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毒を吐かずば去られまい(お題『きじ』)

2012年04月10日 (火) 00時41分-古夢

(しくじった…)
ぐしゃりと歪んだユカの顔を見た瞬間、頭に浮かんだのはその一言だった。
「ふーん。そう、思ってたんだ…」
静かに落とされた呟きに焦る。何か言わなければと、それなりに出来のいい頭をフル回転させてみるが、ちっとも良い考えが浮かばない。周囲の空気は凍りついたままだ。誰かがシャープペンシルを転がした音が、やたら大きく響いた。ああ、そうだ。ここは教室だったんだ。すっかり忘れていたが、ということは、もうすぐ授業が再開されるのか?いや、次は自習だ。おおラッキー!…じゃなくて、ああもう違う!そうじゃなくて、それどころじゃなくて!!
「あ、のさ。ユカ、悪気は…」
「呼び捨てにしないで」
ピシャリと遮られて、言葉に詰まる。こちらにピタリと据えられた視線の源を辿れば、異常に座った目が鎮座していた。相変わらず、つぶらな瞳とけぶる睫毛が美しい。さすがはクラスの姫君。我らが女王陛下…現実逃避をしているのは、自覚している。
「二度と、話しかけないで」
バサッと効果音でも付きそうなほど見事に踵を返し、膝上5センチのスカートの裾を翻して、ユカは教室を去って行った。

「ああぁぁぁああ!」
「誰かさんのせいでさぁ」
「ユカちゃんいないからやる気でねぇ!」
男どもの戯言はまだいい。まだ堪えられる。小学校・中学校と色々あったから、耐性がついているのだ。堪えられないのは…
「ユカちゃんいないと進まないじゃん!」
「もう!誰か指示してよぉ」
「ちょっとバカレイ、聞いてるの?」
「あんたが余計な事言うから、ユカちゃん怒っちゃったんだからね!」
「レイ、責任とんなさいよ」
女の子たちの、ネチネチとした嫌味とか視線とか、あとさりげなく踏んでくる足とか。クラスの中心で人気者のユカと仲が良いということで、元から女性陣から不釣り合いだと不評を買っていたためか、色々容赦がない。いや、嫌味も睨みも踏まれるのも、別に平気なんだけど、さすがにこうも多いとうざったい。あと、足は踏まれると微妙に痛い。
「いや、あの、だからごめんって…」
「口先だけで謝ってんじゃないの!反省しなさいよ!」
一人欠けたくらいでグダグダぬかすな!とか、この指示待ち人間が!とか、他人依存型の屑め!とか…口に出してやいないし、別に思ってもいないはずだが。何度謝っても、反省の色がない、と、すぐばれる。反省しているように見えているはずなのだが…なぜだろう。

だって、何が悪かったのか、分からないのだ。隣の席のタツヤにそうこぼすと、微妙な笑いを浮かべて暫く「あ~」やら「う~」やら、意味をなさない音を発した後、「どんまい」と言った。分からない。何が悪かったのか。いつも通りの軽口で、いつも通りの悪口で、いつも通りの…あれ?いつも、ユカに対して、どんな態度だったっけ?
思考がまた迷走しだす。空回り。
「ううぅ」
面倒くさい。これだから人間関係は嫌いなんだよ!と思わず全てを放り出してしまいたくなる。この性格が原因で、昔からなかなか友達もいない。しかし、友達は少なくても、人間関係は微妙に広かった。小学校ではステキなお手紙が届いた。もちろん悪戯っ子さんの出した可愛い代物だ。どこにやったんだろう。裏が白かったから、計算用紙にでもしてしまったのだろうか。中学校の時は告白の電話がかかって来た。後ろではクスクス笑う声が。面白かったので、「あ、明日の日直よろしく」と言って切った。学校で出会った犯人は、しどろもどろだった。声で気付かれないわけがないのに。いやぁ、可愛かったなぁ。

そうか、この性格がいけないのか。うん、納得だ。スッキリ。まったく、そんな今更なこと言われても!

…分かっている。これも現実逃避だ。ユカに対して、余計な事を口走ったのは確かだ。これまでも、よくそういうことがあった。昔から自分の周りには人間が出来た人が多くて、大体許してくれたのだが、それに慣れていたようだ。高校で初めて同じクラスになったユカに、自分が悪意なく暴言を吐く人間だと理解してくれというのも、無茶な話だ。
ただ、向こうも、サラッと毒を吐くのを面白がって見ていた節はあるのだから、こっちだけ非難しなくてもいいのに。

