アットウィキロゴ

今のまま(平行世界)



 1/12

 【今のまま】(平行世界)


 今の自分とは違う自分がいた。

 だるいと言うのが口癖だった。

 誰かに全部やってもらうのがささやかな夢。

 その時はそれを異性にやってもらうなんて想像もしていなかった。


 ……嘘

 本当は少しだけ、期待していた。


 自分の性格はわかっているつもりだった、

 でも、彼氏なんて作れないだろうな、なんて思っていた。

 恋愛に積極的になる自分なんて想像できなかったし、気恥ずかしかった。


 友人たちが楽しそうに理想の男の子について語る時も、少し離れていた。

 『シロはどう?』なんて言われても、『だるい』としか返さない。

 強いて言うならば、『お世話をしてくれる人』なんて返した気がする。


 『シロは変わらないね』『いつも通りだね』と言われた。

 プイッと顔を逸らし、これ以上恋話を続けるつもりはないと意思表示。


 みんなはそんな私をわかっているから、それ以上追求してくることはない。

 未来の私を想像して、顔が赤くなったことを知っている人はいない。

 きっとその時の自分でさえ気づいていなかったと思うから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2/12


 身近な男の子なんていない。

 宮守は女子校だし、今までだって縁がなかった。

 そんな中、自分に踏み込んでくる男の子がいた。


 昔会ったことがある、なんて言われても思い出せなかった。

 でも、新しく関係を築くことで近しい関係になった。


 例えば、京が私のダルダルなところを知っても私に告白してくれただろうか。

 小さい頃にも私が引っ張って行ってあげていた。

 再開してからもそうだ。

 姉さん女房と言われそうな立ち振る舞いを心がけていた。


 ああ、そうだ。

 好きになったから、嫌われたくないから変われたのかもしれない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 3/12


 「シロ姉、シロ姉」

 「う……ん……」

 「良かった、起きてくれた」


 目が覚める。

 どんな夢を見ていたのかも思い出せない。

 気持ち悪いくらい汗をかいていることが最初にわかった。

 背中がぐっしょりだ。


 同時に、汗をかいている部分に気づく。

 京がずっと繋いでいてくれた手が、汗でヌルヌルしている。


 ああ、本当に離さないでいてくれたんだ。

 まだ呆然としている頭の中に安心が芽生える。


 「すごくうなされていたから起こしたんだ」

 「うん、もう大丈夫」


 これは本当だ。

 先ほどまでの気持ち悪さが嘘のように頭がスッキリしている。


 「ホントかー?

  まだ顔赤いよ」

 「そ、それは……」


 それは熱とは違う理由だ。

 今でも私の手を握りしめて離さない京の掌。

 ゴツくて硬い感触と、ヌルヌルとした感触。

 何より、汗をかいていて恥ずかしいからだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 4/12


 「一応熱測ってよ」

 「……」


 言われるがままに体温計を受け取り、熱を測る。


 「平熱」

 「ホントだ。

  汗かいたから熱下がったんだよ。

  よかったよかった」

 「……」

 「いでででで。

  なんだよ、シロ姉」


 女の子に向かって汗をかいたなんて、女心がわかっていない。

 さっきまでは力強く手を摘んでも気づかれなかったが、今ならばそこそこ痛いらしい。


 「シャワー浴びる」

 「はいはい、っと」


 慣れ親しんでいるとはいえ、京に見せたい姿ではない。

 せめてシャワーを浴びて体を洗い流したい。


 「一緒に入る?」

 「ちょっ、シロ姉……。

  本格的に風邪ひいちゃうよ」

 「風邪引くようなことするの?」

 「しねーって」


 少しからかうと居心地が悪そうに顔を背ける。

 よかった。いつも通りの私たちだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 5/12


 ……
 …

 シャワーを浴びて着替えて一息ついた。

 その間に布団のシーツを替えられていた時には心臓が飛び出るかと思ったけれども。

 人の汗や匂いが染み付いたシーツを好きな人に変えられるほどに慣れてはいない。


 「シロ姉さ」

 「ん」

 「最近、無理してない?」


 ……


 「別に」

 「嘘だ。顔に出てる」

 「表情、変わらないでしょ」


 誰だって見抜けたことはない無表情だ。

 自信がある。


 「『白望の彼氏』だからわかるんだよ」


 ……

 京、それはズルすぎる。


 「大丈夫」

 「大丈夫じゃない」

 「……平気」

 「他の言葉にしたってダメ」

 「か、変わらないでしょ」

 「熱はないけど、顔赤いじゃん。

  ……俺には言えないことなのか?」


 急に男らしい口調になるのは反則……。

 先ほどまでの風邪とは違う、胸がドキドキして止まらない。

 京が焦ったような表情で詰め寄ってくるのも相まって胸が高鳴っている。

 おかしい。私は弟をしっかり調教していたはずなのに、こんなの好みのシチュエーションじゃないのに。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 6/12


