一冊の本が出来上がるには、100冊の本が必要らしい
それは、とても強い(こわい)モノだった。
人の貌には、たくさんの感情(ココロ)が映る筈なのに、そのヒトの貌には、一つの感情しか亡いから。
それは、とても恐いモノだった。
人の口には、たくさんの思念(ココロ)が宿る筈なのに、そのヒトの口には、一つの思念しか亡いから。
それは、とても怖いモノだった。
人の瞳には、たくさんの心が或る筈なのに、そのヒトの瞳には、一つの心しか亡いから。
あぁ、なんて――こわいんだろう。
ほら、あの空もこわがっている。なんにもなくて、ただの黒い布っ切れになっている。
ほら、あの月もこわがっている。貌を真っ白に染めて、丸くなって、縮こまってしまっている。
ほら・・・私も一緒にこわがっている。皆の中で、一番こわがっているのは、うん、わたし。
あぁ・・・強い、恐い。 怖い。
怖い、 怖い、
恐くて、 恐くて、
ほんとうに――――怖い。
結論から言えば、鈴音と火呂九柳斎との対談、というほど大げさでもないが、それの実現は思いのほかするすると決まった。
「あなたが旅人の剣客さんですね?」
相手方の火呂から、そういう風に話し掛けてきたからだ。
鈴音が狭霧カヤとの会話を終え、村へと戻ってからすぐのことであった。
空からはぽつぽつと、小さな小さな雨たちが落ちてきている。
火呂家は、田圃沿いの畦道の先へとある。
この辺りとなると村内の外れみたいだが、そもそも村自体が小規模なため、他の所と比べても特に風景には変わりは無い。
他と同じように、ある程度統一された簡素な藁作りの百姓家が火呂家のようである。
屋根の下に薪が多く積まれており、今はその薪を使用しているのか、家内からはゆら、と烟りが上がっていた。
白い尾を引いて寂滅していくそれを、鈴音はなにとなしに眺める。
「すみません、突然。私も外から来た身なもので、気になってしまい…」
煤竹の色の袴を着流している火呂は、柔和な顔に軽く苦笑いを浮かべて言った。
あまり歳は読み取れない。若くも見えるが、年を重ねているようにも見受けられる。
こういっては失礼だが、不思議と印象に残りにくい顔つきだ、と鈴音は最初話しかけられたときから思っていたが、それは今も特に変わりないようである。厭に引っかかる風采だ。
女将の話を聞くに、鈴音は大げさな顔をする臆病者のような中年の親父を想像していたのだが・・・。
「いえ、私もこんなところで同じ外の方と会えるとは思ってませんでしたので」
自分から会おうとしていたくせに、飄々としらばっくれる鈴音である。
構えた門戸の中では、一人の女が丁度昼餉を作っている頃合であったようだ。薄い杏色の質素なロングワンピースを纏っている。
鈴音も相手方も互いに気付いたので、互い互いに小さく会釈を交わす。
――小さく、女が瞬きをした。
囲炉裏を囲み、腰を落ち着けてから、
「では改めて。初めまして、火呂九柳斎と申します。あちらは妻の奈津」
「羽橋鈴音、です」
苗字だけでなく、名前も名乗る、ということは少なくとも倭教徒というわけではないようだ。
――この、火呂の丁寧な口調もまた、厭に引っかかる。
「四ツ山へは何をされに?」
「峠を越える際に乗っていた馬車が壊れてしまったので・・・」
「なんと・・・」
二人して、他愛の無い話をする。――軽い嘘を混ぜたのは、何となしに、である。
また、これは鈴音としては恐縮してしまうことであるが、昼餉の方も一緒することとなった。
昼餉、といっても通常は朝と夜のみで、昼は取らないのが庶民の生活である。
よほど火呂家は裕福な家庭であるのか・・・。
まさか鈴音が来ることを想定してもてなそうとしていた、なんてことはあるまい。
「火呂殿は、どうして四ツ山へ?」
ぽんぽんと椀に注がれた飯から香りのよい湯気が漂う。
一緒に添えられているのは、葱と豆腐をぽいぽいと浮かばせた味噌の汁だ。
「町中での暮らしに飽きた、というのが一番の理由ですかね」
白の飯を食いながら、火呂は言った。
奈津。
