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リレー小説 3ページ目



もはやわしとレフィ殿の独壇場((((



暁闇の立ちこめる空間。


辺りには大きな壁がそり立っていて、前にだけぽっかりと穴が開いている。


肌に感じるのは、熱い何か。幻惑的に蠢く何か。


場を満たすのは、規則的にはぁ、はぁ、と繰り返す音。


それ以外の音は何も聞こえない。


まるで、世界の時計が止まってしまったかのように。


もしくは、別の時計が止まってるのかもしれない。


たとえば、自分のとか。


ほら、だって今も聞こえてる。


すっかり壊れてしまった針のように、不規則にそれを指す音が。


…あぁ、じゃあまだ止まってないのか。


壊れようとしてるだけか。


だんだん時計がぶれてきた。


テレビにかかるノイズのように、ぶれてきた。


「あ、蝶々・・・」


何かの声が聞こえた。


所々がたくさんほつれたぬいぐるみみたいな声だった。


ぬいぐるみの姿が見えた。


セーラー服が縦にぱっくりと裂けて、白いきめこまやかな肌が見えていて、細い足はニーソックスに包まれており、それに白いショーツがずれ落ちようとしていて・・・。


唐突に視界が開いた。

スプリングの利いたふかふかのベッド、前にはソファとベッドの両方から見えるように備え付けられた70型テレビ。
隣には、針を止めて肢体を投げ出している時計。

…なんて夢だ。

どんだけ現金な思考回路をしてるんだこのポンコツブレインは。いくら昨日付き合い始めたからとて早速瑞乃とナニ・・・いや何もしてないってだからその、ええい、俺は誰に言い訳してる!

寝相の方もとんだ状態だったらしく、着ていた白の羽毛布団は空き巣でも入ったのか?と見るものが見れば疑うであろうくらいに床へと吹っ飛んでいた。
よくよく見れば、目覚まし時計も壊れている。いつの間に俺は睡眠拳法を体得したんだ。

ユウキは時計を”天国”もといダンボール箱へと放り込みながら、着替えの支度を始める。
白地のロングTシャツに、白のツーラインが入った黒ジャージが彼の普段の寝巻き姿だ。

あの後、残金3円でどうやって帰ったのかというと、もちろん食い逃げをしてきたわけがない。
ネットで知り合ったレフィとかいう変態馬郎は時代に置いてかれてるみたいだが、アレとは違い俺はちゃんと携帯を持ってるからな。
そんなわけで俺は一番貸しを作りたくない人間を呼び出し、なんとか事無きを得た。

「ユウ君起きてる~?あ、返事が無い、今日は遅刻ですか。無遅刻無欠席だけが唯一の取り柄のユウ君も今日で終い・・・」

一番貸しを作りたくなかった人間がやはり使用人としてあるまじき言動、そして発言をする。
どうせそれが唯一の取り柄ですよ霜月さん。

「あらあら、そんな悲観的な考えではミムラクロックの跡取りは務まりませんよ?」

どうやらうっかり口にしてたらしい。
着替えながらだからな、俺はひとつの事にしか集中できないんだ。・・・じゃあなんで俺は口に出してるんだか。

いちいちげんなりしながらとりあえず霜月は無視することにし、手早く学ランを身に着ける。
もう5月ということもあり、実際は学ランだと結構暑いのだが朝の冷気はまだまだ健在だ。と言えども、学校に着いたら即座に学ラン殿は役目を終える。


にしても、だ。


本当になんなんだよ、あの夢は・・・。




あれれぇ?と思った方。
いやね、あのルートに入るのはおkなのだが、それを実現するには結構な手順を踏む必要があるという大問題に気づいちまって。
リレー小説って難しいねぇ・・・。



……

おかしい……

……何だ、この感覚。いや、この事実。

「おいおい、今日で三回目かよ。」
「MCの社長さんの息子だろ。もうすこし大切に扱ったらどうだ?」

俺の周りに人が集まってきた。でも、茫然としている俺にはそんなこと目に入ってこない。

……知るかよ。好きでやってんじゃねぇンだ。勝手に…時計たちがこうなりやがるんだ。

「ユウキ君。どうしたのさ。朝からそんな事ばっかりで」

俺の隣には彩菜。ものすごく俺をあやしい目で見ている。

……無理もない。朝の事件だってこいつの隣で俺が起こした。いや、実際俺が起こしたわけじゃないから、俺だって茫然だ。

でも、確実に俺の身の回りで起こっている。

こんなことが…本当にあるのか…?

