第2章 宇宙原理と観測量

  • 2.1 宇宙原理による時空構造

  • 2.1.1 宇宙原理

[宇宙原理]
大局的スケールで宇宙は一様かつ等方である

[基本観測者(fundamental observer)]
ある観測者にとって宇宙が等方に見えても、相対的に動いている観測者にとっては等方ではない。
このことを区別するために、宇宙が等方的に見えている観測者を基本観測者と呼ぶ。
すると、異なる基本観測者の世界線は交わらないことが分かる。

[宇宙原理を満たす時空計量]
宇宙原理を満たす時空軽量g_{\mu\nu}1の形を考える。
まず、宇宙の時空空間に座標軸x^{\mu}を張る。

基本観測者の世界線がお互いに交差しないということに着目する。
基本観測者のとる空間座標値x^i(i=1,2,3)が時間的に一定となるように空間座標を張る。
基本観測者同士の総体的な物理的距離が変化しても、座標値は変化しない。(時間的に一定だから)
つまり、この座標は、基本観測者の運動とともに動くようなもので、共動座標(comoving coodinate)という。
さらに、時間座標x^0=ctとして、基本観測者の固有時間を用いるものとする。
このような時間座標t=x^0/cを、宇宙時間と呼ぶ。

この座標は、大局的スケールで定義されるもので、小スケールでは、一意には定まらない。
当面、大局的な近似的計量を求めることを考える。
この座標系における宇宙線素を分解する。
ds^2 = g_{\mu\nu}dx^{\mu}dx^{\nu} = g_{00}c^2dt^2 + 2cg_{0i}dtdx^i +g_{ij}dx^idx^j
この座標系においては、基本観測者に沿ってx^i = 一定となり、その固有時間が時間座標tを定めるので、基本観測者に沿って、-c^2dt^2=ds^2=g_{00}(dx^0)^2となるから、g_{00}=-1となる。

さらに、g_{0i}は、時間一定面における3次元ベクトルとなっているため、どのような座標系でもゼロにできなければ、空間に特別な方向があることとなる。
宇宙は等方であるから、g_{0i}=0とすることができる。
ds^2 = -c^2dt^2 + g_{ij}dx^idx^j
次に、g_{ij}を決める。

この空間計量g_{ij}は、時間座標tと空間座標\mathbf{x}の関数g_{ij}(t,\mathbf{x})である。
まず、時間依存性を考える。任意に時刻t_0を選び、その時刻における時間一定面での3次元計量を
\gamma_{ij}(\mathbf{x})=g_{ij}(t_0,\mathbf{x})
とする。この時刻において、空間座標値が微小ベクトルdx^iだけ異なる2点に存在する2人の基本観測者を考えると、そのあいだの距離は、
dl(t_0) = \sqrt{\gamma_{ij}dx^idx^j}
で与えられる。

次に、時刻tにおける同じ2人の基本観測者の距離をdl(t)とすると、微小ベクトルdx^iの方向を固定して長さを定数倍すると、dl(t_0)dl(t)は微小量である限り比例する。
また、空間の一様等方性により、その比例定数は最初の微小ベクトルの場所にも方向にもよらない、時間だけの関数a(t)となる。
すなわち、基準時刻t_0で微小距離dl(t_0)だけ離れた2人の基本観測者を考えれば、他の時刻tにおける距離は必ず、
dl(t)=a(t)dl(t_0)
となる。この比例定数a(t)は、宇宙の膨張あるいは収縮の度合を表すもので、スケール因子と呼ぶ。
簡単にわかるように、a(t_0)=1と規格化されている。

すると、空間線素は、
dl^2 = a^2(t)\gamma_{ij}dx^idx^j
であり、\gamma_{ij}は、基準時刻t_0における空間計量であって、時間に依存しない。
よって、4次元線素は、
ds^2 = -c^2dt^2 + a^2(t)\gamma{ij}dx^idx^j
という形に制限できる。あとは、時間一定面における静的な一様等方3次元計量\gamma_{ij}を求めれば良い。

  • 2.1.2 一様等方空間

[図2.1]
図から分かる
r=R_c\sin (x/R_c)
を微分すると、
dr=R_c \cos (x/R_c)\cdot dx/R_c = \cos (x/R_c)dx
だから、
dx^2 = 1/\cos^2(x/R_c)dr^2 = \frac{1}{1-\sin^2(x/R_c)}dr^2=\frac{1}{1-Kr^2}dr^2
となる。よって、2次元線素は
dL^2 = dx^2 + r^2d\theta^2 = \frac{dr^2}{1-Kr^2} + r^2 d\theta
となる。

