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この現実を出よう(お題『陽射し』『実際』)

2012年03月11日 (日) 01時23分-御伽アリス

     この現実を出よう

 部屋の片付けをしていたら、変なゲームを発見した。こんなソフトを買った覚えは無い。昔誰かに借りて返し忘れたのか、それにしても見覚えすらない。とにかくそんな物が出て来たのだ。なんだかディスクのパッケージからして怪しいゲームのようだが……。タイトルから想像するに、脱出ゲームらしい。むしろ出来の悪いホラーゲームのように見える。
 パッケージの中にはソフトのディスクしか入っていないし、そこら辺を探してみてもゲームの説明書らしきものは見当たらない。まあ僕はもともと説明書を読んでからゲームをプレイする性格ではないので、特に気にはしないけれど。ゲームなんて、実際にやっているうちに分かるものなのだ。ゲームという物は総じて、馬鹿でもそれなりにプレイできるようになっている。そして僕は馬鹿ではないので、それなり以上にプレイできるはずだ。

 さて、じゃあ始めるか。ゲームはまずムービーから始まった。なかなかCGが綺麗だ。画面に現れたのは、ある部屋の中の映像だ。なんだかおかしな部屋だな。脱出ゲームだから多少おかしくても良いのか。
 まず目に付くのは、部屋に突っ立っている1人の男。これが主人公か。あまり美男子とは言えない顔だな。散らかった部屋には……虫取り網、何だかよく分からない黒光りする板が2枚、テレビ、四角い機械(ディスクトレイが開閉しそうな溝がある)、虫めがね、巻かれたたこ糸(500Mと書いてある)、数枚のコピー用紙、その上にCDか何かのディスク(ケースに入っておらず裸の状態)、何か植物の植えてあるプランター、水道の蛇口と流し、バケツ。頭上を見上げると、部屋はかなり天井が高い。主人公の背丈と比較して考えて、6、7メートルくらいはありそうだ。そして頭上には部屋を横切るようにして紐のようなものが渡してあり、その紐の中間くらい、ちょうど部屋の真ん中の上方に包丁が3本掛けられている。包丁の柄に輪のようなものが付いていて、その輪に紐が通っているのだ。これもまた少しおかしな光景だ。部屋の一つの壁には大きな窓があり、そこには10センチくらいおきに鉄格子がはまっているが、ガラスははまっていないため、部屋には風が入ってきているようだ。窓は高い位置にあり、床からは3メートルくらい上。そのため中から外の様子は見えないが、ゲーム内のカメラ(?)が切り替わって外の通りを人が歩いたり車が通ったりしている映像が流れた。再び部屋の中に映像が戻る。窓からは陽射しが燦々と降り注いでいるから、おそらくそちら側が南だろう。まあ普通ゲームをやっていて方角など考えないけれど、窓側が南とすると、西側の壁から東側の壁に紐が渡されていることになる。そして北側には唯一の扉がある、というほぼ正方形、いや立方体の部屋だ。コンクリートでできていて陰気な感じの部屋だが、陽は入るので暗すぎるということはない。
 僕は主人公を動かして部屋をうろつき回、ろうとしたのだが、部屋の中央あたりに立った時再びムービーに切り替わった。何かイベントが起きるということだ。

 いきなり頭上に渡されていた紐が、ブチッと切れた。紐はびよーん、と弾性を発揮して左右へ分かれて吹っ飛んだ。どうやらゴム紐だったらしい。そしてさっき見たように、紐には包丁が掛かっていた。紐が切れた今、包丁は当然下に落ちてくる。5、6メートルの高さから刃を下に向けて3本の包丁が落ちてきたのだ。これは危ない。え、しかもちょうどそこにいた主人公の頭に、3本ともブッ刺さってしまったじゃないか。主人公、死亡。いや、おかしいぞ、このゲーム。まずそんな高いところに包丁を掛けておくわけない。そしてそれがちょうど良い(ちょうど悪いと言うべきか)タイミングで降ってくるとは。しかもそんなに簡単に頭に刺さるものか。実際はこうはならないだろう。ゲームだからこんなことが起こるのだ。
 さて、主人公は死んでしまった。まさかこれでゲームオーバーなのか? 僕は少し心配したがそうではなかった。ゲームはまだ終わってない。当たり前だ、僕は馬鹿ではないから、馬鹿でもできるはずのゲームをクリアできないなどということになるはずがない。主人公は死んだが、その体から魂が抜けだしてムクッと体を起こした。どうやら幽霊になってしまったようだ。幽霊が脱出するゲーム? そんなのあるのか?

