友人にこれ読ませたら「厨二病乙」という新しい四字熟語を作ってもらった
最近バッカーノ!見てハマった。
面白いぞ。
LAP29 視点を咲夜に転換してみるとこの物語の世界観が変わったと思うんだが
「これはどういうつもりかしら」
私は精一杯怒っている声を出してリュウに問い詰める。全てを吐き出させるために。
誰だって怒ると思うわ。
まさか、紅魔館の鍵がちゃんとしまっているか確認を取ろうと門まで言ったら、リュウが他のF-FIREパイロットと話をしているのよ。
そして、急に黒いマントを着た男がF-FIREコースを出現させ、リュウがその男の挑戦に乗った。
もし、その男がもうすこし現実味というか、一般的な雰囲気を醸し出していたのなら私もこんなに本気になって止めはしないだろう。
むしろ、彼を歓迎するべきである。リュウの友人となれば、それは警察に関係する肩書を持つ人物か、或いはとく常識を理解している人に限るだろう。
しかし、事態はそこまであまくなどなかった。
男は全身黒ずくめなのだ。おまけに、顔にまで黒いマスクを着けている。
そして、彼から感じられる雰囲気を私は安楽視することができなった。
あの時、門と私には結構な距離があったはず。それにも関らず私は彼の殺気を感じ取ることができたのだ。
それに、リュウが振り返って紅魔館にはいるときの表情には、緊張が走っていた。
もし彼がリュウの知人だとしたらリュウは肩を組むか何かをして一緒に紅魔館にはいり、すぐさまお嬢様に同居の依頼をするだろう。
それなのに、リュウのあの時の表情は、あの周囲だけでなく紅魔館の庭全体の雰囲気さえをも緊張の一色に染め上げてしまうほどにピリピリしていた。誰が見てもリュウの身に何かしらの危険が迫っていることは勘づく。
しかし、リュウは全く引く姿勢を見せない。
「咲夜。これは俺の問題だ。今回だけは譲れない」
その目はかなり真っ直ぐだった。一瞬言葉に詰まるが、ここで引いてしまっては意味がない。私は私なりの意地を忘れずに声を張る。
「許さないわよ。勝手なことをするのなら、私が止める」
私は何としてもリュウを止めようとしていることをアピールする。が、
「なら、俺は強行突破をするまでだ」
私の脅しにもリュウは目を輝かせて動じない。
なんでこんなに燃えているのかしら。私はあなたの命に危険が迫っていることを察知し、あなた案じて忠告しているのに、リュウは全く聞く耳を持たない。
「お嬢様も怒っているわ。リュウに勝手な真似をさせないように私が命じられているの」
あまり言いたくなかったけれども、しかたなくお嬢様のことを口にする。さっき、お嬢様の元に言ってどうするか聞いて来たのだ。
さすがにこれにはリュウも戸惑った様子だ。
「げ…マジかよ」
リュウは腕を組んで唸っている。
「だから、一度お嬢様に…」
私はこのままリュウを止めようとしたが、
「駄目だ。今は時間がない」
リュウは戸惑った様子を見せたものの、やはり態度は変えない。
「どうして…どうして命令を無視するまでレースをすると言い切るの?」
すこしだけいらっと来てしまった私は、リュウに言い寄った。私の言葉にリュウが言い詰る。
「お嬢様も私も、あなたの身を思って言っているの。なんで理解できないの?」
しばらく部屋の中が沈黙に包まれる。私は問いかけた。次はリュウがこたえる番だ。
丁度刻は本格的な夜を迎えようとしていた。
暖房が入っているこの部屋でも、冷気が隙間から押し寄せてくる。
少し肌寒いのは毎年のことだから問題ないが、空気が冷たいと空気はそれだけきれいになるというように、夏よりも無数の星が輝き、月により明るさをもたらしていた。
が、それも西からの風に乗ってきた雲で間もなく覆い尽くされてしまう。
しばらく間が空いたのち、リュウが口を開く。
「俺にとって、F-FIREは俺なんだ。俺からF-FIREを除いたら、何も残らない」
リュウはまるで、人生の大切な決断をしているかのような重い声で言葉を発した。
「そんなことはないわ。あなたは他のものがあるでしょう」
私は、出来るだけ今回のレースの挑戦をあきらめてもらうためにリュウの言葉をフォローしつつも否定する。
が、いままで足元を見つめていたリュウは突如顔をあげて私を一直線に見た。その目は、本気だった。
そして、リュウはまるで小さな子供にやさしく語りかけるように話しだした。
「俺がF-FIREパイロットをやっている理由が二つあるんだ。一つはもちろんF-FIREで優勝すること。これは、俺だけでなくF-FIREパイロット25人全員に言えたことで、優勝についてくる賞金とか、優勝することで名声があがるとか目的は様々なんだけど、それは全部優勝することで手に入れられるものなんだ。だから皆F-FIREに参加するし、テクニックの向上を日々おこなっているんだ。まあ、当たり前の話だわな。でも、俺には他の連中にはないもうひとつ理由がある」
「え?」
「咲夜、お前は何だと思う?」
急に問いかけられて言葉に詰まる。そんなもの、急に聞かれても思いつかない。
でも、私は考えても答えを導き出すことはできなかった。
レースに出てる限りは皆優勝を狙っている。そのことはさっきリュウが言ったことと重複するが、その目的を持たないでレースに出る人間は一人としていない。
仮に優勝が目的ではなく、誰かのアシスタントとして出たという人間がいても、心の奥底には優勝したいという、レーサーならだれでも持っている欲望があるはずだ。
しかしそれをひっくり返して考えれば、レーサーがレースにエントリーする理由はそれだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。
だからレーサー達は日々ドライビングテクニックを磨くし、基礎知識、基礎体力を養うためにも努力している。
そして、レースを見に来る人たちも優勝を狙うレーサー達のデッドヒートを見て歓声をあげる。そうしてレースは初めて娯楽に変わる。
レースというものはそういう目的にあるものじゃないのだろうか?
