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生温い空気がゆるゆると流れる夜の町をふらふらと歩いてた。
特に理由があるわけではない。単なる散歩だ。
夜なので少し分かりにくいが、赤いレンガと白いレンガをたっぷりと使った商店がきちんと統一されてずらりと並んでいる。
足元は単なる地面だが、それなりにはならされているらしい。
道の両側にはシンプルな黒い街灯が建っており、こう荒れ果てる前までは街を照らし、また辺りの風景ともうまく混同してさぞ美しい風景であったことだろう。
荒れ果てる前までは。
白一色、そして前後に黒色の旧時代の文字がプリントされたTシャツ、ブルーのシンプルなジーンズ、そして特に目を引くのはその右側に帯剣された2本の刀。正確には太刀と小太刀だ。
うなじの辺りで軽く括ってある、その腰まで届くであろう長い黒髪を揺らしながら、女剣士、白然緋儚(しらねびはかな)は足元のゴミやガラスの破片に気をつけながらその町を歩く。
なぜこうも荒れ果ててしまったのかは知らない。来てみたらこうなっていた。
所々に赤や白のレンガが転がっていたり、黒の街灯も倒れていたりとするが、どうやら人は住んでいるらしい。
生活音や人々の声が各地から聞こえてくることを考えると、結構な人数が住んでいるのだろう。
ふと、明かりが灯っている一角を発見したので、そちらへ歩を進めてみる。いわゆる路地裏だ。普通ならこんな時間に20歳の女性がうろついていい場所ではない。
(まあ、私だからうろつけるんだけどね。)
心の中でそんなどうでもいいことを呟きつつ、てくてくと歩いていく。
そうして、歯車は静かに回り始める・・・。
ちょっと奥に入っていったら、早速というかなんというか嬌声が聞こえてきた。さすが路地裏。
どうせ売女かなんかだろうが、もし本当に本当にだったらちょっとマズイので、一応確認のためそちらへゆく。
妖しげな商店が立ち並ぶ一角。
…見た感じ、やはり売女なのだろう。3人の僧衣を身に纏った中年くさい男も一緒にいる。
(せめて僧衣を脱ぐべきよねぇ・・・。)
仮にも宗教関係者がこんなことしていいはずがないだろう。私の知ったことではないからまぁいいけど。
地面に倒されている少女の方を見やる。
砂まみれになっている暗褐色の長い髪、すっかり痩せ細った四肢。そして髪と同じ色の瞳。
少し違和感を覚えた。
確かに体を売っているのだろうが、その瞳から感じられるものの質が少々違う。
なんというか・・・必ずあるであろう苦痛や快感、というものを一切感じられない。
この世の全てを憎んでいるかのような、この世の全てを見据えているかのような、そんな強い意志を宿した瞳。
一瞬で惹かれた。
(この子・・・この子ならもしかしたら・・・)
思い立ったが吉日。早速事に出る。
「あらま、宗教関係者の皆さんの面白い現場を発見しちゃったわね。」
わざとらしく、そちらに声をかける。
「! な、なんだ!?」
今まさに少女に覆いかぶさろうとしていた男共々皆こちらを振り返る。
後ろに見える少女は・・・あら、なんだかんだでやっぱりキツそう。ゼイゼイと荒い息を吐いている。
「女のくせにいきなりなん・・・ん、こいつ帯剣してるぞ・・・!」
さすがに少しは警戒した風を見せ、全員が懐から拳銃を取り出す。
「その女に拳銃を向けるなんて・・・所詮は所詮の所詮ね。」
自分でもわけの分からない発言をし、鞘に手をかけ。
その2秒後には男共は全員地を舐めていた。
何をしたかというと、まぁ単純なことだ。
男共が銃を構える前に即座に眼前へとステップし、そのまま予備動作なしに太刀を抜刀。
ただし、完全に抜刀したわけではなく、柄の部分で相手を気絶させるある一点を突く。それを3人分、ほぼ同時に。並の人間の目では捉えることが出来なかったであろう。
かろうじて一人の男の意識が残っていたが、それもまた徐々に薄れ。
遠のく意識の中、耳にしたのは彼女がそう呟く声。
―心壊流居合術二式「枯」。
Tシャツジーンズ剣士。
適当に想像したのに、思った以上にしっくりきてビックリ。
風化し始めた木が発する独特のにおいが充満したある廃屋。
ここは商店などではなく、元々は単なる住居だったようで、また住居にはレンガを使用してなかったらしい。普通の木造だ。
足が一本折れて傾いている樫木テーブルに、4つのお揃いの丸椅子が並んでおり、足元には『今日の買い物リスト』と書かれた黄色い紙がいくつも散らばっている。元いた住民はなかなかまめだったようだ。
この廃屋へ来たのは、2階へまだ使えそうな寝台があったため。夜を明かすにはちょうど良さそうに思えるので。
単純に人が見当たらなかったというのもひとつ。おかげで辺り一帯は風の音しかしない。それ以外の音がすればすぐに分かる。
身を守ることにもそれなりに適している場所だろう。
路地裏で少し運動してから一刻ほど。
成り行き的にも私的にもということで、襲われていた少女は当然一緒に連れてきた。
ここに来るまでの間、やっぱりというかなんというか、少女は一言も喋らなかった。なのでこちらも一応だんまり。
今は壁に寄りかかり膝を抱えて座っており、身に着けている簡素な着物の裾をぎゅっと握って俯いている。やけにすす汚れているのはさっきの影響なのかと思ったが、どうやらかなりの年季物のようだ。所々に縫い合わせた跡がある。また、下着の類は何も身に着けてないらしい。
「どうして・・・助けたの・・・。」
唐突に少女が掠れた声で呟く。今にも霧散して粒子となってしまいそうな消え入りそうな声だが、その粒にはそんな弱々しさは感じられない。
「あなたがあんまり可愛いからついつい。」
キッ、というよりはギン、と睨まれた。通常なら怯えなどの感情を感じられてもいいはずだが、そんなものは微塵も感じられない。
あんなことがあった後なのに、本当に強い意志を持ったコだ。さすが私。私の目は間違ってなかった。
「というのはもちろん冗談。ただ助けたかっただけ。それじゃダメ?」
「そんなことで私を懐柔できるとでも思ってるの?」
…懐柔なんて言葉よく知ってるわね。いや、こんなことに感心するんじゃなくて。確かにただ助けるなんてのはおかしいけど。
「それも半分冗談。もう半分をいうと・・・その強そうな瞳に惹かれたから。そんなとこかしらね。」
傾いているテーブルに手を乗せ軽く寄りかかりながら。ギシ、という音が空間に響く。床に積もっている埃も軽く舞い、どことなく甘いにおいを鼻にもたらす。
さてと、本題に入るとしよう。
「ねえ、あなた・・・心壊流を学んでみない?」
実はここ、儚さんパートだけでなく、この後に鈴音パートもあったんですよね。
が、それだとやたらと長くなるので削除。少々もったいない気がしたが。
一応、これを第一話として進めていくが、途中で変更する可能性もアリ。
出会いのシーンは結構、汎用性が高いですしな。
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