 再び僕は主人公(の幽霊)を動かす。幽霊と言っても宙に浮いているわけでもなく、足もあるし、特に何かできるというわけではないらしい。もちろん壁を通り抜けて脱出、などということもできない。なるほど、ここからやっとゲームが始まるわけだ。
 僕は切れたゴム紐を見上げた。ゴムは長い間直射日光を受けると劣化が進むらしい。窓から入る陽射しのせいで、ゴム紐が劣化していて切れた、ということだ。そんな意味の解説がゲーム画面に現れている。納得はできないけれどゲームだから、と割り切るしかない。と言うかこういう種類のゲームに納得など必要ない。
 どうしたものか。部屋にはいろいろアイテムが散らばっているが……。まずは試しに部屋にたった一つのドアを開けようと押したり引いたりしてみるが、当然開くはずもない。次に僕は床に落ちているCDを拾った。記録面が上になっていて、差し込む陽射しが反射して眩しいそれを裏返して見てみると、表面にはDVD-Rと書いてある。CDではなくDVDだったらしい。
 僕は思い付いた。あのディスクトレイの開きそうな四角い機械は、DVDプレーヤーではないのか。そしてこれを再生しろと言うことではないのか。僕は少し興奮しながら(この思い付きはおそらくアタリだと思った)、四角い機械に近寄った。機械からは赤、白、黄のコードが出ている。それは当然テレビにつなぐものだ。案の定、テレビにはちゃんとそれを差し込む端子があった。コードをつないでプレーヤーの電源ボタンを押す。……あれ、どうしたのか。電池が抜かれている? いやしかしこの部屋に電池など転がっていなかった。テレビもDVDプレーヤーと同じく、電池がないため電源が入らない。

 どうなっているのか。電池はどこかに隠してあるのだろうか。それともDVDはただのフェイクか? でも脱出ゲームには不要なアイテムなどわざわざ用意されないのが普通だと思うが。僕は部屋の中を見回す。そして目を付けたのが、黒光りする板だ。これは何なのか。よく見てみると、2枚の板からはそれぞれ2本のコードが出ている。1本は赤、もう1本は黒の導線だ。これには見覚えがあった。僕は一瞬でピンときた。この板は太陽電池だ。日光を当ててそれを電気エネルギーに変えることのできる物だ。僕は2枚の板を、燦々と降り注ぐ陽射しにかざした。するとピチュキーンと効果音がして、太陽電池にエネルギーが十分溜まったというメッセージが画面に現れた。いや、実際はそんなに早く溜まるはずはないのだけれど、そんなところに現実味を出さなくて良いのだ。だってゲームなんだから。
 これで無事に電池は用意できた。僕は太陽電池のコードをテレビとDVDプレーヤーにつないだ。すると思った通り、両方とも電源が入ったぞ。実際、こんなソーラーパネルで供給できるエネルギーなどどれほどのものか分からないが、なんと言ってもこれはゲームなのだ。だからつまり、そういうことだ。僕はプレーヤーの再生ボタンを押す。テレビ画面に映像が流れ始める。脱出のヒントとなる情報が得られるはずだ、と僕は身を乗り出す。しかし、映像は不鮮明で、かなり乱れている。何かが写っているようだが何なのか全く分からない。音声は入っていないようだし……。何でこんなに映像が不鮮明なのかとイライラしていると、最初このDVD-Rは記録面が上になっていてそこに直射日光が当たっていたため、変質してしまったらしい、というような意味の解説が画面に現れた。……ふざけたゲームだ。僕はもう一度再生した。何か、ヒントが隠されているはずだ。そしてようやく見つけた。はっきりとは見えないけれど、「煙を起こす」という文字が出たようだった。

 次は何かを使って煙を起こせ、ということらしい。煙、か。これについてはあっさりと答えが出た。部屋には虫めがねがあった。そしてコピー用紙が何枚かあった。部屋には陽射しが入っている。確か部屋の窓の向こうには人通りがあったから、おそらく煙を窓の外に流して、誰かに救助を求めろ、というのだろう。そんな人任せな脱出があるか、とも思う。普通脱出ゲームとは完全に自力で脱出するのだが。まあつべこべ言っても仕方ないだろう。僕はコピー用紙をつかみ取った。全ては使わず、1枚は残しておく。あまりたくさんあっても仕方ないのだろう。と言うか1枚残るようにしか手に取れないようになっている。ゲームだからそういう強制がされることもあるのだ。ともかく僕はコピー用紙を置き、そこに虫めがねを通した陽の光を当てた。屈折した光が集まって紙を燃やすのだ。すぐに紙は黒く焦げ始めて、煙が立ち昇った。のだが、煙は少し出ただけで消えた。しかも窓から入る風のせいで外に煙は流れていかず、全く効果が無いようだ。所詮、虫めがねで起こせる煙などこの程度、ってなぜここだけは無駄にリアルなんだ。確かに実際そうかもしれないが、ゲームなんだからもっと派手に煙を上げても良いだろうに。結局、床に黒い灰が少し積もっただけで終わった。
 煙を起こすのは諦めて、別の手段を探そう。……そう言えば、窓の外には人がいるのだから、助けてくれと叫べば良いのではないのか。いや待て、主人公は死んでいて、今僕が動かしているのは主人公の幽霊だ。幽霊ということはつまり、普通の人には姿が見えないし声も聞こえないのか。ん? 確かにこいつ、陽射しに当たっても床に影ができてないな。やっぱり幽霊だ。と言うかまず「叫ぶ」などというアクションは起こせるようになっていない。くどいようだけれど、ゲームだから、実際とは違う。