今俺の手には一つの時計――――教室の時計を手にしている。

それだけならいいんだが…

「でも、ユウキ君ってそんな風に時計の針をひしゃげさせるほどの腕力なかったよね?」

彩菜は時計を持って硬直している俺の腕を揉みながら言ってくる。

そうさ……朝からずっとこうだ。

今日起きた時に壊れていた時計だってそう。今日朝俺が寄りかかっていた公園の時計だってそう。学校でだって第二理科室と中会議室、そして教室の時計がこうなった。

なぜだ……

なぜ、俺が触ったすべての時計は、物理的に不可能な曲がり方をしつつ、すべて5:45分を指しているのか?

「こんな鉄の塊みたいな針がどうして90°に曲がるんだよ……」

俺に時計を手渡してきたカズも茫然だ。

いつからこんな力が俺に宿ったのか……なぜ、俺が触った時計は一瞬にしてこういう惨事になってしまうのか……

おれの腕時計だって、針がぐしゃぐしゃになってそれでも尚且つ5:45をけなげに指している。

何の冗談だよ……

「あ…ああ……」

後ろで愕然とした声を聞く。振り向くと、瑞乃が顔を真っ青にして震えていた。

「嘘よ…そんな…」

瑞乃はそれだけ言うと、俺の周りにできた人垣を押しのけてどこかへ去って行ってしまった。

俺は5:45分の差す意味を必死で編み出す。

が、そんな暗号みたいなことわかるわけがない。

ただ一つ、最近見た5:45の表示といえば…



昨日の喫茶店で見た、不気味な追加オーダーの頼まれた時間



レフィ殿の意思を継いだZE☆(((((

さて、少し時計要素追加。
複線張り詰めるのって楽しいね♪(自重



世界は”歪み”を感知するとそれを修正しようとする。
だが、その行為事態が”歪み”そのものであり、
結局、世界は”歪み”に”歪み”を上乗せしているというわけだ。

ユーア・ユンゲ著作『安定のしくみ』(進明館)

計5個目の時計を破壊した昼休みは、何事も無かったの用に時を進め、結局午後の授業を始めていくこととなった。
目に映るのは黒の陳列された頭たち。同じく陳列された椅子と机。
もちろん目に映るだけであり、脳はそれをちゃんと受理していない。

授業内容など頭に入る筈も無く、ずっと考えていたことといえばやはりあの”時間”。
この<時計>を視る力が何をもたらしたか知らないが、分かることといえば確実にこいつは厄介なものだということだ。
無理な力を生じさせた右腕は、いまだに筋肉が悲鳴を上げているのかずきずきと軋んだ感がある。

なんなんだ、「5:45」って。
よくは分からんが、これはなんというか・・・気持ち悪い。
頭の中に直接訴えかけてくるような、そんな風がある。

強いて言うなら、「警告」。

はっ、何か警告なんだか。こんなの俺の単なる妄想であり直感だろ。
直感的に、なんて言って信じる馬鹿がどこにいる。

――だが、彼ユウキの直感は基本的に彼の人生の中で外れたことは無い。
そして、ユウキは無視しているが、その「警告」は今までの中でも最高レベルの危険度を計測している。


絶対にこれは無視していいレベルじゃない。


もう一人の俺が、俺自身にそう伝えてくる。

知るか、黙っとけよあんたは。
これは俺の問題であり、お前の問題じゃない。


取り返しのつかないどころじゃないことになるぜ?


更にまた別の俺が、そんなことを言ってくる。
俺自身に見える<時計>が話してるかのような、妙な錯覚までしてきた。

だから、直感はアテにならねーって。
論理的思考で考えたら分かることだろうが。

そしてまた俺の胸部で明滅する<時計>たちが、代わり代わりに俺に囁きかけてくる。


――死ぬよ。


そして<時計>は数多もの針を刻んでゆく――。


■                             ■

知らぬ間に、授業の時計も進んでいたらしい。
気が付けば、周りの奴等は教室から出始めていた。・・・もう放課後か。

「ずっと心ここに在らず・・・って感じだったけど。やっぱり時計のこと考えてたの?」
彩菜か。
あんまりそれは聞かれたくは無いが、傍から見てればそりゃ気になるよな。

「いや、17歳高校男児の特権である妄想ザワールドに浸っていただけだ」
本気で悲しそうな目を向けられた。
あの・・・いやまぁ確かに<時計>なんて視える俺の頭はおかしいけど、ちょっと痛い。
このごまかし方は流石にマズかったか・・・。

