戦闘を書きたいがためにこの小説を始めたんだったナァ
「ぬぅぁあ!」
法衣は墨の裳付、石帯で結び、白の括袴に白の脛巾、裳付の下には胴丸の鎧を着けた僧兵独特の姿。
足に履いた足駄が地面をざっとノイズのような音を鳴らし、彩蓮無心流師範(もとい中年)が鈴音に向かい、その薙刀を振り下ろす。
鈴音は姿勢を低くし、即座に抜刀し。
リィ・・・・・・ィ・・・・ィ・・ィン・・・ン・・・・・―――
「・・・ム!?」
一旦、中年は後ろに身を引く。
一瞬、妖術使いの類かと思ったが、そうではなく相手ー鈴音は単に刀で防いだだけだ。といっても見るものが見れば、ちゃんと受け流して力を最低限に抑えているということが分かるが。
これが、彼女の愛刀「虎和唄」の特徴。
辺りのざわめきはしん、と静まり返り、彼女の名と同じ鈴の音色が通りにすーっと響き渡っている。
「変わった刀を持っているようだな、娘よ」
その残響をかき消すかのように、中年が口を開く。
その言葉に耳を貸すことなく、鈴音は刀を構えなおす。
対峙した相手には、必ず似たような言葉を言われるので相手するのが少々面倒になってきていたりする。
「さて・・・ならば、もうひとつ!」
その場に踏み込んだまま、中年がぐん、と薙刀を捻りながら突き出す。
射程の分は大幅に中年にあるため、さらになおかつ刺突の速さはかなりのものであるため、常人ならば防ぐ、ましてや回避などは不可能だろう。
更に、彩蓮無心流の刺突は捻りながら繰り出すという特徴があるため、防ぎきることも難しい。
とはいえ、さすがの中年といえど一流派の師範。ちゃんと防がれることを前提として繰り出し、その後に備えていた。
しかしまあ、この場合は相手が悪過ぎた訳だ。
眼前に迫る薙刀の刃を、鈴音は臆することなくひらりと避け。
そのままたん、と地を跳躍し。
(あ、そういえば儚さんに基本峰打ちにしろ、って言われてたっけ・・・)
そんなどうでもいいことを頭の隅で考えながら、首元に狙いを定め。
「がっ・・・!」
ぼぐっ、という鈍い音を頚部に喰らい、中年は、それはまああっさりと沈んだ。
キリがいいので、ここで区切る。
てかまぁ・・・アレですな。
鈴音ちゃんが強すぎる。どうあがいても戦闘があっさり終わる。
まさに鬼門。まさに斉藤。
刀を二本帯剣したTシャツにジーンズなおかつ呑気の塊みたいな女性が泊まりませんでしたか?という質問をして回ること、計6件。
件の茶店から一番近い路地裏から探し始め、走り回ること計時間不明。
「あら?おかえり、鈴音」
とまぁ、その呑気の塊みたいな女性は刀を脇に投げ捨て(たぶん投げ捨てたのだろう)当然の如く寝台の上でごろごろしていた。下敷きにされた毛のぱさついた毛布が更に毛をぱさつかせている。
「荷を持って行ってくれた事は有難いんですが、もう少し肝心な部分に気を利かせて欲しかったです」
「私の思考を読む修行の一環よ」
鈴音の皮肉を飄々と儚は受け流す。はぁ・・・。
このため息も今日何度目だろうか。普段神社などには行かないが、行ってお御籤でも引いたら確実に「凶」が出るだろう。
自分の思考にげんなりしながら、もう一度心の中でため息をつく。
安宿の中の、簡易な寝台と丸窓がひとつ取り付けられているだけの狭い一室。
鈴音は投げ捨てられた刀やら、ついでにまた投げ捨てられた麻製の鞄やらバックパックやらを所々塗装の剥がれた壁に寄せ、自身も壁に寄りかかり畳造りの床に緩慢な動作で腰を下ろす。
窓の外には人一人が入れるか入れないかぐらいの通路があり、その通路をはさみ眼前には年季を感じさせる木造の建物が建っている。
ちょうど今は夕暮れ時で、橙の淡い光を受けて通路に浮かぶ埃をきらきらと輝かせている。窓を開けると、もんわりと埃独特のにおいが鈴音の鼻腔をくすぐる。
「ん・・・ちょっとくさいから閉めて・・・」
眠たそうな顔をした儚がこちらに体を向ける。簡素な寝台がそれにあわせぎし、と軽く悲鳴を上げる。
返事をするのはなんとなく癪だったので、それには応じず先ほどと同じく座ったままの体勢で窓を閉める。
完璧に眠る体勢に入った儚さんを横目に見ながら、鈴音はぼんやりと天井を眺める。
あの後。
鈴音の峰打ちを喰らい気絶した中年は、まぁ、そのまま気絶したまんま。
一緒にいた弟子は呆然と眺めているだけだった。すぐさま助けに入るなり何なりしない辺り、中年の信頼の度が伺える。
