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笛付きケトルでこんにちは(お題『やかん』)

2012年05月27日 (日) 22時39分-御伽アリス

 席替えをした。ぼくと彼女は隣どうしの席になった。
 ある日、ぼくと彼女の間に、やかんが降ってきた。笛付きケトルだった。やかんの口のところに、笛が付いていて、お湯が沸くとピーッと音がして知らせるやつだ。いきなりやかんが落ちてきて、ガランガランと音を立てたのでクラスのみんなが驚いた。ぼくも彼女も驚いた。先生が、「学校にやかんなんか持って来るんじゃありません」と注意した。やかんの中は、からっぽだった。ぼくと彼女は顔を見合わせた。
 そういうわけで、ぼくは彼女と一緒に水を集めることにした。やかんに入れる水だ。水集めは大変な作業だった。ぼくたちのどちらかが、汗を流し、涙を流し、血を流すとき、ぼくたちのもう片方がやかんにその汗や涙や血を集めた。一回集めるだけでは、やかんの水はほとんど増えなかった。でもぼくたちはほんの少しの水を集めるだけでいつの間にか笑顔になれた。そうやって地道に水集めを続けた。

 長い時間が経って、大変だった水集めもようやく終わりを迎えた。やかんいっぱいに水が集まった。ぼくと彼女はそれから二人でやかんの水を温めて、湯を沸かした。これもまた苦労の多い作業だった。ぼくたちは励まし合い、協力し合ってなんとか水を温めた。でもぼくたちはその苦労が少しも嫌ではなかった。辛くても、苦しくても、絶対にお湯を沸かしたかった。そうしたらきっと素晴らしい幸せが待っていると信じていたから。
 そしてある日、ついにその時が来た。お湯が沸いて、笛付きケトルはピーッと声を上げた。それが、産声だったんだ。こうやって、君が生まれた。
最終更新:2014年02月17日 15:33