2012年03月13日 (火) 10時46分-すばる
問い:“I love you.”を訳しなさい。
綺麗な日の出だね。と言ったら、夕日でしょ? と返された。確かに、そう言われるとそうかもしれない。ただ何となく、朝のように思えたから日の出と言っただけで、明確な理由はない。僕には彼女と違って芸術的センスはないから、やっぱり、夕日なんだろう。よくよく見てみれば、確かに周りの雰囲気は朝というよりも暮れのものである。輪郭だけが残る富士山と、湖に浮かんだ逆さ富士。それを何かの鳥が一羽、横切っている。
次の写真、ああ、これなら僕にもわかる。こっちが日の出だ。夜露に濡れたアサガオの、鮮やかな青が日の光を浴びきらきらと輝いている。土色の大地に浮かぶその色が、とても印象的だ。
次の写真は、赤く染まった森。たぶん、ロープウェイから撮ったものだろう。絨毯のように広がった、赤や黄色のグラデーションが、見事な一体感をなしている。そこに僅かながら、紫色なんかに染まった奴もあるけれど、それはそれで面白い。
次の写真では、一羽のカワセミが水から飛び上がる瞬間がうつされていた。嘴には魚をくわえている。まさに決定的瞬間というやつだ。水しぶきの一つ一つまでもがはっきりとわかるほどのアップ。大迫力の一枚。
平日の午後。会場に、人の姿はまばらだ。市内の美術館で開かれた、写真の展示会には、彼女の方から誘ってきた。僕は写真になんて興味なかったけど、誘われたので、一緒に行くことにした。正直つまらない。だけど彼女にそれがばれたら悪いので、必死に面白そうなそぶりをしてみせる。
次の写真は、たぶん夕日と、伸びる二つの影。とても仲がよさそうで、でもどこか侘しげに見えるその影は、友達だろうか? 親子だろうか? それとも、恋人だろうか?
突然、彼女が、ねえ、私のこと、愛してる? と聞いてきた。僕は、うん。と答えるが、彼女は、もっとちゃんと言って。と言ってきた。
その言葉が、僕はあまり好きじゃない。なんか小っ恥ずかしいとか、そういうことじゃなくて、愛を確かめ合うというのは、まるでそうしなければ、愛に確信が持てないようじゃないか。……本当のことを言えば、僕もまた、彼女との関係に確信が持てない。愛してる、と言いたくないのは、そのことを認めたくないからなのかもしれない。言わなくてもわかるでしょって、そう言ってやりたい。だけどそんな言葉、言えるはずないじゃないか。だって僕にも、彼女がどう思っているのかわからない。同じ写真を見ても、同じ感想を抱いたりしないし、彼女がどう思ったかなんて聞いてみなけりゃわからない。わかりあいたいと願っても、だれも望みを叶えてはくれない。ねえ、君は今、何を思っているの?
答え: 君は今、何を思っているの?
最終更新:2014年02月17日 15:02