「・・・生徒会の仕事行ってくる」
悲痛そうな声でそう呟き、学校指定の黒塗り鞄をぱかぱか揺らしながら駆けていった。
これだけのことでそんな声まで出されるとは。何か俺は間違ったのか?あら?
それだけじゃなかったような気もするが・・・。

「あ、カジキ。ちょっと来て」
一応は俺の恋人である瑞乃の声が聞こえ、そこで俺の思考は中断された。

「なんだ、何の脈絡もなしに」
俺の言い草には目もくれず、さっさと俺の手を引いて連れて行こうとする。
「ちょ・・・」
机やら椅子やらにあちこち身体をぶつけながら、瑞乃に引きずられる。
普通の人間が見たらこれ逢引・・・いや、なんでもない。

早歩きで瑞乃と俺が向かった先は、屋上へと続く階段。
本当に逢引くさくなってきたのは俺の気のせいだと信じたい。

かんかん、と階段を鳴らしながら、結局屋上へと続く扉を開け外へと出る。
開けた瞬間にひゅおん、と俺たちの体を風が突き抜ける。

「ゴメン!」

途端に、いきなり頭を下げられた。
…え?

「え、えっと、そう怒られるって思わなくて、その・・・」
たどたどしい言葉遣いで瑞乃があれこれ言ってくる。

待て、何のことだ?

「え?アレ?これは・・・もしかして・・・」

俺の問いかけに、何やら一人で瑞乃はぶつぶつ言って腕組みなんかして考え始める。
いや、瑞乃さん?俺にも詳しく事情を教えて欲しいのですが?

相変わらず<時計>をちかちかとさせながら、俺の心の嘆きは瑞乃には届かずぶつぶつと何かを考えている。

「あ、早とちりだった。ゴメンねカジキ」

何かに納得したのか苦笑いをしながら。
…この様子だといつもの思い込みだったんだろうな。こいつはやたらと思い込みが激しい。

そういや、昼休みもなんか青い顔してたが・・・もしかしてそれが原因か?

「うん、そう。ちょっとばかり恥ずかしいからカジキには言えないけどね」

何のためにここに俺が呼ばれたのか全く分からないが、納得したのならまぁよしとしておこう。
昼休みといえばやはりあの「5:45」だが、そういえばこいつからも伝わってくる時間は5時45分だな・・・。


…は?


「きゃ、痛いって・・・」
いきなり俺が瑞乃の肩を掴んだため、軽く瑞乃が悲鳴を上げたが、勿論俺はそれどころではない。

胸部に浮かぶ<時計>の数々に目を凝らして、意識を集中する。

ひとつだけ、他の誰にも視たことがないぐらいにくっきり浮かんでいた。
まるで、手を伸ばせば触れてしまえそうなくらいに。本来は触ることが出来ないこの<時計>に。

イメージとして浮かんでくるのは、喜怒哀楽の全て、もしくはどれにも当てはまらないような奇妙な感情。
これも、初めてのこと。こいつの<時計>から感じる感情は分かりやすいものばかりだった。

そして、もうひとつ。


今日から4日後――すなわち、日曜日の「5:45」。


なぜかは分からないが、どの<時計>を視ても俺の脳内には正確な時間まで伝わってくる。
<時計>の仕組みは、あくまで1周のみで予定が実行される時間になったら黒針が1周して「ⅩⅡ」を指す。


なんで・・・瑞乃から「5:45」が?
日曜日に何をするって言うんだ?


「・・・そのつもりはないような顔だからいいけど」
滝壺に落下しそうになった俺の思考を瑞乃の声が引っ張り出した。

「一般的に女の胸眺めるのは変態にカテゴリされると思うよ」

…どうやら俺はとんでもない過ちを犯してしまったらしい。

「・・・っ!」

慌てて肩を掴んでいた手を放し<時計>、というか胸から目を外す。
華奢な肩を片手でさすりながら、瑞乃はほんの少し顔を紅潮させている。

なんで胸の所にあるんだよ<時計>。せめて頭の所にでも浮かんでて欲しかったって・・・。

俺の顔もじわじわと熱くなってきた。さっきまでの思考はどこへやら。

「で、どうかしたの?」

<時計>を視てましたー、なんていえるわけが無い。
じゃあ、なんて言えばいいんだ?
どう考えても変態の所業過ぎて言い訳のしようがないなこりゃ、と俺の脳が喚いているが有難くそいつは無視することにする。

「い、いや、何カップかなって・・・」

てめぇ!この口野郎がぁ!!

