文(花帖)が欲しくて欲しくてタマラナイ
「ふぅ・・・もう、こんな時期、かえ」
懐紙をすす、とこすり合わせたかのような、しわのある声で、老年の男は言った。
〔下野の間〕には、少しささくれだった六枚の畳が敷かれており、障子がつけられた壁の隅には、行灯がひとつ置いてある。
座卓の類はなく、酒やら料理やらは、盆にのせて愉しむというつくりだ。
「いつになっても、このお祭り騒ぎには慣れないものです。山神様も大変ですね」
こちらは、若くも、老けても見て取れる、一見、印象にのこりにくい顔つきの男である。
――どこか、あおい目をしている。
「ふ、ふ、祭りだろうがなんだろうが酒が旨けりゃそれでいい。どれ、注いでやろう」
「あ、すいません・・・。お、これは、また・・・」
「なかなか、だろう。びわと檸檬でつくったものを仕入れてきた、とか雪ちゃんが言っておったな」
「あそこの女将さんが、ですか。これは・・・果実酒、というやつなんですかね?」
「だろう、な。はじめてか?」
「ええ。不思議と、今まで手をつけなかったもので・・・」
びわ酒は、ていねいに水洗いしたびわを、これまたよく乾かし、檸檬は酸の効いた実の部分だけを輪切りにする。
これを氷砂糖、蒸留した酒で一年ほどおいてやると、うまく出来上がるそうな・・・。
男は、徳利に手をやり、しげしげと眺める。
「ときに村長・・・」
障子越しに、鵯の啼く声が聞こえる。ひ、ひゅ、とふるえた。
「あれを、やるのか?」
「流石に――お見通し、ですか」
「ぬしは、ちとばかり、ここに出やすいようだから、な・・・」
村長、と呼ばれた男は、ちょい、と己の皺だらけの顔を指で叩いた。
「反対、しないので?」
「人の生き死にならともかく、あれは妖怪だろう?妖怪をやるのに理由(わけ)がいるかえ?」
今日は、この頃の雲行き具合とは打って変わって、陽が照っているが、この〔下野の間〕は少々場所が悪いのであろう、昼時にもかかわらず、薄昏く溟濛としている。
男は酒を、つ、と口に含んだ。貌は、翳りを含んだ暗闇に覆われている。
――唯の、昏闇の中。
「私は・・・あの女を――誅す」
男の両の目が、おん、とひかった。
老人の目もまた、細い目をよりいっそう細くしている。
風が、障子をたたいた。
「すみやかに、な。あんなものが辺りにのさばっておるなど、おちおちゆっくりと抱くことも叶わぬ」
「はは、何事も食べ過ぎては身体に毒ですよ」
「ふ、ふ。仕方のない、ことだ。あれほどに脂がのっておる女子(おんなご)は、儂が若い時以来だから、な・・・」
「私の妻がお役に立てているようで、何よりです」
「安心しろ。子は作ってはおらぬ。ま、作る気もないが、な。この歳になってしまえば、子育てにもおもしろみが湧かぬ。子、どころかもはや孫だ」
「孫は、目に入れても痛くない、とよく聞きますが・・・」
「髪の毛一本を目に入れるだけでも痛いのにかえ?」
「・・・ごもっともです」
「どれ、酒を・・・うん、誰か来たようだな」
「追加の酒、ですかな?ま、では、この話はここらで・・・」
「ふむ」
午の刻始め頃、この頃の雲行き具合とは打って変わって、陽が照っていた。
下野の間の戸の向こうからは、たた、という足音が聞こえる。
「これを持っていきな、鈴音ちゃん」
翌。
これは女将から聞いたことだが、どうにも、今日は山神への感謝祭、とやらがあるらしく、見るからに人々は浮き足立っていた。
桂月の目の前にある〔三島屋〕という酒屋も大きく盛(せい)ているようで、ロングワンピースを纏った若い女から、いかにも骨が弱そうな老人まで、次から次へとつむじ風か何かのようにほいほいと集っていっている。
