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頭でっかちなロリポップは投身自殺がお好き

2012年06月19日 (火) 15時10分-安住 小乃都

亜栗(あくり)は食べかけのロリポップをグラスに放り込んだ。
平たいものではなく、球状の飴が先端についた棒つき(ロリポップ)飴。
また食べられなかった。
味が気に入らなかったのだ。
彼女はそっとため息をついた。
窓の外は雨。憂鬱になるはずだ。
「くり。また失敗?」
ノックもせずにドアを開け、顔を覗かせたのは利一(りいち)だった。
「不味い。」
そちらを見向きもしないで一言吐き捨て、亜栗は机に突っ伏した。
手だけを利一に向ける。
「口直しと水。」
「ハイハイ。ウチのお嬢様はぜーたくですこと。」
グラスに放り込まれたロリポップを取り上げ自分でそれを食べると、利一は下に降りていった。
亜栗は残されたグラスを見て、またため息をつく。
どうしてこうも利一の持ってくる飴は不味いのだろう。
毒でも塗ってあるんじゃなかろうか。
飴で死ぬなら本望かもしれない、と亜栗は思った。
その場合飴が美味しいものであることが前提だが。
「お待たせ致しましたー。口直しと水のお客様―?。」
足でドアを開け、利一が部屋に入ってくる。
お盆の上に乗っているのはコップ1杯の水と皿に盛られた大量のロリポップ。
テーブルに置いた拍子に、ロリポップの1つが頭から転げ落ちて床に当たる。
包み紙ごしに、ぐしゃりと砕けた音がした。
亜栗はそれを拾い上げると、包み紙のロゴを見る。
ハニーレモネード味。
「どう?美味しそうでしょ、くり。」
「名前だけはね。」
亜栗は砕けたロリポップをお盆に置くと、それと同じ色のものを山からつまみあげた。
包み紙を開け、水を一口含んでからロリポップを口に放り込む。
しばらく舌の上で転がし、彼女は眉をひそめた。
「美味しい?美味しい?」
顔を寄せ目を輝かせる利一の口の中にその飴を押し込む。
「レモンの酸味とか、蜂蜜の甘さとかゼロ。」
グラスの水を一気飲みし、軽く利一を睨んだ。
空のグラスを突き出し、おかわりの催促をする。
「レモンの酸味はないとしても、とりあえず甘いよ?」
グラスを受け取りながら利一は言う。
「それは致死量の砂糖のせいだ。」
亜栗はロリポップの山を見つめた。
カラフルな包み紙にはどれも普通の美味しそうな名前が書いてある。
が、このどれもに大量の砂糖が入っていると思うと吐き気がしてくる。
時々、兄は本気で自分を糖尿病で殺す気なのではないかと思えてしまう。
「くりちゃんごめんね分量間違えたかも。」
ロリポップを噛み砕きながらその甘さに顔をしかめている利一を見て、やっぱり彼は馬鹿なのだなと亜栗は思った。
「ちょっとリットルの単位で水持ってくるね。」
飴の棒をゴミ箱に捨て、利一がまた部屋を出て行く。
亜栗はロリポップを1つつまみあげた。
飴の方を上にして、グラスに立てかける。
グラスのふちに当たっている部分を支点にして、飴はくるんと回転してグラスから落ちた。
先端が重いから、少しふちからはみ出ただけで外側に落ちてしまう。
亜栗にはそれが故意に落ちているように見えた。
飴なんだから故意もへったくれもない。
しかし彼女には、どうしても飴自らが柵を乗り越え落ちたがっているように見えた。
きっと、何度やっても上手くグラスに収まってくれないロリポップにイライラしていたからだろう。
「水持って来たよー。」
利一が両手に2ℓのペットボトルを1つずつ抱えて持ってきて、亜栗はロリポップを山に戻した。
イライラにまかせて水をがぶ飲みする。
「ごめんそんな不味かった?」
利一はすまなさそうに山からロリポップをつまみ上げると、乱暴に包み紙をはぎ取った。
「じゃあ次これね。」
「今謝ったのって不味い飴渡したことに関してよね。」
「そうだよ。ハイ、これ食べて。」
亜栗の手に強引に飴を握らせる。
「これ不味くないって保証ある?」
「無いけど食べて。というか、無いから食べて?」
しばらく睨みあった後、亜栗はロリポップを口に入れた。
利一がはぎ取った包み紙を見る。
緑茶苺カラメルソース味唐辛子MIX
読んだ瞬間吹き出して咳き込んだ亜栗を見て、利一は不思議そうな顔をした。
「どうしたの?出すの早くない?」
「こんなふざけた味のロリポップ食べられると思ってるの?」
利一の目の前に包み紙を突き出す。
