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お世話されたい(平行世界)



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 【お世話されたい】(平行世界)


 体がだるい。

 目がチカチカする。

 節々が痛い。


 「シロ姉、やっぱり熱あるよ」

 「……」


 知らない間に風邪をひいていたらしい。

 半ば強制的に京によって押さえつけられ、布団の中に入れられてしまった。

 自分は動けると言ったのだが聞いてくれず、熱を測ってみたら案の定というわけだ。


 「38度ちょい。

  シロ姉、辛いでしょ」

 「別に、なんとも」

 「嘘つけ。

  すごく辛そうな顔してる」


 そんなことはない。

 自分はいつもの無表情顔のはずだ。

 それを辛いと思えるなら、それは。


 京が私のことをよく見てくれているのかもしれない。

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 「とりあえず、シロ姉が元気になるまではお世話するからさ」

 「……大丈夫なの?」

 「任せとけって。

  これでも高校時代はぽんこつの世話を……」


 何か、嫌な匂いがした。

 それ以上言わないように掌を抓った。


 「シロ姉?」

 「……」


 そんな小さな嫉妬も、思っていた以上に弱っていた。

 結構強く抓ったはずなのに、全く力が出ていないようだ。

 嫉妬してしまう自分と、そんな自分の気持ちを汲んでくれない京に苛立ちが募る。

 調子が悪いせいもあるのだろうか。

 やけにイライラしてしまう。


 「とりあえずご飯食べてあったかくして寝ようぜ。

  俺がご飯作ってくるよ」

 「……」


 そんな自分の心なんてどこ吹く風だ。

 心配をしてくれているのはありがたいが、納得がいかない。


 「シロ姉?」

 「……」


 だから彼の手を抓ったまま離さない。

 このまま離したら何処かに行ってしまうような気がした。

 京が困ったような表情を浮かべる。

 もう少しだけ……。

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 「ほら、シロ姉。

  ご飯食べないと良くならないから」

 「……わかった」


 まだまだ満足はしていないが、京の手を握っているのも辛くなってきた。

 離れて欲しくはないけれど、手を離す。

 京が離さないでくれればいいのに、なんて思ったけれど思いは伝わらない。


 「俺、何か買ってくるよ」

 「冷蔵庫の中にあるのは……」

 「それくらい大丈夫だって。

  ほら、風邪をひいている時くらい俺に任せて」


 任せてというならば側にいてくれるだけでいいのに。

 そう思っても京は私から離れて行ってしまった。


 「……だる」


 最近少なくなっていた口癖が出てくる。

 心が締め付けられるようだ。

 風邪をひいているから心細くなっているだけ?

 それとは少し違う気がする。

 ダメだ。正常な判断ができそうにない。

 少しだけ目を瞑ろう。

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 「わわっ!」

 「……大丈夫かな」


 目を瞑ったはいいが、台所から聞こえてくるのは京の慌ただしい音。

 そういえば台所に立たせることはなかったかな。


 「えっと、とりあえず濡れタオルを作って……。

  冷えピタもないし、薬もないか」

 「……」

 「ごめんシロ姉。

  冷蔵庫の中にあるやつじゃ俺には作れないや」

 「いい、私が作る」

 「動いちゃダメだって。

  何か買ってくるから」

 「それは……」


 それは嫌だ。

 少し側から離れるだけでも身が引き裂かれるようだったのに。


 「すぐ帰ってくるから!」

 「あっ……」


 ……京の馬鹿。

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 バタン、と強く扉を閉めた音が聞こえたと同時に人の気配がなくなる。

