アットウィキロゴ

The Big Star ! !(平行世界)



 1/17

 【 The Big Star ! ! 】(平行世界)


 胸が沸き立つ。

 ドキリと音がする。

 それはいつも聞き慣れているはずの声で、私の大好きな声だ。

 こんなところにいるはずがない。

 だって、さっきまで着替えてたんだもん。

 それに、ここにいるって言ってない。

 そもそも、いなくなったことだって知らない筈だ。

 外に出て私がいないことに気づいても、すぐにここに来るなんて思わない。


 これは都合の良い幻聴だ。

 そうじゃないと、ロマンチックすぎるじゃん。


 「おーい、『大星』。寝てるのかー?」


 おちゃらけたように、あの時のように。


 「俺がなんでここに来たのか、って思ったろ」


 ドキリ

 なんで、なんでわかるの?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2/17






 「エスパーだから」






 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 3/17

 「キョータローッ!」


 その言葉に涙腺が決壊する。

 涙で化粧がぐちゃぐちゃなのも構わず、キョータローに抱きつく。


 「キョータロー、キョータロー!」

 「ちょっ!」


 いきなり抱きついても微動だにしない体幹。

 それでも抱きつかれることに慣れていないのか、慌てているのが伝わって来る。

 抱きしめてくれてもいいのに、律儀に両手を広げて空に向けている。

 ふふっ、なんかカッコ悪い!

 でも、それが可愛い。


 「ひとまず、どっか行くか」

 「ヤダ」

 「……わかったよ。

  ゆっくりしていーぞ」


 さっきまで泣いていたのに、そんな気持ちは全部吹っ飛んじゃった。

 腕の中でキョータローの胸板に頭を押し付ける。


 「グリグリー」

 「うがががが」

 「痛い?」

 「いや全然」

 「えへへー。いい匂いー!」

 「お、おい」


 持て余した手で首筋を掻いているようだ。

 あっ、恥ずかしがってる!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 4/17

 ……
 …


 少し抱きついて満足して、場所を移動した。

 ロマンチックなところがいい! なんて言ってみたら、大学の屋上に連れてきてくれた。


 「及第点かな!」

 「偉そうに」

 「女の子は偉いんだよ!」

 「はいはい」

 「屋上って初めて来た!」

 「屋上ってロマンじゃね?

  高校だと入れねーけど、大学だと入れるからすぐに来てみたんだ。

  すぐに飽きたけどなー」

 「ふーん、わかんない!」


 さっきまで泣きじゃくっていたのが嘘のように晴れやかな気持ちだ。

 サキやキョータローへの複雑な感情は渦巻いているけれども、それ以上にキョータローと一緒にいることが嬉しい。

 キョータローがきてくれたことが嬉しい!

 お化粧は落としちゃったから、もうちょっと気合を入れたい気分だけれども、今はそんな場合じゃない。


 「ねぇ、キョータロー」

 「なんだ、淡」

 「……聞いてくれる?」

 「おう、なんでも!」


 ドン、と自分の胸を叩いて胸を張ってくれている。

 本当に、ありがとう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 5/17

 キョータローは私の話をじっと聞いてくれた。

 時折頷いたり、相槌を打ったりしてすごく話しやすかった。

 高校時代に辛かったこと、麻雀でサキに負けて悔しいことも喋った。

 キョータローに興味を持った理由や、好きだってことは、まだ言えないけれど。


 「ねぇ、キョータロー」

 「おう」

 「キョータローとサキって、どういう関係?」


 それを言うとさっきまでの自信満々な表情から一転、少しだけ陰りを見せる。


 「中学校と高校のクラスメイト、だよ」

 「それだけ?」

 「関係はそれだけだ」

 「ふーん」


 安堵はしない。だってわかるもん。


 「キョータローってさ。

  サキのこと好きだったんでしょ」

 「……」


 表情の変化だけじゃない、キョータローにしては曖昧な返答。

 自分でも嫌な言い方だと思う。

 でも、覚悟は決めたんだ。

 全部聞いて、全部言うって決めたから、言葉は飾らない。


 「好きだった、のかな」

 「え?」

 「自分でもよくわからない。

  本当だよ」


 遠い目をして屋上の手すりに手をかける。

 嘘は言ってないと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 6/17

 「中学校からの腐れ縁でさ。

  俺が声をかけたのがきっかけで仲良くなって、いろいろと付き合ってもらってたんだ」

 「レディースランチ、とか?」

 「なんでそれを……。そんなこともあったよ」

 「ふーん……」

 「それから高校までは俺が面倒見てやってたんだ。コミュ障だったし。

  アイツが麻雀できるって知って、高校の麻雀部に連れてきた。

  俺と咲の関係はそこで終わりだよ」

 「……え?」


 ポカーンとしてしまう、それだけ?


