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今週のお題「運命」

2012年10月02日(火) 15:26-水無原

これが運命だったのだ、と私は自分に言い聞かせた。
○○大学付属幼稚園入試結果、と記された紙が私の脇に張り出されている。
周囲は阿鼻叫喚の、とまではいかずとも、それなりに混沌としていた。泣く親、笑う親、叫ぶ遊ぶ笑う子供。たった一つの結果に何をと笑うかもしれないが、各自の努力と天分の結果だったのだ。高校時代の恩師の言葉が蘇る。
『本当に全力を尽くしたのなら、悔しくて泣くことはない』
けれど先生。スポーツ漫画では負けたら泣くのはお約束です。受験でも、わあわあ泣くのはよくあることです。とてもとても簡単な、それは心に有り余った感情の処理手段。
仕方ないね、と笑って、じゃあ次頑張ろうか、とあっさり笑って去っていく親子のほうが、どうしてうちの子が落ちるんですかと声をありあげて事務室に電話してくる母親や、よかったわね受かったわよと戦敗者の目前で喜ぶ家族よりよほど努力してきたのではないかと感じるのはなぜだろうか。
この日ばかりはどうしても慣れない。毎年ここに立つようになってもう五年目なのだけど、この様子が来年も再来年もその次も繰り返されるのかと思うと憂鬱になる。私は自らの腹を撫でた。
その様子を見とがめた人間がいた。きっと、彼女は帰ったら事務局に電話するつもりだったのだろう。だが彼女はもっと手っ取り早い手段を見つけたのだ。
「ねぇ。あなた、ここの先生ですか?」
「ええ、一応……」
私は答えた。周囲の視線が一気に突き刺さるのを感じた。
「先生。なんで私の子供がここに入れないんですか」
「え、っと、それは落ちたからで、」
「そんなことは判っていますって! だから私が言いたいのは、」
彼女たちより若い小娘が、彼女たちの子供の運命を決める立場にいる。それが気に入らないのだろう。落ち着かない。腹をさする。
「あら、あなた妊娠しているんですか」
目の前の名前を知らない誰かが言った。ギョッとして、身を捻る。彼女は私の肩を掴んだ。
「あなたはいいですね。私だって、私だったら、私の子が、」
頭が痛い。
「どうして」
ぐらぐらする。
「どうして」
腹に衝撃を感じた。気持ちが悪い。貧血だろうか。目の前が暗くなる。


白いリノリウムの床と、白衣を着た男性。
「残念ですが、あなたのお子様は」
きちんと生まれていたら、今年入学してくる子たちと同じ年。
これが運命だとしても。
生んであげられなくて、ごめんね。


目を覚ますと、やはり貧血だったようだ。同僚の保険医の声が聞こえる。
――やっぱり、合格発表の日は、嫌いだ。


***
お久しぶりです水無原です。
しばらく放置している間に面白そうなイベントが次々起こなわれていてビックリです。しかも微妙に参加できないものばかりという……。
今週のお題を書いてみました。書きにくいことこの上ない。やはり練習しなければ錆びるものですね。

最終更新:2014年03月17日 19:02