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うざい人たち

2012年10月19日(金) 18:08-鈴生れい

注:「退屈をこじらせる」の続きです。一応こちらだけでも読めるとは思いますが、「退屈をこじらせる」を先に読まれることを推奨いたします。


篠山一族は出来不出来の差が激しい。
わたしの親父、篠山鉄朗は学校での勉強がからきしだったらしい。反対に体は丈夫であり、現在は祖父とともに畑を耕す毎日だ。
その弟、篠山次郎は病気がちだったが成績優秀で、都会に出て大手の電気製品メーカーに勤めている。現在課長だそうだ。
わたしの兄1号、篠山岳秋は運動音痴で製薬会社に勤めるエリート。兄2号篠山海人は高校を卒業してから畑仕事を仕込まれ中。
弟篠山大地は華奢でひ弱だが、勉学では全国模試ランカーだった。
そしてわたし、篠山空はというと・・・・・・。

「こ、これはひどい」
来て早速罵倒。これは殴っても文句は言われまい。
とは思うものの、流石に8・・・・・・9つも年下の女の子を殴ったとあっては問題だ。これが弟の大地なら何の躊躇いもなく拳骨をかますのだが。
ぶるぶると拳を震わせているわたしを知ってか知らずか(多分知ってる)、彼女はぶるぶると肩を震わせている。
確かにわたしの大学2年生前期の成績は惨憺たる結果だった。留年には至らないものの、不可が4つ。優はなし。後は大半が可。一部良。何個かは訊いてくれるな。
だがな、小学校とは良い成績をとるのに必要な努力量が桁違いなんだよ。要するに、小学生に笑われるのは腹が立つ。
「大学で良い成績とんのは難しいんだよ。小学校と違ってな」
せいいっぱい憎たらしげに言ってみる。でも彼女は少しも意に介さず、震える声のまま、
「それにしたって、これはないでしょ」
「ティーンエイジャーには分からないことかもな」
「あら、こんにちはおばあさん」
「てめ、マジで窓から突き落とすぞ」
きゃーと棒読みで悲鳴を上げながら、どういうわけか彼女はアルミサッシの窓を開け放った。クーラー勿体無いだろ。
言っても聞かないだろうから実力行使しようとすると、さらに彼女はベランダに降り立ち、
「あ、空の成績表がー」
「やめろぉぉおお!」
何たる鬼畜。悪魔め、わたしの成績表をベランダから放り投げやがった!
後で絶対シメることを心に誓いながら、わたしはオリンピック選手も真っ青な速度(の気分)で部屋を飛出した。
わたしの部屋はこのアパートの3階だ。ともすれば成績表がどこぞへと飛ばされかねない。無風ではあるから大丈夫だと信じたい。おかげで暑いが。
半ば飛び降りるように階段を駆け下りて、わたしはアパートの裏手へ回った。表は車道に面しているが、裏は車一台がぎりぎり通れる程度の細い路地がある。その向こうは別のアパートだ。
裏手へ回り、ざっと眺めると昼でも暗いこの路地にぽつんと一人、男が佇んでいた。
その手に、わたしの成績表。
「てめ、それ返せ!」
「・・・・・・初対面の人に、そりゃないでしょ空」
「てめぇだと分かってるから言ってんだよ大地」
そう、その男は私の弟、正確に言えば双子の弟、篠山大地だった。それがわたしの成績表を見ている。というかあいつ、大地がいることを分かってて捨てやがったな。お仕置き2倍増だ。
「久しぶりだね空」
大地はなよっちい笑みを浮かべながら(曰く女子からは人気だそうだがわたしは嫌いだ)、ヘタレた声音で言った。
思わず虫唾が走ってボディーブローをかましたくなるが、ここらもまったく人通りがないわけではないし、何よりその手に持っているものだ。
ここで大地をボコすのはいとも容易いが、その後もし親に成績がバレてしまったらわたしが半殺しの憂き目にあう。今は大地のご機嫌をとるほかない。
まずは笑顔を作ってみた。
「と、とりあえず、あがっていきません?」
「わぁキモい」
率直なご感想どうも。似合わないことなど重々承知しているが、なんとなく傷ついたので後で覚えてろよ。

