2011年06月24日(金)22時37分 - すばる
年に一回、各地を回るサーカスの一団がこの町へとやってくる。およそ二週間の興行期間の間、町は一年で最もにぎわう。子供のみならず大人もみな猛獣たちの迫力やアクロバットなショーに胸を躍らせ、サーカスは連日大盛況。方々の街からも観客が集まるため、町の食べ物屋、土産屋なども売り上げが伸びて大喜び。サーカスはこの町で一番のお祭りだ。誰もかれもがそのひと月も前から浮き足立ち、まだ来ないのかと首を長くして待つ。そしてそれは、もちろん私も例外ではない。いいえ、この町でサーカスを一番心待ちにしているのは、ほかでもない私だろう。この時のために生きているといっても過言ではない。一年のすべては、この時のためにある。そのために、自分の一生を捧げたってかまわない。チケットは、いちばんいい席を全日程買う。グッズも、全種類買い集める。当然ものすごい出費になるけれど、そんなことは何の問題もない。むしろそれさえできたならばあとの三百五十日は草をはみ、泥をすする生活だってかまいやしない。そんなわけで、私はサーカスが去った翌日から一年後を焦がれ、ただひたすらにその時が来るのを待つ。
そして、どれほどの間待ち侘びただろうか。その日ついに、彼がこの町にやってきた。居ても立ってもいられなくなり、テントの設営がなされている中央の広場へと駆けつける。あちらこちらで団員たちがせわしなく動き回り、それを遠巻きに見物する町人の姿もちらほらと見えた。私と同じように、我慢しきれなくなってやってきたのだ。私は、それらの観客と少し離れたところから広場を見渡し、そうして彼の姿を見つけた。猛獣の檻の運搬を指揮している彼は、ひときわ輝いて見えた。彼のほうも私に気が付いた様子で、にっこりと笑みを見せる。その笑顔はあまりに美しく、ただそれだけで、一年待ち焦がれた苦しみがどこかへ消え去るようだった。
設営は半日で終了し、その日の午後には最初の興行が行われた。ステージに立つ彼の姿はあまりに精悍で、ただただ見とれる。空中ブランコに猛獣ショー、彼はなんでもこなす。サーカスの神様がいるのだとすれば、彼は、その神様に祝福された存在だろう。ただし、どうしても許せないものがある。それは、劇団員の女の子とのコンビネーション。仕事だからだと、ただそれだけのことだとわかってはいる。だけどその姿に、どうしても嫉妬せざるを得ない。二人の息はぴったりと合っていて、それがどうしようもなく悔しくて、こんなことならいっそ、サーカスなんて見たくないとも思った。だけどもやっぱり彼の姿は見たいので、きっと明日も、私はこの特等席に座るのだろう。この席で私は、ステージの上でキラキラと輝く彼に羨望のまなざしを向けるのだろう。
夜、こっそりと広場近くの茂みまでやってきた私を、彼が待ち受けていた。そうして私たちは、言葉を交えることもなく、固く、固く抱き合ったのだ。互いに一つになろうと、きつく、きつく。彼と私との距離は、昼間の劇団員の女の子とは比べ物にならないくらい近い。しかも今この場にいるのは、彼と私の二人だけ。彼とともに舞台で舞う劇団員や、私と同じように彼に見とれる聴衆は、ここにはいない。ただ、彼と私だけが、愛を交わすのだった。
夢のような時間は瞬く間に過ぎ去り、今日で興行は最終日。もちろん私は特等席から彼に羨望のまなざしを向ける。彼と会えるのは、今日で最後。そしてまた、一年後を恋焦がれ、ただひたすらに待ち侘びる。彼とともに行こうと思ったことも、何度もあった。だけどいけない。彼らは旅する夢売り、私はただの、かごの鳥。わかっている。私が彼を追えば、彼はとても困ったことになる。もしかしたら、もうこの町で興行することはできなくなってしまうかもしれないのだ。そうなってしまったら、彼はきっと悲しむ。だから私はこの町で、ただひたすらに待ち侘びる。
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なんていうか、すごくベタな展開です。
お読みいただき、ありがとうございました。