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I love you. を訳しなさい(御伽アリスその2)

2012年02月28日 (火) 01時22分-御伽アリス

    刻まれた言葉          御伽アリス

 問い:“I love you.”を訳しなさい。

 昔々、大昔。太古の昔。ある男がいた。その男には好きな女性がいて、なんとか想いを伝えたいと思っていた。しかし面と向かって口にする勇気は男に無く、悩んだ末に男は自分の想いを岩に刻むことにした。村にある大きな岩に、愛のメッセージを掘ったのだった。

 その恋が成就したかどうかは気になるところだが、今となってはそれは知ることができないし、この話には関係ないので特に何か書くことはしない。さて、男が岩に文字を刻んでから数千年の後、すなわち現在だが、ある遺跡からその岩が見つかったのだ。もう岩はボロボロになっていたが、なんとかそこに刻まれた文字を読み取ることができた。これはおそらく大発見だった。世の中の注目が高まった。
 考古学者たちが調べてみて、岩に刻まれた文字は、“I love you.”だと分かった。そしてこの文の意味をみんなが解析し始めた。
 古い辞書を引いていた者が、この文を日本語にすると、「私はあなたを愛しています。」となることを発見した。しかし誰もその「愛しています」の意味が分からないのだった。実は、この時代の人間たちには誰かを愛する、という感覚がなくなっていた。だから「愛しています」とはどういうことなのかさっぱり理解できないのだった。
 長い間、その文字の研究は続けられた。大勢の考古学者、言語学者、その他の研究者が寄ってたかって解読しようとしたが、結局文の意味は分からなかった。そしてとうとう解析は断念され、いいかげんな解釈を公に発表するわけにもいかず、あの岩に刻まれたものは文字のように見えるが実はただの傷で、意味のある文ではなかったと発表された。もちろん、わくわくしながら注目していた人々はがっかりした。そして、あっても邪魔になるばかりだ、ということで、岩はハンマーで砕かれることになった。
 そんな時、どうせ壊して捨てるのなら文字の刻まれた部分の欠片を譲ってくれ、と言い出した研究員がいた。みんなこんな物はいらないと思っていたので反対する人はいなかった。そういうわけでその研究員の男は“I love you.”が刻まれた欠片を譲り受け、彼の自宅に持って帰った。
 彼は岩の欠片をとても大事にした。自分の部屋に置いて、自分だけで毎日鑑賞していた。見れば見るほど彼はその欠片に心惹かれ、まるで娘のようにして可愛がった。これはきっととても重大な意味を持った言葉に違いない、と彼は思った。

 それから数十年がたった。研究員だった男には死が訪れようとしていた。結局、文の意味は彼にも分からないままだった。しかし死の間際、ベッドに横たわった彼は隣の机に置かれたあの岩の欠片を見て、こう言ったのだった。
「言葉など必要ない。お前に出会えたこと、それだけで私は十分だ」
 そして男は静かに息を引き取った。

 答え:「言葉など必要ない。お前に出会えたこと、それだけで私は十分だ」
最終更新:2014年02月17日 14:50