こういうとなんなのだが、おそらく大地は珍しいタイプの人間だ。
腕は気持ち悪いぐらい細いし、よく風邪で寝込むし、スポーツには明らかに不向きなのだが、アウトドアを好む。
勉強は流石に屋内だが、ネットを使わなければPCすら屋外に持ち出す。本を読むときはしょっちゅう落ちるくせにハンモックを使うし、毎年一番に川に行こうと提案するのは大地だ。
とにかく、今時珍しいぐらい外を好むのだ。なよってる割には日焼けしているしな。
「空、少し色素薄くなった?」
どういう聞き方だよ。最近あまり外で遊ばなくなっただけだ。それでも周りからすれば十分日焼けしている。
「そういうお前は全然黒いままだな。大学で木登りなんかしてないだろうな」
「う、うんまぁ流石にね」
今のドモり方、明らかにやってやがる。アホか。かつては毎日のようにしていたわたしですら、こっちに来てからはたまにしかやってないというのに。
胡乱な目でじっと睨むと、ひょろりと大地の目がわたしの視線から逃げた。確定。
「・・・・・・落ちて骨折るなよ」
「心配してくれてるの?」
嬉しいというよりは苦笑い。ま、柄じゃないし、仕方ないけど。
「へぇへぇ、お姉ちゃんは可愛い弟君が心配で心配でたまらないの」
我ながら女言葉似合わないな、わたし。
「ぼくは自分のけがよりお姉ちゃんの成績の方が心配だけどなぁ」
こ、こらえろ。こらえるんだわたし。殴っちゃいけない。
ここで殴ると絶対こいつは親にチクる。チクられたら最後、わたしは本気で家を出なければならない。
「そ、その件なんだけどね、大地くん」
「分かってるよ。この成績見たら親父の雷は免れないだろうしね」
「お、恩に着るよ、ホントに」
物分りがいいのは助かる。というか、いつも助けられてきた。万が一兄貴2号にバレていたら、欣喜雀躍とばかり報告に行くだろう。一号は、どうだろうか。
「ねぇ、ちょっと!」
一号は少し得体の知れないところがあるからな。勉強が得意で、体を動かすのは苦手なのに好きだってところは大地と一緒なんだが、兄弟なのに何を考えているかいまいちわかったもんじゃない。
かといって二号や大地の考えていることが読めるかというと、特にそうでもないのだが。要は不気味なのだ、一号は。
「聞いてるの、空!」
「そういえば大地、前言ってた彼女とは仲良くやってるのか?」
そう尋ねると、大地は微妙に複雑な表情をした。悩ましげと言えば悩ましげである。
顔は整ってないこともないから、どうしてそれはよく映える。どうしてその器量が双子のわたしにもないのか、神様か誰かを問い詰めたい。
ちょっとだけ間をおいて、大地は頷いた。
「・・・・・・まぁね。姉さんの方は・・・・・・、聞くまでもなさそうだ」
成績の件がなかったら本気で窓から突き落としているところだ。今のわたしの面はさぞ苦悶に歪んでいるだろう。
沈黙したところでちょうど湯が沸いたので、わたしは茶葉を急須に突っ込んだ。さらに沸騰したばかりのお湯を、二つの湯呑へ均等分配する。ちょっと多めに注いでおくと、湯呑から急須へ移す時にこぼれても平気だ。
地獄の課題ラッシュ以来、なんとなくもったいなくて残っていた玉露を使ういい機会だ。一人だと少し手間のかかるこの淹れ方は面倒だし。
「そーらー!」
「うるさいな、黙ってろよ」
きーきーと猿のように喚く(あるいは猿の方が静かかもしれない)萌は、わたしの従妹だ。当然大地の従妹でもあるが、大地と萌の間は面識が薄い。
萌は人見知りする性質ではないと思うが、どうも大地との距離感を図りかねているようだ。ビニール紐で後ろ手に縛られ、正座させられている萌の現状を見れば、わたしよりも大地に助けを求めた方が合理的なのにな。
「なんでこんなことすんの!」
「まぁ、想像はつくけどねぇ」
大地が曖昧に笑った。それでも萌を助けようとしないのは、よくわたしを理解しているからだろう。
この際、萌を素っ裸にしてやっても良かったのだが、大地は一応男だし、マジ泣きされても困るのでやめておいた。もっと年がいっていれば確実にやっただろうけど、萌はまだ11歳である。
成績暴露の罪は重い。暴露されて困る成績をとったのはわたしだが。
「そうだ、萌ちゃんは好きな子いるの?」
それ、ほとんど互いに知らない従妹の小学生に最初に掛ける言葉か?
「そ、そんなことよりこの縄解いてよ、大地お兄ちゃん!」
わたしのことは呼び捨てるのに、大地はお兄ちゃん呼びかよ。あざとく媚うってやがるな、こいつ。お兄ちゃん呼びに、大地も満更でもなさそうだ。
すると大地は、手に持ったままのわたしの成績表を静かに机の上に置いた。
「・・・・・・これきりだぞ」
「分かってるよ」
大地の意図を汲んで、結局わたしは萌のビニール紐を解いたのだった。

