アットウィキロゴ

50-Noise-Order

2012年04月05日 (木) 15時15分-御伽アリス


 俺は作家だ。小説とかを書いてる人。ご本を書くお仕事。
 この前、渾身の傑作を生み出した。自分で言うのも図々しいのだが、これがまた傑作の中の傑作だった。それで完成したその作品を、PCにしっかりと保存してその日俺は眠りについたわけだ。
 で、次の日起きたら、なんと、目が覚めていたんだ!
 ……悪い。今のはナシだ。真面目に話をしよう。
 次の日起きて、PCを開いてさ、前の日に保存しておいた傑作のファイルを開いたんだ。そうしたら……文章がいくつもの部分に切り離されて分裂してたんだよ! しかも、それぞれの部分は好き勝手に動き回ってごちゃごちゃに混ざり合っていたんだ。そうなると、どこがどんな順番で並んでいたのやら全く分からない。俺はディスプレイ上を泳ぎ回ってなんとか分裂したそれぞれの「欠片」をつなぎ合わせようとした。
 え、「パソコンのディスプレイの上を泳ぐとはなんだ、いいかげんなことを言うな」だって? 今それ言う? いやだってさ、ディスプレイ上は俺たちの大海原なんだぜ! 君だってディスプレイの上で楽しくサーフィンとかするでしょ? ネットサーフィン。でもあれはインターネットという網が張ってある中だけでやってね。網の外でやると他の海水浴客の邪魔になるからね。いやしかしサーフィンと言っても、波なんか来るのかね? って俺は何を言っているのか。
 話を戻そう。で、次の日起きたらなんと、目が覚めていたんだ! ……おっと、話を戻し過ぎたようだな。話を進めよう。
 分裂して動き回る「傑作の欠片」たちは、一応彼らも自分と隣り合う「欠片」を探して彷徨っているようだった。でも「欠片」はたくさんあってなかなか目当ての相手には巡り会えない。俺も泳ぎ回っていて、「あ、あんたの前の人さっきあっちにいたよ」とか「君の後ろの人、さっきまでそこにいたんだが」ということがよくあった。ちょうどタイミング悪く「欠片」たちはすれ違って、元の文章に戻すのにかなり骨が折れたよ。
 この事件のおかげで、俺は気付いたことがある。気付いたと言うより、思った、かな。作家というのは、こういう仕事なんじゃないか、って。世の中にあふれる無数の文字と、それらの無限の組み合わせによって構成されている、または構成されうる文。それらをある秩序に基づいて、もしくは何らかの効果が最大に発揮される形で並べて、整える。そうやって文章を作るのが作家じゃないかな、とそう思ったわけだ。
 ふん、分かったような口を。しゃらくせぇ。

(おしまい)






























 いや、まだ終わらないよ、おしまいじゃない。おしまわない! まだ続きがあるからもう少し付き合ってくれよ。
 あの「バラバラ事件」(殺人事件じゃないよ)の後、俺はまた別の作品を書き上げた。これもまた前のと同じくらいに傑作になったと自負している。で、問題なのは、またこの前みたいにバラバラになってしまわないか、ということだった。
 そこで俺は考えたんだ。文章の中で、切り離されて分裂されやすそうなところを、あらかじめ切り離しておいて、そのそれぞれの先頭に記号を付けて目印にしておく。前回の事件を受けて、文章の中の分裂しそうなところは大体見当がついた。こうやって保管しておけば、万が一バラバラになっても先頭の記号の順番に並べ直せば良いから、手間が省けるに違いない、ってね。そういうことで出来上がった話が、こんな感じ。


『 <あ>
いきなりだが、

  <い>
あるところに魔王(名を「サンタ」という)がいた。

  <う>
彼は人々を苦しめる悪党だった。

  <え>
刃向かう者は殺されるため、

  <お>
誰も抗えなかった。

  <か>
ある日、

  <き>
一人の男が現れた。

  <く>
彼は剣の達人だった。

  <け>
勇者はその確かな腕前を見込まれて

  <こ>
あの男を倒してくれ、と頼まれた。

  <さ>
邪悪な

  <し>
魔王を倒すため

  <す>
勇者は自らの危険を顧みずに、体を張って魔王の前に立ちはだかることにした。たとえそれで自分の身を滅ぼそうとも、あいつだけは……。そうして彼はすぐに旅立ったのだった。彼の腰には一本の剣がささっていた。

