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~流、とかを考えるのはなかなか楽しいと思うんだ


人々がひしめく昼下がり。

いくつもの店がぎゅうぎゅう詰めに並ぶ大通りの中の一角の、とある喫茶店。

「赤茶々店」と書かれた木製の長方形の看板が、瓦造りの屋根の前にちょこんとたっている。赤茶とか書いてあるくせに、その色は一色も使われておらず、その看板は白背景、文字色は墨汁のような黒だ。力強い筆跡だが、残念ながら所々塗料が剥げているため、頼りなさげな印象しか感じない。

「何この不味いお茶。この店確実に潰れるわね。」
「・・・そういうことは口に出さない方がいいですよ、儚さん。確かに不味いですけど。」


通り沿いに設置された、赤い布の掛けられた長椅子に座って、湯飲みに注がれた紅茶に文句を垂れる女性二人組。
先程突っ込みを入れた細い目の冷淡そうな少女―鈴音は一緒に添えられた饅頭をぱくりと食んでいる。

すらりとしていて、陽光を受けて輝く暗褐色の長い髪、そして同じ色を灯す瞳にまた同じ色のスリップドレス。
腰には黒い鞘に包まれた一本の刀を帯剣している。左側に帯剣している所を見ると彼女は右利きらしい。左肩からは、旅の者にしては軽装な簡易な麻製の鞄をぶら下げている。

もう一人の呑気そうな女性は、不服そうに紅茶を睨んでいる。正確には湯飲みを、だが。
うなじの辺りで軽く括ってある、その腰まで届くであろう長い黒髪。
白一色、そして前後に黒色の旧時代の文字がプリントされたTシャツ、色落ちが目立つブルーのシンプルなジーンズ。
帯剣しているのは太刀と小太刀。共に右側に帯剣しているため、こちらは左利きのようだ。自身の隣に置いてあるのは、これまた軽装な深い緑色のやぼったいバクパック。

「味覚音痴のあなたですら不味いと思うほどのお茶なのね、これ・・・。」
妙に同情を含ませたような声で儚さんは私をからかってくる。といっても、儚さんに拾われてから5年。これだけ付き合ってればさすがに慣れる。ということで素直に無視。


今私は16歳。儚さんは25歳だ。今から大体一年ほど前から、こうして二人で気ままに旅を続けている。


あのとき、なぜ私が儚さんについていったのか。


たぶんではあるが、きっと身に纏う雰囲気が、私を4歳まで育ててくれたおばあちゃんに似ていたからだろう。本人には口が裂けてもいえないが。
というか、以前理由を尋ねられたとき思わず「おばあちゃんに似てる・・・。」と言ってしまったことがあり、その後のことは・・・強いて言うなら、今でも夢に出てくるくらい、だ。生き地獄を味わう羽目となった。

拾われてからすぐ。早速「心壊流」の修行が始まった。
最初のころは色々と疑っていたが、今では・・・だ。
旅をしているのは、ずっと修行ばかりだったから外の世界を歩くのもいいだろう、という儚さんの提案から。もちろん異論はなかった。

ちなみに、なぜ「師匠」とかではなく「儚さん」と呼ぶのかというと、簡単に言うとその本人の要望により、だ。
以前、「師匠」と呼んでもいいかと尋ねたら「堅苦しいから駄目ねそんなの。」と一蹴され、「先生」ではどうかと尋ねると「あら、私は太陽光を反射する素敵な頭はしてないわよ。」と、謎の偏見発言をされたので(確かに学舎の”先生”は髪がないという噂を聞いたことはあるが)「儚さん」と呼ぶことにした。


「さてと・・・人が増えてきたことだし、そろそろ宿をとりに行こうかしらね。」

その当の儚さんが、通りをゆく人々たちを眺めながら言う。確かに・・・ここは私たちのような旅人も多いみたいなので、早めに取らないと野宿する羽目になるかもしれない。

そうですね、とうなずき、脱いでいた黒の革靴を履き始める。動きやすさを重視したもので、儚さんも同じものを履いている。


「どういうことか説明してもらおうか、天雲流師範殿!」


と、いきなりそんな怒声が通りに響き渡った。



ついつい色々詰め込みたくなるから困る。
諸設定は今のうちに語っとく必要があるからねぇ。もしかしたら後々チャンスが生まれるかもしれないが。

※赤茶々店→あかちゃさてん 天雲→あぐも


(あらま、こりゃ何かひとつ揉め事でも起こりそうね。)