さて、何を言ったのかなぁ。思い出せないなぁ。面倒だけど一個ずつ、前から順番に考えてみるか。面倒だけど。えっとぉ?
『ご苦労様。率先して動くとは、学生の鏡だね』
いや、ねぎらってるし。ユカも笑ってたし。却下。
『邪魔しないでくれる?暇なら話し相手は、そこらにいるよ』
うん?これはいつもの会話か。この辺では、毒吐いた覚えないし。意味もなく話しかけられるが嫌いなのは分かり切ってるから、いつもはユカも笑いながらいなしている。でも、周囲の女子が一瞬色をなした気も。ちょっと保留。
『文化祭とか面倒くさすぎでしょ。有志企画にでもなれば良いのに』
えっと、これは前に一回議論したから、違うかな?今更な話題。
『暇な人間がやればいいじゃん』
あ、これはまずかった気がする。ユカの口元が、かすかにひくついていた気が、しなくもない。
『馬鹿馬鹿しい。所詮コドモのお遊びなのに。無駄なお金使うね』
おお。そろそろまずいんじゃないのか?確か、このへんで女子から「ちょっと!」という怒りの声が入った。
『悪いけど、ユカと違って忙しいんだよね』
…あ。多分コレ決定打だ。正直本音だったんだけど、まずい。さすがに色々まずい。この後だ。あの、ユカの表情は。
ユカは、怒ってた。多分。

そして、今に至る、と。現在、クラスでほとんど孤立状態。
うぅぅん。こうして考えてみると、自分がクラスから浮かなかったのは、ユカのおかげだ。ユカがこのクラスの主導権を握っているから、自分はハブられなかっただけだ。
だって、自分の発言!こりゃ酷いよ。そりゃ怒るよ。いつも何も考えずに喋ってるけど、改めて列挙すると酷い。我ながら最低だ。思っていても口に出しちゃダメなことってあるだろう!あ、ダメだ落ち込んだ。
「ダメだなぁ…」
思わず座り込んだ。一年に一回の落ち込みスパイラルレベルの落ち込みだ。サドっ気があるのか、つい露悪的に毒を吐きたくなるのだが、一定周期で自己嫌悪期間に突入する。今回は、予定よりちょっと早いなぁ。
ああもう!誰一人いい気はしないのに、何故自分は毒を吐くんだか。つい。ついってなんだ。ダメだ。もうダメだ。傷つけた。当然だけど傷つけた。さすがに傷つけた。勝手にユカのハートは鋼だと決めつけていたけど、あれは傷つけた。怒らせた。というか嫌われた。
「おい、レイ!鬱陶しいから落ち込むな!つうか、やっとかよ!」
「タツヤか…」
つい座り込んでしまった所を小学校以来の付き合いのタツヤが蹴り飛ばしに来た。躊躇とか、遠慮とか、微塵もない。コイツも口が悪いのは一緒だ。雰囲気がハキハキしていて明るいから、周りは誤魔化されているけれど、タツヤの方が口は悪い。本人は口の悪い親に育てられたからだと言い張っているが、どうにも本人の突然変異的素質が開花しているとしか思えない。親御さんは良い人だ。まぁ何にせよ、コイツと話すのは楽で良い。 
「遅ぇよ、ボケ。気づいたんなら、さっさと謝りに行けよ、おい。このクラスの状況、まじうぜぇんだけど」
気遣いというよりは、進まぬ文化祭準備やら愚痴ってばかりの男性陣やら、だべっている女性陣やらに心底苛ついているらしい。 
「とっとと終わらせて帰って勉強してぇんだよ俺は!忙しいんだよ、お前と違って!」
あ、コレ苛つく。過去の発言を猛省だ。
「黙れ。私だって忙しいわ!次のテストも見てなよ負け犬。お前なんか引き離して一位とってやる。またせいぜい吠え面かきな」
捨て台詞を吐き、私は廊下を駆けだした。この状況をなんとかしてくれる、唯一の人物であり、一年七組随一の人徳者である我が友は、おそらく音楽室でピアノを弾きまくっているだろう。数少ない友を失わないために、私は膝丈のスカートを翻して走った。

「とりあえず、女の子が貴様とか言うなよなぁ」
一仕事した、というように肩を回しながらため息をついたタツヤがこぼした言葉は、誰の耳にも拾われることはなかった。
「ったく、後悔すんなら言うなってんだ。馬鹿が」
頭良いのに何で馬鹿かなぁと、万年二位の幼馴染が不思議がっていることを、私は知らない。

***
雉も鳴かずば撃たれまい:余計なことを言ったばかりに、自ら災いを招くことのたとえ
より、です。
いやなヤツですね、主人公。口悪いなぁ。最初は女の子にヒドイこと言って攻撃される男の子書きたかったんですが、途中で変更。面白くなかったんです(笑)
いや、私も口悪いんですよね…。でも、口の悪さはちょっとずつ改善中です♪←

それにしても、なんでこんなに長くなったんだろう…。悪口雑言が楽しくて(笑)
居たたまれなくなったら回収しに来ます。
めっちゃ下らない話ですみませんでした(>_<)

最終更新:2014年02月17日 15:24