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実を言うと次の「夢喰」の話はネタが固m…おっと


画像ネタのなく頃に。とりあえず文ちゃんは可愛い。



深草の通りより外れた茶店。翌々日。
「あんた、いつから私のこと知ってたんだ?」
「さぁ、どうでしょう……」
羽橋鈴音、依条四季川和良丞の女二人は、縁側にて竹紫もちを食んでいる。
風は好くあり、庭に広がる白砂をも漣立てているかのようである。

「そう来たか。面白いね」
「ふふ……」
昨の一件にて、依条は腕に傷を負ってしまっているため、しなやかな腕にはさらしが巻かれている。
添えられた茶より、白い幽かな湯香が程よく、軽やかに冷たいもちをきな粉と共に包む。

「枯山水の庭、だったかな」
「はい?」
「目の前のそれ」

指差して……。
欅の手前、庭は巌のような石たちが白砂の上に立ち、砂には、たゆたう海のように、細き密やかな流れ跡がある。
「砂は海原、石は山を表すんだとさ。風雅な景色だと思わないか?」
「実に……素敵ですね。さらさらと、せせらいでいるような……。なにか、水みたいです」
「面白いことを言う。水は無いのに水が有る、か。なかなかに歌人だ」

それから、依条はさらしの巻かれた右腕にてもちをひょい、と口に入れ、控えめな冷たき甘さを楽しみ、
「そうだな…神野サンと色々したのは一週前、だったかな」
飄々と話し始めた。うろこが網目のようにかかり、湯気の向う、秋空である。

空を見る、依条四季川和良丞の語るところによると、
「しかし、あのお方は外れだったね。もうちょっと、こう、うまいのかと思ってたよ」
どこぞの浅き林にて、依条と神野助六は、二人してもつれ合っていたそうな……。
「一応、聞いてみますが…何故に?」
「お遊び」
「……ですか」

この女師範代の尻の飛ぶか如くの軽さは、巷でも有名である。
が、それ以上に、
「男の『おれが食ってるはずなのに、おれが食われてるみたいだ』とか言いたそうな顔を見るのが…楽しいんだな、これが。おっと、別に私が恐い女だと言ってるんじゃないぞ?」
何やらをしている最中でも、主導は完全に己が握っているそうで、"依条に食われた"男は、
「恐い女だ…二度と見たくねぇ。恐い」
皆して、思っている。

「どうやって、神野殿とお知り合いに?」
「私の美貌をなめてもらっては困る」
偶然に見かけた神野を、彼女がたぶらかしたのは言うまでもない。
鈴音は苦笑しつつも、
「…程々に」
「善処しておくよ。今回ので思い知った」
かこん、と店の内のししおどしが鳴った。

鈴音は、鵙が止まる庭の内の石を眺めながら、
「それで…刀はどうされたのですか?」
「ん、」

■                             ■

処は下香春須賀、深草の屋敷。
その間には、男が二人いる。入る日ざしは溟濛としている。

「神野」
「は……」

問うたのは、厳粛たる、鈍くも深く鋭い声の主、深草出水守士郎である。
深草の主は畳に座をつき、神野助六は跪いている。

「問おう」
細くも凛々しく猛々しい深草の主は言って、
「刀は、どうした」
それは、威武堂々と……。
ぎ、ちち、と鵙の鳴き声が聴こえている。戸、襖(ふすま)は閉め切っている。

「申し訳ありませぬ、士郎様」
「……」
「或る女に盗まれました。必ずや取り戻しますので…どうか、何とぞ」
神野助六は、汗をかいている。
「そうか」
深草出水守士郎は、眼を視ている。

座敷は幽暗と、香うのは麻である。
外の風は絶えているようで、屋敷の内の喧騒すらも、此の間には運んでは来ずしずかに……。

候(とき)に、深草の主は粛、と後ろに手をやり、
「――――」
緩慢な動作で、掴み、前へと掲げた。

「な…それは……」
神野助六が瞠目したのは無理もなかろう……。
カコン、と世界が反転してしまったかのような、固まりきった顔を神野はした。
彼の眼に、ひかる黒漆の鞘が視え……。

「今より六日前、あるご婦人が『忘れ物だ』と渡してくれたものだ」

――深草が名刀〔二分亀〕である。
ちゃ、と小さく、鍔鳴り音が響く。

(――ふふ)

六日前といえば、神野助六が"あるご婦人"と何やらをしてから、その翌のことである。
それが何を意味するかは、火を見るより明らかであり……。

(あの女は盗人(ぬすびと)ではなく、ふ、私は士郎様に試されたのか……)

「抜くが良い」

眼前に、深草出水守士郎は現れ、その刀を置いた。
とん……。

「……」

おもむろに、神野助六は刀を抜く。
刀身は、銀色に、鈍色に、炎ぐ(ゆらぐ)火焔(ほのお)の如き灯火を湛えている。

(せめてもの情けか……)

満たす日の光は昏く、聴こえる鵙の鳴く声も暗く小さく遠方に有る。
神野は主の前より、ずざり、と畳の上を退く。

(ありがたき幸せ)