 「麻雀を始めてから自然と離れていった。

  インターハイで活躍する咲は俺の知っている咲じゃなかった。

  それを凄いと思ったと同時に、もう隣にはいないんだな、って感じてさ」

 「うん」

 「決勝戦、優勝した時に思った。

  離れて欲しくない、って」


 ズキリ、と心が痛んだ。


 「それから二年間、麻雀頑張ったんだけどさ。

  これが全く上手くなれねーの。

  少しずつ疎遠になって、卒業して、この大学に入った」


 キョータローが息を止める。

 コクリと頷いて話を促す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 7/17

 「あの瞬間のみんなは輝いてた。

  俺は違った、咲は離れていってプロになった」

 「俺一人だけみんなと違ってしまったのが悔しかった」

 「もし、俺が咲と隣に入れたなら今と違う関係だったかもしれない」

 「自身も何もなくて、何も声に出せなかった」

 「だからハンドボール部に戻ったんだ」

 「前に淡が言ったような、大層な人間じゃないよ」

 「最初は逃げてただけだ。

  『俺だって負けねーんだよ、スゲー奴なんだよって』

  それをみんなに、咲に伝えたかったのかもしれない。

  終わってから、もう遅くても、それでも続けたかった。

  一度挫折していたからこそ、もう一回は嫌だった」


 キョータローは目を逸らさない。

 じっとこっちを見てくる。


 「でもさ、俺ってそんな出来た人間じゃないんだよ」

 「……うん」

 「ハンドボールやってて、中学生の頃より出来なかったり、体の動きが硬かったり。

  ずっと努力してきた人には敵わなくて、努力の成果だって全く出ない。

  これから頑張って行っても何にもならないかもしれない。

  高校三年間は無駄だったんじゃないかって焦燥して、ズタボロだったんだ」

 「そ、そんな……」

 「そんなときにさ。

  隣にいてくれたやつがいるだろ」


 キョータローが一歩近づいた。

 息を思い切り吸い込んだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 8/17







 「俺、淡のことが好きだ」






 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 9/17


 「あ、あわわわわっ!?」


 顔が真っ赤になる。

 熱くなっているのを感じる。

 後で言おうと思っていたことがいきなり出てきた!?

 う、嘘っ!?

 な、なんでなんでなんで!?


 「やっべぇ、はっずい……」


 キョータローも俯いている。

 状況が全く理解できないよっ!?

 なんで告白されてるのっ!?


 「こ、こんなところで言う予定じゃなかったんだけど」

 「わ、わ、わ」

 「……だってさ。無理だろフツー。

  そんな精神状態で、献身的に接してくれる美少女とか、惚れるっつーの」

 「び、びしょ!?」

 「?

  いつも自分で言ってるじゃん」

 「言ってるけど!」


 そうじゃないよ!

 私が胸の内を吐いて、キョータローに告白して、これから少しずつ好きになってもらおうと思っていたから予想外!?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 10/17






 「私だってキョータローのこと大好きだしっ!」







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 11/17

 「えっ」

 「あわわわあぁぁぁーー!?」


 もう自分が何を言っているのかすらわからない。

 とりあえず、私が想定していたようなロマーンチックな告白にはならなかったみたいなのは確実だよっ!


 「いよっしゃぁぁぁ!!

  これで両思いだよな!?」

 「う、うん」


 な、何か納得いかない。


 「キョータロー」

 「?」

 「咲のことはいいの?」

 「えっ、いやそう言われても俺が好きなのは淡だし」

 「だ、だって咲に伝えたかったんじゃ……」

 「うーん。当時もよくわかんなかったんだよね。

  思い出は美化されるし、薄れるし。

  俺の隣に淡がいればそれでいいんだ」

 「いいの?」

 「恥ずかしいから何度も言わせんなって。

  むしろなんで俺に構ってくれてるのかが知りたかったくらいだよ」


 あっ、そういえば大事なことを言ってない。


 「き、嫌われちゃうかも」

 「どんとこい!」

 「う、うううううー!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 12/17

 「さっき言った通り、サキに三年間麻雀で負け続けてプロやめたんだけどね?