「それで、今回はどういう風の吹き回しなんだ?」
実は、大地がわたしのアパートに来るのは初めてというわけではない。去年の夏休みにも一度あった。
その頃はまだ萌が頻繁にうちへ来ていなかったので、一泊すらしなかった大地は萌と会わなかったがそれはともかく。
前回は大地が帰省する際、その進路上にあるここへついでに寄っただけなのだ。わたしはここに来てからずっと実家には帰っていないし、大地ともそれきりである。
今回は特に大地が帰省する話は聞いてないし、一体何しにここへきたのか、少し気になった。
「要もなく来ちゃダメ?」
「ダメだ。普通に」
なよっちい笑顔がわたしの神経を逆撫でする。多分大地も分かってやってる。
「うちなら来てもいいよ」
「え、そう? ありがと、萌ちゃん」
「いやダメだって。萌のやつ、うちの合鍵持ってんだから」
ひと月ほど前、萌を部屋から追い出したことがある。それを逆手に取られて、なんやかんやと叔父さんに言いくるめられ萌に合鍵を持たされてしまった。
以来、萌がうちの来る頻度はさらに上がっている。夏休みに入ってからは予定のない日以外はほぼ毎日、知らぬ間に部屋に上がられることもしょっちゅうだ。もう慣れたが。
「あはは、仲良いんだね、空と萌ちゃん」
「仲良くない!」「んなわけないだろ」
ほら、揃ってないし。というか萌、お世辞でも仲良いって言っとけっつーの。なんだってわたしに好意を持たぬやつをわたしの部屋に上げねばならんのだ。
ごほんとわざとらしく咳払いして、わたしは大地を睨んだ。大地はおどけるばかりである。当然、睨まれるのには慣れっこだろう。
「そうそう、空に少し考えてもらいたいことがあってさ」
「わたしに?」
「というか、女の人に」
女の人、と言われると大地とはいえ少し嬉しい。今までの人生で、女子あるいは女性扱いされたことなど数えきれるぐらいしかない気がする。男子より腕っぷしが強いのだから仕方ないといえば仕方ないことなのだが。
少々機嫌を上向けたわたしはそろそろと湯呑にお茶を注ぎ、楚々として大地に差し出した。
「空、キモい」
「またシメるぞ、お前」
「まあまあ。それでね、ちょっと聞いてほしいんだけど―――」

