2012年09月08日(土) 18:22-17+1
わたしが、わたしとわたしに分かれる。
わたしとわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしに分かれる。
わたしとわたしとわたしとわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしに分かれる。
老婆によって折り目をつけられ、切り離される。
部屋の中だというのに、彼女は帽子をかぶっていた。つばの広い、まっしろな帽子。飛ばされないようにか、ときおり片手をあてる仕草をする。本当は部屋の中ではないのかもしれない。ここがどこだか判別のつく者はここにはいなかった。彼女の他に人間は誰もいなかったし、彼女自身も自分の居場所がわからなかったから。
相手がいないのに、彼女はぶつぶつ呟いている。
今、帽子が揺らめいたのは、本当に風が吹いたからかもしれない。それとも彼女の乾燥してひびわれた唇から漏れた、斜め上向きの溜息のせいかもしれない。どちらにせよわたしがこの場に留まっていられたのは幸運だったと結論づけるべきだろう。吹けば飛ぶような軽さなのだ。
「今日はおそばですよお」
彼女はまだ何か呟いている。
しわしわの指でわたしを真っ二つにしながら。
わたしが、わたしとわたしに分かれる。
わたしとわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしに分かれる。
わたしとわたしとわたしとわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしに分かれる。
彼女の手のひらほどの大きさになったわたしは、順番にシュレッダーにかけられてさらに細分化される。短冊状になって容器に落ちたわたしは、刃の隙間に取り残された小さなわたしに別れを告げる。さようなら、二度と会うことはないかもしれないけれど、一度も出会ったことがないのだから別に悲しくないよね。
そうこうしているうちに麺が茹で上がる。
いつのまにやら呟きが鼻歌に変わっていた。彼女は上機嫌な様子で麺を金属製のざるへと移し、今度は冷水を浴びせている。あそこにいるのがわたしでなくて、本当によかったと思う。
鍋からは湯気がまだのぼっている。遠くてこちらには届かない。代わりにざるがやってくる。暗い灰色の麺の上に、曇った氷が乗せられている。
一人分にしては、やや量が多いような。
「いただきまあす」
椅子に座った彼女は手を合わせる。
細分化されたわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしとわたしが、わたしとわたしとわたしとわたしが、わたしとわたしが、わたしになる。元通りとは言えない。わたしは目減りしている。
どうしてわざわざ分けたのだ。麺や汁とともに、噛み切られずに飲み込まれたわたしはそう疑問に思う。
わたしだけではない、灰色の麺にしたって同じことだ。結局はひとつの場所に収まるのに、分ける過程でいくらか減ってしまうのに、どうしてあれほどまでに細長く分割する必要があるのか。
腑に落ちないが、わたし自身は胃の腑に落ちる。
一方そのころ、シュレッダーの刃にくっついていたわたしはわたしで楽しくやっていた。洗ったときの水気が真下の容器に残っていたので、だいぶふやけてしまっていたけれど。
一方そのころ、乾燥剤と一緒に捨てられていたわたしはわたしで楽しくやっていた。乾燥剤にひっついていたおかげで生ゴミにされずに済んだ。ありがとう乾燥剤。
一方そのころ、風と言うほどのものでもない空気の流れに乗って彼女の帽子に漂着したわたしはわたしで楽しくやっていた。粒子ほどの大きさだったので、すぐにまた流されることとなった。
一方そのころ、わたしはいつ、何を以ってわたしとそうでないものを分けたのだろうと考えていた。だんだん自分がお蕎麦であるような気がしてきた。
行間がどの程度なのか確認するために、前に書いたものを投稿しました。
書く時間がなかなかとれません……