清涼な大気に公園は包まれている。その公園の中央に位置するブランコの鉄柱の上には今、一組の男女がいる。
男は168センチメートルの短身ながらも長年の鍛錬によって、高い密度を秘めた筋骨を持っているショッキングピンクパンツの中年男。
――蝦蟇使いの義賊。
自来也(ジライヤ)である。
女は金糸の髪を風に流し、165センチメートルの体躯をシャツとGパンで包んでいる。100オーバーの魔乳。20代前半くらいの超グラマラス美女。
――天翔る戦乙女。
ブリュンヒルドである。
そんな出自も性別も在り方も違う男女が夜の公園で、しかもブランコの鉄柱の上に立っていた。
そんな少しばかり非日常的な光景もジライヤの一言で崩れた。
「う~~む…………やはりあの娘が乳と尻と腰のバランスが一番に良いのう」
やっていることは、彼の生態となっている“覗き”(生命の洗濯)であった。おまけに、ブリュンヒルドの方も一緒に覗いている。
さらに言うなら、彼らは覗きをするのに自身の超視力と魔術を使っていた。
ジライヤは遠見の妖術で、ブリュンヒルドは遠見の
ルーンで。
神秘の無駄遣いである。某ツインテールはキレるかもしれない。
「あの娘は、まだ上半身の鍛え方が足りないね。重量物を使った鍛錬をおすすめするね。……あっ」
覗きの途中、ブリュンヒルドはふと思い出したかのような声を出した。
「何じゃ?」声だけを向ける。
「先ほどのことなのだが、少々言いたいことがあったのを思い出したのだ」
「何じゃ? 言うてみい」視線はまったく外さない。
「ああ、わたしの事をデカ乳尻羽娘と言ったが、それは誤りだ」
そんなことを極めて真剣に言った。
「は…………? でかいじゃろう。真逆、小さいとはいわんじゃろう」
少々どもりながら言った。それに、彼女が貧乳なら某ツインテールは虚無である。
「ああ、すまない言葉が足りなかった。わたしよりも乳と尻が大きい友人がいるのだから、わたしだけをデカ乳尻羽娘と呼ぶのは誤りだと言いたかったんだ。あと、羽娘はまあいい」
ちなみに、自分の胸が周りと比べて大きいと言うことは承知である。
「乳は兎も角、尻がお主より大きいのは、誰じゃったかのう?」
「
エウロペだ。彼女のヒップはわたしより大きい。しかし、絶妙なラインと持ち上がりぐあいで、素晴しい尻である」
まるで、自分の母親が美人であることを自慢する子供のように、目を輝かせて言った。
(さすがにおなごであるお主が言うのはどうかと思うんじゃが……)
同時刻、衛宮邸で
アステリオスに、エウロペは膝枕で耳掃除をしていた。そしてクシャミをした。……後の事は語る必要のない話である。
気を取り直してジライヤは次に移る。
「ま、まあエウロペの尻が素晴しいことはわかった。さすったことがないから、参考になったのう。感謝する(孫がヤバイからのう)」
その言葉に、うむとだけ頷きジライヤの返答を待った。
「乳の方はわかるぞい。プテサンじゃろう。あやつの乳は確実に、ブリュン、お主より大きいんじゃ。カップ一つ分ぐらいわなあ」
「その通りだ。しかしその返答は少し言葉が足りない。ウィっちはわたしより七センチメートル背が高い。ウエストも四センチメートル多く、わたしより八センチメートルバストがあるからカップが一つ多い。と答えるべきだ」
立て続けにそうジライヤの台詞を修正した。ちなみにバスト計算式も聖杯から与えられていた。
「うんうん、そう答えなければ誰か勘違いしてしまうじゃろうなあ。ああ、それにしてもじゃ」
「? 何かな」
「いやなに、プテサンの身長百七十二センチメートル、体重六〇キログラムなのに、なんであんなに大きいのかのう、と思ってな」
「ああ、それは簡単な質問だ。『こーんな簡単な答えなのか。ハハッ!』と言ってしまいたくなるくらいに簡単だ」
「おお、何じゃそれは。早う教えてくれんかのう」
子供のように興奮して縋り寄るジライヤ。好奇心は人よりも強いらしい。
「フフフ………あわてなさんな。早い男は嫌われるぞ」
と、そこで一息入れ。
「彼女に聞いたところ、『宙に浮いた逸話を持っているから』だそうだ。だから常に体がほんのチョッピリ浮いているんだ。で、あるから見た目より軽いんだ」
「……はあ……何じゃか、無理矢理な答えじゃのう」
あまりその答えに満足してないようだ。
「まあ、どんなに考えようとも答えが見つからない問題があるものさ。特に女性の体重に関してはな」
パチリとジライヤに向かってウインクした。ジライヤの鼓動が少し速まった。
ちなみにブリュンヒルドがプテサンの体重の事を話したとき、プテサンは熊太郎に向かって派手にクシャミをした。
熊太郎はそれに怒ることなく、取り出したティッシュで鼻をちーんしてあげた。いい話である。
そこからはたわいもない会話が続いた。
ピサールがメタボ警告を受けたとか、某腹黒がまた黒くなったとか、熊太郎は本当に熊なのか、もしかしたらミュータントかもしれない。
だったら最後の台詞はコレに決まりだな。『クマー(私を見て金ちゃん)』『クマー(これが私の魂。これが私の知性)』『クマー(私は生きていた)』とか。
まったく取り留めなく、無秩序に話の花を開いていた。
ちなみに、単語の意味もネタも聖杯から与えられて知っていた。
「………………………」
「………………………」
しばらくして、会話がぷつんと途切れてしまった。そんな状態が時計の秒針が半周するくらい続いたとき、ジライヤが静かに口を開いた。
「のう、こんな猥談をしに来たわけじゃないじゃろう。“用”とはいったい何なんじゃ」
ブリュンヒルドは一度フッと笑い、おもむろに乳房をいきよいよく上下に揺らし、谷間から落ちてきた缶珈琲を二本キャッチした。
そして片方をジライヤに向かって投げた。
投げられた缶珈琲はかなりの速度を持っていたが、ジライヤはブリュンヒルドの目をじっと見たまま、無骨な指二本で挟みキャッチした。
人肌に温まった缶珈琲をジライヤは「あんがと」だけ言い、ぐびりと飲んだ。
二人とも数秒で飲み干し、空き缶を公園の隅にあったゴミ箱に向けて投げた。空き缶は放物線を描かず真っ直ぐにゴミ箱の縁に辺り、一度上空へ舞い上がった後、二本とも中に落ちた。
ブリュンヒルドは反響音が無くなるのを待ってからその赤い唇を開いた。
「わたしと本気で一手戦え」
その言葉はジライヤの耳に届いてから、大気に溶けていった。
To be continued.
最終更新:2014年12月02日 00:23