2011年05月05日(木)16時44分 - わさび
*注意*
本作はフィクションです。実在の人物や事件とは一切関係ありません。
本気にせず、少し引いた視点から読んでください。
補足)
「NHK 髪」で検索してから読むとわかりやすくなる箇所があるかも (笑)
主人公、下田悩(なやむ) は、小さな頃からの親友(悪友) 上田理(ただし) の家に久しぶりに遊びに来た。トイレを借りた悩は、そこで一本の毛を見つけた。それにより悩の苦悩が始まった。以下は小だと言って人の家のトイレに行き、90分が経過した頃の話である。
~第○○分~(以下略)
三本「川」の字に並んだ毛を見て、俺はこの前、理(ただし)がした馬鹿な話を思い出してしまった…
………
……
「ほら有名だろ?毛利元就が子供達を諌めようとした話。三人の子供達を呼んで、自分の頭からなけなしの毛を抜いたってやつ。一ずつ渡して、ちぎって見せろと言ったアレさ」
「聞いた事ねえよ(笑)」
「なわけないだろ~。しょうがない、教えてやる。ためになる話だからな」
そう言うと、さも当たり前の様に理は続けた。
「今、三人の子供達それぞれに一本ずつ毛が配られた状況だ。それで毛の主がちぎって見せろという。どう思う?」
「意味不明だな」
「そうじゃねえよ(笑)子供達はどうしたかって事!」
「これは何ですか、って聞くんじゃないの?(笑) 普通に」
「いいや、三人共言われた通りにした」
「そうかい」
「結果は、まあ予想通り簡単にちぎれた」
「ふーん」
あまりにくだらなさ過ぎて、俺は半分以上聞き流した。
「そこで毛利元就は涙目になりながら今度は三本自分の頭から毛を抜いて、…って痛そうだな~」
この場合、反応してやらないと理は決まって後で文句を言ってくる。
しょうがないから俺はツッコミを入れてやることにした。
「あのさ、話の腰を折るようで悪いけど、自分の、しかも、今生えている毛じゃなきゃだめなの?」
「当たり前だろ。まあ、聞いていればわかるさ」
そう言うと、理はそのまま話を続けた。
~第○○分経過~(以下略)
「そこで元就は、その三本を一本に編み込み、子供に再び渡して言った。“さあちぎってみよ”」
「何なの?これ(笑)」
「どうなったと思う?」
理は俺の質問などお構いなしだ。まあ、いつもの事なんだけど…
「ちぎれなかったんだろ?兄弟協力することの重要性を説こうというのが狙いなんだろ?自分達が毛に例えられるのをどう思ったかは知らないけどさ」
「毛利家なんだから毛は象徴の様なもんだろ?何とも思わないさ。むしろ誇らしい」
「そんなこと言って…。お前怒られるよ?」
なんでだ?と言わんばかりに心外そうな顔をする理。
まあ、こんなところで止まるのもなんだし、俺はわかりきった答を引き出して、早くこのバカ話を終わらせようとした。
「で、結局どうなったんだよ?」
「簡単にちぎれた」
ぷっ。予想外の答えが返ってきて、俺は思わず笑ってしまった。
「禿げで毛の量が減っていただけではなく、なんとか生き残っていた毛も、細く弱くなってしまっていたんだな~」
遠くを見ながら、理はしみじみそう言った。
「毛利元就は結局、何がしたかったんだよ(笑)」
「つまりーだ」
理はもったいぶって続ける。
「いくら兄弟げんかの絶えない子供達でも、なけなしの父親の毛を引きちぎるような親不孝はすまい。それくらいの思いやりは持ち合わせているだろうと毛利元就は考えた。それで三人に一本ずつ自ら毛を抜いて渡した。三人とも同じ行動を取ることに期待して。皆が父を大切に思う姿を見せて、親同様兄弟も家族。互いに思いやれ。そう言いたかった。親の亡き後も助け合えと」