完璧に他人事を決め込んでいる儚はそんな呑気な事を考える。
先程の男たちはまだあれやこれやと言い合っている。薙刀を持っている風なのが少々物騒だが。

何の話かと思えば、かの宗教―倭教の僧兵たちの流派間の揉め事のようだ。なんでも、天雲とかいう流派の人間がもう一方の彩蓮無心流の人間をちょいと痛めつけちゃったんだとかなんとか。うどん屋でどうこうとかも言ってたが、私の耳は華麗に受け流してしまったようだ。

この流派のいがみ合いはよくあることなのだろう。通りをゆく人々も、ちらと横目に見る程度で見事に無関心状態だ。少年少女たちですら、ああまた近所のおばさん其の一とおばさん其の二がなんかやってる、みたいな顔で過ぎ去ってゆく。


が、うちの旅の連れである誰かさんはやはりそうはいかないみたいで。

彼女の愛刀「虎和唄」の鞘に軽く手を添え、件のそちらの方を薄っすらと睨みやっている。
仕方がないといえば仕方がない。うちの鈴音の行動理念的に。

すなわち「悪・即・斬」だ。幼少時代の経験が災い・・・もとい幸い(でもないけど)してそんなこんななのだろう。

今更止める気はない、というか止めても無駄なのは分かりきっている。なので、私のすべきことはひとつ。

隣に椅子に座っている鈴音の肩をちょんちょんとつつき。
その細い肩がぴくんと軽く揺れ。
「ほら鈴音。鞄貸して。」
首だけでこちらへ振り返り、「なんで?」と言う顔でこちらを見やる。

「事が終わるまで退屈だから、とりあえず宿でも探してくるわ。その鞄もなんだかんだで邪魔でしょ?」
「自然消滅してもおかしくなさそうですし、仮にそうなってもそんなにかからないと思いますけど・・・。」
「じゃあ本音。どこかのお弟子さんのせいでとばっちりを喰らうのはごめんだから、さっさと宿に行ってごろごろしたい。」

半眼で睨まれたが、なぜかそちらの理由の方で納得したらしくしぶしぶとこちらへ麻製の鞄を差し出してくる。よしよし。その鞄だけは持っていってあげるんだからいいわよね。うん。

おもむろに椅子から立ち上がり、鈴音にひらひらと手を振ってから昼下がりの生温い風を受けながらてくてくと歩いていく。

ひそかにこちらに手を振り返してくれた鈴音の姿に内心苦笑しながら。



プロの小説家って凄いね。こう書いてみたりしてるとつくづく思う。

※虎和唄→とらうた 彩蓮無心→さいれんなごころ


はぁ・・・。

薄らと砂色の雲がかかってきた空の下。
私は盛大なため息を吐いた。
それは、紅茶が不味かった事や、ついうっかり手を振り返してしまった事や、儚さんが探しに行った宿の大まかな場所を聞き忘れたからではない。

「さぁ、娘よ。私怨はないが、その刀を抜いてもらうぞ。」

綺麗な太陽になりかけのつるりんヘッドを持つ中年親父がそう言って、年季を感じさせる堅い木で作られた長い柄の先に反りのある刀身を装着した武具―薙刀を構える。彩蓮無心流の師範らしいが、そんなことはどうでもいい。
こんな大通りでかつまだ昼下がりということもあってなのか、野次馬もわらわらと湧いてくる。さっきの茶店(赤茶々店だっけ・・・)にいたっては、「さぁさ、見物ついでにお茶菓子なんかいかがですか?」なんて言って野次馬たちに愛想を振りまいている。あきれた商売魂だ。

はぁ・・・。

腰掛けていた椅子から一応立ち上がる。しかしのろのろと。
相手の太陽・・・じゃなくて、つるりん・・・普通に中年でいいか。中年は立ち上がった私を見て皺の深い顔に笑みを乗せる。

そもそも、なぜこんなことになったのかというと。

なんでもうどん屋で彩蓮無心流の門下生達が帰りに買い食いをしていたところ(これはこれでどうかと思うが)、近くの椅子に座っていたらしい天雲流師範と一緒にいた門下生たちがそちらの流派の悪口を言い、それを聞いた彼らはまぁもちろん反発してしまったんだとか。

その後、表に出てやり合うこととなり、結果、彩蓮無心流の門下生たちは惨敗。
そのことについて、彼らはある程度の嘘を混じえ自らの師範に泣き付き(これもこれでどうかと思うが)そして、両師範たちがあれやこれやと言い合って、押され気味だった彩蓮無心流師範が自らの強さを誇示しようとし、で、こうなった。

(女性相手に手を出すのは確かに悪い行為だし、そもそも見知らぬ人に手を出すのも駄目だけど・・・なんだかな・・・。)

悪・即・斬というのが私の信念だが・・・なんか違う。確かにここのところ、こんなことも起こらず体が鈍ってるから丁度いいといえばいいのかな。・・・いいのか?