桂月もまた、酒を買う客で繁盛しており、仕入れに出ていた主人、吉屋佐五郎(よしや すけごろう)がえっちらこっちらと忙しそうに動き回っている。
どうも、主人が仕入れに出ていたのは、この祭りがあるからのようである。
「これ、は・・・」
女将から、小さな何某を受け取る。
竹皮で包まれた、どこか手に馴染む、あたたかい質感。
おにぎり、である。
「猫・・・じゃなかった、カヤちゃんのところに行くんだろう?どうせあの子は、林で適当に採って食べるばかりで米なんて一粒も食べてないだろうから、ちょうどいいよ」
「・・・ありがとうございます」
礼を言い、鈴音は桂月を後にする。
――何気なく、女将が言い直した<猫>であるが、これは昨日、既に鈴音から事をきいているからである。
元々、鈴音は最初女将からその話を聞いたとき、<鬼の飼い猫>の話について、
(完全には信じきっていない・・・)
ように感じていたから、折を見て話そうとは思っていたのだ。
そしてそれを話そう、と鈴音が思ったのは、やはり、昨夜の狭霧カヤとの一件が関連しているのだろう。
狭霧カヤに触れてみて、なにか、見えたに違いない。
ちなみに、女将こと、吉屋雪に話す際の、鈴音の切り口はこうだ。
「平気で人前に姿を表す莫迦な妖怪が、どこにいますか?」
妖怪は、人前にはそう易々と姿を表さない。子供でも知っていることである。
一時女将は呆けたが、ほんの一刹那の後、
「ははははは!!そりゃ、いるはずがない!そんなの仮にいたって、どうせそいつは馬と鹿をくっつけたみたいな妖怪なんだろうさ!!」
豪快に笑ったものである。
桂月の上を、鵯が通り過ぎる。ひひゅ、と鳴いていた。
後、いくら待てども狭霧カヤが来ることはなかった。
件の広場、天気は晴れである。
仕方がないので、鈴音は科の木の根元へと腰を下ろし、おにぎりを食んだ。
「――味が、しない」
なぜだかは、分からなかった。
サントラ。
ちょいと欲しいCDが多すぎて計一万はかかる計算に。
仕方ない、親にねだるか・・・。
「見よ!この5だらけの成績表!」「さすがレフィ!なんでも買っちゃろう!!」
という夢を見たいな。
男は、私を隷(おか)した。
「何、その傷」
科の木の下。
見ると、狭霧カヤの両の白い脚には、さらしが巻かれている。
真新しいそれは、ほんの僅かに、赤く滲んでいた。
一日夜が過ぎて・・・。
昨日の晴れは嘘のように、またもや、ぬ、とした雲が凪いでいた。
前と同様に、鈴音はこの広場を訪れ、今回はちゃんと狭霧カヤを見つけることが出来たのである。
――少し、安心した。どうしてかは分からなかったけれど。
だが。
「え、へへ、枝に引っ掛けちゃって・・・」
そんな少量の安心も、狭霧カヤの脚を見て無へと還ったわけである。
翳りのある雲の中、林には霧が立ち込めていた。
うすらとではあるが、それでも前の方はよく見えず、蜃気楼のように揺らいでいる。
虫や鳥たちも、今日に限っては身を潜めているようである。
「昨日はいなかったけど、それのせい?」
「や、昨日も来てくれたのかや!?」
「・・・私はあなたの刀になる、って言ったと思うけど」
「あぅ、ごめん・・・」
うなだれ、しかしすぐ後に、
「ありがと、りんね」
照れくさそうに笑う。呆れた風な目で、鈴音はそれを見た。
後、しばし二人で語り合う。
主に狭霧カヤが鈴音のことについて尋ね、それに鈴音が軽く答えるだけであったが、それだけでも、狭霧カヤにとっては、
「や!」
「すごい!」
「面白そう!」
笑って、とても嬉しいことのようである。
