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散文1

2011年05月10日(火)22時53分 - 水無原

 

 数学のテストの日だった。殆どの人間が満点を取ることを期待されたような、どこか見覚えのある問題の末尾にこっそりと付け足された一問があった。そのテストただ一つの応用問題だった。その一問の解き方を巡って、Aと私の意見は対立した。私の意見が多数派だった。だが周囲の人間は皆、彼女の意見を聴くと讃えた。
 曰わく、凄い。Aは偉い。自分はそんな考え方を思い付きもしなかった。きっとAが正解だ。彼女の虚栄心を満たすその言葉に、私だけが頷かなかった。
 教師に訊こうと言い出したのは彼女だった。彼女は私に自らの正しさを示すため、未だ教室に留まり窓の施錠をしていた教師に駆け寄った。私もそれに続いた。他の人物は皆そこまで付き合う気はないようで、各々の鞄に問題用紙と筆記用具を仕舞った。一瞬前に彼女を賞賛したその唇は、部活動や翌日までの宿題の話をしていた。
 教師は質問に答えた。私も彼女の意見に内心賛同していて、ただ自分のプライドの為だけに反抗したようなものだったから、どちらが正解であろうと構わなかった。だがAは違った。
 教師が私の解を正答と断じた時、彼女は重ねて尋ねた。
「つまり、私の答えは間違っているんですよね?」
 涙声だった。
「間違っているというより、何をしたいのかよく判らない」
 残酷とも言えるその返答に、彼女は手にしたハンカチで目頭を抑えた。私は白いチョークで飾られた黒板に更に数式を書き加え、ただ自分の知識欲の為だけに彼女の解法が間違っている理由を尋ねた。説明が進むにつれAは平静を取り戻し、終わる頃には何もなかったかのような顔で頷いていた。その後、私は彼女と帰った。
「これから、私部活があるんだ。だからこれから音楽室に行くんだよ。夏の発表会が近いから、休めないんだ」
「……うん」
「そういえば図書室のパソコン使った?あそこはネットサーフィン出来るんだよ。司書さんと仲良くなればパスワード教えてもらえるし、本当はやっちゃいけないんだけど先輩は動画見たりしてた」
「へぇ……」
 話す内容は意味のない泡のようなものだった。私も、きっと彼女もその時話した内容をはっきりと思い出せないだろう。赤い目をした彼女はもう泣かなかった。私は飛沫のような言葉を吐きながら冷静に彼女の涙の意味を考察した。あれは悔し涙だ。彼女は私に負けたことが赦せないのだ。
 何でもないただの一場面で、私は彼女のプライドの高さと認識――私を格下だと考えていたことを知った。ただそれだけのこれは、つまりは物語にも満たないただの散文だ。
 



試験的にプロトタイプを上げてみました。
これだけでは短いので、いつか長編にします。
ただ、SSとしてこれは気に入ったので感想を聞きたいのです。

最終更新:2012年11月16日 01:58