2012年07月07日 (土) 21時26分-御伽アリス
世界の各地に、雨の降らないまちが存在します。そこに暮らす者たちは、みんな雨というものを知りません。鈴木と梶木もそんな雨を知らない者たちの一部でした。彼らは雨の降らないまちで毎日楽しくやっていました。
ある時、鈴木がこんなことを言いました。
「なあ、アメって知ってるか」
梶木はそれに答えて言います。
「あ? なんだそりゃ。美味いのか」
「知らん。美味いのもあるかもしれない。なんとかポップって言って……」
「ポップコーンなら知ってるが。食ったことはないけど美味いらしい」
「あ、いや、ポップは関係ないから放っとけ。俺が言ってるのはそれとは別のアメなんだよ」
「ほう。それも美味いんだな?」
「知らん。なんでも、上から降ってくるらしい。俺もまちの連中の噂をチラッと聞いただけだから確かなことは分からんが」
「すごいじゃないか。そんな美味いものが降ってくるのなら、行くしかないだろう。どこに降るんだ?」
「おい、勝手に美味いことにするな。それにそれがどこに降るのかもまだ分かってない。いやしかし、俺もそのアメってのをひと目見てみたくてな。そうか、あんたに行く気があるなら、いっちょ探しに行くか」
「行きたい、行きたい。美味いもん食いたい」
ということで彼らはまだ見たことのない雨を探しに出かけたのでした。
あてのない旅でした。雨を知らない鈴木と梶木には、いつどこで雨が降るかなど知る由もありません。だから彼らはひたすらに探し続けました。頭上を見上げて、何かが降って来ないかと待ちました。しかしいつになっても、そしてどんなに遠くまで行っても、一向に雨は降りません。困った彼らは、行く先々でまちの誰かに「上から降ってくるという、雨ってものを知っているかい」と尋ねましたが、誰に訊いても一様に「そんなものは知らないよ」と言うのでした。
彼らはとにかく旅を続けました。雨の日も風の日も、前に進み続けました。しかしやはり雨は見つからないまま、時だけが過ぎていきました。そして彼らはとても歳をとりました。せっかく探しに出たのに、このままいくと雨を見つける前にどちらも死んでしまうだろうと思われました。鈴木は言いました。
「もし俺が死んでも、あんたは必ずアメを見つけてくれ」
それを聞いて梶木も言いました。
「お前こそ、おれが死んだら、おれの分までアメを味わってくれ。そしてそれが美味かったら、あの世に土産として持って来てくれ」
すると、鈴木と梶木は顔を見合わせて笑いました。
「なあ、見つけようぜ。生きてるうちに。一緒にさ」
「おう。元々、そのつもりだったさ」
彼らはまた力をふりしぼって進み出しました。
そしてある日、彼らはとうとう、辿り着きました。ただひたすらに突き進むうちに、いつの間にかとても高いところまで来ていました。そしてそこにあったものは、世界の大いなる境界と呼べるようなものでした。彼らは覚悟を決めました。同時にその境界の向こうへと頭を突き出しました。
そこで見たものは、衝撃的でした。高いところまで登ってきて辿り着いた先には、さらに上の空間がありました。遠く頭上には、灰色の何かが覆うようにして浮かんでいます。驚いて口を開ける鈴木と梶木の目に、いきなり鋭い光が見えました。辺り全体が、一瞬だけ恐ろしい光に包まれたように感じました。その後まもなく、ゴロゴロという音と振動が彼らのもとにやってきました。鈴木も田井も怖くなってきて、顔を見合わせました。すると次の瞬間、何かが彼らの顔に当たりました。ポツ、ポツ、ピチャ……、バチャチャチャ、ザザザザ。
「おい、これってまさか」
「上から降ってるよな。こ、これがアメなのか!」
そう、まさにこれが雨でした。彼らが初めて見る、雨でした。雨が激しく打ちつけます。鈴木が言いました。
「おいっ、逃げるぞ!」鈴木はもといた境界の下へ急いで潜りました。
「あっ、待てって!」梶木もそれに続きました。
彼らはもう恐ろしくてたまりませんでした。雨が、あんなに怖いものだったとは。
「あんなもん、二度と見たくない!」
「水が、上から降ってくるなんて!」
彼らは一目散に下へ下へと逃げ帰っていき、平和な場所へ戻ってようやくホッとしました。やっぱり、彼らにとって安心できるのは、長年慣れ親しんだ雨の降らないまちなのでした。
もうお気付きと思いますが、彼らの住む雨の降らないまちというのは、わたしたちの住むところとは別なのです。境界の向こう側は、息も止まるほど良いところなのです。
そうそう、彼らの雨の降らないまちにも、場所によっては時たま雪が降るそうです。まあ彼らはそれを雪だと思うのかどうか、分かりませんが。傘を差さないことは確かですね。
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キャラの名前にはちょっとこだわりがあります。
最終更新:2014年02月17日 15:47