葉山涼夜の一日
「貴方は、宇宙人?」
いきなり訳の分からん事を言われた
放課後、廊下で、あまり直接的な関係のない人物に
ま、非日常が日常なこの学園ではあまり珍しい光景でもない
だから、模範解答を動揺なしに発言できる訳だ
「俺の事を指して言っているのなら違う、他の奴については個々に聞いてくれ、じゃあな」
完璧だ、否定と委任、そして別れの挨拶の三つの機能を果たす文を贈与したからにはもう妙な事には巻き込まれねぇ
あとは、アフターケアを忘れずに――
「――そうそう、何か困ったことがあるのなら相談くらいには乗るぜ、いつでも207号室の扉を叩きな」
去り際、視界の端で捉えた生徒Aの顔は微妙に翳っているように見えた
で、今現在俺は絶賛爆走中なわけだ
理由は……何だったかな
確か寮生を万事屋と勘違いしてんじゃねぇかと思う依頼が入って……
その依頼者のペットの捕獲作戦を真藤、及び渉と遂行中ってとこだ
……学校にペット連れてくんなよ、学び舎を何だと思ってるんだ神聖な仮眠所だぞ
ちなみに標的は子犬、包囲作戦で仕留め……もとい確保する
「渉!状況は?」
「現在、ターゲットは東に移動中……葉山先輩の正面です」
「よし、真藤は次の角を右へ」
「任せろぃ!」
「渉はそのまま前進して――」
背面から柔かい衝撃が来た
首だけ後ろに向けると、さっきの生徒がそこに居て……腰に組みついてきている
「涼夜!ボーっとしてないで犬を!」
気がつけば、ターゲットは腕の届く範囲に来ていた
向こうから走ってくる渉と左の通路から飛び出す真藤が見える
「チッ!」
腰にまとわりつく生徒Aが行動に制限をかける
両腕だけの動きでは犬を止めることができず、俺という易しい関門はあっさりと通過された
「……相手を目の前にして呆けるなんてらしくないぞ涼夜」
真藤、お前にはこの状況が見えてないのか?
とは口に出さない、言い訳がましく聞こえるだろうしな
「体の具合が悪いなら、無理はしないで下さいよ」
渉が真顔でそう尋ねてくるが、だからお前たちにはこの状況が見えないのかと(以下略)
「ちょっと、ふらついてな……二人は先に犬っころを追ってくれ、俺も後で行く」
そう言ってその場に腰を下ろす
二人が立ち去ってから、生徒Aを見据える
「何で邪魔をしたんだ?」
「何で邪魔をしたんだ?」
目の前の彼にそう言われ、少々戸惑う
答えようが……無かったから
この状況を隠して、説明することが、できない
「…………」
「……」
二人分の沈黙……でも、重さが違った
明らかに私の沈黙は重かった
表情も沈鬱としていることだろう
だから「まぁいい、それより食堂で茶でも淹れようか?」と言ってくれたとき、気分が少し上を向いた
あの時みたいに、少しだけ……
生徒Aは俺の誘いを受けてくれた
よって、二人分のティーカップを茜ちゃんに教わったやり方で満たす
「ほらよ、俺特製ハーブティーだ苦情は受け付けねぇぜ」
いたずらっぽい感じを装って笑いかけると、やっと少しだけ笑ってくれた
「そうだ、目一杯笑っとけ、女の武器は涙じゃなくて笑顔なんだ」
そういって再度微笑みかけると、微苦笑を返してくれた
微妙に苦笑してるのか、微笑と苦笑を混同させているのかは想像にお任せする
そうして、しばらく優雅なティータイムを……おや?
「紅茶は、嫌いか?」
眼前のカップの中身が減少していない
これは選択を間違えたか……?
「嫌いなら別のに替えるが?」
そう提案しても、生徒Aは力なく首を横に振るだけだった
本人がそういうならば、こちらとして出来る事はないので「……そうか」としか言いようがない
また重い空気になる……
何かするのも、覚悟が要りそうな雰囲気になってしまう
唐突に生徒Aが口を開いた
「……笑って」
「ん?」
「一度でいいから、心から笑ってみて……私は、それを見たいから……」
「心から……笑う」
「私、見てるね……約束だよ?できるって信じてる、だって私に一度見せてくれたから」
訳も分からないまま伸ばされた相手の小指に自分の小指を絡め、契りを交わす
そして、眼を閉じ、二秒……瞼を上げれば、そこに彼女は居なかった
「……俺は、宇宙人じゃない……でもな、ここに居れば特殊な人間にはなっちまうさ、嫌でもな」
苦笑と共に、涙が零れた
花見祭前日、皆と一緒に準備に追われ、右へ左へと忙しく立ち働いていた
明日からの花見祭、成功させたいなと、普段の自分らしからぬ考えが過ぎり……一人、苦笑する
「はーやーまーくーん!ちょっと手伝って!」
結崎の声が少し遠くから聞こえてくる
……まったくこっちだって忙しいんだ
でも、楽しくて……足音に笑みが追随する
「こっちは約束を守ったぞ、そっちも守ってるよな」
桜と一緒に見てくれてるよな……
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最終更新:2009年03月29日 20:16