「思いつかないみたいだな…」
「う…」
言葉に詰まる。
結局答えを出せなかった。私の頭では、そういう固定観念が宿りついていた。
だから、リュウが言った答えがレースとは全然関係がなかったことを理解するのにものすごく膨大な時間を必要とした。
「俺のもう一つの理由、それは皆が安心して暮らせる社会を作るためなんだ」
「え…?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
私には理解できなかった。その答えとレースがどう関係するのかと。それもそうだ。その理由は、私の頭の中ではすでにレース=娯楽という揺るぎないであろう先入観があったからにすぎない。
リュウは天井を見上げながら一つため息をついた。そして、目を閉じて、こう語りだした。
「俺が住んでいたトレイキョウは、銀河一発展した都市だった。町中がビルの塊で、夜も昼のように明るかった。文明もすごく発達していて、住民が不便と思うようなことは何一つとしてなかった。以前はその影響で交通機関の混乱とかもひどかったけど、いまではもう完全に解消された。もし、外の世界から見たらトレイキョウは平和な世界だったと思うだろう」
全くもってその通りである。幻想郷の生活しか覚えていない私は、文明が発達しているトレイキョウを文献で読むたびに羨ましがっている自分の姿を思い出す。
いつかあっちの世界に行って便利なものを扱ってみたいと何度も思った。にとりの発明機具よりもはるかに手際がよく、安全な機械がたくさんあるのだろう。
が、リュウは天井を見詰めたまま言葉をつづけた。
「でも、それでもトレイキョウが平和というには条件が足りなすぎた。いや、その十分すぎる条件を打ち消す恐怖があったというべきか」
「そんな恐ろしいものがあったの?」
私は疑問に思った。そこまで文明が進んでいるのなら、その恐怖を文明と文化の力で無くせばいいのではないか。
「……そっか。まだお前には俺が向こうでどんな生活を送っていたかを話してなかったな」
ようやくリュウは天井から私に視線を戻した。そして、また語りだした。
それはリュウがトレイキョウにいたころのあまりにもひどい話だった。
トレイキョウの文化と文明が持てるすべての力を発揮しても倒せないデスシャドーの存在を、私は知ったのだ。
彼がどれだけトレイキョウで暴挙を働いていたか、彼を封印するために俺達ジャスティスウィングが召集、結成されたこと、そして、リュウがどういういきさつでこの世界に飛ばされたかを。
リュウの話を聞くごとに私はやはり幻想郷にいたいと思い始めた程恐怖を感じていた。
よく物語とかで正義のヒーローと悪の帝王が戦うアクションファンタジーの物があるが、本当に実世界でもそのようなことがあるとは思いもしなかった。
あんなきっぱりと枠組みが決められる様なストーリー程ではないが、少なくともジャスティスウィングは「正義」、グラックタイガーは「悪」であろう。
が、大概そういう小説は正義のヒーローのパワーが悪の帝王のパワーと同じ、またはそれよりも大きいという裏設定が欠かせない。
そうでなければ正義のヒーローは倒され、悪が世界を支配する、いわゆる「バッドエンド」が待ち受けているからである。
しかし、リュウの話を聞いていると、果たしてブラックタイガーとジャスティスウィングのパワーの差は幾倍でどちらの方が上だろうか。
ブラックタイガーの方が3倍近くジャスティスウィングよりも強いことは容易に想像できた。
ほぼ不可能に近い実力差。それを目の前にどんとみせられても、いつか来るはずの勝利の日を待ってジャスティウウィングのメンバーに拍手を送りたい。
しかし、拍手をするにはまだ早かったようだった。
「まあ、そんなこんなで今俺はここに立っていられるんだ」
リュウは最後にそう言って自身の過去の話を締めくくった。
「で、今あなたが対戦しようとしている男は下っ端か幹部なわけ?」
私は当初の予定を思い出す。
そうだ、リュウをこの危険なレースから除外しなければ。そう思った私は話の焦点をレースに戻す。
しかし、リュウに答えはただ私を驚愕させるだけのものだった。
「デスシャドーだ」
私は固まる。