出演予定は大分前から決まっていたにもかかわらず、思いっきり書いてる最中に適当に名づけましたサーセン奈津さん。
そしてとろろ飯。
色々描写しとりますが、実は一回も食った事ありませんサーセンとろろ飯。
2/22追記:どうやらとろろは秋の味覚らしい。あやややや。
「飽きた?」
「ええ、元は鹿宮・・・ここより南の方に住んでいましてね、家庭もそれなりに裕福で、楽しかったといえば楽しかったのですが・・・」
「それは、また・・・」
「そうですね・・・裕福だからこそ、でしょうか。何不自由なく暮らすことで、より単調な日々、とでもいいますか・・・はは、私は何か刺激が欲しかったのかも知れません」
「私は旅の身なので刺激ばかりです」
ように、色々と語り合う。
鹿宮、とはここより百八十里も南にある街の名である。
奥深く静かで幽玄な竹林がある、というようなことを鈴音も聞いたことがあった。
火呂は徒歩旅で来たようで、百八十里もの距離を歩くとは、この火呂九柳斎、なかなかに旅好きらしい。
――この羽橋鈴音、初対面、なおかつ"そういった"話を聞こうとした相手と一見親しそうに語り合える辺り、なかなかの大人物である。
「その刀・・・」
火呂の脇に置いてある大小の刀を見やりながら、鈴音は言った。
昼餉は既に終えていて、今は互いに茶を飲み交わしている。
外の雨は、ほんの少し勢いを増したようだ。
火呂九柳斎の妻である奈津は囲炉裏の方から外しており、炊事の方の後始末をしている。
「これですか?」
「何か武芸を、嗜むので?」
「あぁ、はい。鹿宮に住んでいた頃には家業の一環として少々。今では修行なんてしてないので、とんだ虚仮野郎ですがね」
自嘲気味な笑みを浮かべ、続ける。
よると、この火呂九柳斎は、「稗田流」の剣術遣いだそうな。
「稗田流」とは、この時代の三大流派とされる剣術の流儀である。
現存する流派は、倭教が武に秀でている、ということもあり大半が倭教に属する流派であるが、勿論のこと、それらだけではない。
「先の先、その先さらに先」という題目を掲げていて、其れが示すとおり、とかく攻撃に念を置いている流派として有名だ。
武術は多岐にわたり、火呂九柳斎も、
「二刀術について、色々と指南されまして・・・」
とのことである。
一刀術、二刀術、その他槍術も加え、全て合わせて十四にものぼるのだとか。
流派云々の話になったとき、当然鈴音の流儀についても聞かれたが、心壊についてはあまり広めてはいけない、というようなことを儚師から教わっていたため、
「どこの流派かは分からなかったのですが、実家にあった剣術指南書で学びました」
それとなく言葉を濁しておいた。
この場合の"実家"というのは、心壊の修行の際に住んでいた、儚師の邸宅を指している。
「独学とは……すごいですね。誰からか指南は?」
「近所の呑気な世話焼きの女性から……」
「はは、それはまた酔狂な。一期一会です、出会いは大切に。」
「私たちの出会いも、ですか?」
「もちろん。あ、いつから剣を扱うように?」
「確か、十二のときから……」
「ほう……」
…ように、さすがの鈴音も剣術の話となると、ついつい本来の目的を忘れて楽しんでしまったようである。
しばらく語らい、
「お若いのにたいした才能だ。機会があれば手合わせ願いたいものです」
「あ……光栄です」
「そのときには、勿論手加減してもらえますよね?」
「いえ、それはこちらの台詞で……」
こんな調子である。
雨のおかげなのか、湿った、しかし閑寂な風が、家の中へと吹く。
心壊流。
現在、随時設定つけ合わせ中でございます。
「これでひとつの流派ができあがるぜ!」ってくらいまでに壮大な設定にしたい。
といっても、あちらこちらの実在流派から引用する、というのが基本だろうけども。
倭教についても同様。「これでひとつの宗教ができあがるぜ!」ってくらいまで。
ぽつぽつ、からざざざ、へと変わり、土、水、草へと降り注ぐ音。
雨も本降りになってきたようである。
羽橋鈴音、火呂夫妻が居るこの門戸の藁屋根も、雨に合わせ、たたた、と焦ったかのように音を響かす。