俺が心にふと思ってしまったからとて早速具現化する馬鹿がどこにいるかこの阿呆が!!!

「・・・Aカップがいい?それともFカップがいい?」

一瞬考えるような素振りを見せていたが、すぐににっこりと笑みを浮かべてくれた。

「じゃ、じゃあ・・・Aで」
奥ゆかしいものが好きなので、とだけは死んでも具現化なんてさせねぇ。

「そう」

女性相手に顔面グーパンチを貰ったのは、一生涯通してこれだけのことであった。



ネタを入れる気は全く無かったのだが、なんでかこうなってしまった。うーむ。
とりあえず、一番苦労した「嘘よ…そんな…」 の発言の伏線回収だけは真っ先にやっておきたかった。
そして、こうなった。

他の所は、意外と楽に回収できそうだったので、今回はふれず。
というか、ちょい長くなるのでふれる暇が無い。



「あ?」
「だーかーらー、私のペンを借りたでしょ?それ、返してよ」
「俺がお前からペンを借りた?一体何の冗談だよ」
「でも、でも、ユウキ君がさっき電話してきてペン借りるって言ってたじゃん?」
「ははっ、何の冗談だよ」
(おんなじこと2回言った…)

ちょうど時刻は6時だろうか?この街特有のふるさとのメロディが町に流れている。

5:55頃に彩菜と学校で合流して「いつも通り」俺たちは帰ることになった。そうだ、「いつもの通りに」。

……いつぞやの命令、まだ効果が効いてるんでね。

そんで、まーた、「いつも通り」に俺たちは公園のベンチに座って、彩菜は今日はチョココロネを頬張っている。

ちょうど公園の隣にルノートルがあるんでね。ちょうどそこで買えるってわけだ。

「いつも通り」ここからの夕日は橙色に輝いていてすごく癒される。自分までもが橙色に照らされ、まるでここら辺一体の風景と同化しちまったみたいでさあ。

だが、彩菜が話し出したことは全く「いつも通り」などではなかった。

「だって、私の携帯にしっかり留守録が入ってるんだよ?」

そういって彩菜は自分の携帯を俺に見せつけてくる。

「しかし……」

俺と彩菜が何で言い争っているかというと…、それは俺が彩菜のことを「いつも通り」待っていたことから始まる。

……いつぞやn(ry

まあ、俺が何して待っていたかというと、他の暇そうな男子集3人とそこの喫茶店で飲み会を行っていたわけだ。残念ながらこれは「いつも通り」のケースには当てはまらない。

俺の「いつも通り」は教諭の目を盗んでPSPやっているからな。

そんで、ちょうど俺たちがアイスティー4本追加オーダーした10分後、つまり5:55分に彩菜と喫茶店で落ち合ったのだ。

俺はその間携帯なんて微塵も使っていないというのに…

しかし、彩菜は委員会中に電話がかかってきて、あとで留守録に入っていたメッセージを聞くと「すまない、お前の筆箱からペンを借りた。また後で返す」といっていたそうだ。

「でも、ちゃんとユウキ君のメッセージは残ってるんだよ?」

彩菜は俺が電話をしていないと言って尚、反抗をしてくる。

「ちょっときかせてみろ」

俺は彩菜の携帯に残っていた留守録を聞いてみる

『すまない、お前の筆箱からペンを借りた。また後で返す』

……

……おかしい、俺の声だ。

俺、こんな電話したか?

念のため、俺の携帯の発信履歴を見てみる。

……おかしい

俺の携帯にもしっかりと発信履歴として彩菜の名が刻まれている。

「ほらぁ、ユウキ君の携帯の発信履歴にもちゃんと書いてある」

彩菜が俺の携帯を覗き込み、今日の5:45に俺の携帯から彩菜の発信されたというデータを指差して文句を言っている。

「そんなの…でも、掛けたのは本当みたいだな」

俺は大きくため息をつく。

とうとう自分が何をしたのかすら把握できなくなってしまったか。とうとうボケが来たな。

………

………おかしい。

なぜ、5;45分なんだ?

昨日だってそうだ。俺の身に起こった記憶のないことばかり、5:45という限られた時刻のうちに起きている。

だいたい、5:45分に頼んだアイスティーなんて……

……

……あれ?