まだ少ししか話してもらってはいないが、文明と文化の塊のようであったトレイキョウをたった一人で恐怖のどん底に落としいれた恐ろしき人間。それが今紅魔館の門の前にいるというのだ。何をしでかすか分からない。
その名前を聞きおどおどする私の肩に、リュウがそっと手を添えてくれた。そのままリュウは私の目を見ながら話す。
「あいつはトレイキョウだけでなく、ブラックタイガーをいう組織をひきつれてさまざまな強盗、殺人などの悪事を働いている。トレイキョウでも毎日の様に被害者がでているのだ。俺が幻想郷に来た理由もあいつの手下に図られたのが理由だ。スーザンだって、ジャスティスウィングの隊長になってから全く笑顔を見せない。あの男一人によって何億もの人が笑えずにおびえて生活しているんだ。俺は、あいつを始末することが使命だと思っているんだ。だからジャスティスウィングに入っている。そして、それこそがF-FIREパイロットになったもう一つ、かつ真の理由なんだよ」
「……」
私は何も言えなかった。
初めてリュウにあった時のことを私は思い出した。
下の履歴、あまりにメンドイから改造させてもらいました
LAP30 大切な事って人にはあまり分かってもらえないものだよね。
あの時、私はお嬢様に紅茶を届けていた時だった。
『いつも御苦労さま、咲夜』
お嬢様はあの時ちょうど呼んでいた本を読み終えていたところだった。私は、お嬢様の近くの机に紅茶を置いて、
『失礼ながら、それは何の本ですか?』
と尋ねたのを覚えている。
なんせ本の端が焼け、刷られた当時は綺麗な黒だったと思われる表紙・裏表紙・背表紙は、色がはがれていたり埃が付いていたりなどをして白くなっているのだ。
私がその言葉を発したのは、お嬢様がそんな古い本を呼んでいるのを見て、とても珍しく思ったからであった。
お嬢様は机の上に本を置きながら、
『これは向こうの世界…幻想郷じゃない、現世で書かれた本よ。ここには、向こうの世界の中心地であるトレイキョウという都市とかの説明が書いてあるわ』
と言った。置いた本の下からはわずかながら埃の煙が立っていた。
『なぜ、そのようなものを読んでいるのでしょうか?』
幻想郷の住人ならだれでもこういう質問をしたであろう。私も例外ではない。そんないきなり向こうの世界のことを調べだしたら、だれでも動機は知りたくなる。
その時、確かお嬢様に渡した紅茶は少しだけ砂糖を控えた記憶がある。その日の夕食の終りにいつもより甘いデザートを出したからである。
その紅茶をお嬢様がのんだから顔をしかめたのか、考え事をしてしかめたのかは今でも分からないが、確かに私がそれを言ったあと、お嬢様は顔をしかめた。
そして、何か唸るような声を上げた後、顔を元に戻して、
『実は、気のせいかもしれないけれども誰か向こうの世界から人間がこっちに漂流してくるような予感がするのよ。そういう運命を感じるのよね。その人間は一見普通の人間。だけど、その人間はタダものじゃない。私たちみたいに固有の能力を持っていて、さらに仲間や自分が真にピンチになった時に覚醒するような、とても強い人間だと思うのよ。その人間は向こうの世界で神がかった功績をいくつも立てて、将来の目的も非常に大きくとっている。その人間は、たぶんこの幻想郷に新たな伝説を作るわ。まあ、その人間がもし本当に来たときのために、少し予備知識をつけておこうかと思ったのよ』
と言った。
そして、お嬢様の予言通りトレイキョウからリュウが漂流してきた。そして、これも予言通り、今聞いた話を聞く限りリュウはタダものじゃないことが分かった。
リュウは、語りの締めをこれでくくった。
「だから、俺は誰が何といおうともあいつは倒す。そして、機会を作るためデスシャドーがでるレースには必ず出る。それが俺の使命、義務、そして生き様だと思っている。そして、世界を平和にしてスーザンに笑顔をプレゼントしたい。これで、理由になったと思うが、どうだ」
そして、リュウは腕を組んで壁にもたれかかった。あとは私が何というか待つという意思表示だろう。
でも、いくらタダものじゃないリュウだって、しばらくレースをしていなければ腕が落ちているのは当然のこと。やはりリュウに危険が迫っていることに変わりはない。
