2012年03月18日 (日) 02時20分-御伽アリス
むかしむかし浦島は
助けた亀に連れられて
龍宮城へ来て見れば
絵にもかけない美しさ
乙姫様のごちそうに
鯛やひらめの舞踊り
ただ珍しく面白く
月日のたつのも夢のうち
遊びにあきて気がついて
おいとまごいも そこそこに
帰る途中の楽しみは
みやげにもらった玉手箱
帰って見れば こはいかに
元居た家も村も無く
みちに行きあう人々は
顔も知らない者ばかり
心細さに蓋取れば
あけて悔しき玉手箱
中からぱっと白けむり
たちまち太郎はおじいさん
(『尋常小学唱歌』、「浦島太郎」より)
* * *
日の光も月の光も差し込まない、ビルの隙間の暗い路地に、一軒の店がある。看板もネオンもない目立たない店だ。中の明かりも弱々しく、営業しているのか分からないほどだ。それどころか存在を知らない人から見ればその建物が何かの店だということも分からないだろう。私はその店のドアを開け、中へと足を踏み入れた。
カランカラン、とドアベルが鳴った。カウンターにいる店主らしき人物が私の方に視線を向け、微笑んだ。
「いらっしゃいませ、お客様、どうぞお好きな席にお座りくださいませ」
私は店主のいるカウンターの前の席に座った。店の中を見回してみるが、私の他に客は入っておらず、薄暗い照明の付いただけの、あまり飾り気のない店内はだいぶ寂しいものだ。
「お飲み物はいかが致しましょう」
店主がそう尋ねたので、私はカクテルを注文した。店の中には静かなジャズ音楽が流れ、程よい芳香が漂っているのだが、どこか私を落ち着かせない空気がある。
店主はすぐにカクテルを作り上げた。私の前にカクテルグラスを差し出し、そこに注ぐ。そして私の方を見て言った。
「さて、本日はどのようなご用件で。しょうか?」
私は、この店では人間の「時」を売買していると聞いたのだが、と言った。
「左様でございます、当店ではお客様がお持ちの時の買い取り、および弊店の持つ時の販売を致しております、またお買い上。げ頂いた時の配達サービスも行っておりますよ」
私は癖のある店主の話し方に首を傾げつつ、時の売買とはどういうものなのかよく分からないから、詳しく教えてくれと頼んだ。
「かしこまりました、少し長くなろうかと思いますが、お時間を頂いてもよろしいでしょ。うか?」
私は店主に頷いた。
店主は穏やかな口調で話を始めた。
「時の売買と申しましても、扱っているのはお客様方の記憶なのです、もう少し厳密に申しますと、記憶の枠ということになりま。す」
意味が分からないのだが、と私は言った。
「失礼しました、続きをお聞きください、例えばお客様は楽しい時はすぐに過ぎ去るのに、退屈な時はなかなか過ぎてくれない、など。とお感じになったことはございませんか」
そう言われれば時々そう思うな、と私は言った。
「これを知っている方は少ないと思いますが、私たち人間が体感する時間の感覚とはその時間に。生じる記憶の数によって長短が決まるのです、記憶が多いとその時間は長く感じられます、退屈な時は何かに集中できず、様々なこと。に気が向くために、記憶が多いのです、故に長く感じられます、逆に楽しい時は何かに集中しているため記憶の数は少ないのです、だ。から短く感じられます、ただし集中している時は記憶の量自体は大きいのですがね」
何だか分からなくなってきたぞ、と私は思った。とりあえずもう少し話を聞けば分かるだろうかと思い、さっき言った「記憶の枠」とは何なのか、と店主に尋ねた。
「人間は記憶を入れる枠を持っています、つまり先ほ。どのお話に戻りますと、記憶の入った枠が多いほどその時間は長く感じられる、ということなのです」
さっき、記憶の数とか量とか言っていたのはどう違うのだ、と私は訊いた。
「一つの枠にはある一種類の記憶し。か入れることはできません、別種類の記憶を入れるにはもう一つ別の枠が必要です」
例えば、ある枠にその日の昼食のメニューの記憶を入れたら、その日の会議の内容の記憶はまた別の枠に入る、ということか、と私が言うと、店主はにこやかに頷いた。
「つまり記憶の数と申しましたのは記憶の入る枠の数。のことです、対して記憶の量とは枠に入っている一種類の記憶の、内容量のことです、枠に入る記憶の量が大きいほどその時間は充実。する、ということになりますね」