「良い話じゃん(笑) ここだけ聞いた限りでは」
「茶化すな」
「…じゃあ何?最初の一本の時に決着がつくはずだったんだ。元就の中では」
「そうだ。ところが皆引きちぎった。当然、元就は驚いた」
「全然、想定していなかったんだ(笑)」
「三人が同じ行動を取った所までは良かったが、予想とは真逆の行動だったからな。んで動揺した。言おうとしていた事が言えなくなった!これでは何のために子供達を呼んで、こんなアホな事をさせたのか分からない!」
「アホだって自覚はあるんだね(笑)」
「チャチャ入れんなって!」
理は少しムッとした様子。俺としては少し気分がいい。
「元就は焦った、威厳が丸つぶれだ!ってな。
そこで、今度は方針を変えて、強い父親を見せようとした」
「それがあの捻じった毛だったわけだ(笑) 機転が利くね」
プッ(笑) 捻じった毛というキーワードで俺はあることを思い出してしまった。
それは理も同じだった様だ。
「そういえば、この前○HKに出ていたあの先生すごかったな」
「やっぱり、お前も見てたか」
「ああ。姉貴の風呂待ちしてた時ちょうどな」
俺はちょっとドキッとした。が努めて平静を装った。
「文(あや)さんと一緒に見たのか?」
「なんでそうなるんだよ。人の話、聞いてたか?」
が、失敗した様だ。
「すまん。少しぼーっとしてたよ」
「まあ、いい。
にしてもアレはすごかったよな。あの緊張した場所にあんなコミカルな物が存在してたら絶対吹く」
「ああ。とんでもない破壊力だった。あの異様な雰囲気と言い、テロップと言い」
「だろ~?なのに姉貴は来るなり、失礼だから笑っちゃいけないとか言うんだぜ。どうしても我慢できないなら消しなさい、だとさ。全くわかってないよな?挙句、勝手にテレビを消して、風呂入れと来たもんだ」
「さすが文さんだ。それが正しい」
「は?お前、裏切るのか?さっきは破壊力とか言ってたくせに」
「…」
「嘘はいかんぞ。嘘は(笑)」
そう言って理は俺の顔を覗き込んできた。笑いをこらえきれず、とうとう俺は白状した。
「…あの人が髪をねじったせいで、俺の腹はよじれたよ」
そう言って、俺達は互いの顔を見た。そしてどちらからともなく、腹を抱え大笑いした。
暫く笑った後で、思い出した様に、俺たちはさっきの話に戻った。
「それで、子供達に、今お前達が仲違いしていられるのも(笑)、強い父である自分がまだ健在だからだ、と言おうとしたんだ。さっきと同じく(笑)毛に自分自身をなぞらえてな。だけどこれもまた(笑)失敗してしまった」
「情けないだけじゃん(笑)」
「あれ程じゃない(笑)」
「もうやめろよ(笑)」
「しか~し(笑)、ゴホンッ、ここで終わらないのが知将毛利(笑)元就なんだな~。
元就は懲りずに、勢い良く毛を三本抜いた。そして、まだ足りないとばかりに目を真っ赤にしながら、さらに頭に手を伸ばした。が、もう頭には一本も毛は残ってなかった。こうなりゃ、さすがの毛利様もお手上げってわけさ(笑)」
お手上げした掌が髪を掴めず、何度も空を切る様が容易に浮かんだ。そんな自虐的な毛利元就のせいで、俺はさらに笑ってしまった。
「一体、これのどこに教訓があるんだよ!(笑)」
「そりゃあ、お前。毛利元就の無様なところでしょうが(笑)
しかもこれには三つも教訓が含まれているんだぞ。な?ありがた~いお話だろ~?
