2012年02月28日 (火) 01時19分-御伽アリス
ラブ・レター 御伽アリス
問い:“I love you.”を訳しなさい。
「ねえ、時を超える手紙って、あなたは信じる? 未来に手紙を出すんだよ。嘘だと思う? でも本当なんだよ。私にはその時を超える手紙で文通をしている男の子がいるの。もちろん、ちゃんと返事だって来るんだから。
彼は素敵な人でね、私の理想の恋人。彼は私のことをよく知っているし、私の気持ちをとても分かってくれる。私が、嬉しいことがあったと書けば彼も自分のことのように一緒に喜んでくれるし、私が悲しい時は優しい言葉で慰めてくれるの。
私だって、彼のことはよく分かっている。彼が書いてくれる優しい言葉を、私も彼に対して書いてあげる。愛とか恋って、そういうものでしょう? だから私と彼はとてもいいカップルなんだよ。
『――今日は家でケーキを焼いたよ。結構上手にできた! 今度また作るから食べさせてあげるね。
そういえば、この前教えてくれた映画見たよ。すごく面白かった。実は私、今見たい映画があるんだ。だから近いうちに一緒に見に行かない?
……そっちのこともいろいろ教えてね。それじゃあまた。 文絵より』
ってこんな感じね。この手紙を、封筒に入れて、冷凍庫に入れるの。すると彼のところに着くんだよ。それで、彼からの便りが届くと、その封筒が私の部屋のカレンダーに貼りつけられる。本当なんだから。嘘じゃないもん。
でもね、彼とはまだ一度も会ったことがない。だって彼は未来の人だから……。
え? さっきの映画の話? なんていう映画か教えろ? えっと……、ああ、私ったらどうしても題名が思い出せないみたい。あははは。あ、じゃあ私もう帰んなきゃ。バイバイ。」
「なあ、お前さ、時を超える手紙って信じる? 過去に手紙が出せるんだよ。デタラメじゃない、本当にあるんだ。俺、時を超える手紙で文通してる女の子がいるんだよね。すごいだろ、ちゃんと返事ももらうんだ。
彼女は良い子でさ、俺のモロタイプだね。彼女は俺のことを何でも知ってるし、俺のことをよく理解してくれてる。楽しかったこと書いたら彼女も一緒に喜んでくれるし、俺が誰かにムカついたりしたら、いつも俺に味方してくれるし。
いや、俺だってそれは同じこと。彼女の気持ちをちゃんと分かってあげてさ、かけるべき言葉をかけてあげるのさ。好きになるとか愛するって、そういうもんだろ? 彼女とはホント良い関係なんだよ。
『――今日は前から見ようと楽しみにしてた映画を見たよ。期待以上の面白さだった! 時間があったらぜひ見てみて。
そういえば、前に言ってたケーキ、俺もすげー食べたい! 楽しみにしてるよ。
……そっちのこともまた教えてね~。じゃ、また。 文也より』
とまあこんな感じ。この手紙を封筒に入れて、アルバムに挟むんだ。そうしておくと彼女のところに手紙が届くわけ。それから彼女から手紙が届くと、その封筒が俺ん家の電子レンジから出てくる。マジだよ、嘘じゃないって!
しかし、彼女とは会ったことがまだない。だって彼女は過去の時代の人だから。
え? 彼女のケーキはどんなのか? 普通のやつだよ。種類? あー……チョコ? いや、そんなことはどうでも良いんだ。ははは。おっと、そろそろ帰るか、じゃあな。」
さて、ここに自作自演の文通ごっこをしている女の子と、同じくそれをしている男の子がいるわけです。文絵さんと文也くんです。相手から返事が来るなどと言って実はそれも自分で書いてるのです。時を超えるだの何だの言ってるのは、その方がロマンチックだとか考えているのでしょう。誤解があるといけないので一応言っておきますけど、この二人は別にお互い文通なんかしてませんよ? それぞれが一人で勝手に理想の恋人を想像して妄想に浸っているだけです。内容が偶然噛み合っちゃってるだけなんです。
二人のこと、ばっかじゃねえの~~! と思いますか? じゃああなたはこんな文通やってみたことありますか? ちゃんと冷凍庫に入れて、電子レンジから出して、アルバムに挟んで、カレンダーに貼りつけられたのを取るんですよ? あ、でもおそらく何も起こりませんから。そんなこと僕に文句言われても困ります。こっちは知りませんよ、あなたのことなんか。
実は文絵さんと文也くんは同じ高校のクラスメートだったりします。偶然ですね。ここまで偶然が重なっちゃうと、もっと行きますよ。今にも二人の身に何かが起こるのです、ほら! 廊下を歩いていた文絵さんと文也くん、曲がり角でぶつかってしまいました。うふふ、だめですねー、ちゃんと前見て歩かないと。
さてさて、ぶつかった二人の足元には、二つの封筒が落ちています。実は二人とも、文通ごっこの手紙を学校で書いているんですよ。それで出来上がった手紙を封筒に入れて持って歩いていたんですね。そしたらぶつかってしまって、どうせ妄想の恋人のことなんか考えながら歩いてたんですよ、馬鹿ですねえ。それで、同じような大きさの無地の二つの封筒はどちらがどちらの物だったのか見分けがつかなくなってしまいました。こんな偶然あるんですね。
どうしましょう? 内容が内容ですし、おかしな妄想の趣味があるなんてクラスメートに知られるわけにはいかないので、二人とも相手には絶対に中身を確認させることはできません。二人は困ってしまってお互いに顔を見合わせるしかありません。あれま、大変なことになりました。
でも二人は気が付きました。もしかして目の前の相手も自分と全く同じことをしていたのではないか、と。そして同時にこう言ったのです。
「「ねえ、ひょっとして……?」」
答え:「「ねえ、ひょっとして……?」」
え、答えが変? そんなこと言われましても。ちなみに、その後二人は文通を始めたらしいですよ、恋人同士として。ほら、やっぱり文通ごっこも効果あったじゃないですか。
最終更新:2014年02月17日 14:49