うむ、なんだか分かるような、分からないような……。私はもう一つ質問をした。さっき、体感する時間の感覚と言っていたが、つまり時間の売買と言っても実際に時間が長くなったり短くなったりするわけではないのか、と。店主は笑って言った。
「左様でございます、時計の針の進み方は全く変わりません、もしそれが起きますと一日が十二時間の人。間と二十四時間の人間が存在するような状況になり得ます、それでは世界が狂ってしまいます、当店が提供致しますのは残念ながらタ。イムマシンの類ではございません」
店主は大して残念でもなさそうにそう言った。次に私は、実際に時が延びるわけでもないのに、時間の感覚の変化だけで本当に役に立つのか、と尋ねた。その質問に店主は少し嬉しそうに答えた。
「時間の量ではなく、質が大事なのです、例えばある仕事をこなすのに要領悪く一時間費やすのと、集。中して二十分で片付けることでは、後者の方が四十分も得であり、これは時間の質の向上により四十分の時が延長されたことと同意で。す、当店にお任せあればそのように時間の質を改善して差し上げます」
なるほど、店主の言っていることは分かる。店主はさらに続けた。
「ある時間当たりの枠の数や、枠に入る記憶の容量は人それぞれで。す、集中力のある人間とそうでない人間の差ですね、そこで当店は退屈な時間を持て余すような方から記憶の枠を買い取って苦痛を和。らげて差し上げて、逆に仕事に追われる多忙な方には枠の容量を増量することで時の質を高めて差し上げるのです」
私はなんとか納得した。必要としない人から枠を買い取って、必要とする人に売る。この商売はなかなか人の役に立つものなのかもしれない。
私はカクテルのおかわりを頼んだ。店主が私のグラスに新たなカクテルを注ぎ、私はそれを一口飲んで店主の方を見た。もう一つだけ気になることがある。記憶の枠とはどのくらいの値段で取引されるのか、その相場についてである。私がそれを尋ねると店主はまたにこやかに答えた。
「枠の容量にもよりま。すが、最近いらしたお客様から一か月分の枠をこの程度の額で買い取らせて頂きました、その方の枠は大体平均的な容量でしたのでど。うぞご参考に」
店主の差し出した小さな紙に書かれた数字を見て、私は鳥肌が立った。一か月分とはいえ、これほどまで高額で取引されるとは。店主は苦笑いして言った。
「お金が必要だとかで、最初はその方、一年分売りたいとおっしゃったのですが、あまり長い期間の記憶をまとめてお売り。になるのは良くないので、ひとまず一か月分買い取るからご入り用ならば一か月後にまたお越しになるよう申し上げたのです」
それを聞いて、私はなんだか嫌な予感がした。そんな金の作り方をする奴がどうなるのか、何となく悪い方へ想像してしまう。私はその客が一か月たって、どうなったのかと店主に訊いた。店主は一瞬驚いたような表情を見せてから、ふふ、と声を漏らして悪戯っぽく微笑んだ。
「鋭いご質。問です、他のお客様のことはあまりお教えできないのですが、特別にお話ししましょう、実はその方は記憶の枠をお売りになってちょ。うど一か月で亡くなられました」
何となくそうではないかという気がしていたが、本当に死んでしまったとは。しかし、ちょうど一か月後とは……? 私は微笑む店主の顔を見ながら思った。まさか、店主はその客が一か月後に死ぬことを知っていながら一か月の記憶を買い取ったのではないか。最初に一年分売りたいと客が言ったのを拒んだのはそういう理由ではないのか。一か月後に死亡する人間からは、一か月分の記憶しか買い取れない、ということだ。そうして記憶のないままに死んだ客は、死に際に何を思ったのか。もしくは何も思わなかったのだろうか。そんなことを考えると私は無性に恐ろしくなってきた。
今日はあまり客が入らないし、もう少し話に付き合わないか、と店主は私に言った。私は腕時計を見た。しかし故障でもしたのか、時計は止まってしまっていた。その針が示すのは、ちょうど私がこの店に入ったくらいの時刻だ。私は不思議に思ったが、もう少し店主の話を聞くことにした。店主は私に感謝を告げ、これはお礼だから代金はいらないと言って、私のグラスにカクテルを足した。
