2012年03月01日 (木) 23時23分-すばる
境内の前には人の列ができていた。普段なら、ありえないことである。正月だからって、別に信じてもいない神様にあやかろうという呑気な人たちだ。にもかかわらず、僕はその呑気な人間たちに混ざって列に並んでいる。こんなことしている余裕なんてないのに。それでも、一応神様に願ったりしてみる。でも、そんなの気休めにしかならない。それどころか、どんなに勉強したって、気休めにすらならない。
「祐兄はなにお願いしたの?」
高二の従兄弟の問い、それに僕は、大学合格だと答える。そう、大学受験だ。あと十日で、センター試験、こんなところに来ている暇は、ない。
「裕兄どこ受けるの?」
「N大。」
「へえ、どこそこ? 有名なところ?」
「別にそこまで有名じゃない……もういいかな? 俺忙しいんだよ。」
もちろん手ぶらで来ているわけがなく、英単語の束を持ってきた。ところが、周りがうるさくて、まったく頭に入ってこない。しかもたびたび話しかけられるので、ようやっと集中できても途中で中断させられてしまう。やっぱり、来るんじゃなかった。
ところが僕の気持ちなんて誰も察してくれず、例年通り、次はおみくじを引くための列に並ぶ。僕も筒を振り、籤を引いた。
「裕兄なんだった? 僕は中吉。」
「小吉。」
「小吉、微妙だねえ。ちょっと見せてよ。えっと、なになに……仕事、堅実にあれ。待人、いまだ来ず。金運、無駄使いに気をつけよ。争事、勝負事は避けるべし。裕兄、今年は受験控えといたほうがいいんじゃないの?」
もう突っ込む気も出ない。おみくじは従兄弟の手に渡し、自分は単語帳に戻った。もちろん、そんなものを信じているわけではない。こんなもの、ただの籤だ。だけど不安だけが無駄に増え、こんなことなら引くんじゃなかったと後悔する。
「あれ、裕兄これ結ばないの?」
おみくじをつき返してくる従兄弟が、妙に憎らしかった。
最終更新:2014年02月17日 14:43