もう一人いた、頭に雪を降らした、しかしふさふさの天雲流師範殿はなにやら含み笑いをしながらその場を去っていったが、それについては鈴音は気がつかなかった。
当の鈴音はというと、野次に絡まれるのも面倒だったのでさっさとその場を退散。
一応ここは正教徒の町だろうから少々まずかったかもしれない、とか思いながら。
過去の経験もあり、かの宗教―倭教嫌いの私としては少々この街の空気は苦手だ。
そもそもなぜここの住人はあんな宗教をいまだに信じることが出来るのだろう。
なんだかんだであの宗教の内部事情は酷いらしく、初代倭教最高位僧官―倭文良(しずら)が暗殺されてからは、後を継ぐのは誰だとかで上位幹部達の争いが勃発。
上がそんなだから、下も掟を平気で破る破戒僧だらけ。私が過去に体を売ってたアレやアレがいい例だ。
ちなみにこの情報は、妙に裏にも精通している私の師である儚さんより。
領地争い等が絶えず、すっかり疲弊しきったこの国に倭教が開かれたのは数十年前のこと。
一般民衆―すなわち領地云々に関心が無く、単にとばっちりを喰らっていただけの大多数の国民たちから圧倒的な支持を受け、今の地位に上り詰めることとなった。
今では、この国の経済の大部分を握っている、といっても過言ではない。
この部屋をほんのりとおぼろげな光で照らすこの電球も、彼ら倭教が旧時代文明の遺跡から発掘し、それに改良を加えたものだ。
鈴音は詳しくは知らないが(指南役の儚さんは歴史にはさほど興味が無いため)、大きな戦――現代考古学風に言う<終戦>をきっかけに、旧時代文明は滅んだらしい。
なんでもかなりの高度文明だったのだとか。
遺跡もいくつか残っているので、機会があればこの旅程で回って見たいと思う。儚さんはぶうたれるかもしれないが。
その儚さんはどうやらすっかり眠りに入ってしまったらしく、すぅすぅと寝息を立てている。
(夕飯どきにでも起こしてあげれば大丈夫かな・・・)
こうして寝入ってる姿を見ると、信頼されているようで嬉しい。
先ほどの恨みがましい視線とはうって変わって、少しは暖かみの増した目線で儚さんを見やる。
きっと、以前の―儚さんに拾われる前の私のままだったら、こんなことを考えたり、そもそも今の私もいなかっただろう。道端でのたれ死ぬ姿しか想像できない。
だからというか、こんなこと本人の前では絶対に言えないが、儚さんには感謝している。
それに、以前の何もかも信じないとか考えていた自分からすれば想像できないだろうが、儚さんのことを信頼している。
いつかは別れが来る、ということは分かっているが、やはりできる限り一緒にいたい。
儚さんと、ずっと、一緒に。
一部裏設定とかを一気に詰め込む形に。
聡明でなくとも分かりますが、というかタイトル的にも分かりますが、ハイ。
フラグです。
最初に目に飛び込んできたのは、白背景に「Knockin' On Heaven's Door」とかその他色々書かれた黒い小さな旧時代言語、もとい<旧語>の文字の羅列。
最初に入ってきた音は儚さんが私を呼ぶ声と、それと同時にどこからか聞こえる妙に騒がしい音。
壁にもたれてから・・・どうやらそのまま眠っていたらしい。
「さて、鈴音。とりあえず逃げましょうか」
昼間とはうって変わってすっかり静まり返った・・・本来ならそのはずの夜。
小さな電球が灯す頼りなさげな明かりを受けた、その文字羅列が胸部に3行ほど施されたTシャツを着ている儚が促す。
「・・・え?」
外(どうやら宿内らしい)の騒音を聞くに、野盗か何かでも宿に侵入してきたのだろうか。
(それなら、私が斬るけど・・・)
儚は理由を最初に説明する癖が無いみたいなので、自動的に鈴音にはこうやって推測する癖がついている。
「あなたが昼間に遊んであげたあのオジサマ方が来たみたいね。小さすぎる自尊心ねぇ」
要は昼間に見た目は普通の娘である鈴音にやられて、身の体裁が云々とかで復讐に来たのだろう。
この宿は基本的に遮音性とは無縁の壁で作られているのか、外の会話もよく聞こえてくる。
「では、予定通り頼み・・・ぞ・・・あぐも・・・」
「ああ。アレを野放し・・・うち・・よろし・・・ない」
少々途切れ途切れではあるが、そんな会話が鈴音の耳に入ってくる。・・・なぜ天雲?