そんな鈴音のよく分からない葛藤のことなどつゆ知らず、相手の中年はこちらへと薙刀を構えつつにじり寄ってくる。これは・・・仕方ないか。

ざり、と砂やら塵やらが入り混じった地面を踏み均し、腰に携えた鞘に手をかける。


いかなる理由でも、私は悪を斬る――



今回は割りと短め。

資料用に一応載せときます。

白の五条袈裟を以って頭を裹んだ。裹頭(か[くわ]とう)という。法衣は墨の裳付(もつけ)、石帯[公家でいう当帯]で結び、白の括袴に白の脛巾(はばき)、裳付の下には下腹巻という胴丸の鎧を着けている。足には足駄をはき、腰には革包の太刀、薙刀(なぎなた)を持っている。


この街は元はただの農村だったのだが、かの宗教団体―倭教の手が入ってからは、それはもう急速に発展していったそうだ。
そんな街なのだからなのか、流れについていけずすっかりと置き捨てられた不燃物か何かのようなスラムも出来上がる。路地裏なんかはその筆頭だ。

しかし、そういった路地裏には意外と旅人たちは立ち寄ったりする。基本的にお財布状況が乏しいため、路地裏に多くある安宿は旅人御用達だ。食事や設備は全く期待できないが、旅の者からすれば屋根の下で寝るということはそれはもう天国状態である。
といっても、当然治安の悪さは折り紙つきなのだが。

ぺたぺたと切り絵か何かのように様々な素材で作られたこじんまりとした家々が立ち並ぶ、大通りの外れ。
ゴミか何かが風化したような匂いが漂い、どことなく諦めたような空気が流れている。先のほうを見やると、なんらかの大きな木造の建物が鎮座して行き止まりとなっているらしく、その両脇に道が続いている。

旧時代言語で『Ecstasy!』とか書かれた濃桃色の張り紙を横目に見ながら、儚は宿を求めて路地裏をふらふらと彷徨う。

大通りの方へ人々(といっても物乞いだが)が流れていく所を見ると、鈴音がそろそろやらかしてるのかもしれない。あっけなく終わるのは目に見えているから、特に心配はしない。あ、そういえば宿の大まかな場所教えるの忘れてたっけ。まぁ、いいか。

「おお、どっかでなんかやってんのか?鼠がわらわらと溜まってるなら俺らの絶好のスリ場だが」
「ああ、坊さん流派とどこぞの剣客娘さんがやり合ってるらしい。大して鼠はいないから行くだけ無駄足だ」

何やら青年風の声の二人組の会話がどこかの家の中から儚の耳に流れてくる。この一帯を住処にしている物乞いだろう。
…やっぱり鈴音はやらかしてたのね。

「しかしまあ可哀想に。割と美人な娘さんだったが、あの顔にも傷がついてしまうわけか」
「そらあの坊さん方は黒いからな。勝っても負けても変わりねぇよ」

一瞬、妙な単語が聞こえてきた。・・・黒い?
日焼けしてるという意味ではないはず・・・。あらま、厄介ごとかしら?

できるだけ不審に思われないように、目の前の黒ずんだ建物に貼り付けられた濃桃色の張り紙を何気なく眺めるフリをしながら、二人組の会話に耳を傾ける。(その張り紙を眺めていることが最大の不審行為ということには、この時は気づかなかった)
「そのまま、このあたりに流れてくれたら嬉しいけどな」
「オイ、お前昨日あの女食ったばかりだろ」
「ハッ、俺はただ・・・」

話がなにやらな方向に流れ始めたため、軽く呆れ顔を作る。返り討ちにあわないように気をつけないさいねお二人さん。

濁った砂色の空をなんとなく見やり、また宿探しを再開するため歩を適当に進める。


黒い・・・ということは危ない噂でもあるのかしらね、あのおじ様方。
「なんにしても、これは本当に厄介ごとになっちゃうかもね、鈴音。」

そう独りごちたが、その呟きは砂塵を含む生温い風に掻き消された。



本来ならこのままバトルの予定だったが、やりたいネタができたので急遽こうなりました。
「猥雑に張りたくられたピンクチラシ」
うん、こんなネタがやりたかったんだよ。

旧時代言語のくだりについてはまた後日。

…今、試しに過去のリレー小説を眺めてみたのだが。
なんか、以前の自分の文章のが見やすいという罠w文章をもう少し短くして改行も多用すべきか。


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最終更新:2009年12月04日 17:18