アットウィキロゴ
 

ウソの奥にあるのはホントウ


熱が密集した昼が終わり、熱が拡散しはじめる夜。

「今日のお夕飯どうでした?」
「うん?いつもどおり旨かったけど?」
塗装が剥げコンクリートがむき出しになっているアパートの部屋から聞こえてくる若い男女の声。家賃も安くそれなりに景色も良いのだが、エレベーターが壊れていたり耳をさす奇怪な声が昼夜問わず響いていたりとで、住人の数は少ない。

「もう、そうじゃなくて!」
継美がそうむくれる。本当に怒っているわけではないというのは、傍目からでも一目で分かる。
「え?なんかオレまずいこといった?」
「気づかなかったんですか桐也さん?今日のコロッケのレシピ変えてたのに・・・。」
…全く気が付かなかった。オレは味の疎さはピカイチだ。いまだにキャベツとレタスの味が同じように感じてしまう。見た目でなら分かるのだが。

「ゴメン。ほらオレ、味とかには疎いから・・・。」
へらへらと笑いながら。顔がニヤけるのはどうしようもない。怒った継美の顔もまた可愛いのだから。

継美はまだ頬を膨らませていたが、少ししてふうっとため息をつき。
「じゃあ・・・キスしてくれたら許してあげます。」
…レッドカード。試合復帰不可。若干俯き加減で頬をほんのりと赤らめながら言うのだ。いくらなんでも反則の度合いを越えているだろう。
こんな拷問に逆らえるわけがない。・・・素直にその甘い願いを聞き入れてやることにする。
外で犬が新婚ウゼと鳴いてるように聞こえたが、まぁたぶん気のせいだろう。そう言っているならそれはそれだ。


原因不明の感染症。それが彼女の病気。
余命は2年と医者に宣告されたらしい。こんな辺鄙なところにすんでいるのは、継美が他の人に病気をうつしたくないと言ったから。
オレと結婚することも当然継美は反対したが、頑張って説得したら何とか承知してくれた。
いずれ継美が死ぬのは分かってるけど、それでも彼女が笑っている限りはオレはそばにいたい。

「あの・・・桐也さん、少しいいですか?」
ベッドの上でオレの腕に収まっていた妻がおずおずと口を開く。
結婚してから半年経ったわけだが、やっぱりこの時間が一番好きだ。心が落ち着く。
「ん?」
「あの・・・えっと・・・」
「大丈夫だって。何言っても嫌ったりしないよ。」
継美はちょっとした過去を経験してきたこともあり、人を信頼したりできない性格なのだ。さすがにオレの場合だとだいぶ信頼できるようになったみたいだが。

「じゃあ・・・はい。ひとつだけ、大事なお話があるんです・・・。」
神妙な面持ちでそう言って来る。
「うん、何?」
「えっと・・・。」
くっと継美は唾を飲み込んで。
「私、実は感染症なんかにかかったりしてないんです。」

…。

「あの、桐也さん?」
心配そうな、泣き出しそうな表情で呟く。
「え・・・あ、ああ、うん。」
一時放心してしまっていた。継美は感染症にかかってないと。うん。・・・ええ?

「えっと・・・。つまり余命2年なんかではなく普通にずっと生きられる?」
これでも頭の回転は速いほうなので、すぐにそういう結論に辿り着いた。そして、なんで継美がそんな嘘を言っていたのだろうかということにも。
「はい?・・・あ、あと、はい。」
そんな返答は予測していなかったのか、たどたどしい言葉遣いでふやふやと。
たぶん、怒られるとかどうとか思っていたのだろう。

「そっか・・・。」
心に温かい風が流れ込んでくる。
怒るだなんてそんなことをするわけがない。これからずっと一緒にいられるということなのに、どこに怒る理由があるというのか。
「あの・・・怒らない・・んですか?」
「どうして?」
「だって私・・嘘・・ついて・・・」
暖かいものが継美からぽろぽろとこぼれ落ちる。
「継美のことだし、何となくそんなことだろうと薄々思ってたから。」
涙を指で拭ってやりながら、そう答える。
外からは電車の走る音が響いてくる。時間的におそらく終電だろう。ある人はその日を嘆き、ある人はその日を喜び、そしてある人は愛する人の待つ場所へ。

「!・・・でも」
全てを言い切ろうとする前に唇を塞いでやる。長く、優しく。オレの想いが伝わってくれるように。大丈夫だよ、継美。オレは君のことを愛してるから・・・。

継美は少し息を切らせていたようだが、やがて。
「あの・・・てことは・・・私のこと許してくれるんですか・・・?」
この期に及んでまだそんなことを言う。許すも何も怒ってすらないのに。
相変わらずというか何というか、やっぱり継美は可愛い。

「じゃあ・・・キスしてくれたら許してあげる。」



せっかくベッドの上なので、いつかは(ryも書きたい。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年10月19日 08:37