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一面の彼の花

2009年05月17日(日)17時58分-うつろいし

 ・送信、Yes。白ヤギさんがトコトコと手紙を運んでいる。
「途中で食べちゃダメだよ」
 ヒバリはにっこりと微笑むと携帯を閉じ、卓上の本を手に取った。
 今日は大学の入学式だったそうだ。ヒバリはこれで2年生、大学も楽しくなってきて日差しも暖かくなってきて、なんだか気持ちがうきうきする。
 少し賑やかだけど優しいメロディが流れる。私の好きなアーティストのこの春の新曲だ。
 ・差出人、コウちゃん。―うん、けっこう。―
 ムカつく。去年みたいに誘ってくれないし。きっとコウちゃんはレポートで手いっぱいに違いない。だってコウちゃん欲張ってスケジュール全部埋めちゃってたから。じゃぁ、もう少し別の方法で行ってみようっと。
 机の上の写真立てを見る。写真は目の覚めるような黄色と蒼色の背景に、3人の笑顔、優しいコウちゃんと、明るくてよく話し相手になってくれたヒっくん、それから私。
 ヒっくんは去年の年末に、亡くなっちゃった。すごく落ち込んでいた私を慰めてくれたのはコウちゃん。中学生のころからずっと優しい。
 あのメロディ。差出人、コウちゃん。―そうでもないと思うよ。―
・・・・・・。もしかして私のこと嫌いなのかな。違うよね、あっそうか。もしかしたらきっとコウちゃんはヒっくんがいないのに2人で行くことが気まずいんだ。コウちゃんたら、こうなったらヒっくん流、直接アタックだ。
―じゃ、コウちゃん、明日あの公園に行こう。絶対ね。命令(笑)―

 コウキは写真立ての前で無言だった。
 静かにメロディが流れ出す。落ち着いたクラシック。
 ・差出人、ヒバリさん。―今日大学の入学式があってさ、うちの部活の後輩入ってきたんだけどめっちゃ緊張したって、コウちゃん去年どうだった?緊張した?―
 あの頃の俺は浅はかだった。毎日が楽しくて、毎日に気を使う暇なんてなかった。
「なぁ、そう思うだろ、ヒカル」
 コウキは写真の中の中央にいる快活そうな青年に向かって笑う。それは午後の陽射しの反射光の中で、自嘲の響きを帯びていた。
 あのメロディ。・差出人、ヒバリさん。―だよね。話は変わるけど、コウちゃんレポート終わった?コウちゃん欲張って授業あんなに取るから大変なんだぞ(怒)早く終わらせちゃいな。急がないとあのヒキガエル教授も起きだして怒られるぞ。(笑)それにしても暖かくなったよね。ヒっくんも喜んでるかな?ほら、ヒっくんのお墓からあの公園が見渡せるじゃん。今あの花畑もきっと満開だよ。―
 コウキはきつく胸に手を当てる。そうでもしないと自分の首を絞めかねなかった。
「ヒバリさん、ごめん」
 ヒカルが死んだのは、俺のせいだ。新年会、先輩も集まっての宴会で、ヒカルが酒にあまり強くないことを知りながら酒を勧めてしまったのだ。
 俺は罪人だ。俺が、ヒカルとヒバリとの間を引き裂いてしまったのだ。
 ヒバリは俺を許さないだろう。もし、仮に彼女が許しても俺は俺を許せない。
 メールの隙間から悲しみがにじみ出ているかのようだった。ヒバリはいつも、彼女が悲しい時に殊更それを隠そうとする。だがやはり、言葉の端々から悲しみが窺い知れるくらい、彼女の心はデリケートだった。
 俺は俺の罪を忘れてはいけない。ヒカルが霊になったとして、あの花畑から俺を見るその相貌が目に浮かぶようだった。
 あのメロディ。差出人、ヒバリさん。
 なんだか肩の荷が下りたような心地がした。ヒバリさんは俺の贖罪の意思を悟って、自ら審判を下す決意をしてくれたのだ。それもヒカルが見えるあの黄色い花の咲き乱れる小高い丘の公園で。
 ―うん、ありがとう。行こう。―

 やった、成功、大成功!明日は何着ていこうかな。コウちゃんあまりおしゃれなの好きじゃないし。でも目立たないと。
 お弁当どうしよっかな。ヒっくんは確か、コウちゃんはポテトサラダが好きだって言ってたな。じゃ、ポテトサラダサンドウィッチだ。その中にコウちゃんの嫌いなコンビーフを混ぜてみたらどうだろう。苦笑いして、それでも喜んでくれるかな。ヒっくんが中学の頃にお弁当をすり替えてしたイタズラ。でも嫌われちゃったらどうしよう。

 大丈夫だ。俺は罪を償うぜ、ヒカル。天国についたら・・・・・・。あぁ、俺が天国へ行ける訳ないよな。天国から地獄で苦しみ続ける俺を見ててくれ。でも、醜く顔が歪んだ俺を見ても不快になるだけか。
 まぁ、お前の所へ行く。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

 よし、今日はいい天気。絶対うまくいく。ヒっくんのお墨付きだもん。恋にかけてはナンバーワンのヒっくんだからね。それに、多分ヒっくんも力を貸してくれるよ。絶対。

 コウキは写真立てを見る。ガラス越しに写る自分の顔は昨日とも、また写真の中の何も考えていない顔とも違って穏やかだった。

 くつ、OK。お弁当、OK。私、OK。

 コウキは写真立をしばし眺め、少し汚れた革靴に足を入れる。

  よし!
       さぁ。

 一面のあの菜の花畑へ。
 


とても分かりやすい高校生ネタ。
女性の心なんて露ほども知らない。
想像で書いたものに命が吹き込まれているように見えるかが問題。
かなり精神年齢が低く見えるかもと危惧している。

かの公園に咲き乱れる花々などは、もう遥か過去に散って結実しているかと思うが気にしない。

花は回る、くるくると。
花は回る、からからと。
そんな花々が、いっつも時計の針を回して逝く。

最終更新:2014年02月17日 13:36