等置・同一化への道

ウパニシャッド」の語根と同じく、「近く」「坐る」を意味する
ウパース」upa-as という同士が、ウパニシャッドやそれに先行する
ヴラーフマナ文献のなかに頻繁にあらわれる。

この「ウパース」の指し示す内容が、
それと語源も近い「ウパニシャッド」の意味であると考えて、恐らく誤りはないであろう。
ただ相違するところは、前者が神秘的同一化の心理的過程を意味するのに対して、
後者はそれを説く教説・秘説を意味するという点にある。

ウパニシャッドの本質ともいうべき神秘的同一化の基礎にあるのは、一方には
先行する時代からの呪法の論理であり、他方には自然と人間とを等質的に対応させる思想である。

呪法における同一化を成立させる理法の「知識」のもつ重要な意味は、
ブラーフマナ文献においてますます強調される。

そこでは、ある祭式の意義に関して神秘主義的な説明がなされたのに、
「このように死って」祭式を行う者は、望みのものをかちうるという表現が
繰り返しあらわれる。

更に「このように知る者」には祭式の施行さえ不必要とされる。
こうして呪法の論理は、ウパニシャッドの主知主義への道を開いていった。


自然現象と人間の対応関係


ウパニシャッドにおいて、しばしば神格化された自然現象、すなわち宇宙を構成する諸要素と、
人間の諸機能とが、等質的な対応関係におかれる

    「個体」     「神格」
  • 眼(視覚機能) → 太陽
  • 口(発声機能) → 火
  • 鼻(嗅覚機能) → 風
  • 耳(聴覚機能) → 方位
にそれぞれ対応させられる

諸機能の集まりである人間は、諸神格の構成する大宇宙に対して、少宇宙であると考えられる

時には「祭祀に関して」の一項を加えて、祭式の諸契機を同じ対応関係におくことも見られる。
自然界の諸要素と人間の諸機能との等質的対応の思想は、はやく『リグ・ヴェーダ』にもあらわれている。その葬送の歌に、「眼は太陽に、気息は風におもむけ」とあり、
原人讃歌には、原人の眼から太陽が生じ、気息から風が生じた、と述べられている。
この思想を展開させたのはブラーフマナ文献の祭儀学である。
祭式は自然界の諸事象を模倣し、象徴するものであるから、
自然―人間―祭祀の諸要素間に対応関係を認めるのは当然であった。
ウパニシャッドはこの思想を受け継ぎながら、哲学的に深化させ、
宇宙の最高原理ブラフマンと個体の本質アートマンとの神秘的同一化を成り立たせたのであった。









最終更新:2007年07月28日 13:05
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