 先ほどまでは京の立てる生活音が聞こえてきたのに、今は聞こえない。


 耳鳴りがする。

 さっきまでは他の音でかき消されていたから気づかなかった。

 心細い。

 京がいないだけでこんなにも心が痛くなる。


 まるで世界に私一人しかいなくなってしまったみたいだ。

 今まで京と私の二人だった世界から一人がいなくなってしまった。


 どうしようもない喪失感。

 自分自身の片割れがいなくなってしまったような感覚。


 「嫌だな」


 何かよくないものが自分の中から湧いてくるのを感じた。

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 少し前、鏡写しの自分の夢を見たことがあった。


 布団の中でそんなことを思い出す。


 あの時は京が浮気しているんじゃないかと思って辛かった時だ。


 今もまた、あの時のように辛い。


 私を捨ててどこかに行ってしまうんじゃないか。


 このまま帰ってこないんじゃないか。


 そんなことばかり頭の中を過る。


 「……」


 二人共元気で、ずっと一緒に居られる。


 そんな空間があればいいのに、なんて思った。


 
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 ……
 …

 次に起きた時には、体調も少しだけ楽になっていた。

 いい匂いが部屋の中を充満して、くうとお腹が鳴っている。

 そういえば朝から何も食べていない……。


 「あっ、シロ姉起きた?」

 「うん……」


 もし犬の尻尾が付いていればはち切れんばかりに振っていただろうか。

 京が私に気付いて急いで近寄ってくる。


 「えーっと、普通に作る方法わからなくて、レトルトのおじや買ってきたから食べよう」

 「……うん」

 「家事は俺がやっちゃうから気にしないでよ」


 胸を張る京だが、少し目線をそらすと洗濯物の山。

 掃除機を取り出そうとして余計に荒れてしまっているのも見る。

 私の部屋だけは綺麗になっている、というかものが減っている辺り、外に全部放り投げたのではないか。

 そんな京の不器用さに呆れるも、苦手なりにこの部屋を綺麗にして私のために頑張ったと思うと、胸が温かくなる。


 京がいるだけでこの心境の変化だ。

 全く、京はズルい。

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 「はい、あーん」

 「……あむっ」

 「へっへー。

  今日のシロ姉は俺のいいなりだなー」

 「……生意気」


 いつもならお姉ちゃんとしてやり返すところだけれど、今日はそんな気力もない。


 「ご飯食べた。

  薬飲んだ。

  あとは温かくして寝ていれば治るよ」

 「京は風邪を引かないの?」

 「健康優良児ですから!」


 自信満々に言う。

 確かに京が風邪をひいているところは見たことない。

 その機会があったら仕返しをしてやろうと思っていたのに。


 「洗濯物とかやっちゃうわ」

 「いい。後で私がやる」

 「たまには俺にやらせてくれよー」

 「区別、つく?」

 「あ、うう」

 「ネットに入れるものと、色物。

  洗濯物の干し方」

 「ダイジョーブだって!

  たまにはシロ姉休んでて!」


 京はそう言って洗濯物に取り掛かってしまう。

 ああ、破れないだろうか。

 干し方を間違えて伸びてしまわないか。

 くしゃくしゃになったまま干してしまわないか。


 そんな思考が頭をよぎるが、頭痛の前に考えることを放棄した。

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 「ほら、全部終わったぜ!」

 「明日採点する」

 「うぐっ」


 京が桃の缶詰を開けて、私の口に入れてくれる。

 冷たくて甘くて美味しい。

 なんだかんだ言いつつ、一日中京に甘えてしまった。

 だるいだるい言っていた京に会う前の私なら享受していたであろう幸せ。


 まるであの時に見た夢みたい。

 私は何もしないで、京がずっとお世話をしてくれる、夢のような日常。

 そして、『私』が言っていた世界。


 「京」

 「なんだー?」

 「ちょっとこっちに来て」

 「あいよー」


 缶詰を片付けていた京を呼び出す。

 いつも反抗的なことなんてないけれど、今日は特に言いなりだ。

 姉の威厳、というものと違って新鮮な気持ちになる。


 「……はい」

 「?」

 「今から、寝るから」

 「うん」

 「……もう」

 「シロ姉?」

 「手……」

 「あっ、なるほどね」


 こちらが『熱で』顔が真っ赤になりながら言っているというのに、察しが悪い。

 察しが悪いし、気づいた時にもなんとも思っていない。

 すぐに私の右手を両手で包むようにしてくれた。


 「おやすみ、シロ姉」

 「おやすみ、京」


 手が触れているだけで何かに包まれたように安心できた。

 まどろみに包まれて意識が落ちていく。 

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 10/10


 「京」


 「まだ寝てないの?」


 「手を離さないで」


 初めて、こんな甘えた声を出した気がする。


 京は穏やかに笑った。


 「わかったよ」


 ああ、これならさっきよりゆっくり寝られそうだ。


 このまま時間が止まってしまえばいいのに。


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 続く


最終更新:2016年03月10日 19:07