大地には彼女がいる。名前は確か陽子とか言った。前回訪問してきた際、聞いたのだ。のろけ半分に言われたのだから、わたしも話四半ぐらいにしか聞いていない。マジ滅びろ畜生。
・・・・・・それはさておき、一年前は大層仲睦まじいと聞いた。告白された側らしいが、大地からしても余程惚れこんでいたのはよく分かった。何度拳を振るおうかと思ったことか。
閑話休題、それで今回大地が聞いてきたのは彼女が浮気しているかもしれないということだった。
「ざまぁみろ」
今、わたしの顔は絶対満面の笑みだ。こんなに清々しく笑ったのはいつ以来だろう。なんと素晴らしい心地。
そういえばさっき、わたしが彼女のことを聞くと(ちなみに萌を無視しようと焦った挙句出てしまった問いだ)複雑な顔をしていたな。
そんなわたしを、萌は横目で見据えた。
「空、サイテー」
「そういうお前はどうなんだよ。フラれたか?」
萌は萌で保健室登校している子に惚れているませたガキだ。そして現状わたしが唯一口論で勝てそうな萌の弱点である。ちょっと泣きたくなるのは内緒。
案の定、萌は頬をリンゴのように染めた。青リンゴじゃないよ。
「そ、そんなことどうでもいいでしょ。まだ夏休みだから会えないもん・・・・・・」
後半はぼそぼそと小声だったが、ばっちり聞こえている。わたしは笑顔を深めながら続けた。
「そうかそうか、萌ちゃんは愛しの彼に会えなくて寂しいのか。あっはっは」
「むー!」
そのまま発火しそうなほど、萌は顔を真っ赤にして沈黙した。今回もわたしの勝利だ。いやっほう!
「えー、空も萌ちゃんもいいかな?」
大地の話は続いた。陽子は最近、デートに誘っても乗ってこないらしい。ちょっと忙しいからと、デートを断る理由もはぐらかされている。
そして決定的なのは、デートを断られた次の日、大地と陽子との共通の友達が大地に言ったことだった。
「陽子さんと男の人が、デパートで買い物をしているのを見たってさ」
そう言って、大地は深いため息をついた。どうやら悲嘆のようだ。そしてわたしにとってはウザイだけだ。
正直な話、大地がどこの女と付き合おうがフラれようが浮気されようが、わたしにはどうでもいい話である。
強いて言うなら、大地がフラれれば話のネタぐらいにはなるかもしれない。そうだ、フラれちゃった方が面白いかも。
「空、なんとなく考えてること、分かるんだけど」
大地が凄むが、全く怖くない。逆に凄んでみると、あっという間に委縮してしまった。
萌が呆れ顔で、
「何してんのよ二人とも。いい年こいて」
とのたまうので、思わず足をひっつかんでベランダから逆さ吊りにしてあげようとしたが、危険を察知したのか大地の後ろに隠れられてしまった。
あんなことを言われたのに、大地は後ろに隠れた萌の頭を撫でている。
「大地、そいつを引き渡せ。今すぐ」
「お、落ち着こうよ空。そういうお年頃なんだからさ」
・・・・・・どうやら大地も、それなりに怒ってはいるようだ。いたたたと萌から悲鳴が上がる。大地に頭を締められているのだ。
胸がすくような思いを噛みしめながら、わたしは大地の話を真面目に聞いてやることにした。
「それで、わたしに何を尋ねたいんだ?」
自虐するつもりはないが、わたしは相当女らしくない。姦しさと反りが合わず、恋バナと無関係を貫くわたしは、どうにも同性との会話が下手だった。
そういう意味では、萌は貴重な同性の話し相手である。毎度毎度残念な具合ではあるけれど。
当然、大地はわたしがそんな残念女であることを知っている。小さいころからお人形遊びよりチャンバラごっこを好むわたしに、女性として何を尋ねようというのか。
大地は萌を手放して少し首を傾げた。
「いや、彼女が浮気してるって思う?」
「うん」
即答。
「そっか、やっぱりそうなのかな・・・・・・」
「そりゃ、他の男とデートしてりゃ確定だろ」
何をそんな甘ったれたことを。きっぱり諦めて独り身になってしまえ。楽だぞ、独り身。
わたしが大地をただれた暗黒世界へと誘おうとしていると、頭を抱えて黙っていた萌が涙目ながらも大地に尋ね始めた。
「大地お兄ちゃんはそれを見たわけじゃないんでしょ」
「うん、そうだけど」
「彼女に男兄弟はいる?」
「妹がいるだけで兄弟はいないって聞いたけど」
「手は繋いでたの?」
「・・・・・・さぁ、そんな話は聞いてないけど」
「デートに誘っても断られるようになったのはいつから?」
「うーん、ここ2週間ぐらいかな」
「空と大地お兄ちゃんの誕生日って今日よね?」
「あ、そういえばそうだね」
「忘れてたのか、お前」
「いやぁ、ちょっとこの件が気になっててさ、すっかり」
「ってことは・・・・・・。大地お兄ちゃん、ちょっと携帯貸して」
「え、いいけど」
マシンガンのように質問を連射した萌は、何を考え付いたのか大地の携帯電話をむんずと掴み、小学生らしからぬ速度でメールを打ち始めた。
大地が目を見開いて驚いている。
「うわ、僕より速いや」
「まぁこいつ、携帯持ってるしな」
いわゆるGPS携帯というやつだ。持ってるだけで文字を打ち込む速度が速くなるわけじゃなし、使い込んでいるんだろうけど、小5でこの速度とは。
わたしが小5のころなんて小学生が携帯持っているなんてありえなかったのに。ジェネレーションギャップか。
「空」
「なんだよ」
呼ばれて振り向くと、萌はこちらに携帯を向けていた。1秒経って、パシャリと音がする。どうやらカメラ機能を使ったようだ。
「・・・・・・なんの真似だ?」
「後で説明するよ」
素っ気なく聞き流して、萌はいくつかの操作を終えた後、ぱちんと携帯を二つ折りに戻して、大地に差し出した。
大地は不可解と顔を歪めているが、萌は何も言わずだんまりを決め込んでいた。
一体萌が何をしたのか、その結果が出たのは、およそ2時間後、夕暮れ時になってからだった。

