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あわあわとロッカー(平行世界)



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 あわあわとロッカー(平行世界)


 そのあと、お鍋を食べる気はしなかった。

 露骨に口数が少なくなった私をキョータローは心配してくれていたけれど、そんな気遣いに答える余裕もなかった。

 いろいろなことを問い詰めたい気持ちも強かったけれど、それだけはかろうじて押し殺すことができた。

 それだって理性が勝ったから黙っていられたわけじゃない。

 ただ単に、衝撃的すぎて何も言えなかっただけ。

 私がおかしくなったこと、キョータローは気づいていたと思う。

 けれど、『今日は終わり!』と言ってしまえばそれ以上言及してこない。

 それは気遣いが出来るキョータローだからこそ、これ以上踏み込んでこない。

 それもすべてわかった上で、キョータローを引き離した。

 家で一人になって、ベッドに倒れこんで枕に顔を埋める。


 「また、清澄高校」


 三年間苦汁を飲まされた相手。

 私がこうなった原因。

 何をどうしても勝てなかった、サキがいる高校。


 「清澄高校に恨みがあるわけじゃない」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 でも、あまり意味はなかった。

 恨みにも似た思いが、トラウマが胸を刺激する。

 キョータローのおかげで彼方に去ったはずのものが、キョータローによって飛来した。

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 「別に、キョータローが咲と関係があったわけじゃないかもしれないし!」


 バッと枕から顔を上げる。

 よし、声質はいつものあわいちゃんに戻ってきたぞ。


 「白糸台にだって、人はいっぱいいたもん!」


 仲がいい人もいれば、悪い人もいる。

 たまたま同じ部活だっただけだ。

 サキと関わりがあったとは限らない。


 「サキは同じ一年生」


 私と同じだ。


 「キョータローとも同い年」


 ぼっちの私に話しかけてくれたキョータローが、サキと関わりがなかったことなんてありえるのかな。


 「清澄の部員は少なくて」


 1年目の清澄は人数ギリギリだったハズだ。

 女子は5人で、男子は1人。


 『それでも、俺に自慢できそうなのはこれしかなかったんだ』


 キョータローの言葉を思い出す。


 『俺だって負けねーんだよ、スゲー奴なんだよって』

 『淡みたいに全国大会で活躍するようなスゲー奴にさ。

  『俺だって負けねーぞ』って胸張って言えそうなのが、ハンドボールしかなかったんだ』


 ねぇ、キョータロー。

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 「誰にそうやって言いたかったの?」





 
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 ……
 …


 結局、あまり眠れないまま次の日を迎えた。

 とはいえどんなに辛くても、人間の体は一睡してしまえばある程度元気になる。

 昨日胸を貫いた一言も、ある程度は飲み込めるようになった。


 「よしっ」


 あわいちゃんは大丈夫。

 昨日みたいなことにならない。

 身だしなみを整えて、講義に出ないといけない。

 今日の講義はキョータローと一緒だ。

 昨日のことをちょっとだけ謝って、いつも通りに過ごそう。


 「お化粧整えてー」


 いつも通り、朝の身だしなみを整える。

 そうだ。いつも通りでいいんだ。


 「そういえば、サキはどうだったのかな」


 大会で見た限りでは、そういうところには無頓着に見えた。

 ……時計を見る。


 「もうちょっとだけ、時間あるよね?」


 気づけば、いつもより多くの時間、身だしなみを整えるのに使っていた。

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 ……
 …

 「よっ、淡。

  今日はギリギリじゃん」

 「うっさいキョータロー!

