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お題「My方程式」(白霧)

2012年06月17日 (日) 23時20分-白霧

「今日さ、由香と色々な方程式を作ってみたんだよね」
「方程式?」
 私が言うと、弘樹は胡乱気な顔つきをした。私はそう、と頷いてみせる。
「例えば、ほら、祥子って、○○ってバンド大好きでしょ? だから、『祥子+○○のライブ=狂喜乱舞』とか。沙樹は数学以外はすごく成績いいから、『沙樹+数学の才能=天才少女』とかね。他にも変なのいっぱいできて、面白かったあ」
「ふーん」
「由香、私を使った方程式もいくつか作ってくれたんだけど。ね、弘樹が私の方程式作ったら、どんなのになる?」
 学校からの帰り道。隣を歩く弘樹の、夕日に薄赤く照らされた顔を見上げながら、私は尋ねる。弘樹は軽く目をすがめて、私を眺めた。
「そうだな。『佳奈+朝=ぼさぼさ頭』とか?」
「む。何それ」
 私は唇を尖らせた。確かに私は結構寝癖がひどい方だけど、それでも頑張って毎朝髪をセットしてきているのに。上目遣いに睨めつけると、弘樹は鼻で笑うようにした。
「だってほんとのことだろ? あ、じゃあこういうのはどうだ? 『佳奈+お菓子の材料=非常に歯応えのあるクッキー』」
 その言葉に、私はますますむっとした。この間、弘樹を家に呼んで、手作りのクッキーを振る舞おうとしたのだが、火加減が悪かったのか、あるいは材料の分量を間違えたのか、やたらと固いクッキーができあがってしまったのだ。彼はそのことを言っている。
「……もういい! まったく、そんなことばっかり言わなくてもいいじゃん!」
 私は立ち止まり、そっぽを向いた。まったく、弘樹はどうしていつもこうなのか。一応私の彼氏ということになっているはずなのに、からかうような発言や、意地悪な態度ばかり。こちらが好意を見せても、するりとそこから逃げるようにしてしまう。
 足を止めたまま、顔を弘樹から背けたまま、私は横の塀に長く映る自分の影を、睨むように見つめていた。弘樹は何も言わない。少しだけ私より前に進んでいた彼の影も動かない。そうしていると、おさまらない腹立ちの底に、ふっと情けない気持ちが掠めた。こんなにつれない態度を取るなんて、彼は本当に、私のことを好きなのだろうか――。
 そのとき。弘樹の影が、すっと私の影に向かって動いた。はっと顔を前に向けた私の吐息が、柔らかな感触によって塞がれる。瞬くことのできない私の瞳に、ドアップで映る伏し目がちの彼の顔。
「……じゃあ、こんなのはどうだ?」
 そっと、唇と唇を離し、弘樹は口の端を持ち上げて笑った。
「『この世界-佳奈=0』」
 ほうけたように、私は弘樹を見上げる。彼は私の額を、軽く指で弾いた。
「俺の、俺だけの、方程式だ」
 それだけ言うと、弘樹はくるりと背を向けた。そのまま、さっさと歩き出す。私は馬鹿みたいに突っ立ったままその後ろ姿を見ていたが、彼の背中が少し遠くなったところで、ようやくはっと正気づいた。
「ま、待って……待ってよ」
 彼の方に駆け出しながら、私は胸に熱いものが溢れてくるのを感じた。そう。弘樹はいつもそうだった。こちらが好意を見せても、するりとそこから逃げるようにしてしまう。――しかしその一方で、こちらが不機嫌になったり、自信をなくしたりすると、またするりと近寄ってきて、私の気持ちに触れてくるのだ。猫みたいなその態度に、私はいつも翻弄され、そしていつも心を掴まれる。中でも今日は、完全に、完璧にノックアウトされた。胸の中が、とても熱い。
「今度は、クッキー失敗しないから。また家に来てよ、ね?」
 弘樹の腕に飛びつきながら私が言うと、彼はやはり鼻で笑って、ま、努力するんだな、と私を見下ろしただけだった。
書いてみて、自分でも「甘っ!」と思ってしまいました。以前にやってた「甘いだけの小説は書けるのか」企画みたいなノリの甘さですね。
最終更新:2014年02月17日 15:45