より湿気の充満した室内であるから、自然と鈴音の額にも汗が浮かぶ。
もっとも、傍目には分からない程度の微量の水分であるが・・・。
それは湿気のせいなのか、もしくはようやく本題に入れる、という高揚……緊張のせいなのか。
「紫の赤みがかった髪の・・・」
酒屋の女将に尋ねた時と同じような風で切り出す。
自然、鈴音の瞳にも、つ・・・と鋭さが加わる。
炊事の後始末を終えたのか、妻の奈津も戻ってきており、今は三人で囲炉裏を囲んでいる。
奈津が持ってきた茶を皆で飲んでいる、ゆったりとしたこの刻に、鈴音は口を開いた。
「それは・・・もしや羽橋さん、猫に逢われたので?」
女将のときと同様、鈴音が最後まで言い切る前に神妙な形相を向けられた。
「ええ、丁度こちらの村へ繋がる林を通った際に」
「なんと、それは・・・大丈夫でしたか?首はお絞めになってませんか?」
これもまた、女将と同じような、である。
しかし、どことなくであるが、
(白々しい・・・)
鈴音は思うのである。少なくとも、火呂の貌には何の変化も無いのであるが・・・。
妻の奈津の方も、これまた神妙な面持ちである。
火呂は一時茶をすすり、それから湯飲みを筵の上に一旦置き、続ける。
こん、という小気味の良い音がした。
「ご無事で良かった・・・。私は倭教徒ではないですが、和の神々のおかげなのかもしれませんね」
「特に害があるような方には見えませんでしたが・・・」
「何を仰る。あの異形を見ませんでしたか?あれはどう見ても鬼共が飼っていたという猫、そのものです」
異形、といえば確かに異形であろう。
元々外界からの人間、更に黒緋の髪に金色の瞳とくれば、弥が上にも目立つ。
「まさかあのような者が今生に居ろうとは・・・随分と滅多な世です。妖怪の類はもうほとんどが人前には姿を現さないというのに」
――この男、やはりどこか壁一枚を隔てて話しているような印象を受ける。
壁に書かれた文言をそのまま棒のように読んでいるかの如く、あまりに表情に変化が無い。
その<猫>とやらを恐れているならば、もう少し貌も変わろうものだが・・・。
それから、一刻ほど語り合う。
されども、その間、鈴音は特に何を言うでもなく、相槌を打ったりするだけであった。
出逢った時からずっと鈴音は違和感を感じていたが、それはあくまで自分の直感、実感に過ぎないので、
「余計なことは言わない方が良い・・・」
と、判断したからだ。――なかなかに心壊流の遣い手らしい判断である。
「心壊流」は流儀の名に「心」とあるとおり、とかく心を読むのに優れた流派であるが、やはり心、というのは曖昧なモノであるから、心を読むのもそれなりに慎重になるわけである。
不変ではなく、いついかなるときも、絶えること知らず、うごき続ける。それが「心」である。
ふと、朝、目覚めた時、昼、太陽の明るさに眼を細めたとき、夜、蒼い月に心奪われたとき。
ふと、朝、やかましい鶏の声が聞こえた時、昼、陰鬱な雨が降ってきたとき、夜、蒼い月がなかったとき。
微風のような心の揺れであろうと、心壊の者は察知する。
中でも、特にその揺れが顕われ易いのは、瞳。
故に、鈴音は火呂の瞳を――勿論、相手に意識されない程度に――観続けたわけである。
ぱたぱた、と天井(うえ)からは雨音が響く。
しかし、山の天気は変わりやすい、という言葉の通り、なのであろう。
「さてと・・・おや、雨の勢いが少々収まったみたいですね。今のうちに桂月に戻られます?」
「桂月・・・あ、はい」
一時鈴音は把握できていなかったが、桂月、とは鈴音が泊まっている、かの酒屋の名である。
「あ、外套をお貸ししましょうか?」
「いえ、この程度の雨なら・・・」
「私が貸さなかったせいで風邪を患った、なんてのも困る話です」
外は、そろそろ申の上刻(午後4時頃を指す)に入ろうかという頃合で、風にもほんの少し冷たいものが混じり始める。
雨もそれは同じで、小雨といえど鈴音のようなスリップドレスの者では、むき出しの肌も多いであるから冷たいであろう。
「・・・有難うございます」