  女の子の朝は忙しいの!」

 「おー、そういやそんなこと言ってたよね」


 朝の講義、キョータローはいつも通りに話しかけてくれた。

 昨日、いきなり帰したことなんて全く気にしていないように見える。

 そのことにちょっとホッとして、何よりいつも通りのやり取りが出来たことが嬉しくて、ニヤけちゃう。


 「ねぇ、キョータロー」

 「ん?」

 「昨日はいきなり、ごめんね?」

 「いや、気にしてないよ。

  そもそもが急だったしね」

 「……うん」

 「何だよー、淡が俺のことを気遣ってくれるなんて、珍しいじゃん。

  こりゃ雪が降るな!」

 「む!」

 「悪かったって」


 笑いながらからかってくるキョータローに安心する。

 私でも、気を使われてることくらいわかるよ。

 いつものノリにしてくれようとしてるんだ。

 それなら、私だって。


 「そんなこと言うなら、レディースランチ頼んであげないよ!」

 「うへっ、それは勘弁。

  昨日も頼んでくれなかったじゃん!」

 「ふーんだ」

 「あわいさまー!」


 両手で拝むように謝ってくる。

 最初に謝ったのは私なのに、こういう風になるようにしてくれた。

 ……ありがと、キョータロー。

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 ……
 …

 「今日は特別にレディースランチを頼んであげよう!」

 「えっ、昨日ぶりなんだけど」

 「ほ、ほらっ、気を抜く必要もあるし!」

 「ダイエットを1日で諦める人みたいな理屈だな!」

 「うるさーい!

  レディースランチ食べたくないの!?」

 「今日のレディースランチはエビフライなんです!

  あわいさまー! お願いします!」


 食堂で代わりにレディースランチを頼んであげる。

 それだけのことなんだけれども、優越感に浸れる。

 キョータローのために頼んだんじゃなくて、自分のために頼んだんだってわかってる。

 それでも、目をキラキラとさせてお願いしてくるキョータローは私だけのものだ。

 ……何でこんなに、キョータローに執着してるのかな。

 京太郎が清澄高校出身だったと知って、なおさら執着が強まったのを感じる。


 「毎回思うけれど、何でレディースランチが好きなの?」

 「そんなの、いろんなおかずが付いていてお得感があるからだよ!

  一個一個頼むとさすがに食えねーし、高くつくし」

 「運動部なら全部頼んで食べるくらいすればいいのに」

 「学食って、単品で頼むと量が多すぎて飽きるじゃん。

  その点レディースランチって完璧だよな!

  飽きない程度にいろんなものを食べられるんだぜ。

  何より、男じゃ食べられないっていうプレミア感がな!?」

 「はいはい」

 「聞かれたから答えたのに興味ないのな……」

 「だって、思ったよりフツーの理由だったし」

 「どんな理由なら満足したんだ」

 「……親の仇?」

 「仇を頼むのかよ!」


 くだらない会話をしながら一緒にご飯を食べる。

 それだけで、なぜかにやけてしまった。

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 ……
 …


 そんなこんなでサークルの時間。

 今日は最後の講義もキョータローと一緒だったから、一緒にサークルに向かうことにしたよ!


 「それじゃあ、今日もあわいちゃんがキョータローに教授してあげよう!」

 「ホントかー?

  本当に教えられるのかー?」

 「ふふーん、あわいちゃんのマネージャー力を甘く見てはいけないのだ!」

 「スポーツドリンクを差し入れしてくれたくらいじゃねーか」

 「へー、そんなこと言うならスポーツドリンクもあげないもん!」

 「ウソだって。

  なんだかんだで女の子に差し入れもらえるのって嬉しいし」

 「ホント?

  私に差し入れもらって嬉しい?」

 「おー。

  美少女あわいちゃん、だろ?」

 「えへへー!

  キョータローのくせによくわかってるじゃん!」


 冗談みたいな掛け合いでも、キョータローに美少女って言ってもらえて嬉しい。

 ニヤける表情を抑えようとも思わない。ずっと笑顔!


 「それじゃ、準備してくるよ」

 「あいあいさー!」


 元気に返事をして、了解です、なんてジェスチャーをしてみせる。

 キョータローが見えなくなると、途端に寂しくなる。

 ……ムー。

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 「あっ、ちょっと待ってキョータロー」

 「お”ま”っ!」


 扉を開けて中に入る。

 するとそこには上半身裸のキョータローがいた。

 あ、あわわわわっ!?