パッと見の美味しそうな感じに騙された。
唐辛子のせいで舌がヒリヒリしている。
「食べられるかどうか分からないから食べてもらってるんじゃない。」
「アイデアの段階で気づけよ!即却下でしょうこれは!」
グラスに水を注ぐのももどかしく、ペットボトルに直接口をつける。
「唐辛子がまずかったのかなー。」
「緑茶と苺とカラメルソース合わせた時点でアウトだからね。」
「そうかなーイケるって皆言ってたよ?」
利一はロリポップをまとめてグラスに突き刺すと、花束ーとつぶやいてにこにこした。
「りーちの会社には味覚オンチしかいないの?」
「いや?俺はムリだと思ったけどね。」
「じゃあ妹に食わすな!」
食べかけの飴をダイレクトにゴミ箱に投げる。
「ちゃんと分別しなきゃダメでしょうよくり。」
利一は飴をティッシュにくるむとお盆に乗せた。
それを横目に、何とかマシな味は無いものかとグラスから数本ロリポップを引き抜く。
つられて何本かが外側に転げ落ちた。
1本が、机を通り越して床に当たる。
ぐしゃりと砕けた音に亜栗はイライラした。
「自殺志願者かっつーの。」
「は?」
散らばったロリポップをグラスに刺し直していた利一が顔をあげる。
「じさつしがん・・・?」
「いや、そう見えるって話。りーちは分かんなくて良いよ。」
手の中のロリポップの味を見ながら亜栗は舌打ちした。
ちゃんと見るとろくなものが無い。
「くり俺の事馬鹿にしてる?」
「馬鹿にしないことがあった?」
ロリポップを山に戻して、亜栗は頬杖をついた。
「美味しそうだと感じられるものが見当たらないんだけど。」
「これは?」
利一が床で砕けたロリポップを拾い上げる。
「さっき落ちた奴だけど。これ1本しかないみたい。」
利一はロリポップを亜栗の前に突き出した。
「ゆず味だよー。」
亜栗の目の前でぐるぐると回す。
「怪しいくらいに普通の味だね。でも、頭が砕けた奴を私に食べろっていうの?」
「頭砕けた奴を食べるってなかなかスパイシーな表現だね。」
「・・・・・・。」
亜栗は無言でロリポップを受け取った。
利一はやっぱり馬鹿なのだなと思いながら。
「さっきのお話なんだけど。」
利一は山からロリポップを1つつまみあげた。
「さっきの?」
「ロリポップが自殺志願者だというお話です。」
「え、気にしてたの?」
砕けたせいで棒が取れた飴を亜栗は舌の上で転がした。
「うん。というか、俺もそう思った事あったからね。」
「りーちが?」
利一はうなづくと、頭を上にしてグラスにロリポップを立てかけた。
ころんと外側に転がり落ちる。
「会社でさー暇つぶしにこうやって遊んでたんだよね。」
「会社で何やってんの。」
「アイデア無いと暇なんだよ-。そんでさ、ふとね、まあ思ったわけよ。こいつら落ちるの好きだなー、そんで。」
ロリポップを繰り返しグラスに立てかけ落としていた手を止め、利一は亜栗を見てふわりと笑った。
「ちょっと、うらやましいなーって。」
亜栗は驚いた。
およそ利一らしくない台詞だ。
「ためらいなく頭から落ちてくロリポップが、俺には人間みたいに見えた。こんなふうに簡単に、ころんと頭から落ちれたら、俺も楽になれるかなーなんて、ちょっとうらやましく思えたんだよね。」
利一はロリポップの包み紙をはいでくわえると、頭をぐしゃりと噛み砕いた。
やっぱり不味いな、とつぶやく利一を見て、亜栗はどうしていいか分からなかった。
いつもにこにこ笑って馬鹿な発言しかしない兄が、どうやらものすごく悩んでいたらしい。
それに気づけないで馬鹿扱いしていた自分が、少し情けなく思えてきた。
しかし、こういう時にかける言葉を彼女は知らない。
「死ぬとかやめてね。」
結局、口をついて出た言葉はありきたりな台詞だった。
それでも利一は優しく笑った。
「死にませんよーロリポップじゃあるまいし。くりちゃん残せないからねー。」
そう言って亜栗の頭をわしゃわしゃとなでる。
「困らせてごめんね、くり。」
「・・・別に。」
亜栗は山をあさると、利一に聞いた。
「本当にもうゆず味ないの?」
「あ、気に入った?俺が作ったやつなんだよねー。」
「ゆずの苦さが強すぎ。あと甘さ足りない。」
探すのを諦め水を飲むと、亜栗は利一を見てため息をついた。
馬鹿な兄も、不味い飴も、彼女にとっては大切だ。
苦味が強いゆずの飴は、彼女が好きな味だった。


ロリポップの話が書きたかったんです。
なんでこうなったのか。
最終更新:2014年02月17日 15:45