  <せ>
少しして、

  <そ>
勇者は一人の槍使いと出会い、そして

  <た>
この人は「来たか、勇者よ」とか言って両手を広げて勇者の行く手を阻み、

  <ち>
「俺と勝負しろ」と言って

  <つ>
ニヤリと笑った。

  <て>
そういうの嫌だなと思いつつも、勇者が身構えると

  <と>
突然

  <な>
襲いかかってきた。

  <に>
だがそれをかわして、

  <ぬ>
勇者は彼を見事に倒した。

  <ね>
槍使いは「くそっ」と言って両手を上げ、

  <の>
降参した。槍使いの男に

  <は>
勇者は手を差し伸べた。

  <ひ>
二人は仲間になり、

  <ふ>
共に

  <へ>
魔王を倒すことにした。

  <ほ>
一方の魔王は、この間にお姫様をさらった。勇者は

  <ま>
国のお姫様まで人質に取った魔王に、

  <み>
怒りを爆発させた。

  <む>
勇者は槍使いに視線を向けた。

  <め>
槍使いはそれを見て

  <も>
「魔王を倒すぞ」と言って武器を軽く構えた。

  <や>
決意の表情で微笑みながら

  <ゆ>
勇者はその仲間の肩を叩いた。そして前を向いて「いくぞ」と言った。

  <よ>
勇者は魔王のもとへ来た。そこにはお姫様もいた。

  <ら>
さてついに奴との闘いが始まった。

  <り>
勇者は魔王に切りかかった。

  <る>
魔王はしばらくの間は激しく暴れて抵抗していたが、

  <れ>
そうしているうちに

  <ろ>
魔王はMP(魔法を発動させるのに消費するパワー、と言うかエネルギー)を使い尽くし、魔法が使えなくなったようだった。そこで

  <わ>
魔王はようやくおとなしくなった。

  <ゐ>
彼はしぶしぶ負けを認めて、

  <ゑ>
お姫様と槍使いは顔を見合わせてから

  <を>
歓声を上げて、勇者はお姫様を救い出して、彼女とめでたく結婚した。』


 どうだい、泣けるだろう? 傑作だ。さて、これでバラバラになっても大丈夫だ。この作品をしっかりとPCに保存して、その日俺は眠りについたわけだ。
 次の日起きてみると、またしても目が覚めていて……ではなくて。PCに保存した前の日のファイルを開いてみると、やはりと言うべきか残念ながらと言うべきか、またしてもあの「バラバラ」が起こっていた。
 しかし今回は対策を講じておいたから何の心配もないはずだ。相変わらず「傑作の欠片」たちはそれぞれすれ違っていて、メチャクチャな順番で並んでいる。しかし頭に付けた記号のおかげで、こんな風にデタラメに並んでいてもすぐに……。元の筋の通った文章に直せる…………。ん? これは、デタラメな文章……じゃない? はっ、これはもしや!


『 <い>
あるところに魔王(名を「サンタ」という)がいた。

  <ろ>
魔王はMP(魔法を発動させるのに消費するパワー、と言うかエネルギー)を使い尽くし、魔法が使えなくなったようだった。そこで

  <は>
勇者は手を差し伸べた。

  <に>
だがそれをかわして、

  <ほ>
一方の魔王は、この間にお姫様をさらった。勇者は

  <へ>
魔王を倒すことにした。

  <と>
突然

  <ち>
「俺と勝負しろ」と言って

  <り>
勇者は魔王に切りかかった。

  <ぬ>
勇者は彼を見事に倒した。

  <る>
魔王はしばらくの間は激しく暴れて抵抗していたが、

  <を>
歓声を上げて、勇者はお姫様を救い出して、彼女とめでたく結婚した。

  <わ>
魔王はようやくおとなしくなった。

  <か>
ある日、

  <よ>
勇者は魔王のもとへ来た。そこにはお姫様もいた。

  <た>
この人は「来たか、勇者よ」とか言って両手を広げて勇者の行く手を阻み、

  <れ>
そうしているうちに

  <そ>
勇者は一人の槍使いと出会い、そして

  <つ>
ニヤリと笑った。

  <ね>
槍使いは「くそっ」と言って両手を上げ、

  <な>
襲いかかってきた。

  <ら>
さてついに奴との闘いが始まった。

  <む>
勇者は槍使いに視線を向けた。

  <う>
彼は人々を苦しめる悪党だった。

  <ゐ>
彼はしぶしぶ負けを認めて、

  <の>
降参した。槍使いの男に

  <お>
誰も抗えなかった。

  <く>
彼は剣の達人だった。

  <や>
決意の表情で微笑みながら

  <ま>
国のお姫様まで人質に取った魔王に、

  <け>
勇者はその確かな腕前を見込まれて

  <ふ>
共に

  <こ>
あの男を倒してくれ、と頼まれた。

  <え>
刃向かう者は殺されるため、

  <て>
そういうの嫌だなと思いつつも、勇者が身構えると

  <あ>
いきなりだが、

  <さ>
邪悪な

  <き>
一人の男が現れた。

  <ゆ>
勇者はその仲間の肩を叩いた。そして前を向いて「いくぞ」と言った。

  <め>
槍使いはそれを見て

  <み>
怒りを爆発させた。

  <し>
魔王を倒すため

  <ゑ>
お姫様と槍使いは顔を見合わせてから

  <ひ>
二人は仲間になり、

  <も>
「魔王を倒すぞ」と言って武器を軽く構えた。

  <せ>
少しして、

  <す>
勇者は自らの危険を顧みずに、体を張って魔王の前に立ちはだかることにした。たとえそれで自分の身を滅ぼそうとも、あいつだけは……。そうして彼はすぐに旅立ったのだった。彼の腰には一本の剣がささっていた。』


 先頭の記号が、いろは歌の順に並んでいるじゃないか! しかもこれはこれで、物語として読めないこともない。しかしこれ、勇者が最後に死んじゃってるじゃん。何で魔王をかばってるんだよ。しかも槍使いが剣の達人って意味分からないし。邪悪な男、いきなり出て来たけど何なんだよ。こんな話、いったい誰が書いたんだよ?

 ああ、そうか。俺は間違っていたのかもしれない。順番を決めて並べて整えるのが作家の仕事だとか、偉そうに言っていたけど、やっぱりこの世界に不変のものなんてないんだね。いろは歌でも言っているじゃないか、この世は無常だって。たとえ文章にしたって、移り変わっていくのは避けられないんだね。でもさ、それでも良いんだ。たとえすれ違ったって良いんだよ。今回の「バラバラ」みたいに、きっとそのすれ違いの先には、新たな物語が待っているんだから。
 俺の、俺たちの物語は、これからも続いていく……。

(おしまい)


 本当におしまいだよ。最期まで読んでくれてありがとう。

書くのを忘れていたんですが、一応お題「すれ違う」の作品です。

「50雑音順」というタイトルですが、正確には47雑音ですね。

努力した割には達成感も感動もない作品になりました。読んだ方がお怒りにならなければいいのですが。
最終更新:2014年02月17日 15:23