 「な、なんで脱いでるの!?」

 「いや、着替えないと出来ないだろ、フツー」

 「そ、そうだった」


 運動用の服に着替えるのはフツーだよね。

 な、なんでそんなことにも気がつかなかったのかな。


 「わっ、キョータロー腹筋割れてるじゃん!」

 「これでも鍛えてるんだぜ!

  いつ海に行ってもいいように!」

 「誰かと行く予定でもあるの?」

 「ないです……」


 しょんぼり項垂れるキョータロー。

 そっか、誰か一緒に海に行ってくれる人はいないんだ。


 「それなら、今度あわいちゃんが付き合ってあげよう!」

 「えっ、泳げるの?」

 「失礼だよ!

  あわいちゃんだって浮かべるもん!」


 ちょっと悔しくて、高校時代から成長してきた胸を強調してみる。

 ……あれ、キョータローが恥ずかしそうにそっぽ向いちゃった。

 ふっふっふ、あわいちゃんの魅力にやられちゃった?

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 「ねぇー、キョータロー。

  腹筋触ってもいい?」

 「年頃の女の子がそういうこと言うんじゃありません」

 「ちぇー」

 「ほら、ここは女子禁制だからさっさと出てった出てった」


 無下もなく追い払われて、あひる口にして撤退しようとする。

 すると、足音が聞こえてきて―――


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       ′ !   | / ̄`∨   |´ ̄Ⅵ    |     |
       |  |   r≠ミ、∨  | r≠ミx   |     |
       |  |  从 r':::::}!八  〃r'::::::}!》  |     | 「あわっ?」
       |  |  ハ弋)ソ   \{ 弋)ソ |   |     |
       {  |   :i ,,,  ,     ,,,, /  八   !
.        |   :}          /7 /     |
        八   人   v  フ   / /}    八
         \{\( >...       仏イ/    /:  \
.           /    ≧ー <    |/   /:    \
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 自分の意思とは関係なく、急に風景が暗くなる。

 ガタッ、と大きな音を立てて身動きが取れなくなった。


 「(ムグっ?)」

 「(静かに静かに)」


 動こうと思っても、身動きひとつ取れない。

 自分の意思で体が動かせないというのは未知の体験だ。

 最初は暗くて何も見えなかったけれど、次第に目が慣れてきて状況がわかってくる。


 えっ


 何でキョータローに抱きつかれてるの!?

 わずかに入る光から察すると、ここはロッカーの中!?


 「(さっき言ったろ、ここ女子禁制だから、俺が怒られるんだよ)」

 「(で、でも)」

 「(何もしないから、大丈夫だから。

   いやほんと怖いんだ許して!)」


 ちょっ、耳元で囁くのやめてぇ!

 思い切って動こうとするも、キョータローは怒られるのが怖いのか、ピクリとも動かない。

 男の子に身動きが取れなくされるっていうシチュエーションって、こういうのなの!?


 「(謝るから! 後で何でもするから!)」

 「(ムググー!)」


 キョータローの匂いが近い。

 鼻がくすぐったい。

 悪い臭いとは思わなかった。

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 不本意だけれども、私の不注意でキョータローが怒られるのも忍びないし、黙ることにした。

 しかし、キョータローの巨体が入るロッカーなんて初めてみた……。

 それにしても全く身動きが取れない。

 キョータローなんか、そのままじゃ入れないから頭を下げて身を小さくしている。

 それはつまり、全力で私に抱きついていると言うことだ。


 「(わーっ!!)」


 男の子の体って、固い!?

 テルーとかに抱きついた時とは全然違うよ!?

 あっ、テルーは違う意味で硬かったけれど……。

 それに、キョータローはさっき着替え中だったから上半身裸だ。

 こんなのもうゴーカンだよ!