 次に注目したのが、何かの植物が植わったプランターだ。植物には陽が当たっている。何か栽培しているのだろうか。となると、作物を育てろということか。僕は水道の蛇口をひねってみた。果たして水が流れ出してきた。そこで、部屋にあったバケツに水を入れて、プランターの植物にかけてみた。すると、おお、やっぱり。ピチュキーンと効果音がして作物が成長した。背の高い植物だ。主人公(の幽霊)と同じくらいの高さはある。実際にはもちろんこんなに早く成長しないわけだが……良かった、良かった。ちゃんと育ったようだ、ってそれだけか? それだけでは何の役にも立っていないのだが。
 うーん、分からない。これはひとまず放っておくか。他に何かないか……。そうだ、さっき使わなかった紙が1枚残っていたけれど、あれは何なのか。もしや、後で何かに使わせるために残した(残させた)のではないのか。僕は、さっきは手に取れなかった、残った1枚のコピー用紙を見た。紙にはこれまた陽射しが当たっていて、色褪せてしまっているところがある。いや、ほとんど色褪せている部分しかない。おや? よく見ると、紙には何か字が書いてあるようだ。今度こそ重大な手がかりか、と思ったが、色付きのボールペンか何かで書かれたようであるその文字も、どうやら陽の光のせいで色褪せてしまったらしい。「を移動させろ」という文字がかろうじて読み取れるけれど、肝心の移動させる物が分からない。またか、相当意地悪なゲームだな、と一度は思ったが、僕はあることに気が付いた。

 僕はさっき紙を燃やしたところへ、その残った1枚の紙を持っていった。そして床に残っていた黒い灰を指でつまみ取って、コピー用紙の文字が書かれたであろう部分にぬぐいつけた。すると思った通り、紙の上に黒く塗られた灰の中に、筆圧で溝になった部分が白く文字となって浮かび上がった。よく、鉛筆で塗りつぶして字を浮かび上がらせる手法があるけれど、そのアレンジだ。このためにさっき紙を燃やさせたのか、意外とやるな。まあ実際はこううまくいかないかもしれないが、これはゲームだ。なになに、「トウモロコシを移動させろ」か。トウモロコシ? もしかしてあのプランターの植物のことだろうか。そう言われてみればトウモロコシはあんな感じだったかもしれない。
 僕は紙に書かれたメッセージの通りにトウモロコシのプランターを移動させた。どこに移動させるのか分からないが、それまで陽射しが当たっていたトウモロコシに陽が当たらないところまで、とりあえず引きずって行った。そうしたらまたピチュキーンと効果音が鳴って、トウモロコシに花ができ(てっぺんの穂みたいなのと、茎の途中にある赤い花)、ひげができ、その後、ついに実がなった。もちろん実際はこんなに早く実ができるわけはない。しかしどうして移動させるだけで実ができたのか(これは後で調べて分かったのだけれど、トウモロコシは短日植物というやつで、簡単に言えばある程度日が当たる時間が短くならないと花を作らない植物なのだそう。この部屋の中で陽が当たらないところは結構暗い。日照時間が短くなったのでトウモロコシが花を作った、ということだろう。ひどく無理矢理な理屈だが)。
 さて、トウモロコシの実を収穫したのは良いが、これをどうするのか。やっぱり食べるのだろうか。食べてもここから脱出できるとは思えないけれど。そもそもトウモロコシの実を持っても、ゲーム画面に「食べる」という選択肢が現れないから食べられない。そのまま部屋をうろついてみると、ある場所で「ばら撒く」という選択肢が現れた。トウモロコシの実をばら撒いてどうなるというのか。食べ物を粗末にするものじゃない、とは思わないけれど、さて何が起きるのか。
 パタパタと音を立てて、何かがやってきた。小さな影が飛んできて、僕がばら撒いたトウモロコシの実をついばむ。それは1羽のスズメだった。窓の外から入ってきたらしい。スズメに近寄ると、ぴょんぴょん跳ねて部屋の中を逃げ回る。……どうしろというのか。僕は改めて部屋の中を見回した。今までいろんなアイテムを使ってきたが、まだ使っていない道具は……虫取り網とたこ糸だ。ああ、なるほど。これで脱出できるかもしれないぞ。

