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甘いだけの小説は書けるのか (うつろいし)

2011年06月27日13時09分 - うつろいし

 

 まだ朝露に濡れる下草を踏み分けて、そろそろ小さな東屋が見えてくる頃だった。
 天へと根を張るかのように枝を巡らせる大樹の下を回ると、視線の先にぽっかりと開けた窪地が見えた。木立の作るトンネルを辿って、僕はその日差しの下を目指す。
「いらっしゃいませ、旦那様。お待ちしておりました」
 初夏の日差しに目が眩む間に、彼女は相も変わらず恭しく首を垂れ、目が慣れた時にはすでにその映える双眸をくしゃりと歪ませて微笑んでいるのだ。
 そうして彼女を白い視界から写し出して、僕は言葉に窮した。
「いやですよ。人ンとこ、余りじろじろ見ないでくださいな」
 そういって片手で顔を覆い、恥ずかしそうに俯く彼女は、チュニックブラウスにスリムなキュロットスカートの洋装で、黒髪も肩の高さで散らばしている。
「どういう風の吹き回しだい?」
「都の方から強い風でも吹いてきたのでしょう」
 そう言ってくすくすと笑い、彼女は僕の手を取って、丁寧に揃えられた藁葺きの、小さな東屋へと導いた。
 東屋の傍には小さな湧き水が備えられていて、竹筒から流れ落ちる透き通った水に手を通すと、彼女は持っていたタオルで僕の手を包む。清水を通した肌にそれは、じんわりと熱を帯びていた。
 艶やかに磨かれた椅子に腰を下ろして、彼女が急須にお湯を満たし、しばらくしてお茶を湯飲みに注ぐまで眺めていた。時折遠くの木の間を縫ってキビタキの鈴を転がすようなさえずりが響いてくる。
 礼を言って湯飲みを受け取り、喉を湿らせてから、僕は口火を切った。
「最近はどうだい?」
「相も変わらず、ですよ。開発の波もここ数年ないですからね。――そうそう、そんなものだから、周りの方々も人間達の廃屋がそろそろいい味を出して来たんで住み着いたって話もあるくらいですよ」
「ほう、忘れ去られてしまったのかい」
「ええ、持ち主がおっちんじまったって言うんで、マメな方がその森を買い付けて輩の住処にとねぇ」
「ほほう、それはいい塩梅だね」
 僕はまた少しお茶をすすり、辺りに目を転じる。白樺が所々に紛れる木立に囲まれたこの窪地には、落ち葉を地として、下草が広がり、所々に花々が、良く見ると丁寧に手入れされて咲いていた。今年はそれらに加わってケイトウが新たに植えられていて、リュウノヒゲの方々に伸びた深緑の中にそれが、一際明るく映った。
「旦那様は相も変わらず、お仕事に精を出していらっしゃるんで?」
 彼女へ視線を戻すと、彼女も庭から目を離して、視線が交わった。
「ああ、私の所は小さいが、無くてはならない製品だからね。一時期コマーシャルの波に乗ってブームに踊らされた人々で大変になったけれども、今では落ち着いて、確りと立て直せたところさ」
「ああ、良かったです。貴方のお顔も以前より明るくていらっしゃるんですもの、波乱のある世間様というのも味なもンですが、こうして貴方の穏やかな顔を見られることが嬉しいですよ」
「まったく明け透けなものだね、まったく」
 思わず手の甲で口を隠してしまうと、彼女はくすくすと笑った。
「うん、まあ、そうだ。今度のお土産を忘れていたよ」
「あら、嬉しい。何です?」
 僕は下の鞄から包みを取り出して開ける。透明なプラスチックのパックに包まれて、笹巻きが五つ詰められていた。
「長野は中条の所にある道の駅のおやきさ。笹で包んでいて、それで蒸すのかな。鬼無里の輩のやつは揚げるんだろう? 面白くて持ってきたんだ」