 鍛え上げられた筋肉が直に肌に触る。


 「(ぐぬぬ……)」


 なんだか悔しくて、さっき言ってた腹筋を触ってみる。


 「(ひゃぁ!?)」

 「(お?)」


 キョータローが必死に悲鳴を抑えている。

 いきなり触られてびっくりしたのかな。


 「(く、くすぐったいからやめろって)」

 「(やめない。こんなゴーカン紛いなことして!)」

 「(悪いって! ひゃう!?)」 

 「(面白い!)」


 自分のものとは違い、鉄板のように固い胸板と腹筋。

 ゴツゴツした骨の感覚は触っていて飽きない。

 キョータローにしてはなかなかいいものを持ってるじゃん!

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 「出て行ったみだいだね」

 「……ふーん」

 「いやほんと、ごめん」 


 わずかに入る外の風景から確認し、ロッカーから解放され、やっと外に出られた。


 「私じゃなかったら大問題だよ!」

  絶対に先輩に怒られた方がマシだよ!」

 「た、確かに、強姦未遂より事情を説明して説教された方が……」

 「それに、キョータローが一緒に入る必要なかったじゃん!」

 「ごもっともです、ごめんなさい!」

 「キョータローのバカ!」

 「ごめん」


 両手を合わせて頭を下げている。

 どうやら、本気で謝っているらしい。


 「……なんでも言うこと聞いてもらうんだからね!」

 「わかりましたあわいさま!」

 「ゆ、許してあげる」


 本当は、あんまり嫌じゃなかった。

 男の人と密着するなんて考えたこともなかったのに。

 フツーだったら絶対に怒って絶交して、警察に突き出すのに。

 キョータローと一緒なのは、嫌じゃなかった。

 何故か頭の中にサキの顔が浮かんでくる。

 サキとは、こういうことはしてないよね?

 ……なんでこんなことを考えているんだろう。


 「誰か来る前に外に出てくれ……」

 「はーい」


 終始申し訳なさそうにドアを閉めるキョータロー。

 ふふん、なんでも言うこと聞いてもらう、か。どーしよーかなー?

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 今度はドアの前で一人で待機。

 何人かとすれ違ったので、ペコリと頭を下げておく。

 正規マネージャーでもないのにこうしていられるのは、みんなが優しいからだもん。

 それくらいの常識は学んだよ!

 ふと、服についたキョータローの匂いが香ってくる。

 さっきまでは皮膚の感触に気を取られていたけれど、今はキョータローの匂いに敏感になる。


 嫌な、匂いじゃ、ない、かも。


 「なんだ、高久田か」

 「なんだとはなんだ」


 ドアの外で待っていると、キョータローの声が聞こえてきた。

 タカクダって、キョータローと仲がいい人だっけ。

 一緒にハンドボールをやっていたのは覚えている。

 でも、キョータローより運動神経が悪そうで、あんまり本気でやっているようには見えなかった人だ。


 「大星が外にいるけどどーしたん?」

 「うるせー。

  ここは女子禁制だろ。待ってもらってるんだよ」

 「わざわざ待ってもらってるのか!

  くー! 美少女の専属マネージャー持ちは違うねェ」

 「こんなことになるとは思わなかったよ」

 「自分がどれだけ恵まれてるかわかってるのかァ!?

  だいたい、マネージャーもレディースランチも、咲ちゃんにやってもらってたろォ!?」

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 「えっ?」




 

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 それはきっと、キョータローたちにとっては何気ない会話。

 でも、私には聞きたくなかった事実。


 また、『サキ』だ。


 何で、何で、何で?


 麻雀だけじゃないの?


 キョータローも、サキのものなの?


 ハンドボールのマネージャーって、私だけじゃなかったの?


 レディースランチを頼むのは、私だけじゃなかったの?


 全部、サキがやっていたことをなぞっていただけ。


 私がサキから逃げて心の拠り所にしていたものは、全てサキが持っていたもの。

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 16/16





 「いやだよ、キョータロー……っ!」




 


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 続く

最終更新:2016年01月15日 15:19