[曲率]
曲率K=1/R_c^2は、普通に考えれば、K>0であり、正の曲率を持っている。
しかし、K\leq 0のケースも考えられる。
K=0は、平坦な無限に広がる平面である(普通の極座標と同じになる)。
K<0の場合は、R_cを虚数にすれば得られる。
すると、R_c=i{\cal R}_cと置き換えることで、r={\cal R}_c\sinh (x/{\cal R}_c)とすることができる。

このとき、正の曲率の時は、x > r = R_c \sin (x/R_c)となり、負の曲率の時は、x<r = {\cal R}_c \sinh (x/{\cal R}_c)となる。

[3次元空間での線素]
空間の等方性の帰結として得られる3次元線素。
dL^2 = F(r)dr^2 + r^2 (d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2)
\phi = 一定とすることで、2次元球面に帰着することから、
F(r) = \frac{1}{1-Kr^2}
が得られるが、これが変数変換の自由度を除き唯一の形であることが分かる。

[(2.14)の導出]
???
これは疑問だけど、一般相対論から導くのかな?

(2.14)を導くと、^{(3)}Rが座標に無関係であることを考慮して積分できる。
1-\frac{1}{F} = \frac{^{(3)}R}{6}r^2 + \frac{C}{r}
空間がなめらかであれば、半径の小さい極限で平坦空間に近づくから、F(0)=1という境界条件を満たし、積分定数Cは0でなければならない。
すると、Fの形は、(2.12)の形のものとなる。

  • 2.1.3 ロバートソン‐ウォーカー計量

[ロバートソン‐ウォーカー計量]
(2.8)に(2.13)の計量を代入すれば、
ds^2 = -c^2dt^2 + a^2(t)\left[\frac{dr^2}{1-Kr^2} + r^2(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2  \right]
となる。不定な変数は、a(t),Kの2つのみ。
基準時刻t_0を現在に取ることで、a(t)を現在を基準にしたスケール因子、Kを現在の宇宙の曲率とする。
変数変換を行う。
\bar{r} = \frac{2r}{1+\sqrt{1-Kr^2}}
とすると、
ds^2 = -c^2dt^2 + \frac{a^2(t)}{\left( 1+\frac{K}{4}\bar{r}^2 \right)^2}[d\bar{r}^2 + \bar{r}^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)]
となる。
この空間部分の計量は平坦空間の計量に比例していて、場所ごとに、その比例係数が異なっている。
つまり、場所ごとに計量のスケールを変化させる共形変形g_{ij}(\mathbf{x}) \rightarrow \Omega (\mathbf{x}) g_{ij}(\mathbf{x})によって、平坦な空間の計量に変換できる。
これを、共形的に平坦という。さらに、時間座標を適当に変換させると、4次元計量も平坦にすることができる。

[(2.20)の導出]
\bar{r} = \frac{r}{1 + \sqrt{1 - Kr^2}}
\frac{2r}{\bar{r}} = 1 + \sqrt{1 - Kr^2}
\left( \frac{2r}{\bar{r}}-1 \right) = 1 - Kr^2
整理すると、
\frac{r}{\bar{r}} = \left(\frac{1}{1+\frac{K}{4}\bar{r}^2}\right)
\frac{1+\sqrt{1-Kr^2}}{2}  = \frac{1}{\left(1+\frac{K}{4}\bar{r}^2\right)}
両辺を微分して、整理すると、
\frac{dr}{\sqrt{1-Kr^2}} = \frac{\bar{r}}{r}\frac{1}{\left(1+\frac{K}{4}\bar{r}^2\right)^2}d\bar{r} = \frac{1}{\left(1+\frac{K}{4}\bar{r}^2\right)}d\bar{r}$$
以上より、
\frac{dr^2}{1-Kr^2} = \frac{1}{\left(1+\frac{K}{4}\bar{r}^2\right)^2}d\bar{r}^2

[(2.23)の導出]
dx = \frac{dr}{\sqrt{1-Kr^2}}
の解は、
r = S_K(x) = \frac{\sinh (\sqrt{-K}x)}{\sqrt{-K} (K<0)
 = x (K=0)
 = \frac{\sin (\sqrt{K}x)}{\sqrt{K}} (K>0)
になるのかな?