涙目になりながら抜いた毛、それこそが教訓の象徴になっているんだな~。
ですよね?毛利様。俺にはわかります。」
天を仰ぎ見る理。
「まあ冗談は置いといて…」
(一体どこからどこまでが冗談なんだか…)
俺は内心そう思ったが、言わずに措いた。
「一つはな、相手を見誤ると怪我するぜ、って事。
二つめはカッコつけはほどほどに。でないと反ってカッコ悪い、って事(笑)
それで三つ目は誤魔化しはいけませんって事さ(笑)」
そして理は一呼吸置いて言った。
「でもな、実はこの話はここでは終わらないんだよ。此処が毛利元就の毛利元就たる所以なんだ。
とは言っても、さすがの毛利様も自慢だった毛を失い、誇りも威厳も無くなって、もうダメか!と思ったらしい。
でもその時、不意に元就の目に矢が飛び込んで来たんだ。元就は目につき刺さった矢を抜いた。そしてこれだ!と思った」
「比喩じゃなかったのか!?」
余りの予想外の展開に、俺は驚いた。
「元就は家臣に矢をもう二本用意させて、今度は矢で毛の時と同じ事をした」
「それどころじゃないだろ!?」
「途中まではまったく同じだった」
「この状況でどうして同じ様に事が運ぶんだよ!」
「うるさいな~。いいから聞けって。
それでな、三人とも一本は簡単にへし折った」
「それでもやっぱり折っちゃうんだ(笑)」
「毛利元就は、また家臣に命じて新たに三本矢を用意させた。それで今度はこの三本を同時に折らせようとした。しかし、今度は誰も折る事が出来なかった」
「子供も家臣も頭おかしいよね?」
「まあ元就は心底安心しただろうな~、やっと上手くいって。そうして言ったのさ“一本なら簡単に折れる弱い矢でも三本揃えば折れぬ。お前達も同じ。三人力を合わせて行け”と」
「毛利元就が一番だな」
「どうだ?なやむ。この時の毛利様の『どや顔』が目に浮かぶ様だろ?」
「俺には、さっきから目に穴が開いて血だらけの毛利様の顔が浮かんでる!!」
「お前な~、さっきからヤジ飛ばし過ぎ!ありがたいお話なんだからちゃんと聞け!」
「わかったよ」
(言いたいことは山程あるけどな)
俺はグッとこらえ、心の中でそう呟いた。
“そんな事、お構い無し!”とばかりに理は得意気だ。
「子供達も実は不思議に思ったらしい。何故、矢でなくてはいけなかったのか?本来の
使い方とはまるで違う。しかもこの頃、銃があるから矢は既に時代遅れ。それで父親
に聞こうとし…「突っ込む所そこじゃない!まず目だろ!そのずーっと後で、やっと
毛!矢は最後!
因みに矢でなくてはいけなかったのは、困っていた時にちょうど目に刺さったからだ」
瞬間的に俺はツッこんでしまっていた。
後々、面倒な事になるとわかってても、もう我慢出来そうにない。
「言ったそばからかよ…しょうがねぇやつだな」
ハァー、のため息の後、理は続ける。
「けど聞けなかった?どうしてだかわかるか?」
「そりゃあ治療に行ったからだろ?あと犯人探し?」
「ハズレ」
マトモな答を言ったはずなのに、何故だか俺はスカシをくった。
「最初の毛の失敗を追及されたくなかったから逃げたのさ。」
「やり逃げかよ(笑) それもなんか情けねぇな」
「まあ、あれだけやらかした後だ。収集つけるのに必死だったから無理もねぇ」
「目に刺さった矢も利用したくらいな」
徐々に俺のツッコミもヒートアップして来ていた。
「お前しつこいぞ。一体、何がそんなに気に食わないんだ?」
「決まってるじゃないか。大将の目に矢が刺さるという大事件が起きてるのに、何事も無く話が進んでいる事だ」
「なんだ。そんな事か。いいか、よく考えろ。戦国時代なんだぞ。」
「だからなんだよ」
「矢が飛んで来るなんてのは日常茶飯事。
それよりも怖いのは、たった一つのミスが命取りになるって事の方さ」
「その日常茶飯事の矢が当たったら普通に命取りだけどな。そういう目的の武器だから。
戦国時代なら矢が飛んできても当たり前みたいに言うけどさ、ここ屋敷だろ?
戦場じゃあるまいし。えっ?ていうか、もしかしてここ戦場だったの?」
「戦場。だから矢も飛んで来る」
「だったら尚更、こんな事している場合じゃ無いじゃん。しかも、もう大将の所まで攻め込まれてる!
これはもう“小さなミスが死につながる”どころの騒ぎじゃない!“直接”命取られるよ!」
「慌てすぎ(笑)」
理は俺を指さしてひひひと笑った。
「これが普通の反応だ!
でも、毛利元就達はどうして平然としていられるんだ?将来の話してるから覚悟を決めたわけじゃないだろ?