「お客様は、浦島太郎の御伽話をご存知ですか?」
そう店主が尋ねるので、私は頷いた。そう言えば、浦島太郎は亀の形をした宇宙船に乗って光速で移動し、どこか遠くの星にある竜宮城に行ってきたから、故郷の地とは時のずれが生じてしまったのだ、とかいうSFがあった気がする。
「あのお話が語るのはどのようなことだと思いますか」
私は浦島太郎の話を思い出してみた。亀を助けた浦島太郎は竜宮城で時を忘れて遊び暮らし、故郷へ帰ってみれば自分の知る者は誰もいなくなってしまっていた、そして玉手箱を開けた浦島太郎はたちまち老人になってしまう、という話だったはずだ。少し人助けをしたくらいで、浮かれて遊んでいると酷い目に遭うという教訓だろうか、と私は言った。すると店主は少し笑って頷いた。
「確か。にそのような見方もできるようです、しかしある話では浦島太郎は玉手箱を開けて煙を浴び、鶴に変身し飛んで行ったというハッピー。エンドも語られております、話の最後の場面については諸説あり、どれが本物ということもないようですが」
店主は少し言葉を途切れさせて、自分のグラスを出してそこにカクテルを注いだ。それを飲み干してからまた店主は話し始めた。
「神話などにはよく、男子が。竜や蛇などを殺して囚われの姫を救い、結婚するという筋書きがあります、ギリシア神話でアンドロメダを助けるペルセウスや、日本。ではヤマタノオロチを退治してクシナダヒメと結婚するスサノオノミコトなどです」
確か、クシナダヒメは八人姉妹の末っ子で、七人の姉たちは一年に一人ずつオロチに喰われてしまって、次はクシナダヒメが喰われる番だという時にスサノオノミコトがやってきてオロチを退治したのだった。一説によるとオロチは洪水の化身であり水を支配する竜神で、クシナダヒメたち八人の姉妹は稲田を象徴しているらしい。オロチが毎年娘を喰らうのは川の氾濫を表し、それでも生贄として娘を捧げて洪水を鎮めようとしていたが成功せずにいた。スサノオがオロチを倒したことは治水が成功して生贄の悪習が撤廃されたことを示すのだという。しかしその話が浦島太郎とどう関係するのか、と私は疑問に思った。店主は続けた。
「このような神話における竜や蛇とはどうやら母親を。象徴するようなのです、そしてその竜を殺して娘と結婚することは、男子が母親の保護を逃れて嫁を見つけ、独立することを表すので。す」
なるほど、そう考えると興味深いところがある、と私は思った。それにしても、神話の中にそんな人間味のあるテーマが隠されていたとは想像もしなかった。店主はさらに続けた。
「話を戻しますが、そういう見方をすれば浦島太郎は逆に竜の住処たる竜宮で竜の姫である乙姫と暮らすのですから、これは日本の男。子が母親離れせずに大人になっていくという意味に取れるのです」
私は何度か頷いた。浦島太郎の御伽話に隠された真相を見つけたような気分だった。
店主はまた自分のグラスにカクテルを注ぎ、それを一口飲んだ。私も同じように自分のグラスに口をつけた。店主は再びゆっくり話を始めた。
「ところで、乙姫はなぜ浦島太郎に玉手箱を渡したと思われますか? し。かも絶対に開けてはならぬと言ったのです、この謎をどう思われますか?」
私は少し考えてから、分からないな、と答えた。店主は頷いてから話し始めた。
「これはあくまで私個人の考え方ですが、浦島太郎には故郷に。残してきた恋人がいた、と仮定します、そして浦島太郎はその故郷の恋人のことが心配で竜宮城を辞去したとします」
私は少し身を乗り出して店主の話を聞いた。
「さて、ここで先ほ。どのお話を思い起こして頂きたいのですが、乙姫とは竜、すなわち神話的見方での母親を表します、これは浦島太郎の母という意味で。す」
私は頷いて店主に話の続きを促した。
「乙姫は可愛い息子の浦島太郎が自分ではなくどこかの娘を大事に思うことを嫌ったのです、そこで用意したのがあの玉手箱でした」
私は首を傾げた。その因果関係は理解できなかった。店主は微笑んで続けた。
「も。ちろん浦島太郎が帰る頃には故郷では年月が経過し、恋人はもうこの世の人ではありません、それに気付いた浦島が諦めて竜宮城へ戻。ってくれば良いのです、それが乙姫の一番の望みですが、それでも浦島が故郷に残ることを選び、土産の玉手箱に頼った時は、自分を。裏切ることへの復讐として浦島を年老いさせて殺そうという考えが乙姫にはあったのです、玉手箱を開けるということは、浦島が故郷。で起こっている事態を何とか解決したい、すなわち恋人に再び会いたいと願うことを意味しますので」