 括られた紐を解いて、湿りを含んだ白い生地を顕にする。彼女も手にとって包みを解いた。
「中には何が入っているんです?」
「南瓜が三つに小豆が二つかな。本来は野沢菜や茄子なんかを入れるもンだけど、それじゃおやつにならないだろう?」
「本当に甘いものがお好きですものね」
 そう言って、彼女は齧り、あらおいしいと顔を綻ばせた。
 しばらく二人でもそもそと食みながら、お茶で潤した。
「そういえば、一時期大変だったお菓子屋のお二方、元気かい?」
 そう言うと、彼女は途端に顔を俯かせた。
「風の噂によると、娘と旦那さん、一緒に折り合いをつけようとした結果、旦那さんを失っちまったみたいです。業が晴れちまったもんですからね」
「そうかい、それはすまない話を聞いたね」
「あぁ、でも彼女は彼女なりに折り合いをつけたみたいで、まだ旦那さんを想いつつも何とか世間様に混じって生計を立てているそうですよ」
「そうか、強い娘だね」
「そりゃあ、旦那様より生きているんですもの。あたしたちとて侮ってもらっては困りますよ」
 そう言って、彼女はふっくらと微笑んだ。――その幽かな影を見取って、僕は……、果たしてお茶を啜った。
「本当だね。僕も頑張らなくては。貴女もますます綺麗になって。――ちょっと悔しいかな」
 想いを辿って出てきた言葉に僕自身が驚いた。しどろもどろしている手に、彼女の温かい手が添えられる。
「世間様を泳いできたら、うちで日向ぼっこでもしてくださいな。あたしはいつでもお待ちしておりますよ」
 そう言って、彼女は少し逡巡すると、ややあって包み紙を取り出した。
「……あたしも少し甘いものを作ってきたんですよ。蜂蜜に小さく焼いたカステラを絡めてみましたの。どうぞよろしければ」
 彼女の頬は少し朱に染まって、俯いていた。
 僕を向こうの側に引き入れたい癖に、いつだって、こうして罪悪感を感じているのが君だ。
 そういう君に素っ気なく接して、けれども、こうして引かれ続けてしまう僕も僕だ。
 ふっと笑みが零れた。
「うん、ありがとう。でも、一口だけにするよ」
 上目遣いの彼女が、それを聞き届けると、瞳を伏せて、ふっと笑った。
「ええ、お口を開けてくださいな」
 彼女がその細い指先で菓子を抓みあげて、僕の鼻先へ持ってくる。ぽたりと蜂蜜が零れるそれに口を開けると、あーん何て言葉を漏らして、彼女の指は僕の口の中に入ってきた。
 べたべたと濡れる指の付け根から蜜が零れて、僕の口元を滴る。そうやって彼女は含み笑いを漏らして、僕の口元に舌を近づけ、舐め取った。その含み笑いにムッとして、僕は顔を少しずらして、唇を重ねる。少しだけ、時永く感じられた。
 互いに顔を離して、彼女と僕は微笑んだ。
「またいらっしゃる時は、ミツバチの鳴る方へいらしてくださいね」
「ああ、貴女もお元気で。また貴女に会いに行くよ」
 そう言って僕は立ち上がって、鞄を手に取った。
 窪地の端までお互い言葉なく歩いて、僕は振り返る。
「それじゃ、また今度」
「ええ、お待ちしております」
 小首を傾げて微笑んだ彼女を目に焼き付けて、僕は木立の中に足を踏み入れた。
 木漏れ日のトンネルを抜けて、私は帰った。


そういえば、本を貸したら思いついたので、自重せずに顧みずに書いた。
参考文献は読んでいた雪国と読んだことある百鬼夜行抄かな。
しかしながらひどくベタで、拙い文章だ。

それじゃあこれを書き上げたら学校行くんだの思いを成就させに逝って来ます。

 

最終更新:2012年11月26日 00:53