もしかして、あまりにデカイ作戦の失敗に現実逃避か?」
「冗談に決まってるだろ?屋敷だよ(笑)」
「なんだ。屋敷か…。って、それでもおかしいだろ?なんで矢が飛んで来るんだよ!?」
「屋敷の隣が弓の練習場になっている」
「おいおい、小さなミスの前にそれ大きすぎる設計のミスだろ?」
「ミスじゃない。すごい弓を発明してしまって矢の飛距離が伸びてからそうなった」
「向きを変えるとか、壁をつくるとか、場所を移すとかの対処はしなかったんだ…」
「経費削減だ」
「一番削っちゃまずいとこ削っちゃったよ。
じゃあさ、家とか庭を普通に歩いていても矢が飛んで来るんだろ?落ち着けないな」
「毛利家の家訓はその日から頭上注意になった、と言われている」
「それじゃ元就が禿げるのも無理無いよ。気が休まる暇も無い。
でも、もしほんとの敵襲だったらどうするんだよ?区別付くのか?」
「つかない。狼少年と同じ原理だな」
「自業自得だけど、毛利元就が狼少年と同じにならない事を願うよ…」
「何言ってるんだ?なやむ。毛利元就は村人だぞ」
「………。」
僕は突っ込む気にもならなかった。
「矢が飛んで来るのが『普通』なのは、まあ、わかった。だけどそれは戦国時代のせいじゃなくて特殊な作りの屋敷のせいだったわけだ」
「そうとも言える」
「そうとしか言えない」
俺は即座に切り返した。
「毛利家の事情も何となくわかった。
兄弟の仲たがいの原因もストレスとか、そこからくる不眠とかそんな所だろう」
「かもな」
「元就はもうとっくに命に関わるミスを犯していたんだな。だけど、それと怪我をしたまま平然としていたのと何の関係がある?」
「何も関係ない」
「ストレスで皆頭がおかしくなってたとかじゃないんだ(笑)」
「当たり前だ。ふざけてるのか?」
「どっちがだよ(笑)
じゃあ、今までの話は一体、何だったんだよ?」
「なやむが聞いて来たから教えてやっただけ。
自分で質問しておいて、自分で脱線させてるんだから世話ねぇな」
「こんなとこでカウンター食らうとは思わなかった (笑)」
言いたい事は山程あったが、俺はまた我慢した。そんな俺を尻目に理は続ける。
「まあいい、教えてやる。何事も無く話を続けたのには、もちろん、ちゃんとわけがある」
「ホントかな~?」
理は組んでいた腕を片方だけ広げながら
「そうしたのはな、毛利元就が一連のやり取りの中で命に関わるミスを犯してしまったからなんだ」
「毛利元就、死につながる様なミスしたか?
目の怪我といつ飛んで来るかもわからない矢を放置している
というミスの方では命を危険にさらしているけどさ」
理はため息をついて、がっかりしたぞ、と体全体で表した。
「まだわからないのか?命よりも誇りが優先される時代なんだぞ。戦国時代は。
『失敗=切腹』なんだ。毛の失敗でも命にかかわる。目よりも命の方が大事だろ?」
「矢の事は大丈夫なのに、そんなことで毛利元就が切腹するのか!?」
「そうだ。だから誤魔化した」
「プライド以前にそっちのがダメだろ…」
「命あってのものだねだ」
「矛盾しまくってんな(笑)」
「わかったか?だから毛利元就は目の怪我そっちのけで誤魔化しに徹したのさ」
「じゃあ、ずっと毛利元就はやせ我慢してたのか?」
「そうだ。痛くないはずがない」
「とんでもねぇ精神力だな。誤魔化したい一心で(笑)」
「だから茶化すなって。誰だって命は惜しいだろ?」
「武士の誇りはどこに行ったんだろうな?(笑)」
「もちろん守ったさ。命もな。だけど目は失った」
「“矢が当たって命が助かった”か?おかしな事もあるもんだ(笑)」
「事実だからしょうがない」
矛盾点を指摘しようとしていたはずなのに、何故だか俺にはやり込められた感だけが残ってしまった。
そのモヤモヤ感を払拭するためか、メチャクチャな話に引き込まれてしまっていたせいなのか、気が付くと俺はもう一つ気になっていた事を聞いていた。