なるほど、竜宮城に戻ろうという気があるのなら乙姫の言いつけ通り玉手箱など開けずに、また亀に乗せてもらえば良いような気もする。
「つまり玉手箱とはもしもの時のた。めの乙姫の自動報復マシンといったところでした、玉や手はどちらも手段を表す文字ですから、その点でも玉手箱が乙姫にとって復讐。の手段だったことを示しています、さりとてやはり乙姫の願いは浦島が竜宮に戻ってきてくれることですので、絶対に開けるなと忠告。をしたのです、玉手箱とは、誰待てば来、つまり竜宮城で待つ自分のところへ浦島が再び帰って来ることを望む乙姫の祈りでもあった。のです」
私は店主の話に感心した。確かに辻褄が合っているように思った。『誰待てば来』などと、気の利いた駄洒落ではないか。店主は話を続けた。
「このような話は、現代の家族関係にも通じると私は思うのです、乙姫はニートの息子を過保護に世話する母親なのです、可愛い。息子が社会に出るのを嫌い、ずっと自分のもとにいさせて頼られたいという母親の願望が表れていると解釈できるのです」
私は思わず身震いした。
もう少し話しても良いか、と店主が訊くので私は聞かせてほしいと言った。店主は軽く感謝の言葉を口にしてからまたカクテルを一口飲み、話を再開した。
「今までのお話。をさらに深めますと、私としては大変興味深いのですが」
そう言って店主は少し不気味な笑みを浮かべた。
「乙姫が浦島を竜宮城へ招いたのは、浦島が偶然亀を助けたからではなく、全て。計画されたことだったのです、亀もそれをいじめる子供らも浦島を竜宮へ連れて行くための演技をしていたに過ぎません」
私は大いに驚いた。それが御伽話であり、しかも今話されているのは店主の作り上げたストーリーなのだと分かっていながら、だ。
「ただしこの計。画とは、乙姫のものではなく、浦島の父のものです」
浦島太郎の父? と私は店主に確認をした。店主は笑って頷いた。
「物語の中では亀として登場するのが浦島の父を示し、亀をいじめた子供らは浦島の。弟たちを示します、浦島は長男なのです、さて、弟たちも父の計画に協力し浦島を母である乙姫に会わせますが、乙姫はこの計画を知。りません」
浦島が計画を知らないのは当たり前だが、浦島に会いたがっている乙姫が計画を知らされていないとはどういうことか、サプライズのようなものか、と私は尋ねた。店主はそれについて説明をした。
「実は母にあたる乙姫の勝手気ままな振る舞いに愛想を尽かした父と弟たちは、長男の浦島に面倒な乙姫の相手をさせて自分た。ちは逃げることにしたのです、全ては父にあたる亀の策略でしたから、亀の方が乙姫よりも一枚上手だったことになるのでしょう、ま。あ最終的に浦島は故郷へと帰ってしまうため、計画は失敗したわけですが」
店主は微笑みながらカクテルを飲んだ。まったく、あの浦島太郎の御伽話がとんでもない物語へ発展したものだな、と私は苦笑いでつぶやいた。店主は、ふふ、と笑っておっしゃる通り、と言い、それからこう続けた。
「ところで乙姫はなぜ乙姫という名前なのか、お考えになった。ことがおありですか?」
言われてみれば考えたことはなかったな、と私は言った。
「これまでのお話から、私はこう思うのです、乙とは劣る、という意味です、つまり浦島にとって乙姫が故郷の恋。人よりも劣り、それと同時に、母である乙姫が密かに計画を実行していた父の亀よりも劣るということを意味するのです、さて、失礼。と知りながら敢えてお聞きしますが、お客様は亀の背中に何があるかお分かりですか?」
店主は私の方を見てまた悪戯っぽく笑った。私は質問の意図が分からなかったが、甲羅に決まっているだろう、と答えた。
「左様でございます、亀には甲があります、甲と。は、乙よりも優れているものです」
私は思わずあっと声を上げそうになった。亀の『甲』と、乙姫の『乙』か。甲乙と言うように確かに『甲』は『乙』を上回る存在のことで、『乙』は『甲』に劣ることになる。すなわちそれは乙姫が亀よりも劣るということを示すのではないか?