鈴音もまた、こうして誰かと他愛なく話すのは、かなり久方ぶりのことである。
「あなたは、林でどうやって暮らしてるの?」
前々から思っていたことを、鈴音は尋ねた。
単純に考えても、それは幾重にも難のある所業だからである。
「どうやって?」
「衣食住」
「簡単だよぅ?食べ物はいっぱいあるし、気持ちのいいところいっぱいあるし、それに、りんねみたいに人が来てくれることもあるし・・・」
「・・・旅人がくるようには思えないけど」
「えっと、あっちの方に、よく人がいるかや」
指したのは、山道として整えられた峠の方角である。
四ツ山の民が買い出しに行く際も、その道をよく使うそうな。
下った先には〔新古町〕と呼ばれる処があり、海の香い(におい)に溢れる町で、魚がうまいことで知られている。
「服とかは?」
「旅人さんたちの前で、お笛吹いて踊ったりして、お金もらえるからそれを使って」
「ふうん・・・」
「あ、でも、たまに商人さんもいるから、そのときは服とかをそのまま貰ったりして・・・」
「その脚のさらしも?」
「や、あ、うん」
狭霧カヤは鈴音からの質問が嬉しいようで、どこか急ぎ足ながらもせっせと答える。
霧があり、常ならば少し寒さをおぼえるところであるが、話していればそれもあまり気にならなくなる。
かさ、と和かい風が霧粒を舞わせた。
――少し、珍しいことである。
羽橋鈴音が誰かしらに質問を投げかける――関心を示すのは。
不思議と、知りたいことが多いのである。
なにをしていたのか、なにか好きなことはあるのか。
友、と呼ばれる類のものを持ったことが鈴音は、少し、その感覚が理解しえない。
人を信じることを棄てた、羽橋鈴音には。
――私が関心を持った相手なんて、ほんの僅かしかいないのに。
剣を教えてくれた儚さんと、後は・・・。
「どうしたかや、りんね?顔色が悪いよぅ。寒い?」
「へ?」
見ると、羽橋鈴音の顔は、ぼう、と蒼白になっていた。
雲は、先程よりも表を占める幅は減ったが、厚さはず、と増している。
「ううん・・・そろそろ、帰る」
気付けば、結構な時間を語らっていたようで、空はもう色が濃くなろうとしており、時間は申の下刻半ばである。
かさ、と閉じた風が、霧粒を舞わせた。
(本当に、大丈夫かや・・・?)
狭霧カヤは尋ねようとしたが、既に鈴音の顔はいつもの愛想の感じられない顔に戻っていたので、やめておいた。
いくばくか、霧が濃くなった。
D-STAGE。
御馴染みの同人通販サイトだが、東方CDを三枚ほど注文しますた。
近々ブログにのせる。
サークルは「舞風」と「Liz Triangle」。
あの人を、止めなくては。
――息が、切れる。頭が、熱い。
見たところ、若い女である。
髪をなびかせながら、泪のにじむ、悲しげな顔で、走っている。
ちょうど、"あの人"が林へ向かうのが見えたから、家を抜け出してきたのである。
あの人を、止めなくては。
いつの間にか霧が濃くなっていて、風の音すらも聞こえない。
視界が、霞む。
…深い霧のせいではなく、目に浮かんだ泪のせいであろう。
しかし、拭うのももどかしいようで、女は、ただ走っている。
あの人を、止めなくては。
そちらにだけは、いって欲しくない。
そんな、汚れを持つべき人ではない。
あんなに優しくて、淋しくて、哀しい、人なのに。
私は、どうなっても構いません。だから。
あの人を、止めなくては――
あの人を、止めなくては。
――息が、切れる。頭が、熱い。
見たところ、若い女である。
髪をなびかせながら、泪のにじむ、震えた顔で、走っている。