彩菜と合流した時間(5:55)の10分前に俺ら追加オーダー……

どっちも、同じ時刻に同じ場所で同じものを、一日違いで頼んだことになるよなぁ。

……まさかぁ~



すんません。次ずっと他の人だと思ってました。

そして、流れ壊したら自分も壊れます((((((((((((



「じゃあね、ユウキ君」

家の方向はここで分かれているので、彩菜ともここで一旦別れる。

といっても、家は互いに向き合って建てられているわけだが。
まぁ、幼馴染だしな。幼馴染に必要なスキルは向かい合わせの家、というのがひとつだったはず。
確か以前プレイしたゲームで主人公がこんなこと言ってたような。ギャルゲだったけどな。

もうそろそろ日と月が入れ替わろうか、という頃合。

ユウキ達の家は、学校よりユウキの足で徒歩20分程度の距離にある。
一本道がすらと伸びた両脇に格式高い家々が並んでおり(世間様でいう高級住宅街だ)その中でもより格式高いのがユウキの家だ。
他の家3つ分くらいの区画を遠慮も何もなく占領している西洋チックな家。家というよりは洋館だ。

くすんだベージュの壁に覆われており、一部が人が出入りできるよう大きな黒の正門が設えられている。
その先に広がっているのはおよそ洋館らしくない和風な松。それがカーテンの如く、ユウキの家を隠している。

そのカーテンをくぐり、目に入ってくるのはどことなくモダンな色調のレンガ造り。
レンガはアイボリカラーを基調に、そして長方形の窓に沿って濃いブラウンの、木材のようなラインの装飾が施されている。

この家を上空から見れば、いわゆる「凹」を逆にした形に見えるであろう。
中央が主に仕事などで使われる本館、右翼左翼がプライベート用の別館だ。
ちなみにユウキの私室は正門側から見て左翼の方にある。
そのためか、ユウキが本館に行くことは早々無い。(もちろん、本館だけでなく別館からも外への出入り可能だからだ)

ユウキの友人カズなんかは「森の妖精が住んでるみたいだな」とおよそ男子らしくない乙女チックな感想を洩らした家だが、実際そんな気がしないわけでもないユウキである。
どこかしら神秘的であり、どこかしら浮世離れしているような雰囲気がそうさせているのだろう。

神秘的というのはともかく、浮世離れというのはあながち間違いでもない。ユウキ的には。
幼少の頃から慣れ親しんでいる家だが、毎度見る度に思うこととして、周りの家々と比べ明らかに浮いている。
「敷地が広く」「建築の施工の質が高い建物」という高級住宅街の区分基準となる条件は満たしているわけだが、「街区及び画地が整然とし…」という条件は普通に無視してしまっているだろう。
他の家々はある程度統一されたデザインに対して、ユウキの家はこれだ。とにかく目立つ。

よくこんな所にこんなの建てる気になったな、とユウキは自身の父に微妙に呆れた風である(ここに家を建てたのは祖父であるが、そんなことはユウキは知らない)
やっぱ、一大企業の社長ともなると、それなりにそれなりらしい歪んだ趣味になるんだろうな。


■                             ■


「あらあらおかえりユウ君」

正門とは違ったこじんまりとした緑配色の扉をくぐった先では、いつも通り霜月が出迎えてくれた。
「あぁ、ただいま」
そう言って学校指定の鞄を霜月に預ける。一般庶民からみたら思わず恐縮でもしてしまいそうな一連の動作だが、これもいつも通りのこと。

扉から入ったら真っ先に見えるのは茶味がかった黄色のカーキカラーのマットが敷き詰められた廊下。
両側には<書室>なり<厨房>なりのプレートによって分けられたいくつもの部屋がある。
ヨーロッパの街灯を思わせる装飾の施された多くの室内灯によりほんのりと照らされており、それらが廊下に並ぶインテリア用のテーブルや花瓶に生けられた花々をほのかに彩る。

ユウキの部屋は<ゲーム室>、<時計機工室>という部屋に挟まれて存在している。
<ゲーム>室については何も言うことはないが、<時計機工室>はユウキですら何に使われているのか知らない(なぜかいつも鍵がかかっている)

「なにか悩み事がありますね、ユウ君」

何の脈絡もなく霜月がそう切り出したのは、部屋に入ってすぐのこと。
なんとなくマズイ、と思ったが、ついうっかり言葉に詰まってしまった後ではもうどうしようもない。

「やっぱりねぇ・・・。いつものシャチ顔がシャチを通り越してイワシになってますからねぇ」
「お前以前アリクイみたいな顔とか言ってなかったっけ?」

とりあえず分かったからせめてツッコミの可能な発言をしてくれ。
「はぐらかそうとするということは人に聞かれたくない類の悩み、と」
「・・・」
預けた鞄を白地のソファに置きに歩きながら、そう返してくる。
相変わらず妙に察しのいい奴だ・・・。

そらなぁ、相談できるものならしたいんだが、いかんせんどう切り出せばいいか分からん。
「5時45分に覚えはあるか?」変人レベルに掠ってるよなこれじゃ。

「5時45分?何それ?」
頭の中だけで話してたつもりだが、どうやら口に出してたらしい。
思ってることを口に出すような癖はなかったと思うが・・・。そんなに参ってるのか俺は?