「ほらほら、じっとしてないでさっさと行くわよ鈴音」
壁の高さの半分ほどの直径を持つ丸窓を開け、そのまま儚は荷物を持ち外へと飛び出る。
「別に逃げずともここで・・・あ」
「そういうこと。ほら」
宿の中で戦ってたりしたら、確実に他の客に迷惑がかかる。そもそもここじゃ戦いにくいか。
荷支度を手早く済ませ、同じ要領で鈴音も、路地裏の雑踏へと繋がる外への道にでる。
夜の路地裏。この町―<新古町>郊外。
今日この日はいつもの諦めたような空気とは違い、どことなく興奮したような、騒がしい空気が流れることとなりそうだ。
…本来ならここで第一遍終了の予定だったのだが、なんかキリがよくなったのでここで区切ることに。
次こそ終了。そうなることをぼかぁ信じ輝夜。
桐也くんと継美ちゃんの方のネタでこんなものが思いついた。
①朗読プレイ ②ポケモンプレイ
果たして実行される日はくるのか。真相は君の目で確かめろッ!
彩連無心流師範、堂東(どうとう)は苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
情報網はある程度張っていたため、あの小娘の居場所はすぐに割り出すことが出来た。
ここの宿の主人とは幸いというかそういう関係だったため(以前に賄賂を贈って買収していた)部屋の場所も問題なく聞き出し、後はどことおりなくいつもどおりことを済ませる・・・予定だったのだが。
「ふむ、誰もいない。どう見ても窓から逃げ出したというのは一目瞭然だがいやはや」
堂東のそれとは天地の差である毛髪量を持つ男、天雲流師範―明九茂(あぐも)はその狭い部屋をぐるりと見渡す。
天井にぶら下がる電球が、彼らをぼんやりと夜闇に照らす。
門下生たちも連れてきていて、何人かには他の部屋を当たらせている。今は廊下の方に20人ほどが不思議なくらいの無表情でぞろぞろと。
まるで死者の行列だ。ちなみに、一応彼らは二流派の古参の者たちだ。
彼らの何気ない普段の日常。
自分よりも強い相手を見つけたら、即座に大多数で叩き潰す。
この町の流派はこの2つのみだが、町人たちの信頼をそれなりに得るには、やはり強くなくてはならない。
倭教を信仰している彼らなのだから、別に何もせずともちゃんと信仰―崇敬の目は得られるわけだが、念には念を、だ。
それに、彼らは恐れている風もある。
領地争いが絶えず、戦乱の世だった時代に入り込んできた倭教。
その教えも優れたものではあったが、今の地位を築くに最も貢献したのはその圧倒的な戦闘力だ。
倭教についていれば守ってもらえる。
倭教信者の大多数に、そんな念があるのである。
だからこそ、この町倭教流派の皆様は大変な思いをしているわけだが。
「く、こざかしい小娘が・・・。申し訳ありませぬな明九茂殿。お手を煩わせてしまって」
件の昼時では「天雲流師範殿」と呼んでいたが、それは単にこの二つの流派はいがみ合っている、という念を与えてあるからだ。
そちらの方が、武術の進歩に貢献しやすい。他流試合も盛況するだろうということで。
実際はこのとおり、色々な意味でつながりのある仲である。
「なに、気にすることはない」
この台詞は、明九茂が普段から携帯している愛読書、<空気と運命>より。
「どうします、堂東さん」
門下の一人が尋ねる。見た所、年齢は30前後だろうか。
「決まっているだろう、そんなこと」
「神の御心のままに、だ」
濃灰色の分厚い雲がかかった夜空の下。
雑多に木片や何ともいえない塵の類が転がる路地を二人はかけていた。
「どこまで逃げるんですか儚さん。ここならやりやすいと思いますけど」
道幅は狭く、しかし剣を振るうにはちょうどよい程度の場所。
