、あの、どうしたの?」
 与作は、真っ青な顔をして震えています。
 「そ、そんな……いくらなんでも……ひどすぎるんじゃないか?」
 その目に宿る光の尋常ではないのを見て取った俺はあわてます。
 「まあまあ、落ち着けよ。そんなに驚くとは思っても見なかったんだよ。も、もし、そんなに私が出て行くことがショックなら、一緒に暮らして新しい愛の形を探すと言う手も無いことはないのだが……」
 与作は立ち上がって叫びます。
 「ウワーーーーーーーーーーーーーーッ!!! 俺の初めてを返せーっ!!」
 与作は家を飛び出して、どこかに走っていってしまい、二度と帰ってきませんでした。そしてその後の行方を知るものは誰も居ないとのことです。だからその家は今では俺一人で住んでいるとさ。
 めでたしめでたし


Once upon a timeシリーズの最新作。
以前書いた木こりの恩返しの改変。

最終更新:2014年02月17日 13:22