[共動距離(comoving distance)]
座標xは、基準とした現在時刻における原点からの測地的距離であり、これを共動距離と呼ぶ。

[(2.27)と(2.28)の導出]
ds^2 = -c^2dt^2 + a^2(t)\left[\frac{dr^2}{1-Kr^2} + r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)\right]
で、K=0以外で、r^{\prime} = |K|^{-1/2}rとすると分かる。

  • 2.2 膨張宇宙の赤方偏移

  • 2.2.1 宇宙論的赤方偏移

[赤方偏移]
 1+z = \frac{\lambda_0}{\lambda_1} = \frac{1}{a(t_1)}
となる。膨張宇宙では、過去t_1<t_0からきた光は、a(t_1)<1を満たすので、赤方偏移zは必ず正となる。
つまり、宇宙のスケール因子がaとなる時刻に出発した光の波長は、宇宙の膨張の割合1/aと同じ割合で伸びる。
言い換えると、赤方偏移がzとなる天体からの光は、宇宙のスケール因子が現在の(1+z)^{-1}倍である時点からやってきている光である。

膨張宇宙における赤方偏移は、空間のスケール因子の変化によるものである。
よって、ドップラー偏移とは、区別するべきである。
むしろ、伝播の途中で、計量の時間変化によって、波長が変化する。
このような、宇宙膨張に伴う赤方偏移を、宇宙論的赤方偏移(cosmological redshift)という。

  • 2.2.2 粒子の自由運動

膨張宇宙において、自由運動する粒子は、直線運動ではあるが、等速ではない。
その速度の違いは、運動量によって測ることができる。
計算すると、
|\mathbf{P}| \propto a^{-1}
となり、運動量の大きさは、スケール因子に反比例して小さくなる。
こうして、宇宙膨張は自由運動における粒子の運動量を奪う。

ここでの議論は、質量がないm=0の場合にも成り立つ。
光子の場合、運動量は波長に反比例するので、(2.46)があらわすのは、波長がスケール因子に比例して伸びるということである。

  • 2.3 宇宙論的距離指標

  • 2.3.1 見かけの明るさと光度距離

[光度距離]
\lambda = \frac{\lambda_0}{1+z}より、
F_{bol}=\int_0^{\infty} F(\lambda_0)d\lambda_0
 = \int_0^{\infty} \frac{1}{4\pi r^2 (1+z)^3} L\left( \frac{\lambda_0}{1+z} \right) d\lambda_0
 = \int_0^{\infty} \frac{1}{4\pi r^2 (1+z)^2} L(\lambda ) d\lambda
 = \frac{1}{4\pi r^2 (1+z)^2}L_{bol}
このF_{bol}L_{bol}を使って静止ユークリッド空間にいるかのように天体までの距離を見積もったものを光度距離(luminosity distance)という。
d_L \equiv \sqrt{\frac{L_{bol}}{4\pi F_{bol}}} = (1+z)r(z)
z \ll 1の極限で、測地的な共動距離xに近づくが、一般には等しくない。
しかし、xと1対1の対応関係を持っている。

[等級]
ボロメトリックな等級は、ゼロ等級に対応する基準フラックスをF_0とすると、見かけの等級は、
m = -2.5 \log \left( \frac{F_{bol}}{F_0} \right)
で与えられる。ここで、
F_0 = 2.52 \times 10^{-5} [\mathrm{erg}\mathrm{cm}^{-2}\mathrm{s}^{-1}]
である。

ある天体を10pc離れた場所から見たときの見かけの等級を絶対等級という。
10pcは、宇宙膨張の影響を受けないほど小さく、対応する赤方偏移は0と近似できる。
よって、絶対等級は、
M= -2.5 \log \left( \frac{F_{bol,10pc}}{F_0} \right) = -2.5 \log \left(\frac{L_{bol}}{4\pi (10\mathrm{pc})^2 F_0} \right)
で定義される。

[距離指標]
(2.61)は、F_{bol,10pc} = 10^{-0.4M}F_0F_{bol} = 10^{-0.4m}F_0から、
d_L = \sqrt{\frac{L_{bol}}{4\pi F_{bol}}}= \sqrt{\frac{(10\mathrm{pc})^2F_{bol,10pc}}{F_bol}}
    = (10\mathrm{pc})\times \sqrt{\frac{10^{-0.4M}F_0}{10^{-0.4m}F_0}} = 10^{1+0.2(m-M)} [\mathrm{pc}]
と導かれる。ここで、m-Mを距離指標(distance modulus)と呼ばれる。

