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おにごっこ

2012年03月31日 (土) 22時03分-すばる

 電話が鳴った。着信は非通知。
「里恵ちゃん、ごめん。捕まえた。」
 誰かの声、それを聞いた瞬間、ぐらりと体が傾いた。

 彼女の周りに、人が集まっている。それを彼女は、少し離れた場所で見ていた。すぐ横に、昔ながらの黒電話がある。テレビでは見たことがあったけれど、実際に見るのはそれが初めて。それからすぐ横に、タイマーがあって、今ちょうど残り五分を切ったところだ。
まるで夢を見ているみたい。彼女は最初、そう感じた。だけど、夢なのだとしたら、どこから夢だったんだろう? 電話がかかってきた直後? それとも、もっと前? わからない、どこまでが本当で、どこからが夢なんだろう? 
それに、あの電話はなんだったのか。設定は非通知だった。だけど、聞こえてきた声は彼女の知っている人物だった。紀子ちゃん、小学校のころからの友達だ。なんで非通知だったんだろう? それに、ごめん。捕まえたって、いったい何の意味が?
 残り、四分。
 タイマーが鳴った。残り時間を示すなんて、しかも四分なんて半端な時間になるなんて、何のいやがらせだろう。まあ、夢なら仕方ないか。そう思い、彼女はしかしそこで気が付いた。彼女と彼女の距離が、開いている。
悟らなければよかった。そう後悔するも、遅い。気づいてしまうのは、不可抗力だ。
タイマーが表しているのは、彼女の命のリミット。このままだと、あとおよそ四分で死んでしまう。それを回避するためには、電話で誰かに電話して、身代りにするしかない。しかも、いまどき電話番号を暗唱できる相手なんて、そうそういない。必然的に、自分に近しい人を身代わりにすることになる。そうじゃなくても当然いけないことだけれど、とんでもなく嫌なことだ。
 残り、三分。
 また、距離が開く。せめてこれがなければ、自身が犠牲になる、と勇むこともできたかもしれない。だけどそんな心に、それらが否応なしに追い打ちをかける。
耳を塞いだ。
目を閉じだ。
 だけど、死のカウントダウンは耳から入り込んでくる。
 残り、二分。
 聞きたくない。聞きたくない。
いやだ。いやだ。
殺したくない。死にたくない。
 残り、一分。
 だめだ。たとえ生き延びたって、誰かを殺してなんだ。そんなのは、絶対にダメ。
 残り、三十秒。
二十九、二十八、二十七、二十六、二十五、二十四、二十三、二十二、二十一、二十、十九、十八、十七、十六、十五、十四、十三……
 残り十秒を切ったところで、彼女ははじかれたようにダイヤルを回す。
彼女は知っていた。自分が、頭の中で必死に電話番号を覚えている相手を探していたことを。

 電話が鳴った。着信は非通知。
最終更新:2014年02月17日 15:21