私はやはりリュウを止めることを試みることにした。
「でも、お嬢様が制止しているのよ。私にも意地が…」
「咲夜、やめなさい!」
私の言葉は、怒鳴り声に遮られた。とても鋭い声だった。
振り向くと、私やリュウよりももっと真剣な表情のお嬢様が立っていた。
「……」
お嬢様はそれ以上何もいわずに、その赤い瞳でリュウをきつく睨みつけている。が、リュウも引く気はないようで、覚悟を決めた目でお嬢様を見つめ返していた。
やがて、リュウはこの沈黙を破り、
「お嬢様、申し訳ありません」
といいながら深々とお辞儀をした。
「そう、それでも反抗するのね」
リュウが頭をあげると、厳しい表情は崩さずにお嬢様が怒りの感情がこもった声を発すが、
「これだけは譲れません」
再びリュウはお嬢様を見つめ始めた。
リュウとお嬢様の長い長いにらめっこは、当然のごとく辺りを重い雰囲気にしていった。
お嬢様とリュウの睨みあいを止めるわけにもいかず、他の話題を提供することもできず、私はただ二人の睨みあいを見ているしかできなかった。
窓の外は、完全に暗闇になっていた。さっきまで見えていた無数の星は、西から流れてきた雲で覆い隠され、月明かりもなくなった。
外はただ、20分ぐらいまえに浮き出たレースが、レース脇のガードビームが発している青白い光に照らされて不気味に浮いているだけだった。
二人はそのまま3分ほど睨みあっていたが、急にお嬢様が腕を組み、下を向きながら大きくため息をついた。そして、一言こうつぶやいた。
「……レースが終わったら重罰ね」
長い沈黙の末、お嬢様が折れたのだ。私は思わず、
「お嬢様、でも…」
といいかけるが、お嬢様に手で制された。
「分かっているわ、咲夜。でも、リュウは絶対にとまらないわ」
私にそう言うと、厳しい声でリュウに話しかける。
「あなたはこれでペナルティがついたわ、次の命令を聞かなかったらただじゃすませない」
リュウは真顔の表情をぴくりとも動かさずに
「なんでしょう」
と言う。
すると、お嬢様は急に真剣な顔を崩し、いつもお嬢様がみせる微笑に変わった。
そして、とても優しい声(正直言わせてもらうと、ここまでのお嬢様の優しい声はいままで聞いたことがなかった)で、
「必ず……勝って帰りなさい」
と語りかけた。
お嬢様の言葉にリュウも真剣な顔を崩して笑顔を見せた。
「あ……ありがとうございます!」
そして、弾んだ声でお礼を言いながら深深とお辞儀をした。
「礼を言う場面じゃないわ。達成できても命令無視のペナルティはしっかり受けてもらうんだから」
「必ず、勝って見せましょう」
リュウは血気盛んになってきた。
もうどんな人間でリュウを止めに言ったとしても、この熱い漢を止めることはできないだろう
リュウが一礼して部屋を走って出ていく。私はその背中を目で追っていたが、
「手のかかる執事だわ…全く」
お嬢様はため息まじりに言って、リュウの走りさっていく背中は全く見ていなかった。
「お嬢様……あれでよかったんですか?」
私は不安になってお嬢様に問いかける。
私の意見は、間違っていなかったとおもう。
リュウに危険が迫っているのは確かなのに、それを知っているお嬢様はなぜリュウにレースを許可したんだろうか。
「リュウはレースの腕が落ちているはず…」
お嬢様は少し黙った後口を開いた。
「私、リュウの運命を見たのよ。彼はこのあとずっと闘い続けるわ。あの男と」
お嬢様はそう言ったあと、視線を私に向けた。
さっき、リュウに優しく語りかけていた時の目とどこかしら似ているように見えたのは気のせいなんだろうか。
「それは…」
「私がなぜリュウにレースを許可したか、あなたにはわかるかしら?」
少し考えてみる。お嬢様はリュウの全てを知っていたのだろうか。それとも、対戦相手であるあの男のことの方を知っていたのだろうか。
いずれにせよ、私に答えを導き出すことはできなかった。
「いえ……」
私は力なく首を振る。と、お嬢様はふふっと微笑し、
「リュウがF-FIREに全力を注いでいたことに何の偽りもないことはまぎれもない事実。リュウがあなたに言ったこともすべて本当だと思うわ。さて、彼がブレイクダークのメンテナンスを怠った日がいくつあったかしら?」
