2009年05月24日(日)16時47分-カンパニール
夢から覚めた。
いや、違う。
違う。そうじゃない。
確信めいた啓示。
今あるこの現実こそ夢なんじゃないか?
俺は傍らの男に尋ねた。
「これは夢か?」
「Nein」
言葉はわからなくても、何を言っているかは察しがつく。実際には夢であろうとなかろうと、コイツは俺の質問を否定しなければならない。夢だとわかった瞬間、俺の周囲は存在ごと消失してしまうのだから。否定するに決まっている。
だから、本当のところはわからない。確実にことの成否を判別できる、そんなウィットに富んだ訊き方でなければ……。
男は黙って目を伏せている。
駄目だ。間を作ってはいけない。相手に主導権を渡しては。きっともう二度と真実を確かめることなどできなくなる。
俺は焦った。
まごつく内に、果たして、男が口を開く。
「夢でなければ、現実なのさ」
挑戦的な笑み。証明しろと言うのか。夢であることを。
夢でないことと、現実であることは同義……。
夢であることを証明できなければ、それは現実……。
背理法の原理。万事同じことだ。宇宙的真理だ。
よかろう。俺が規定してやる。
これは、夢だ。
現実であるはずが無い。
俺の夢ならば、全ては俺の想像物。俺の夢だから、全ては思いのまま。
街路樹は枯れ果て、遠くに無花果の葉が翳る。超高層ビルは干上がり、塩の柱が四囲を埋め尽くす。神話的光景。
崩壊が加速する。世界は幻だ。
そして、
「おまえは人形だ!」
俺は手頃なナイフで人形の首を躊躇無く切り落とした。迸る鮮血。スローモーションで噴き出すそれは、瞬く間に俺の肌を赤々と染め上げ、平坦な断裂面に琥珀色の光が煌めいた。
横溢する感覚。痛みが視覚から侵入してくる。心臓が動悸を速める。落ち着け。これは幻感覚だ。俺は傷一つ負っちゃいない。首無し死体が激しく痙攣している。こみ上げる嘔吐感。必死に抑える。夢なら早く覚めてくれ。
ボトリと地面に落ちたまま、放り出されていた首がこちらを見つめ返している。憂い、悩み、そして何より肉体的苦痛。その他一切の悲哀から解放された、穏やかな顔。
血だまりが広がり、すぐ足元にまで迫ってきた。鏡になって、赤い天井が映る。反転した自分の姿が目に入る。俺はそこに見たのだ。
全身に浴びた返り血の中、凶器を携え、悄然とした表情で、恐怖と後悔と罪の意識でがくがく震えながら、何者にも頼るべきよすが無く、辺り構わず救いを求め続け、あえぎ、それでも虚栄心を信じてぼうっと立ち尽くしている、
人形の顔を。
だいぶ前に書いたものだということはナイショだ。