それから――
神野助六が切腹したという一報が依条、鈴音の耳に入ったのはすぐ後(のち)のことである。

「この名刀に、私如きの血を吸わせていただけるとは」

死した神野助六の姿は、骨を折られた案山子のようだったそうな……。



出来る限りシリアスを抑え気味に。
この秋空は「軽い」がテーマなので。あくまで羽のような軽さを追求するのだよ…。
羽のような軽さといえば文ちゃんだな。



勘定を済ませ、鈴音は裾を捌き、先に外へと出た依条へと続く。
からん、と下駄を履いており、空の具合がよろしくなく、一降りしそうであったからである。

「昨日はほんとに助かったよ。程よく感謝してる」

話す女師範代の眼前、田圃(たんぼ)風景である。
まもなくして月夜の烏が驅り、星々の飛ぶ空の下、稲穂は揺曳と、ゆら、たなびいている。
ときは夕暮れ。

「稲か……。帰って熱い米が食いたい」
「私も、帰って"つれ"の夕餉をしなくては……」
二人は、路を歩いている。
路、稲穂の底辺をなぞり、さきの先を見やると、幽かに深草の通りが見えている。

「つれがいたのか。なんだ、おとなしそうな顔してちゃんとやるべきことはやってたんだな」
実に人の悪そうな笑みである。
それに鈴音は応じず、
「家は、どういった風で?」
「いたって普通だよ。母はいくらか前に"寝て"しまったから、道場は私が継いで。父が継いでも良かったが、坊主で、男の癖にやたらと非力なんでね。倭教さんで今も書きものか何かと格闘してることだろう。
倭教にいるからには武の方も極めるべきだと思うんだけどねぇ」

そういう依条は、楽しげである。
「ふふ…お好きなのですね、父君が」
「そりゃそうだ。同じ桃を食って生きてきた身だからね」

ゆるり、と風が吹いている。
稲は揺られ、銀色の雫を運び、風を玉虫色に変える。
空は、秋色の橙に……。
宵は近く、物の音は澄み、夜入りの候。風が、蔭りし冷たさを帯びる。

(とても軽やかなお人……)

鈴音はおもった。

「依条さん」
「はは、和良で頼むよ。異常が在る奴みたいだ。ね、鈴音」
和良は言った。
「では……和良」

進めていた歩を、一時鈴音は止(や)める。
呼んだ名は、どことなく不思議な響きを湛え……。
山の峰に水(み)を預け、うろこを立たせる雲は、暮れ往く風に誘う。

鈴音は、何かを言おうとし、然し、
「いえ……いい名前です」
雲は高く、夕日は沈み……。
林に浮く睡蓮のような声音(こえ)で、鈴音は言った。

「なんだそれは。変な名前といわれることはよくあるけど。ま、ありがとさん」
屈託無く、和良は笑っている。また、互いに歩き出した。

と、
「あ、鈴音!」
路の先よりやってきたのは、金眼の狭霧カヤである。
笛を提げているところを見るに、狛猫にての帰りであろう。

「カヤ、早かったね」
「うん、少しね~。や、こっちのお人は?」

齢二十四にしてはくりくりと、よく動く好奇心に溢れる眼を和良へと向ける。

「依条四季川和良丞。こちらの剣客さんにちょいと世話になってね。…なんだ、つれってもしかして」
狭霧カヤを、ぱっ、と一見しただけでは明らかに女である。
「はい。こちらの狭霧カヤと一緒に……」
「……こりゃ、つまらない下衆の勘繰りだったな。てっきりこう、男と」
「男!?」

いきなりに叫んだのは、男と女を併せ持つ狭霧カヤである。
……烏も驚くほどの響きである。

「えっと……それは違う」
羽橋鈴音にしては珍しく、すこし顔を赤らめて返している。
どうにも、常ならば問題はないのであるが、狭霧カヤがいる前にてその手の話題を振られると弱い、のである。

「むぅ。じゃあ、なんで其処のお茶屋に往ってたの」
「くく。そりゃあ、あそこが出会茶屋だからだろう」
「急に変な。和良……」
「――鈴音」
「だから、違う……」

夕日が、峰より俄かに貌を出している。
空色は、薄絹をゆたり、と纏(き)せるのように……。
絹の如きにやわらかい黄昏は、ゆっくりと、玄く暗夜への準備をしている。
ぎ、ちち……。
最後に、鵙が一鳴きして……。


「おたくのつれは、なかなかに子供だな」


                                        …或る女剣客の噺 「秋空」


                …


地を穿ち、空へ向うのは杭。
邪を祓い、魂を清めるのは白い石。三つ。
その三つの石は山・海・天を意味しているのだとか……。
神奈備へ昇り、妣(はは)の国を深め、常世の国へと逝く。

其処は、墓である。

ひっそりと、ひとつだけ、その墓はある。
見えているのは田圃風景。

女が一人……。

若い、黒髪の女は手に酒瓶を持っている。
腰に差しているのは大刀。

ぱたり、ぱたり。
とく、とく、とく……。

透いた清雫(つゆ)の如き酒が、その墓を天(うえ)から地(した)にかけて、流れていく。
思わず、見とれてしまうほどの小さな川をつくっているかのような……。

女の赤い眼が、その川に映っている。
流れる川は、唄うように水面を透かす。

「くっく。どうだかね。剣客さんに取られちゃったけど」

女は空を振り仰ぎ……。
天辺を見れば、軽やかな青が広がっている。


「――仇は取ったよ」


……秋空。


序の幕「秋空」
― 或る女剣客の噺 ―



先に申しておくと。
本来ならば次は「夢喰」の執筆ですが、実は今とんだ消化不良に陥ってるネタがあるので(女剣客とは別)、先ずはそちらを書き上げます。
更にその前に、この秋空の修正作業。序盤がちょいと、な・・・。

ちなみに、次に書く話のタイトルは「美女屋敷」。

♪Ending 神風
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9288476
Circle:Liz Triangle
Arranger:lily-an


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最終更新:2010年06月10日 15:25