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I love you. を訳しなさい(渋江照彦)

2012年03月14日 (水) 20時39分-渋江照彦

 問い:“I love you.”を訳しなさい。

 月夜に照らされて、私は独り佇んでいる。
 目の前には、彼氏が横たわっている。
 その首には薄くはあったが辛うじて見える位の跡があった。
 正直、この身体で相手を絞め殺す事が出来るとは思っていなかった。
 全くの予想外だったのだ。
 大体、彼が五年の時を経てこの場所にやって来るとも思っていなければ、彼が私に襲われても殆ど抵抗しなかった事も想像してはいなかった。
 どうして彼は抵抗しなかったのだろう。
 自分の保身の為ならば愛する人間でも平気で切り捨てられる様な人間が、どうしてこんなにも簡単に私の手の中で逝ってしまったのか。
 だが、それは多分想像するだけ無駄な事なのかも知れない。
 今は唯、私の目の前に彼の死体があるという事実が現前としてあるのみだ。
「さて、どうしましょう……」
 私は思わず呟いていた。途端に誰かに声を聞かれはしなかったかと慌てて辺りを見回した。
 だが、幸いにも近くには誰も居ない様だった。其処で一旦胸を撫で下ろす。
 だが安心は出来ない。
 今が何時なのかそれすらも判らないのだ。
 彼は時計を付けていなかった。
 だが、月の傾きからもう夜もそんなに長くは無いという事だけは確かな様だった。
 日が昇れば、人も現れよう。
 寂しそうな道であってもこれで中々昼間は人通りが多いのだ。
 私は其処で無意識の内に自分の首筋に手をやっていた。
 五年前、彼が私にした仕打ち。
 今でもその跡はくっきりと残っている。
 そう、私は此処で彼に呼び出されてそのまま首を絞められて殺されたのだ。彼には他に本命の彼女がいた。その彼女と添い遂げたいが為に彼は私を邪魔者扱いして殺したのだ。遺体はこの地に埋められ、今も見つかってはいない。
 その時の情景はありありと思い浮かべられる。多分、あの時私は泣いていたのだと思う。
 信じていた人から受けた思いもしなかった裏切り。その絶望は筆舌に尽くせる物では無い。首を絞められながら、意識が段々と朦朧として行きながら、私は彼に対してあらん限りの呪詛を投げかけていた。
 絶対に許さない。
 殺してやる。
 八つ裂きにしてやる。
 そんな言葉を吐いていた。
 そして今日、その言葉は成就したのだ。
 因果応報というやつだ。普通ならそう考える。
 だが、私は少しばかり違う様だ。
 確かに復讐は果たした。私がこの自分が殺された土地に縛り付けられる理由は表面上は解消された訳だ。
 だが、それだけでは足りないのだ。
 これで満足しては絶対にいけないと、私の心の何処かが叫んでいる。
「私はやっぱり、あなたが好きなの」
 私は心の叫びをポツリととても静かに呟いてやった。途端に私の横を夜風が吹き抜ける。
 私は気持ちを落ち着けようと胸に手をやった。トクトクと、静かにでも狂おしい程に熱いエネルギーが自分の胸に宿っているのを感じる事が出来る。
 まるで生きていた時と同じ。
 私は暫くの間そうやって自分の胸の鼓動を感じていたが、やがて決心を付けるとサッと目の前に横たわっている彼の身体に自分の身体を重ね合わせた。
 途端に私の身体は彼の身体の中に入って行く。段々とゆっくりではあるが確実に私の身体は彼の身体と混ざり合い調和して行く。
 そうして、狂おしい程に長いようで短い様な時間が流れた後。
 彼の口から、私の声が漏れ出て来た。

 訳:あなたは私のもの
最終更新:2014年02月17日 15:04