お嬢様のその質問に私はハッとした。
前からそうだった。リュウは執事として一切の仕事を的確にこなしていった。その作業の手際の良さは他の妖精メイドとは比べ物にならないほどであったと思う。
しかし、1パターンだけリュウが執事としての仕事を捨ててまでも、自分の寝る時間を削ってまでも自分のしたいことを貫き通したものがあった。
いうまでもない。ブレイクダークのメンテナンスだ。
私が見ている限り、リュウはブレイクダークのメンテナンスとしてさまざまなことをしている。
マシンの心臓部(エンジン、ハンドルの配線、ボディの傷のチェックなど)の確認をし、試運転をしたのちに、マシンを磨き上げる。
リュウ曰く、白っぽいボディだからすぐ汚れが目立つのだそうだ。
それを入れても、晴れの日のブレイクダークは直視できないほどに太陽の光を反射して光り輝いていた。それだけリュウはブレイクダークを磨き上げていたんだ。
どうしてブレイクダークのボディがそんなにきれいなのか。
それこそいうまでもない。リュウが毎日毎日休むことなくボディを磨き上げているからである。
それほど、リュウにとってブレイクダーク、いや、F-FIRE自体が向こうの世界にいた時から密接にかかわっていたのだろう。
まるで、私にとってのお嬢様、またはそれ以上に。
「ない…と思います」
頭の隅から隅まで見まわしたが、そのようなものは一切記憶として残っていない。当然だろう。ない記憶は頭の中に入っていない。
再びお嬢様が話し出す。
「あの子にとってF-FIREは生き様といっていたけど、もっと言葉にできないほど彼とF-FIREは親密な関係だと思うの。だから、あんなにデスシャドーという男に執着だし、F-FIREのことになるだけであんなに情熱的になれると思うの」
「……」
返す言葉がない。真実以外の何物でもないからである。
「それに、まだリュウには死相が見えないしね。大丈夫、生きて帰ってくるわ」
私はその言葉でほっとするが、それでもまだリュウがなぜそこまでしてF-FIREと密接な関係にならざるを得なかったのか、それとも密接にかかわろうとしたのか、理解できなかった。
彼が目指しているものも含めて。
お嬢様がリュウに部屋に置いてあったソファに腰掛けて、
「まあいいわ。私はレースの様子を見守るわ。あなたはどうするのかしら」
と私に問いかけた。
私は、今までこんなにリュウがこんなにかけ離れた存在にしか感じることが出来なかったことがないほどに、リュウが遠く感じた。
何か、私とはスケールが違う願望を抱き、それに向かって羽ばたこうとしている。なら、私がリュウにしてやれることは何なんだろうか。
それにはまず、リュウが何を目指しているのか、知る必要があった。それは、リュウのF-FIREのレースを見ればヒントのカケラぐらいは落ちているだろうかと考えたきっかけというか、理由でもあった。
「お供させていただきます」
私はそのように考えてから、お嬢様に一礼する。
「よろしい」
この疑問は、いつかリュウに聞こう。そう思った私はお嬢様についていくことにした。
wordで完成したところはすべてあげました。
これから更新速度が落ちます。
すいませんね
LAP31 男が世間にどう評価されるかってやっぱ生きざまが大切だよね
「待たせたな!」
俺はブレイクダークをレースのスタートピットにつけて、デスシャドーに声をかける。
俺は咲夜とお嬢様に話をした後、人生で一番のスピードでブレイクダークの元へ走った。そして、きっちりマシンのセッティングを終わらせたのち、これまた人生で一番のスピードでブレイクダークをかっ飛ばしたのだ。
さすがのデスシャドーも俺の搭乗時のスピードに唖然としていたようだった。まあ、それでも全く問題はないのだが。
「随分と準備に手間がかかったようだな、リュウサトウ」
不気味に白く光るマシンを横目で見ながら、俺はマグネット越しに聞こえてくるデスシャドーの返答を聞く。
しかし、この緊張感は懐かしいったらありゃしない。なんだ?実に1年ぶりのレースってことになるのか?