――違和感は拭いきれていないが、どうにもこの男は良識人にしか観えない。
「桂月の女将にも宜しく言っておいてください。もうちょっと酒を安く、と」
「・・・善処しておきます。では・・・」
言って、鈴音は火呂家を後にする。
鈴音の眼前には同じような家々、田圃や林が広がる。
鈴音が表へ出ようか、としたまさにその転瞬、
「――私たち、初めましてじゃないですよね」
言い残し、振り返ることなく鈴音は去っていった。
ぴくり、と体を揺らしたのは誰であったか・・・。
東方風。
「河童様の云う通り」「目覚めし白狼の本能」
ニコにてタグ検索かけることをおすすめしまする。
これは余裕でガチ。
夜が暮れて、朝。
「帰るかや!!」
――さも当然の如く、鈴音の姿を見ただけで、狭霧カヤは逃げ出してしまった。
今日もまた、昨日の名残であろう、雲は分厚く、風は冷たい。
雨はまだ降ってはいないが、日差しの指さぬ林は、土壌もかなりぬかるんでおり、
「歩きながら粘土細工をしているよう・・・」
そんな歩き心地であった。鈴音の履く革の靴にも、しっかりと土汚れや葉々がこびりついている。
鈴音は、昨日と同じように、狭霧カヤと会うため件の広場へ足を運んだわけであるが、
(まだ何も言ってないのに逃げられた・・・)
のである。――致し方の無いことといえば、致し方の無いことであろう。
昨日の今日ではこの反応が当然である。
して・・・。
鈴音は、狭霧カヤを追うことにはせず、そのまま来た道を戻ることにした。
ここで追うのはあまり得策ではないだろう、と考えたからである。
火呂の件もあるが、それで火呂九柳斎のみならず、自身まで狭霧カヤに恐れられては元も子もない。
「悪を斬る者が、悪になってはいけない」
とは、羽橋鈴音の剣の指導者、白然緋儚師の台詞である。
ぬかるんだあるきにくい道を進んでいくうち、一つの祠を見つけた。――昨日、一昨日は気がつかなかった物である。
そちらの方へと、鈴音は足を向ける。
その祠は、木製の社殿に、紙垂を備えただけの簡素な祠であった。
祠の少し後ろの方には、木々に遮られ少々見にくいが、湖らしきものが見える。
湖の近くにある、ということは、水神を祀ったものであろうか。
単純に、山の神を祀っている、ということもあるかもしれないが・・・。
一時鈴音は考え――何を思ったか、すら、と持っていた刀を抜いた。
祠の前にしん、と立ったまま、刀をすす、と正眼に構え、
そのまま――眼を瞑り、ただ凝、としている。
――精神を鋭くするための、
精神統一、というやつである。
悪を斬る際には、鈴音は必ずこうやって精神を統一させる癖がある。
それに、鈴音は倭教嫌いではあるが、祠、などは神を祀るといえどもどちらかといえば好き、なのである。
鈴音は旅の者であるから、というのも作用しているのであろうが、こういった林や、道の辻で祠を見かけると、ふ、とした安心感を得るのだ。
神の存在を鈴音は信じてはいないが、ひっそりとそこに佇む祠を見ると、まるで、
「土地がゆっくりと生き返っていってるみたい・・・」
ように、思うのである。
祠は、大概がくすんだ木や、褪せた石で造られているから、その、時間の流れによって風化が進んでいるさま――人の手による物が、自然に還ろうとしている姿から、そのように連想させるのかもしれない。
で、あるからにして、鈴音にしてみれば、精神を統一させるには、このような場所はうってつけ、なのである。
(狭霧カヤ、火呂九柳斎…か……)
――凝、と鈴音は刀を構えていた。
辿り着いたのは、なにひとつ、なんでもなく、なんにもないトコロ。
――ただの、暗闇。
――唯の、昏闇の中。
「私は・・・あの女を――誅す」
エンドオブエタニティ。
ようやく一周目が終わったが、いまいちストーリーが理解できなかった。
まぁ、トラスティベルよりは遥かにマシだけどね。
にしても、戦闘は本当に楽しい。銃撃戦ぱねぇ。
そしてBGMがヤヴァイ。桜庭さん仕事しすぎ。サントラ欲しいお。
※誅す→ころす
最終更新:2010年05月02日 20:57