とりあえず座りましょうか、と言われたのでそれに素直に従うことにする。
座卓を挟み、互いに向かい合わせに腰を下ろす。今更ながらソファに座卓っておかしいよな。

なんだかんだでどうもこいつのペースに飲まれ始めてきた気がするが、そんなことはない、と一応否定しておく。

「で、何なんですかそれ?」
「い、いや、別に何も・・・」
「いろんな方面でそれを見るんでしょう?」

なんでそんなことまで知ってるんだ。話した筈はないのに。

「そりゃあ、部屋でよくぶつぶつ言ってますからねぇ」

…頭を抱えたくなってきた。
癖って本当に自分では気付かないもんなんだな・・・。おそるべき無意識。

ここまできたからにはもう仕方が無い。
<時計>が視えることを除き、ひとまず全てを話すことにした。

「時計の針を、ねぇ・・・。最近の若者はストレスが溜まりやすいったらありゃない」
待て、俺の苦悩をストレスで片付けるつもりか?
「というのは勿論冗談として・・・5時45分、ですか」

うーむ、なんて言って首をひねったりしている。
正確な歳は知らないが、いちいちこんな所がばば臭い。
見た目はすきっとした短髪に眼光の鋭い瞳という、知的なキャリアウーマンという風なんだけどなぁ・・・。

「ふーん、私がばば臭いと」
「は!?い、いや・・・」
なんで俺口に出してるんだよ・・・。
へたすりゃ授業中とかもぶつぶつ言ってないだろうな、俺。本気で心配になってきた。

「まぁ、それはこの際後から制裁を加えるのでなんら問題ないとして、もしかしたらこんなのかもしれませんね」
俺に死亡フラグが立ったことはこの際なんら問題ないとしよう。
"もしかしたら"の方が気になる。人生経験豊富そうな霜月はどう考えたのだろうか。

「ユウ君が死んじゃう時間とか!」
参考にまで聞こう、お前俺の使用人だよな?
「ええ、もちろんですとも。ユウ君お坊ちゃま」

なんて言って、いちいちお辞儀までしてくる。きっちり45度なのが憎たらしい。
ちゃんとした試験なものは通ってきてるのだろうが・・・試験官の人を見る目は皆無もいいところだったんだろうな。
ったくこいつは、人が真剣に悩んでるのに呑気に・・・。

「さて、これも冗談として・・・私にも関係あるんですかねぇそれ」
「ん?なんでだ?」
「ユウ君の身の回りに"5:45"が顕れてるなら、その身の回りである私にも影響出てもおかしくないですし」
「何のファンタジーだそれ?」
「現実(リアル)の非現実(ファンタジー)でしょう」

何やら小難しい話になってきた。
まぁ、この俺の現状は既に小難しいの域を通り越してるわけだが・・・。

しかし霜月にまで"5:45"があったらいよいよ呪い的な何かを感じたくなるぞ。
といえどもやはり気になるので、霜月に怪訝に思われない程度に<時計>に意識を集中する。

次第に視えてくる、ちかちかと明滅する銀縁の丸時計。
こいつは大して意識してなければかなりぼんやりとしか視えない。ノイズがかった、とでも言うべきか。

幾重にも明滅する<時計>たちの中に、ひとつだけくっきりと視える<時計>が視界に入ってきた。
後ろに視える時計と重なり合ってるため少々分かりづらい。

改めて、頼むからそうであるなよ、と祈りつつ、ギリシャ文字体の羅針盤に目を凝らす。


その後、俺がきちんと平静を保つことが出来たことに関しては本当に俺自身を表彰しても問題ないだろう。


――――5時45分。




霜月さんにある設定をつけてみようと思うのだが。
これはちょいとマタ殿と相談せねばならぬ。
というわけで機会があったらお話しまする。



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最終更新:2009年12月31日 09:54