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天の川ナンバー(お題『すれ違う』)

2012年04月08日 (日) 21時39分-17+1

 警告音はだいぶ前から鳴っているのにもかかわらず、俺はまったく慌てていなかった。視線の先には白い点があった。それはしだいに大きくなっていく。
 つまり、近づいていた。
 お互いに。
 ワープ中に別の宇宙船と鉢合わせするのは、俺にとって珍しいことではない。仕事柄、頻繁に亜空間トンネルを利用するのだ。あっちが譲るか、こっちが譲るか。そんな駆け引きを楽しむ余裕さえあった。
 俺の宇宙船に比べて、対向する白い宇宙船はずいぶんと小型だ。トンネルの入り口まで後退しなくともすれ違うことは可能だろう。それならば白い宇宙船が一旦横にのいてくれたほうが、トンネル全体のエネルギー損失がすくない。白い宇宙船が道を譲る、それが道理だ。
 さらに付け加えれば、俺の宇宙船は多くの燃料や資源を積んでいた。それらのほとんどが大事な商品だ。破損にはもとより充分な防止対策を講じているが、できることなら無駄な揺さぶりは避けたい。
 そういうわけで俺の宇宙船はトンネルの中心軸から外れることなく、そのまま相手の出方をうかがっていた。ところが、白い宇宙船もまたいっこうに航路をずらす様子がない。こっちのモニタで白い宇宙船を確認できているのだから、当然白い宇宙船からも俺の宇宙船はとうに見えているはずだ。何故道を譲らないんだ。事故でも起きて操舵不能になっているのか?
 さらに距離が縮まると、そんな些細な疑問は吹き飛んだ。
 白い宇宙船の前方下部にある、二十三通りの表記法で登録番号が記されたプレート。それが天の川ナンバーだったのだ。
 宇宙船の型から同郷ではないだろうと予想はついていたが、天の川ナンバーとは想定外であった。ナンバープレートが示すのは、その宇宙船が登録された場所だ。白い宇宙船のそれは俺の目的地で、取引先の所在地だった。
 やばい。ここにきて俺はにわかに慌てだし、急いで宇宙船の進行方向を変更する。相当急いで向きを変えたものだから、宇宙船に押されて若干トンネルがゆがんでしまった。時空のひずみにひずみが生じて、かえって元通りになりそうになる。機体が大きく揺れた。警告音が重なる。自動的にあてられる修正パッチ。
 ようやく落ち着いたころには、俺の視線の先に白い宇宙船の姿はなかった。無事すれ違うことができたようだ。と言っても、俺のほうはやや被害を受けたが。すくなくとも、トンネルの出口で管理局に止められることは確実だ。気が滅入る。
 そのとき、信号を受信した。
 ――ありがとございます。
 白い宇宙船からだ。
 信号は他銀河間での通信にも対応できる形式・言語をとっており、たどたどしく感謝の意を伝えていた。どうやらかの宇宙船の持ち主、あまり航行に慣れていないらしい。それも当然だ。何せ天の川ナンバーは最近認可されたばかりなのだから。奮発して宇宙船を一機買ったからちょっくら遠出してみるか、といったところか。迷惑な話だ。
 それでも俺は信号を返した。直接の取引相手でなくとも、失礼があってはならない。
 ――いえいえ。そちらは観光ですか。
 そのような意味の質問を、社交辞令のつもりで放る。
 ――はい。ソンブレロ銀河見に行きます。
 ――そうですか。それではよい旅を。
 ――はい。ありがとござ
 それきり通信は途絶えた。向こうが間違えて回線を切断したようだ。
 まったく、天の川銀河の連中は危なっかしくて困る。

次はリレー小説を書きます。
最終更新:2014年02月17日 15:23