 「俺に、言えないの?」

 「……」


 なおも詰め寄ってくる京に押し倒されるような形になる。

 いつもはヘタレてこの辺で止めてしまうのだけれど、京は真剣な眼差しでこちらを見る。

 先ほど外に出た時の服装のまま。カジュアルなシャツにダメージジーンズのビジュアル系。

 そんな京に床ドンされている。


 ちょっと待って


 心臓がもたない


 真剣な眼差し


 京の湿った唇


 暖かい部屋にいたせいか汗が滴り落ちる


 京の匂い



 「い、う」

 「ん?」

 「言うから」

 「……そっか」


 不肖不肖と言った形で退いてくれる。

 ほんの少しだけ、勿体ないなんて思った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 7/12


 「私、ダルがりだから」


 「確かにシロ姉ってそういうところあるよね」


 「だから」


 「?」


 「その……」


 察しが悪い


 わざとやっているなら後で怒る


 「嫌われないかと、思って」


 「……」


 京が呆然とこちらを見ている


 ……何、その目


 京のくせに生意気


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 8/12


 「もー、今更じゃんかー」

 「は?」

 「げっ、シロ姉怒ってる?」


 人が真剣に悩んでいるのに。

 やっぱり最近の京は生意気だ。

 またどちらが上か教えてあげないといけない。


 「ごめん、言い方悪かった」

 「……何」

 「あー、違うんだよ。

  その、シロ姉が面倒くさがりなのは知ってる。

  でもさ、俺の前だと頑張ってくれてたじゃん」

 「……」


 顔が赤くなる。

 何も言い返さない。


 「服とか、髪とか、朝食とか、弁当とか、家事とか。

  あげればキリがないんだけどさ」


 恥ずかしいからやめてほしい。


 「そんなダルがりなシロ姉が、俺のために頑張ってくれていることが嬉しくて」


 ……


 「その、姉みたいな立場だったシロ姉が尽くしてくれるのが、本当に嬉しくて、さ。

  彼氏冥利につきるというか、ダルがりなシロ姉が俺のためにって。

  いや、ほんと、なんか……」



 ……やめて、恥ずかしすぎる

 やっぱり京はずるい


 「でも、やっぱり疲れてたんだよね。

  ごめん」

 「別に、いい」


 困った


 顔の熱がひかない


 京のせいだ


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 9/12


 「ちょっと頼りすぎてたよね。

  これからは俺も頑張るから」

 「別に、いい」

 「そんなこと言うなって。

  彼氏、なんだからさ」


 ……何を今更。


 「これは、私がやりたいこと」

 「でも」

 「でも、じゃない」


 そうだ。

 この言葉に嘘はない。

 この気持ちにだって嘘はない。

 ダルがりで全部やってもらいたい私だっている。

 京のために何かをしてあげたい私だっている。


 「どっちも私だから」

 「えっ?」


 勝手に悩んで、勝手に納得する。

 きっと京は訳が分からないだろう。

 それでいいと思う。

 この生意気な弟分は、ちょっと振り回すくらいでちょうどいい。


 「京に女にさせられたってこと」

 「人聞きの悪いっ!?」

 「……」

 「せ、責任は取るからっ」

 「な、何を言ってるの……」


 ……いきなり不意打ちするのは反則。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 10/12


 「京の……」


 「うん」


 「京のために頑張るのは、だるくない」


 「それは、嬉しいな」


 「女の子だから」


 「そういうもんなの?」


 「そういうもの」


 「わからないや」


 「京は女心がわからないから」


 「うぐっ。


  お、俺だってなぁ」


 「じゃあ、今の私が何を考えているのか」


 「えっ。

  ……お、俺と一緒にいたい、とか」


 「ハズレ」


 「それはそれで寂しいな」


 「正解は……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 唇同士がそっと触れあう






 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「これが、正解」


 私の顔が赤くなって、京の顔が赤くなって。


 これは熱があるだけだから、京にうつったのかもしれないなんて言い訳をして。


 京にゆっくりと抱きしめられた。

 


最終更新:2016年03月10日 19:08