『イリヤの空、UFOの夏 その2』に収録されている短編「死体を洗え」は謎の多い話である。
登場人物の名前すら明らかではなく、謎の多さゆえに物語に対するさまざまな推測が生まれた。
ここ
でもいくつかが取り上げられている。
この項目では推論の全てを取り上げることはせず、代表的な2つの話題について記す。
項目は以下
なお、ここでの記述は2ちゃんねるなどでの議論のループを避けるための暫定的な記録であり、作者の設定した「事実」と合致しているかどうかは保証されない。
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ちゃぶ台返しがお好きな人のために |
内容に入る前に、この短編の特殊な記述形態に言及しておく。
「死体を洗え」の大部分は語り口調で、会話の一方の側の台詞だけを書き出したような文章が地の文で綴られている。
そのため人称がはっきりせず、書かれている内容が事実かどうか判別できないという問題が発生する。
語り口調の部分は大きく3つに分かれている。
素直な解釈でいくなら、それぞれ「ちゅみの一人称語り」「ナンパ男の一人称語り」「静の一人称語り」と見ることができる。
しかし例えば、このうちの「ナンパ男の一人称語り」は「ちゅみの回想による二人称語り」と取ることもできる。
そうするとナンパ男の存在はちゅみの口からしか語られていないことになり、「そもそもナンパ男は実在したのか?」というレベルから疑わなくてはならなくなってしまう。
訓練に疲れたちゅみのたちの悪いたずらって線も無くはないじゃないか、ということである。
とはいえ、そのあたりを疑ってしまうとそもそも考察が成り立たない。
そこで前程として3つの仮定を立てておく。
- 語り口調の文章は、それぞれ作中で実際になされた会話のうち、一方の台詞を抜き出したものである。
- 2番目の箇所は、ちゅみとナンパ男の間で交わされた会話のうち、ナンパ男の台詞を抜き出したものである。
- ノイズ音以前は合成音声や声質の似た他人などによる会話偽造の可能性は考えない。
この仮定により、作中に「ちゅみ」「静」「ナンパ男」が存在したことは確定し、またそれぞれの間に会話が交わされたことも確定する。
ナンパ男の正体についての考察は、この仮定が正しいという前程に立つ推論であるとする。
前置きでした。
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ナンパ男の正体について
わたしが思うにまず、ベースにあるのが制服フェチで、その上すごい変化球のサディストよ、そいつ。
つまり変態である。
…というオチも大いにありうる。
要はそのくらい情報が少ない。
物語自体が短編なうえ、ナンパ男の素性に関してはそのほとんどが自称である。
正体不明、としておくのが一番収まりがよいのだが、それでは考察にならないので、ここではあえて本編の人物の再登場を疑った説を取り上げてみる。
可能性があると思われるのは、
のいずれかである。
ナンパ男=榎本説
個別の描写に関しては
ここ
などを参照してほしいのだが、ナンパ男の発言を聞く限りでは榎本と匂わせるような記述は多い。
ナンパ男が榎本であると考えるならば、その動機が問題となる。
動機として思いつくもの。
ひとつは単純に憂さ晴らしとして。
WACをからかう、誰にも話せないような話を通りすがりの相手に話す、などパターンはは色々考えられる。
しかし本編の描写からすると、現在の榎本がそのような行動を取るとは考えづらい
過去の、今ほど危険な立ち場にいなかった榎本ならば、という条件付でならばこのようなこともありえたのかもしれない。
つまり「死体を洗え」は本編より昔の話で、ナンパ男の正体は過去の榎本だ、とする説である。
上記リンクの時系列考察とも整合する。
次に、内部のスパイをあぶりだすための、榎本の芝居という推測がある。
電話のノイズとちゅみの行方で詳しく触れるが、ノイズの正体は回線が切り替わった音で、それに合わせてちゅみは拉致されたと考えられる。
そこから派生した、ちゅみおよび静にスパイ容疑がかかっていたとする説だが、こちらはやや弱いといえる。
静の台詞や短編「それ以外のことについて言えば」の描写等からわかるが、自衛軍は現実の自衛隊と同様に上級部署への転属、昇進などには試験の合格が必要である。
ちゅみが冒頭で言及しているように彼女たちは新人であり、有益な情報を知りえる立場にいるかどうかは疑問である。
情報部もしくは保安部が担当するべき仕事に榎本が実行役で関わっている、という点と合わせて考えると、それらしい説とは言い難い。
なおどちらの動機においても、同じような動機を持つ基地の人間の仕業、と考えることは十分可能である。
ナンパ男=水前寺説
ちゅみの発言にある「三十ちょい前くらい」「パッと見はちょっとカッコいい」「UFOの噂」は水前寺を思わせる描写である。
ナンパ男が水前寺であるとするなら、時系列的にはきわめて本編と近い時期に起こった出来事ということになる。
本編の季節は夏~秋を過ぎても暑い毎日なので「くそ暑いのにBC装備で一日中走り回された」との発言とは一致している。
水前寺の目的で考えられるのは情報収集だ。
ナンパは何らかの情報を得るための手段だったと考える訳である。
実はちゅみは椎名や先坂の後輩であり、その線から何か情報を知っていると踏んでいた、とか。
だれかれかまわずデマを流して基地側の反応を見ていたとか。
話す人ごとに嘘の内容を変えて、基地の反応を見つつどの内容が機密に近い成分を含んでいるか見極めていたとか。
WACの持ち物や衣服に盗聴器・発信機の類を仕込んでいたとか。
水前寺がどのような形で基地の情報を収集していたかに関する描写はないし、いずれもありえないとは言い切れない。
ただし、水前寺が本当に30前に見られるか、など疑問点は残る。
なお、前項と同じように、ナンパ男=水前寺説は、水前寺と同じような動機を持った人間の仕業説、と読み替えることも可能だ。
「水前寺応答せよ!」「それ以外のことについて言えば」から見るに、園原基地周辺で情報収集に走り回っている人間は多いと考えられる。
そうした人間の誰かが上記のような狙いで新人WACに接触した、というのは、水前寺説よりもむしろもっともらしいかもしれない。
電話のノイズとちゅみの行方
寮の回線は盗聴されており、ノイズは電話の回線が繋ぎ替わった際のものと考えるのが妥当である。
この場合、ちゅみは回線が切り替わった後速やかに基地の保安部隊などに拘束されていると思われる。
ちゅみが拘束された原因としては、会話の内容に機密に触れる部分が含まれていたということが考えられる。
関連して、盗聴はbotによって行われていて、内容ではなくいくつかのキーワードが網にかかったとする説もある。
上でも取り上げたスパイ説はやや厳しい。
ちゅみがスパイだとすると、馬鹿話に見せかけた暗号会話で機密を外部に漏らそうとしたが発見された、ということになろうが、盗聴されているとわかっている寮の電話回線を使う理由がよくわからない。
その他、盗聴と拉致を北などの敵対組織の手によるものとする説もある。
寮は基地の外にあるため不可能ではないだろうが、その場合動機が不明である。
最終更新:2011年01月30日 20:43