というか、1年をレースをしていなかったという事実の方に俺はびっくりするね。あんなに毎日向こうにいた時はブレイクダークをかっ飛ばしていたのに、幻想郷に飛ばされて以来は確かに移動手段以外には使っていなかったからなぁ。
「わりぃ」
余裕の笑みを浮かべて俺は返答する。と、それに気が付いたのか、
「ほう、随分とやる気ではないか」
とデスシャドー。
「ひさびさにあんたと対決できるんだ。燃えてくるぜ」
気がつくと、俺の声は向こうの世界でのレース直前のようなはしゃいだ子供のようなはねた感じはなく、冷たく、低く、しかしかすかに余裕と情熱が感じ取れるような感じになっていた。
それに、声だけじゃない。体がすごく慎重になっている。
向こうじゃあとび跳ねたり駆け回ったりして情熱の半端なさを体中でアピールしていたというのに、どうしたんだろう。
まるで、因縁の敵のアジトに潜伏しているかのような感覚だ。
慎重で、落ち着いていて、でもそれでいてある目的を狙う情熱もある感じだ。
なんだろう。この感覚。
向こうの世界でのF-FIREじゃあ控室で雄叫びをあげるほど気合を入れてレースに臨んでいた。
一番最初に叫んだときはF-FIRE運営委員会に近所迷惑になるからやめろと一喝されてしまった、いまでは笑って話せる思い出があるが、そうでもしねぇと俺は体の芯まで気合いがしみこまねぇらしい。
まったく、なんてめんどくさい体質だろうか。
わざわざ気合いを入れるために叫ぶなんて、まるで野生の狼か何かみたいだ。
まあたしかに、F-FIRE優勝という最上の獲物を目の前にして猛スピードで駆けていくその姿は、腹をすかした狼そのものだな。我ながら愚問を考えたものよ。
しかし、今はそんな感じじゃない。
自分でも驚くほど心が冷たい。
でも、心の芯は情熱をやる気でいまだかつてないほどの高熱に達している。自分の皮膚のあたりは落ち着きと慎重で重いが、その下は重力を感じさせないほどに熱く、軽快だ。
そうだ。俺はこういう感情に当てはまる単語を一つ知っている。この言葉はスーザンに言われて、聞いた当初はその言葉の意味がよく分からなかった単語だ。
―――――「漲る」
と言っただろうか。
「その余裕がいつまで持つか、楽しみだ」
そんないつもと違う俺の様子に期待しているのか嘲笑っているのか、デスシャドーもいつもより随分と高いトーンでお話をされる。
「そのセリフ、そのまま返してやるよ」
まあ、俺もデスシャドーのようにテンションは右肩上がりだがな。
信号が前に降りてくる。滾る気持ちを抑え、信号に集中する。
ああ、懐かしい。この感覚は、向こうでは嫌というほどに感じていたなあ。レースがない日でも、ジャスティスウィングの毎日の訓練で、仲間とレースをしていたからだろう。
しかし、幻想郷に来てからはこういう緊張感に包まれた感覚とはご無沙汰していたからなあ。当然だろう。懐かしいと感じるのも。
おっと、感傷に浸っている暇はない。久々のレースでうれしいっちゃあ嬉しいが、さすがにメンテナンスで走るだけでは俺のレースの腕はキープできないことは重々承知している。
たぶん、俺が一番そのことについて知っているだろう。その状態で、向こうでレース漬けの日々を送っていた時代でもなかなか勝つことのできなかった難敵が相手だ、負ける気はさらさらしないが、勝つ予感はあまりしない(どうか、日本語になってないといった要旨の突っ込みは控えて頂きたい。俺だって必死に考えたんだ)。
それに…
『Three』
あからさまに機械に発音させた無感情な声とともに信号の三つの画面に『3』の字が浮かび上がる。
いよいよなんだな…一年ぶりのレースが、こんな辺鄙な幻想郷に突如現れた不気味なレースで、対戦相手がデスシャドーのみという異様な環境でスタートするんだな。
そういう風に自分に認識させると、いよいよ俺もわくわくしてきた。
楽しませてくれるんだろうな、デスシャドー。俺が向こうの世界でF-FIREのコース上で暴れていた、あの頃の情熱的な気持ちと再会させる懸け橋になってくれるんだろうな?
『Two』
信号の表示が『2』に変わる。
まさか、こんなところで一発レースが出来ると思わなかったぜ。
こんな辺鄙なところじゃあ、コースのレイアウトが全く取れなかったからなあ。見渡す限り怪しい森におおわれているんだから。
それが、この突然の来訪客によって実現したんだぜ?自分の幸運さというか、F-FIREと俺の関係の強さを思い知ったね。
『One』
今、俺は人生で一番自信過剰になっているだろうね。
自分はF-FIREのパイロットとなるために生まれてきた。自分が生まれるためにF-FIREができた。今なら自分こそがF-FIREの神様に選ばれた真のパイロットだという風にも思えてならないね。
この世界が俺中心に回っているという言葉を真顔で言えといわれても、俺は二つ返事でこなすだろう。
もう、デスシャドーに負ける気などさらさらなかった。勝つことしか頭の中になかった。
ああ……これが、いままで忘れていた、レース直前の俺なんだろうか。
『Go!!!!』
激しい怒鳴り声と共に、信号機がこれでもかというぐらいに緑色に光った。
「いっくぜえええ!!!!」
俺は我慢していた気持ちを一気に放出する。そして、壊れんばかりにアクセルを踏み込んだ。
久々のレースだ、派手に暴れてやろうじゃないか!!!!