この量は、次のように変形できる。
m-M = 5\log \left(\frac{d_L}{10\mathrm{pc}}\right)
    = 5\log \left(\frac{d_L}{10^{-5}\mathrm{Mpc}}\right)
    = 5\log \left(\frac{d_L}{h^{-1}\mathrm{Mpc}} \right) - 5\log h + 25
    = 5\log \left(\frac{d_L}{c/H_0}\right) - 5\log h + 42.384

[K-補正]
ある波長範囲で観測された光は、赤方偏移のために、光源において別の波長範囲で放射されたものである。
対応する波長は、光源の距離によって変化し、この補正をK補正と呼ぶ。
ある波長帯Aに限定した観測を行うことを考えてみる。
このときのフラックスは、
F_A = \int_A F(\lambda_0)d\lambda_0 = \frac{1}{4\pi r^2 (1+z)^3} \int_A L\left(\frac{\lambda_0}{1+z}\right)d\lambda_0
で与えられる。積分範囲は、対応する波長範囲であり、フィルターの場合は波長ごとに重みのついた積分である。

K補正は(2.66)のようになるが、この値は、一般にゼロでない。
しかし、光度の波長依存性がL(\lambda ) \propto \lambda^{-1}の場合のみK補正がゼロとなる。

  • 2.3.2 ハッブルの法則とハッブル図

[ハッブル図]
赤方偏移と光度距離の関係を図に表したものをハッブル図という。
z \ll 1の近傍宇宙では、ハッブル図は直線上に乗り、その傾きからハッブル定数を求める。
しかし、赤方偏移が大きいところでは、ハッブル図は一般に曲線となる。

その曲線は、赤方偏移がそれほど大きくない場合には、式(2.70)のテイラー展開より、
d_L = \frac{cz}{H_0}\left[1+\frac{1}{2}(1-q_0)z + {\cal O}(z^2)\right]
となる。(この展開がよくわからないなー?)

ここで、
q_0 \equiv \left. \frac{1+z}{H}\frac{dH}{dz}\right|_0 - 1 = - \left. \frac{a\ddot{a}}{\dot{a}^2} \right|_0 = - \frac{\ddot{a}(t_0)}{\dot{a}^2(t_0)}
は、減速パラメータ(deceleration parameter)と呼ばれ、現在の宇宙膨張の原則を表す無次元量である。

  • 2.3.3 見かけの角度と角径距離

[角径距離]
長さlの両端の座標値(r,\theta ,\phi )(r,0,0)(r,\Delta\theta ,0)となるように座標を取る。
時刻を固定すると、この長さlに沿ってdt=dr = d\phiだから、ロバートソンウォーカーの線素はds = ard\thetaとなる。
よって、物理的長さlは、
l = \int_0^{\Delta\theta} ard\theta = ar\Delta\theta = \frac{r}{1+z}\Delta\theta
となる。ここで、静止ユークリッド空間であるかのように、見かけの角度から見積もった距離を、
d_A \equiv \frac{l}{\Delta\theta} = \frac{r(z)}{1+z}
を角径距離(angular diameter distance)という。

光度距離との関係は、
$$d_A=\frac{d_L}{(1+z)^2}
であり、赤方偏移に対する依存関係は、
d_A = \frac{1}{1+z}S_K\left[\int_0^z \frac{cdz}{H}\right]
となり、2次までの展開は、
d_A = \frac{cz}{H_0}\left[1 - \frac{1}{2}(3+q_0)z+{\cal O}(z^2)\right]
である。

  • 2.4 宇宙年齢とホライズン

[宇宙のはじまり]
宇宙の始まりは、膨張宇宙においては、aが0になり、zが無限大になる場合であると考えられる。
未来の果ては、aが無限大、zが-1になる場合であると考えられる。

[ホライズン]
過去に因果関係を持つことのできる範囲の境界を粒子ホライズン(particle horizon)という。
未来に因果関係を持つことのできる範囲の境界を事象ホライズン(event horizon)という。

この辺の式は、a=\frac{1}{1+z},\frac{\dot{a}}{a} = Hを使えば、変形できる。

最終更新:2016年04月04日 23:18