2012年04月20日 (金) 01時05分-twilight
君の夢を見る。初めは単なる夢の中の物語だと思っていたし、他人が話を聞けば間違いなくそう答えるに違いない。
けれど、「君」はそこにいる。
僕が見ているのは、「そこ」にいる君のことであって「ここ」、つまり僕の頭の中にいる君ではない。
「そこ」で生きる君はとても幸福な生活を謳歌している。優しい人たちの中で暮らし、温かい食べ物を食べ、人並みに恋をするのだ。
「ここ」で生きる君は僕に向かって笑いかけている。ただそれだけ。
「そこ」での君の人生はいいことだらけ、なんの不足もない満ち足りた日々。
「ここ」での君の人生は何もない、ただ笑ったまま停止した、虚構の生。
「ここ」にいる君は君であって君ではないのに、僕は自然と「ここ」にいる君を追い求めてしまう。
「ねえ、本当の君はどっちなの?」
僕は君に、会いたい。
だってこんなにも好きなんだから。
最近、よく彼のことを夢で見る。彼がいるのはここではないどこかで、私の住むこことはかけ離れた場所。文明が進み、人々は離れ離れになってしまった、そんな、さびしい世界。
私たちが日々享受している自然の恵みを、彼らは傲慢にも自らの手でもぎ取る。だからといって実際のところは私たちとは変わらず、ただ姿勢、態度が変わったにすぎないのだけれど。
そこで彼は冷たい日常を送っているのだ。
誰とも会話せず一日を終え、知り合いはなく、恋愛など全くの無縁で、私とは完全に正反対。
孤独に満ち溢れた彼だけど、私たちには到底好きになれそうにない彼だけど、夢の中の彼に、私はひかれた。
恋い焦がれた相手のことを妄想することは少なくない私が、彼を想い頭の中でありもしない幻想を抱くのは、実はまったくと言っていいほどない。彼は私の夢の中を生きる人、本当にいるかどうかも定かではないのに、どうしてそこまでできようか。そう、私のどこか冷めたところが私にささやきかけ、それに私は従っているのだ。
願わくば、彼と出会うことがありませんように。
会えば必ず、彼を愛してしまうから。
二人が互いに願ったそのとき、どちらでもないどこかで二人を同時に観覧するものが一人いた。それは男であり、男は宙に漂うスクリーンにも似た二つの画面を、ほんの少しだけ喜悦の色を浮かべる目に焼き付けている。
「……二項対立とは、決してまじりあう事のない、二つの対立項」
何もない空間で、男は一人つぶやく。男のほか、ここに存在するものはあり得ない、あってはならないのだ。……今のところは。
「互いに長所と短所を持ち、カードの表裏のごとく切っても切れ ない関係にある両者は、どちらも表であり裏でもある」
くるくると、重力に縛られない動きを繰り返す。
ここに光はない。あるのは男だけ。
画面の中央では、彼と彼女が空を見上げ、小さなため息を漏らしている。方や、やわらかな日差しが差し込む森の中で。方や、冷たい電燈の光を浴び、ビルに囲まれる中で。
両者の対比は隅々まで完璧で、立ち姿から息遣いまで、寸分の狂いもなく一致している。そのうえ、両者からにじみ出る雰囲気が、この上ないほどにさびしい。彼女は鳥たちのさえずりに包まれているにもかかわらず憂いが顔に現れ、彼は翌日から休みが始まるというのにどこか浮かない顔をする。はたから見れば二人の感情は、一見すれば別のものが原因にみえるが、本当は二人とも、同じ理由だ。
二人がお互いの存在を知ってもう長い時間が立つにもかかわらず、こんなことは初めてだった。二人は今まで、まったくの対極にいることが普通だったのだ。
故に、この一致は異常。
そのことを唯一知る男は、唇の端をゆがめ、一人雄弁に語る。
「ま、そんなことは今は重要じゃない。互いにぶつかり合い、しのぎを削ったテーゼとアンチテーゼは、最終的に混ざり合い、重なり合い、もう一つのジンテーゼを作り出すんだからな」
二人がある一言をつぶやくと同時に暗い空っぽな世界に突如光が満ちた。
「そうら、きた」
男が光を全身に受け止める。すると、男の体は光にゆっくり溶け込んでいく。
「やっと、やっとだ、この時をどれだけ待ちわびたか」
足や手などの末端は、すでに消え失せた。
残るは胴体と頭。
「たくよ、ここまで俺を我慢させるたぁ、大したやつらだよ」
頭を残し、胴体が消滅する。
「さあ、物語の始まりだ。いいエンディングを迎えてくれよ?」
そして、ついに男は完全に光と同化した。
彼がつぶやいたのは、彼女の名前。
彼女がつぶやいたのは、彼の名前。
ちょっぴり出だしが遅れた物語が、今、産声をあげた。
最終更新:2014年02月17日 15:24