え?何?短い?
すいませんとしか…
LAP32 レースってやはり根性と気合がないと勝てないよね
俺はアクセルから足を離さない。それに従い機体のスピードも上がってくる。時速500km、600km、700km…
これだよ、これ!この感覚!実に一年ぶりになるが、この機体が加速していく時のこの感覚にあこがれて俺はF-FIREパイロットになったんだよ。
この感覚を俺は忘れていた。だから、今この感覚が身には過ごす新鮮に感じられた。頭の中の俺も、久しぶりに味わうこの感覚が、今の俺にはたまらなかったようだった。
「さあ、祭りの始まりだ!」
俺にとってはこのレースはとても貴重な体験だった。
F-FIREの腕が相当落ちていると思われる時期にこのような大敵と対戦できること。俺はすごい奴と対戦することが大好きだということを今俺に実感させてくれた。そのたびに心の底から漲る力を感じることができるのだ。
ブレイクダークの調子も非常に良好だった。いや、いつもでは考えられない調子の良さだった。
いくら最高速重視マシンでも開始早々時速1000kmを超えたのは初めてだ。ブレイクダークも相当レースに飢えてきていたのだろう。
しかし、相手も強敵だ。レース直後のカーブでいきなり抜かされる。
相手はF-FIREエントリーマシンで最高重量のマシンを自在に操れる。重いマシンというのは旋回能力が非常に悪い代償に最高速、加速ともに高い能力を誇る。それに、デスシャドーにはグリップEかつ最高重量というハンデを補えるほどのテクニックを持つ。つまり、デスシャドーが乗ったブレイクダークというのは、加速、最高速が非常によく、カーブもきれいに曲がれるという鬼蓄な性質なのだ。
そして、ジャンプ台でも最高速の差は歴然と表れてしまう。さらに差を開かれてしまった。
「くっ…さすがにきついか…」
どんどん差を開かれていく状況に少し焦る。さすがに、今の俺の腕じゃああいつと肩を並べることもできないか…
いや、しかし、まだ緩いカーブとジャンプ台しかコースを通っていない。いくら腕が落ちているとはいえ、これくらいなら昔の俺くらいの速さで走れる。
じゃあ、なんだってデスシャドーとこんなに差が開いちまったってんだ。ブレイクダークのせいか?いや、そんなことはない。今日のブレイクダークは怖いぐらいに絶好調だ。さっきも言ったとおり、最高速マシンでもブーストをかけずに時速1000kmだすことは奇跡に近い。
なのに、今日のブレイクダークは出てしまうのだ。じゃあ何が原因だ?やはり、デスシャドーが強いのか。俺と対戦しない間に腕を上げたのだとしたら、相当鍛えたのだろう。
いや、そんなことを考えている暇があるなら、この状況を打開する方法を考えないと。このままだとまずい。
そう、ジャンプ台を超えた後は細かいカーブの連続。ブレイクダークの場合グリップがBなので非常にスラリと通ることができる。
ただ、この程度のカーブならデスシャドーも難なく超えてくるだろう。多少は減速しなければならないとはいえ、ここでまた差を開かれるわけにはいかない。
「さすがにやるな…」
俺は何とか打開策を頭の中で煉る。だが、頭のどこの引き出しを引いてきてもそれはすべて外れに終わってしまう。
デスシャドーがどこかで大きなミスを犯してくれないだろうか。そうでもしない限り、この状況を打開するのは難しい。
いや、敵に期待をかけても意味がないことは分かっている。しかし…じゃなかったら何かいい案があるのか。開始早々窮地に追い込まれた俺は早速焦りまくる。
しかし、それは杞憂に終わった。
理由?俺の願いが、天に瞬いているはずの星に届いたとでも言っておこうか。今は雲で覆われて全く見えないけどな。
細かいカーブが終わった先は直角のカーブが待ち受けていた。コース自体が非常に狭く、細かいドライビングテクニックが要求されるこの場面では、いくらデスシャドーが乗るエンドレスフィアだとしても減速せずに通過することは不可能。
確実に減速して入るか、壁に当たってコース取りを取るかの選択を要求されるだろう。ただ、どちらにせよグリップBのブレイクダークに比べたら不利なはずである。
案の定俺が直角カーブに入りかかるところでブレイクダークが壁に当たって減速しているところも目撃する。
「もらったぁ!」
俺は、しめしめと心の中で思うと、ここで一気に放せると思い、ブーストを仕掛けて一気に抜かそうとする。
が、ここには遠くから見ていたら絶対に分からない罠があった。
道全体がスリップゾーンなのだ。何も知らないでブーストをかけて、時速3000kmあまりで差し掛かった俺は当然ながら焦ってブレーキを踏む。
しかし、スリップゾーンではその指示もむなしくブレイクダークは壁に激突する。
「ぐっ…」
そうか…デスシャドーはこれを知っていてわざとかなり減速してこの曲がり角に差し掛かったのか。そうでもしなければあそこまで減速しないだろう。
じゃあなぜ、デスシャドーは周りから見ても分からない隠れスリップゾーンの存在を知っていたのだろうか。
ふっ、愚問だな。よくよく考えてみろ。このコースを持って来たのは誰だ?誰がこの折り畳みコースを作った?誰がこのコースで勝負しようといった?