「大地くんっ!」
わたしが夕ご飯をどうするか悩んでいると、鍵を掛けていなかった玄関の扉が勢いよく開いた。
びっくりしたわたしと大地が同時に振り返ると、見慣れぬ女性が立っていた。少なくともわたしは知らないし、大地を呼んでいたのだから大地の知り合いだろう。
「よ、陽子さん?」
目を白黒させながら、大地が立ち上がった。どちらかと言えば、警戒して立っているらしい。走れるように、重心がいつもより低い。
確かに警戒に足る突飛な事態だ。何しろなんの前触れもなく浮気疑惑のあった彼女が目の前に現れたのだ。しかも彼女が知りえないはずの姉の家で。
・・・・・・だが、わたしには予想がついていた。つい先ほど帰るといって部屋を出て行った萌が、陽子の後ろに見える。
つまり、これは萌が仕掛けたことだ。
陽子がわたしを見つけて、改めて目を見開いた。
「ど、どういうことなの。大地君、その人、誰なの・・・・・・?」
この台詞で、萌が何を仕組んだのか、そのあらましを理解した。萌も中々の策士かもしれない。
だらりと下げた両の腕がぶるぶると震えている。陽子はショックを受けた表情のまま続けた。
「浮気、してたの?」
「浮気?」
わたしの考えは夕飯のことに戻っていた。もしかすると、二人ほど人数が増えるかもしれない。
大地も負けじと言い返す。
「浮気、してたのは陽子さん方じゃないか・・・・・・」
「わ、わたしがいつ浮気なんて」
「聞いたんだ。男の人とデートしてたって」
「そ、それは、その・・・・・・」
「いいんだ、もう。分かってるから・・・・・・」
「ああもう、人んちで痴話喧嘩してんじゃねぇよ」
うじうじしているのが鬱陶しくなってきたため、仕方なく出張ることにした。恋路を邪魔したわけじゃないんだから、馬に蹴られることはないだろう。
というか、うじうじぐちぐちしている大地は見るに堪えない。まじウザキモい。
「わたしは篠山空。そこの大地の双子の姉だ」
「え、お姉さん・・・・・・?」
「そんであんたに大地が浮気してるってメールした、あんたの後ろにいる萌はわたしと大地の従妹。そんであんたをハメたのも萌だ」
事態が呑み込めないようで、陽子は呆然としていた。そりゃそうか。怒るならあんたの後ろでほくそ笑んでる生意気なクソガキにやってくれ。
「誕生日プレゼント、持ってきたんだろうな? とりあえず中に入れ。後、萌は覚悟しておきな」
陽子の背後から、げっという悲鳴が響いた。