ちょうど、"あの人"と別れたばかりだが、それでも、どうしても、怖い、のである。
あの人を、止めなくては。
霧はさっきからずっと濃くて、虫の声すらも聴こえない。
視界が、霞む。
…深い霧のせいではなく、瞳(め)に浮かんだ恐怖のせいであろう。
しかし、それに、必死に抗うかの如く、女は、ただ走っている。
あの人を、止めなくては。
脚が痛い。きっと傷口が開いてしまっている。こんな風に走っているからだろう。
それでも、今、走らなかったら、次はもっと痛い。
痛い、ってことすらも、分からないかもしれない。
そんなのは、いやだ。
やっと、素敵な人に、出会えたのに。
やっと、私のことを見てくれる人に、出会えたのに。
きっと、あの人にとって、私はそんなのじゃない。
ずっと前から、こういう風にしてきている人だと思う。
でも。
「あなたの刀くらいにはなってあげる」
そんな言葉が、私は本当に嬉しかった。
この嬉しさを、手放したくなんて、ない。
だから。
あの人が来る前に、あの人を、止めなくては。
「りんね・・・」
狭霧カヤと別れて、鈴音は〔桂月〕へ戻るため、いつもの木立沿いの林道を歩いていた。
足元からは、霧のせいか、ぬるさを感じている。
雲の深い空なため、辺りは大分暗くなっており、樹木の色もまた、黒に替わり始める。
(あの脚の創り傷・・・)
さらしに巻かれた、狭霧カヤの脚を思い浮かべる。
ちょうど、スパッツのすぐ下の膝の辺りに両方共に巻かれていたが――これは、鈴音の剣客としての勘、であろうか。
(刀傷、に見える・・・。枝で切ったとはいえ、そう同じ箇所は切らない筈・・・)
先程尋ねた時はさり気なくはぐらかされたが、仮に刀によるものだとするならば・・・。
――火呂九柳斎、であろうか。
昨日は祭りだったこともあり、人が一人見当たらないくらいで特に気にするものはいない。
火呂九柳斎が祭りの騒ぎに乗じて斬りつけた、という線も充分に有りうる。
――実際、狭霧カヤと会う時には、必ず鈴音は誰かしらの視線を感じていた。今日は無かったが・・・。
そろそろ、夜の霞が浮いてくる。
考えるうち、いつぞやの祠が見えてきた。
女将の話によると、この祠は、昨日の祭りの山神様こと、〔草理尊〕が祀られているのだそうな。
三つの紙垂を揺らし、ただ其処に然(ねん)、として佇んでいる。
「何か用?」
一旦、足を止めた。
幽かな風が吹き、織物のように土埃と霧が絡まりあう。
「や・・・あの・・・」
狭霧カヤ、である。走ってきたのか、息が荒い。
色合いに不自然さを感じたので、よく見てみると、タータンチェックのミニスカートのすぐ下が、赤に染まっている。
おそらく、脚の傷が開いたのであろう。
「えっと・・・あぅ!」
切り出そうとし、しかし傷が痛んだのか、前のめりに転ぶ。小さな雫が、飛んだ。一見霧の滴を思わせるそれは、泪、である。
呆れて、鈴音は近寄ろうとし――やめた。
狭霧カヤの金色の瞳から、色が、消えていたからである。それは、紛れもなく、恐怖、であった。
大気が、昏くなる。
「何をなさっているのですか、羽橋鈴音さん」
それは、霧幻に消えていくかのような・・・
――どこか、厭に引っかかる声であった。
Wii。
なんとも困ったことに、うちのACアダプタが不具合を見せるようになった。
急に、電源が消えるんですよ。
特に酷かったのは、サッカーのゲームをプレイしていた際、
「へいキタ!先制点d…」「プツンっ」
「おk、クロスを上げるぞ!よし、行け、ヘディング・・・入ったー!」「プツンっ」
もう、爆発しちまへ。
最終更新:2010年05月02日 20:58