全部デスシャドーだ。当然、このコースの全形式があいつの頭の中に入っているのだろう。チキショウ。
俺は力いっぱいハンドルをきる。軌道が不安定になるスリップゾーンでは例え横に滑っていたとしてもコースどおりに通っているならばそのまま突進するのが道理だ。
俺はいつか誰かに聞いた、そんな都合のいい道理を今俺の都合のいいように抗って通り、なんとか直角カーブを抜けた。
が、さすがにボディEのブレイクダークにあのピンボールはきつかったか、少しマシンの損害が大きすぎた。パワーが半分を切ってしまった。確かに、あんなに激しく壁に突進したらこれも当然の結果だろうか。
俺は一応直角カーブで抜かしたエンドレスフィアの様子を確認する。
すると、嬉しいことにエンドレスフィアはまだ直角コースの餌食。どうやら重くてグリップEで、かつスリップゾーンときたら、さすがのデスシャドーも苦戦するようだ。
もしこれからまた抜かれるようなことがあったらあそこが抜けるポイントになるだろう。
とりあえず、今はエンドレスフィアと差を広げられるチャンスだ。いけると思った俺はわずかなパワーを使ってブーストをかける。
ここからは直線コースと緩やかなカーブを組み合わせたコースになる。ここである程度差をつけておかないと、ブレイクダークよりも最高速度が速いエンドレスフィアに追いつかれてしまう。
ただ、やみくもにブーストをかけるとパワーが空になってしまう。少し調節しつつブーストと仕掛けていかないとマシン自体が持たない。そう考えた俺は、ちらほらブーストをかけながら時速2000km以上を保って走行する。
この直線コースの間にはパワーポイントが所々に設置されているようだ。だから、当然のことなのだが、このエリアでは回復することができる。
今の俺の状態から見れば非常に助かるのだが、そうそう安心してもいられない状況が俺に迫ってきていた。まあ、鋭い読者なら何が迫って来たのはお察しだろう。
そいつは、影だけでなく音でも俺に迫ってきていた。
――――ヴヴヴヴヴヴヴ
不気味なエンジン音が後方から聞こえてくるのに俺は今更ながら気づいた。ましやと思ってバッグモニターに目を落とすと、バッグモニターには不気味に白光るマシンが寄ってきていた。
そう、言うまでもない、エンドレスフィアだ。案外エンドレスフィアは早い段階で直角カーブを超えてきたようだ。まだ俺が直角カーブから抜けて20秒しかたっていないというのに…
「何!もうあそこを抜けてきたのか」
てっきりまだ苦戦していると思っていた俺は完全に度肝を抜かれた。やはりデスシャドーは強敵だ。あそこの難コースをこの短時間で乗り越えてくるとは…
「リュウサトウ。まだ終わりではないぞ」
コックピット越しからデスシャドーの声が聞こえてくる。もはや今の俺にはその声を聞くと恐怖すら感じてしまうほどにデスシャドーに敏感だった。
「くそっ、このままだと抜かされる!」
コックピット内で打開策を頭の中で煉るが、何の変哲もない直線コースに打開策が眠っているわけがなかった。そのままあっさりと抜かされてしまう。
「やばい、このままだと負ける!どうすれば…」
しかし、このコースで奴との差を縮められそうな場所は、今のところ小刻みにカーブが襲う直角コースのみ。レース内にして10%しか占めない範囲だった。
おまけに、走ってみるとスタートラインまでは何の変哲もないコース。もろデスシャドーに有利なコース設計になってんじゃねぇかよ!
「くそっ!」
俺はこの理不尽な勝負に今更ながら気づき、苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのだろう、髪を掻きあげて悔しがった。
そして、そんな俺の様子を気にかける様子もなく、リードを広げられたままこの薄情なコースは2週目に突入する。
なかなかきびしいレースになりそうな予感がしてきた。
とりあえずここまで更新
最近短めが続くな…
最終更新:2009年12月22日 21:07