2011年6月10日(金)15時53分 - 水無原
恋の妖精のお話し、知ってる?
体育館裏で告白する時、学年とクラスと出席番号、自分の名前を告げるの。
告白する日の昼休み、甘いお菓子を添えておけば大丈夫。
甘いものが好きな恋の妖精は、きっとあなたの恋を応援してくれる。
甘いものが好きです。
チョコレートパフェ、マンゴープリン、ラング・ドシャ、シュガータルト。
甘いだけのものが好きなのではありません。
チョコレートの苦味、マンゴーのクセ、バターの香り、黒糖の風味。
様々なスパイスが菓子の味に奥行きがでるのです。
甘いものが好きです。甘いお話も好きです。
「知ってる?あの話」
「妖精って、本当かな」
「ただの覗きなんじゃないの?」
「本当だって!あたし、叶えてもらったもん」
女子更衣室は噂の宝庫。言い切った委員長はとてもいい子です。長かった髪を切りボーイッシュになった彼女は、サッカー部の部長さんと一週間前に付き合い始めました。
「真偽はわからないけど」
私は言いました。
「告白する前に、願掛けしたいよね。言えるか判らない言葉、妖精さんが言わせてくれるかもしれない」
「ナホは夢見がちだねぇ」
「妖精さんなんて、居るわけねぇっつーの」
私は首を傾げました。だって私は、妖精さんがいることを知っています。
「私、妖精さんがいる方が、好きだなぁ」
そう呟けば、みんな苦笑して「そうだね」と言いました。
告白した翌朝に、妖精からの手紙が届く。
その手紙の指示に従って。
大丈夫、あなたはきっと彼好みの女の子になる。
体育館の裏には大きな橘の樹があります。その樹を登ると、体育館の庇の上に出れます。けれども、それを知る人はあまり居ません。何故なら橘の樹は常緑樹で、いつも葉を茂らせて隠してしまうからです。
「こんにちは、オヒメサマ」
庇は妖精さんの住処です。
「こんにちは、妖精さん。今日は何人でしょうか」
「手作りチョコチップクッキー、一袋。すっげえ、ホットケーキの匂いがする。作ったのシロートだよゼッタイ」
長い足で胡座をかいた妖精さんは、私に丁寧にラッピングされた袋を示しました。封は破られて、整然と並べられた菓子の一番右には不自然なスペースがあります。
「食べましたね。一つ」
「オレは妖精だから、甘いものが好きなんだよ」
「私も女の子ですから、甘いものが好きなのです」
ここだけは、譲りません。甘い顔を見せてしまったら、つけあがります。そういうものなのです。委員長さんは甘い顔を見せたが最後、弟さんはおろかその友人にまでこき使われています。
妖精さんは、とろける様な笑顔で言いました。
「ナホ」
甘い囁きとは、こういうことを言うのだと思います。
「可愛いナホ、一見か弱いのに此処まで登ってきちゃうナホ、放送部なのにオレ以外の前では小さな声でしか話せない可愛くて愛しいオレだけのナホ。ナホが女の子なのは充分判っているよ。だからご褒美、頂戴?」
甘い甘い言葉を私にしか聞こえない大きさで囁き、私に触れるのではないかと思うほど近くで砂糖菓子のような微笑みを浮かべます。瞳の中には私しか映さず、しかもその事をわざと悟らせるオプション付きです。
「ねぇ、ナホ」
甘えるような声音を耳元で囁かれました。顔に熱が上がるのを感じます。
私が真っ赤になって硬直したその時。
「――二年三組、春日居莉緒!告白します!」
何ともまあ勇ましい声明が聞こえてきたので、私は覆い被さった妖精さんの体をはねのけて、詳しい状況を把握するために身を乗り出しました。
「落ちるなよ」
妖精さんが腰を支えてくれます。
相手が視界に入りました。委員長の彼氏さんでした。
春日居莉緒さんの告白は失敗したようです。当人にとっては大事件かもしれませんが、よくあることです。
「……苦いです」
クッキーをかじり、私は呟きました。ココアパウダーの入れ過ぎです。砂糖も量を抑えてあるのでしょう。
「そりゃ、失恋だしな」
何かを勘違いしたらしい妖精さんが相槌を打ちました。けれども間違ってはいません。私は甘いものが好きです。最後にハッピーエンドになった恋人達が、胸焼けを起こしそうになる程甘い時を過ごす物語が好きなのです。想いが成就した瞬間、それまでの苦いことも全部ふわふわのマシュマロみたいに軽く甘くなるその時が好きなのです。
「また手紙を書かねばなりませんね」
妖精さんは私に胡乱な目を向けました。何度も正しい方法でアタックすればいつか報われる、それが私のスタンスです。その協力者が妖精さんです。妖精さんは、失恋した子に手紙を書き、恋愛指南をするのです。恋愛成就のエキスパートなのです。
「彼女持ちにアタックしろ、と?」
「まさか!もう気が済んだなら紛らわしい真似は止めましょう、とお手紙を書くのですよ」
委員長に。
私がそう呼ぶ彼女のことを思い出したのでしょう、妖精さんは奇妙な表情をしました。
「…………アレが?」
春日居莉緒さんは、かつての委員長のような地味な眼鏡さんでも、今のボーイッシュな彼女でもありませんでした。一言で言うと、ギャル系です。
「女の子はお化粧で化けるものです」
「マジかよ」
委員長の彼氏さんは有名な遊び人でした。二股三股当たり前、なまじ造作が整っているため噂を知らない他校の子にモテモテです。委員長が不安になるのも確かめたくなるのも当たり前です。
「マジです」
断言すると、妖精さんは少し考えた後、あくどい笑みを浮かべました。
「じゃあ、お前もあれくらい変わるわけ?」
「私より先に自分のことを考えたら如何ですか」
妖精さんがどんな私を想像しているかは判りませんが、私は呆れて言い返しました。
「妖精さんも女の子なのですから、少しは身嗜みに気を使ってください」
妖精さんは憮然とした表情で黙り込みました。
終わり
***
ラノベ風味。
どうしてこうなった。
元ネタは先輩たちの雑談の又聞きです。
急造なので文章に粗が目立ちます。申し訳ない。
読んでくださりありがとうございました!