 僕は虫取り網を手に取った。それを持ってスズメに近付き網を振ると、スズメを網の中に捕まえることに成功した。そして次はたこ糸だ。このたこ糸は500Mと書いてあるから長さは十分だろう。糸をスズメの足に掛けて、ほどけないように結びつける。スズメにそんなかわいそうなことをするな、と言われるかもしれないがこれはゲームだ。何でもありだ。虫取り網を外すと、スズメは窓に向かって飛んで行った。そして鉄格子の隙間から外へと飛び立った。たこ糸がするすると外へ引っ張られ、伸びていく。外からチュンチュンとスズメの鳴き声が聞こえている。これでこの糸を見た外の人が救助に来てくれるに違いない。
 思った通り、ゲーム画面にはムービーが始まり、窓の外側の通りの映像を映し出した。スズメの足に付いた糸に、人々が気付き始めた。そして彼らは糸をたどってこの部屋の窓の下までやってきた。ここで起こっている異変を感じたのか、人々は部屋の中に向かって声をかけ出したようだ。窓が高いから中の様子は全く見えていないのだ。おおい、ここだ。早く助けに来てくれー。誰かが高い脚立を持って来てそれにのぼり、窓から部屋の中を見下ろした。その表情がこわばる。それはそうだ。部屋の中には主人公の死体が転がっている。幽霊の方は普通の人には見えないのだろうし、見えたら見えたで多分恐ろしいだろう。

「大変だ、中で誰か死んでる!」
という声が聞こえる。そしてしばらくして、部屋の北側の扉の向こう側に、どたばたと足音が聞こえてきた。救助が駆けつけたらしい。それから扉の鍵がガチャガチャ音を立て始めた。誰かが鍵を外そうとしているのだろう。やれやれ、ようやく脱出完了か。それなりに時間がかかってしまったな。だいたい実際はこんなにうまくいくものか。所詮ゲームなどご都合主義か。そんなことを考えていたらついに扉が開かれた。人々は唖然として扉の前に突っ立っている。一応密室で人が死んでいるんだから無理もないだろう。でもゲームの中なんだからそんなところまでリアルに表現する必要あるのだろうか? やっぱりこのゲームはダメだな。製作者に文句を言いたい。
 ……と言うかまだ終わらないのか? もうゲームクリアだろう。スタッフロールみたいなの無いのか。まあ良いや、クリアしたんだから本体の電源切ってやめるとするか。あれ? おかしい。本体などどこにもないぞ。ここはどこだ? まだ僕はあの部屋の中にいるじゃないか。いやいや、あり得ない。あの部屋はゲームの中に登場する架空の部屋であって、実際にあるもんじゃない。おいおいどういうことだ。なんか死体の顔をよく見ると、見覚えがある気もするし……と言うか、まんま僕の顔だ。ってことはまさか僕は死んだのか。それで幽霊になってしまったのか! そっか、「このゲームはフィクションです、実際の人物とは全く関係ありません」みたいな決まりきった注意書きがどこにも出てこなかったし、これはゲームじゃなかったんだな。現実のことだったんだ。いつからだろう。確かに最初はゲームをしていた気がするけれど……いや最初から現実だったのか?
 僕は怖くなって部屋から逃げるようにして出た。扉の前に立ち尽くす人々にぶつかったが、幽霊なので通り抜けてしまった。ああ、やっぱり幽霊だ、死んでるんだ。とにかく外の世界へ出よう、あの陽射しのもとへ出よう。部屋の中でも陽射しはあったけど、とにかく出よう。そして落ち着こう。なに、たかが命1つを落としたというだけのことだ。それに幽霊の方が自由かもしれないし。そう、そうに違いない。ああ、分かったぞ、奴め、奴と言うのは要するに生前の僕のことだが、きっと彼は自殺したんだな。包丁が落ちてくると知りながら真下に突っ立っていたに違いない。ではどうして自殺なんてしたのか。多分、彼は嫌気がさしたんだろう、彼を取り巻く環境に。そしてそこからの脱出を試みたのだ。さっきのゲームがそれだった。つまり僕は成功したんだ。これで僕は、自由だ。そういうことにしておこう。

 ☆☆☆☆★

酷く分かりにくくなってしまった気がします。そのうえ、かなり無理やりな話となりました。一応締め切りに間に合うようにと思って、アップしてしまいました。

先週の『受験』については、間に合わなくて投稿できませんでした、すみません。

既に1週間というリミットがかなりきつく感じていますが、できる限り頑張ります……。
最終更新:2014年02月17日 14:53