両脇には高さも造りもまばらな建物が所狭しと並んでいる。
「んー・・・そうねぇ・・・」
「足音から推測するに、たぶん20,30人はいますよね」
走りながら、といえども小走りながらで話し合う。
多勢に無勢。ならば、狭い場所にて1対1に持ち込み戦うのが得策だろう。
儚ならその必要も無いかも知れないが、鈴音の場合はどうなるか分からない。
(師範の腕前があの程度なら、私一人で何とかなるかな・・・)
自身で持ち込んだ問題なので極力、儚の手を借りたくはない。
夜の空は雲に覆われていて、月も朧げにしか見えない。が、今宵は満月のようだ。
夜特有の冷たいような生温いような風が、二人の身体を通り過ぎていく。
「ふぅ・・・さて」
前方を走っていた儚が唐突に止まり、ざり、と地を鳴らしながらこちらへと振り向く。
急に止まられたので、鈴音は少々儚を追い抜いて前方へ行く形に。
「行きなさい、鈴音」
「え?」
いきなり何を言い出すのかと思った。
これじゃ手を借りるどころの問題ではないので若干鈴音は焦る。
「別に私一人で何とかなるわよ。親の脛はかじれるときにかじれ、ってね」
あ、私別に親じゃないか、と軽く儚は自身に突っ込みを入れる。
そういう問題ではなく、いや、えっと・・・。かじれる脛?
儚の考えを読み取ろうと、出来る限り高速で頭を回転させる。
2秒ほど、不自然な、しかし自然でもあるかのような間が空く。
「もう一度言うわよ鈴音。行きなさい」
先程より強い口調で儚が言う。おそらく、それを悟ってしまった鈴音に気づいたのだろう。
それはつまり、別れ。
そんなものではない、と言うのももちろん鈴音は分かっている。
すなわち、儚さんは私を独り立ちさせようとしているのだ。
なんで急に・・・という思考は即座に消えた。
長い間ずっと一緒にいた。自然と、私は儚さんに甘えることをしていた。だからこそ、だろう。
それに、また独り立ちということは儚さんに一人前と認めてもらえたことになる。
そう、とても喜ばしいことだ。とても。
理屈は所詮、感情には敵わない。
「早く」
何か言い返そうとした鈴音に、儚が叱咤する。
もう敵も近づいてきているのだろう。いくつもの足音がより鮮明に聞こえるようになってきた。
儚も既に、その長い太刀を納めている鞘に手をかけている。
分厚い雲が少し晴れ、その満月が顔を出す。
薄暗い路地裏を、月明かりがほのかに照らす。
宙を舞う埃たちが、月光を受けゆらゆらと輝く。
「・・・分かりました」
それから言葉を交わすことなく、振り向くこともせず、鈴音は狭い路地裏をかけけていった。
一緒だ。儚さんも。さっきの儚さんの一声で全てを悟った。
普通の人には分からないだろうけど、私には分かった。
震えていた。ほんのごくわずかに。
闇に溶け込む長い黒髪。夜闇よりも濃く、闇より深い光をたたえた漆黒の瞳。
あちらを向いていたからそれは単に私の気のせいかもしれない。目も見えるわけがない。
でも。
人は理屈だけじゃ生きれない。
どうしても感情が邪魔をしてくる。だから・・・
春の半ばの満月夜のこと。<新古町>郊外。
その路地に、一縷の風が吹き荒ぶ。
その風は、そこをかける少女の頬に浮かんだ暖かな一粒の水滴を、ふわりと運んでいった。
第一幕、終わり。
5話構成の予定だったが、まさかの8話。ありゃりゃ。
とりあえず、儚さんを退場させたかったのでこの話を書きました。
うん、あの人は強いというレベルじゃない。もはやちゐと。
だからなのかなんなのか?少々というか、かなりベタな展開に。
次回以降は、割と特異な内容になってる・・・はず。
ついでに。隠しページを設定しました。さほど意味は無いけど。
ヒント?嫁。
最終更新:2009年12月04日 17:10