今更説明する必要もない気もするが、一応言っておくと、陽子は浮気をしていたのではなく、ただ男友達と大地の誕生日プレゼントを選んでいただけである。
それを運悪く共通の知り合いに見られて、誤解が生じたというわけだ。
「ご、ごめんなさい。わたしすっかり信じちゃって」
「謝るなら大地に謝っときな。後、怒るなら萌にな」
陽子は節目正しく、わたしとは正反対に大和撫子であった。一途に大地を想い過ぎて、かえって今回の事態を招いたようだ。
これだけ聞けば、いい話である。仲直りのきっかけとなったのが、小5のクソガキがセッティングした茶番でなければ。
「なんで萌がこんな目に遭うのよ!」
現在、萌は昼間と同じ体勢に加え、そのふとももの上に辞書が積まれている。大人をなめた罰だ。
大地は先ほどからちらちらと気の毒そうに萌を見ているが、今のわたしに進言できるほどの無謀さは持ち合わせていないらしい。目を背けるばかりだった。
とりあえず陽子と大地を座らせて、わたしは一通りの説明をした。ったく、何が悲しくて自分の誕生日に弟の世話を焼かにゃならんのだ。まったく、まったく。
段々苛立ちが募っていって、説明の声にもドスが効いていたらしく、陽子と大地が怯えている。ちなみに怯えているのに気付いたのは、説明が終わってからだった。
苛立ちを呑み込んで、努めて明るい声を出した。
「と、まぁうちのガキが迷惑掛けたな」
「い、いえ、迷惑なんてとんでもない。萌ちゃんのおかげでわたしたちすれ違わずに済んだのですから」
「ほんとだよ、ありがとね、萌ちゃん」
「感謝するなら助けてよ!」
同時に目を逸らす二人。なるほど結構お似合いではないか。
萌が本気で泣き始める前にお仕置きを解除し、わたしは改めて提案することにした。
「もし良ければ、このままうちでパーティやっていかないか? せっかくわたしら揃ってんだし」
「あ、それいいかも。いいよね、陽子さん?」
「じゃあお手伝いしますね」
そう、ここまでは。ここまでは良かった。和やかな雰囲気の中、のんびりとした誕生日パーティを過ごせると思っていた。
陽子の料理の腕はわたしのそれを遥かに上回っていたし、萌がわたしをからかったわけでもない。
陽子の指揮のもと、ちゃくちゃくとわたしたちは準備を終え、大学生にしてはそれなりに豪華な夕食が机の上に出揃ったところで、わたしたちは乾杯した。
そう、二十歳になった記念にと大地が買ってきたのだ、ビールを。(余談だが陽子は22歳で大学3年生。一浪したらしい)
嫌な予感センサーが、あの雰囲気にあてられていたのか、あるいはそんなもの幻想なのか、いざ知らず。
「大地くぅん、ごめんねぇ!」
泣き上戸。
「いいんだよぉ、陽子さぁん!」
泣き上戸。
「いい話ねぇ!」
泣き上戸(場酔い)。
わたしはどうやらザルのようで、それが何を意味するのかというと、素面と変わらぬ状態のままこの鬱陶しい3人を相手にしなければならず。
楽しい想像を粉微塵へと砕かれ、泣きじゃくりながらいちゃつく2人を見ていたら、思わず、叫ばずには居られなかったのだ。
「う、」
「「「う?」」」

「うぜぇぇぇえええ!」




なんとなく続きました。そしてまだ続きます。たぶん。

今回はどこまで行ったら恋愛関係と呼べるのかというのが主題でした。大地や空はデートすれば恋愛関係、萌はもっと違う考えを持っています。萌の方が今時の女の子っぽく描けていればと思います。

最終更新:2014年03月17日 19:08