「こうして自分の家族という、身近な者の計略で結果的に浦島太郎は彼の時を奪われることになったの。です」
何だかドロドロのホームドラマのような話だな、と私は恐ろしく思った。
「当店では記憶の枠の配達サービスも行っております」
店主にいきなりそう言われ、私は今まで浦島太郎の話に没頭していたがここは時の売買、正確には記憶の枠を売買している店なのだということを思い出した。
「申し忘れておりましたが、配達とはお客様が悪意を持って他人のもとへ無理矢。理に記憶の枠を押し付けることも出来るということでございます、当店は責任を負いかねますが、思わぬ被害を受けられる方もいらっ。しゃるかもしれません、玉手箱から出たように時とは煙のごとく儚いものかもしれませんが、しかし火のない所に煙は立たぬとも申し。ます、ご自身の非を作らぬようお気を付けください」
誰かの恨みを買うようなことをしていると、万が一この店にそいつがやってきた場合、自分の時を悪戯されるかもしれない、ということだろう。私は頷いた。
店主はグラスに残ったカクテルをくっと飲み干し、私の顔を見てから言った。
「さて、これで当店の商いについては全てお話し致しましたが、いかがでしょう、お。客様のお役に立てることはございますか?」
私は少しの間考えてから、遠慮しておくよと言い、取引を断った。すると、左様でございますか、と店主はあまり残念そうでもない口調でつぶやいた。私はそろそろ店を出ることにしたが、最後に店主に尋ねてみた。失礼だがあなたの話し方は少し奇妙だ、どうかしたのか、というような内容のことだ。すると店主は笑って答えた。
「失礼致しました、何せこんな職業ですので、常に時間には正確でないと気が済まないのです。」
私は店を出る。ドアベルがカランカランと音を立てた。またのお越しを、と言って微笑む店主の顔が見える。カクテルの酔いのせいだけではなく紅をさした頬と、ルージュが上品に光る唇。そんな彼女の顔を見た時、なんだか私は頭の中の何かを吸い取られるような、そんな感覚に一瞬とらわれた気がしたのだった。そして後に残ったのは、よく覚えていない何かに対する恐怖心だけだった。
* * *
たちまち太郎はおじいさん
中からぱっと白けむり
あけて悔しき玉手箱
心細さに蓋取れば
顔も知らない者ばかり
みちに行きあう人々は
元居た家も村も無く
帰って見れば こはいかに
みやげにもらった玉手箱
帰る途中の楽しみは
おいとまごいも そこそこに
遊びにあきて気がついて
月日のたつのも夢のうち
ただ珍しく面白く
鯛やひらめの舞踊り
乙姫様のごちそうに
絵にもかけない美しさ
龍宮城へ来て見れば
助けた亀に連れられて
むかしむかし浦島は…………
改行が少なくて見辛いのはすみません、もう少し見やすくすれば良かったかもしれません。店主のセリフの中にはおかしなところに句点(。)が入っていますが、これはわざとです、ミスじゃありません。
このたびはウィキペディア先生に誠にお世話になりましてなんとお礼を言ったらいいか。
↓参考:浦島太郎のうた
http://www.youtube.com/watch?v=9daZi5OmHAw
最終更新:2014年02月17日 15:05