  麻雀以外のサークルを探してたらキョータローを見つけて。

  『コイツなんで才能ないのに頑張ってんだろ』って思って」

 「うぐっ」

 「ご、ごめん」

 「大丈夫大丈夫。続けてくれ」

 「私は辛くて逃げちゃったから、頑張ってるキョータローの姿が新鮮だったんだ。

  それから食堂とか講義で話しかけられて、気付いたら……」

 「そ、そうだったのか」

 「キョータローは卑怯だよ!

  イケメンのくせにぼっちで突っ伏して寝てる女の子に声をかけるとか!

  そんなの惚れちゃうじゃん!」

 「はぁー!?

  美少女に弱っちぃハンド部員の専属マネージャーになられる方が惚れるだろ!

  卑怯なのは淡だし!」

 「キョータローだ!」

 「淡だ!」

 「傷心の女の子につけ込んで!」

 「傷心につけこまれたのはこっちも同じだ!」

 「ムー!」

 「ぐがー!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 13/17

 しばらくそんな風に言い合って、二人とも疲れて息を切らす。


 「お互い様だったんだな」

 「そ、そうだね」

 「スゲー奴に心を折られて、自分なりに頑張ってるところを好きになったんだ」

 「うん」

 「でも、それでいいんじゃないかな」

 「そうなの、かな」

 「努力してもどうしようもないことはいっぱいある。

  俺は麻雀でもハンドでもそうだけど、大半の人間ってそうじゃん」

 「そっか、そうだよね。

  私は自分が特別だと思ってただけなんだ」


 みんな自分が特別じゃないって気付いて、妥協していくんだと思う。

 私は人より麻雀の才能があったから特別だと思っていたけれども、そうじゃなかっただけなんだ。


 「そんなことねーぞ。

  淡は十分特別だし!」

 「えっ、そう?」

 「ほらっ、俺にとっての特別、だろ?」


 キラッ、なんて擬音をつけて笑うキョータロー。

 うぷぷっ。


 「くさーい!」

 「うぐっ」

 「そんな口説き文句聞いたことないよー!」

 「うるせー! どーせモテねーし!」

 「そんなキョータローにはー、仕方ないからあわいちゃんが特別になってあげるのだー!」


 そう言って身を縮めてキョータローに近づく。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 14/17


 「ねぇ、キョータロー」


 「なんだ」


 「こういう時は、抱きしめるんだよ?」


 「いい、のか?」


 「何も言わないで抱きしめてくれたらポイント高かったのになー」


 「うるせー。おとなしく抱きしめられてろ」


 「ふみゅっ。

  ……えへへ。頭撫でていいよ」


 「だ、だってお前、気軽に髪に触っちゃダメって言ってたし」


 「……サキにはしてあげたことある?」


 「ないけど」


 「ふふーん。

  じゃあ髪も触っていいよ」


 「お、おう」


 「あっ、セットは崩さないようにね!」


 「わかった……」


 「何でそこで先っぽ触るのかな!」


 「いや、撫でたらどうやっても崩れるじゃん」


 「ほかの人とロッカー入ったことある?

  入ってたら通報しないといけないかも……」


 「ないですないです! あれは本当にごめんって!」


 「……今度からは、好きにやってもいいんだよ?」


 「!」


 「ねぇ、キョータロー」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 15/17







 「キスはしたことある?」







 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 16/17

 ……
 …

 夕日が落ちて、家に帰る。

 心配だからと、キョータローに送ってもらっている。

 嬉しくなって、ニヤけてしまって、思い切って腕に抱きついてみる。


 「これでカップル成立だね!」

 「あ、ああ」

 「あれー、キョータロー照れてる?」

 「その、腕を組まれると胸が……」

 「当ててるのだー!

  ……さ、触るのはまだダメだからね!」

 「お、おう」


 それはまだダメ。そのうち、ね?

 だ、だって、私もハズカシーもん!


 「あっ、これからはレディースランチ頼んであげないから!」

 「うげっ、マジで!?」

 「ふふふー、せっかくの恋人同士なんだもん。

  これからはね!

  食べさせあいっこするんだ!」

 「別のを頼んでってか。

  いいのか?」

 「あーんってしたいじゃん!」

 「いきなりデレデレだな」

 「嬉しくない?」

 「嬉しい」

 「でしょ!

  だってさ。

  麻雀でも負けて、ハンドでも負けて、あわいちゃん泣かせて、レディースランチなんか食べちゃって」

 「うぐっ」

 「サキと離れて寂しがるような寂しがり屋で、女の子を泣かせちゃうようなヘタレで」

 「俺も泣いちゃう……」

 「でもねでもね!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 17/17







 「そんなキョータローのことが大好きなんだもん!」








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カン

最終更新:2016年01月17日 00:58